ガスと静寂の西丹沢を歩く - 蛭ケ岳から檜洞丸へ

(1996/6/1,2、神奈川県津久井郡、足柄上郡)


(ブナと新緑とガスと。幽玄のさなか、
独り歩く西丹沢の深山)
MINOX GTE。絞りF8AE

蛭ケ岳と檜洞丸の間の稜線が未踏で気になっていた。トウゴクミツバが見事と想像されるこの季節、丹沢を歩くのも悪くない。行ってみるか、丹沢主稜へ。蛭ケ岳山荘、青ケ岳山荘もあるが折角ならテントで行きたい。久々の幕営山行にザックは重いが気ははやる。

横浜線・橋本駅からバスで三ケ木へ。乗り継いで平丸で降りる。このコースはちょうど1ヶ月前に焼山から鳥屋に歩いたとき登ったコースだ。再び辿る。空気がずいぶんと暑く感じられ1ヶ月の時の流れを感じさせる。

2回目のルートという事もあり割とあっさりと稜線に出た。この道は塔ノ岳から焼山に続く丹沢主脈で、言ってみれば丹沢の銀座コースだが、シーンとしてひとけもない。

黍殻山への踏み跡の分岐を探し、無線運用の為に立ち寄ってみる。縦走路からわずかにずれたピークは静かであったがロボット雨量計と思われる設備が設置されており感興をそがれた。はやばやと立ち去る。

姫次から蛭ケ岳の間は深い林となる。原小屋平を通り過ぎてこのあたり・・、Y氏と深林風情に感動してここを歩いたのはもう3年前の事だ。霧の中から浮かび上がる新緑が鮮やかで、空気までが緑色であるかの感じがする。梅雨入り直前の山ならばの幻想的な光景に身を委ねるのは素晴らしい。大きく息を吸い込んだらほんのりと6月の香りがした。

蛭ケ岳直下の急登から霧か雨か、細かい水滴となりカッパ着用となる。何頭かのシカの群れが登る私を霧の奥からじっと観察していた。

流れる霧をついて急な道を無言で一歩づつ登ると待望の蛭ケ岳の山頂だった。アマチュア無線・50MHzの運用をしなくてはいけない。2ELのHB9CVをセットしてHT750をつないでみる。地上波で宮城県と交信が出来るが残念ながらEsが開いており神奈川県津久井郡移動では相手にされず数局しか交信できない。まぁ、いい。神奈川県最高峰で好きな50MHzの運用が出来た事で充分満足であった。

蛭ケ岳からの主稜の下りはガレて危なっかしい。霧がますます濃く暗くなり、早くテント場を捜さなくては、と焦る。候補地のミカゲ沢の頭は今一つで通りすぎる。しばらく歩き適当な路肩。狭いがここなら何となく良さそうだ、と根拠はないが直感だけでザックを下ろし手早くテントを張った。シュラフを広げ食事をとるともうなにもやる事は無い。霧と風、木々のざわめきに包まれた・・・。

* * * *

オレンジ色のテントが明るくなった。朝だ。山の朝。テントで迎える朝はとても嬉しい。眠りに就く前に感じていた山の夜への不安、それを乗りきり無事一夜を明かしたという満足感。少しだけ、山と一体化出来たかな、という喜び。生きている事が単純にありがたいと思う、そんな感謝の気持ち。ジッパーを開け外に出るとすがすがしい涼気と満足感に体が包まれた。

さて、行くか。

まずは臼ケ岳まで緩く登る。静かな山頂を一瞥して進むと今度は神ノ川乗越まで急な下りとなった。越えると再び登らされる。檜洞丸まで、小刻みなアップダウンが連続しなかなか足にこたえる。金山谷乗越は狭く北側が崩壊しており注意深くパスすると檜洞への最後の登りとなる。あごが上がる・・。青ケ岳山荘をようやく頭上に見て、檜洞丸の山頂だった。ブナとバイケイソウを霧と静寂さが包みこみ神秘的ですらある。深い・・。丹沢とはいえ深い山だ。
(登山道の路肩に一夜の
宿を借りた)

アマチュア無線・50MHzを再び運用する。昨日と違い朝早いという事もあり交信局数が伸びた。JI1TLL・須崎さんが静岡市の山伏から運用していた。2000m峰からはさすがに強い。ハムフェア用のビデオ撮影を兼ねた山行とのことだった。

のんびりとしたひと時を過ごして山頂を去ることにした。相変わらずひと気が少なくガスが流れるここは幽玄な感じすらする。

ひと気のない木道を歩いて下山につく。。ツツジ新道ではツツジ目当ての登山者ラッシュで渋滞となり神秘さは吹き飛ぶ。登りと下りで文句が飛び交う。とはいえ肝心のツツジはトウゴクミツバもシロヤシオも昨日から殆ど見る事がなく、今年はどうやらまだ早かったのか、残念だ。

渋滞をよけながらやっとの思いで着いたゴーラ沢で冷たい流れに頭を突っ込んだ。振り向けばいつしか夏山のような快晴となり、檜洞丸から犬越路へ伸びる稜線が青空をバックに屏風の如く大きく立派だ。それは静寂の西丹沢を歩いた素晴らしい山旅のお終いを締めくくるような、爽快な眺めだった。

(終わり)

1996/6/1 平丸10:00−主脈縦走路11:57/12:05−黍殻山・アマ無線12:30/13:15−姫次14:15/14:30−蛭ケ岳・アマ無線16:20/17:45−ミカゲ沢ノ頭・テント泊18:40
1996/6/2 ミカゲ沢ノ頭5:30−臼ケ岳5:50−神ノ川乗越6:10−金山谷乗越6:50−檜洞丸・アマ無線8:00/10:45−ツツジ新道−ゴーラ沢12:50−西丹沢自然教室13:20


アマチュア無線運用の記録

黍殻山 1273m
神奈川県津久井郡津久井町
50MHzSSB運用 HT750+Dipole
2局交信
丹沢主脈上の1ピーク。山頂らしさは無い。
蛭ケ岳 1673m
神奈川県津久井郡津久井町
50MHzSSB運用 HT750+2el HB9CV
4局交信、最長距離交信:宮城県牡鹿郡(地上波)
神奈川県最高地点。丹沢の盟主。
檜洞丸 1600m
神奈川県足柄上郡山北町
50MHzSSB運用 HT750+2el HB9CV
15局交信、最長距離交信:兵庫県城崎郡(地上波)、長崎県佐世保市(Es)
西丹沢の雄峰。ブナと霧に包まれる山頂は幽玄ですらある。



Copyright7M3LKFY.Zushi, 2001/7/28


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