梅の山麓、高畑山から倉岳山へ

(1995/4/1、山梨県都留市、大月市、南都留郡)



3月も後半に入るとすっかり空気も和らぎ春の足音が近づいてくるのが感じられる。四季の移ろいはそれぞれに趣があるが、冬から春にかけての時期は日に日に空気も角がとれ、あぁ又一歩春に近づいた、と毎日朝を迎えるごとに感じる。他の季節への移ろいと比べ春を迎える季節には開放感が伴い、ウキウキし、なにか体が勝手にリズムを取り始めるようだ。

暦は4月に入った。朝の中央線にはそんな体の中でいち早く躍動しはじめたリズムを押さえられなくなった人々が登山ファッションに身を包み列車に揺られている。軽い警笛とともに列車が小仏トンネルを飛び出すと皆車窓に釘付けだ。 緑が流れる。ここから先は別世界だ。各駅毎にハイキングの山々が控え、皆今日の山は何処かな、もしかしたら桜でも・・、と気が落ち着かない。

私とて例外でなく、気恥ずかしさから冷静を装うが心は浮き立っている。それぞれの駅でザック姿の人々が何人かづつ降りていく。列車の進みは遅々としているように思えるが、じきに鳥沢駅に着いた。 ここでも何人かが降りる。私は一番最後に改札を出る。もう空気はすっかり春の香りだ。こりゃきっとビールが美味いだろうなぁ。缶ビールを買いザックを締め直す。

(梅の山麓、空気は柔らかい)

雪が残っていなさそうな山は、ということで高畑山と倉岳山が今日の行き先。のんびりとした里路を歩く。何度か地図を見ながら行く。梅が満開で、桜には少し早かったか。少し登ると小篠遊水池へ路を分けるので入っていく。上着を脱ぎ半袖のポロシャツ一枚だけになる。ジュクジュクとした沢沿いの路を登ると石仏が現れた。穴路峠への直登コースだ。ザックを下ろし休憩する。誰もいない。沢の音がするだけだ。自分の住んでいる首都圏は人ばかりで何処へ行こうと、何をしようと人、人、人だらけ。でも少し早起きすればこんなに簡単に山に来られる。まだまだ捨てたものではないな、と感じる。


分岐からは仙人小屋跡のルートをとる。いきなり路はつずら折れとなる。沢音がぐんぐん遠のき、同時に視界が広がり出す。少し霞ががっているのは春の証だ。しっとりとした静かな杉林の急登、雑木林の尾根道は心安らぐ。途中稜線から見上げる倉岳山は立派な独立峰で峰頭の高みが際立つ。倉岳の頂が近づくと高畑山山頂は近い。山頂標識に手を置き、ザックを下ろす。まずはビールだ。遠望はきかないが山頂からは向かいに朝日・赤鞍ケ岳が大きかった。さすがに 1200 メートルを越す稜線だ。北斜面にあたる対面にはまだ雪が残り冬の名残を残している。足下を見ればゴルフ場が広がる。これにはがっかりだ。山は無残に蹂躙されていた。昼食をとり無線運用。今日はもう一山残っているので、ほどほどにして立ち上がる。

愛らしい切通しの穴路峠を越え倉岳へしばしの急登。あの立派なピーク目指して登っているのだと心は軽い。山頂は細長い。端っこに行きアンテナを設営する。夕暮れ迫る倉岳山頂でのアマ無線運用はなかなか目標の25局交信に及ばずあせってCQを連呼、あとで思えば余裕なく恥ずかしい程であった。もう誰もいなくなってしまった16時半に閉局、慌てて下山の途につく。立野峠から北に向かう。日はだいぶ落ちてきた。沢沿いの下山路を早歩きし暗くなる直前に梁川駅に着いた。

梁川は無人駅。すぐに闇の向こうからヘッドランプを灯した列車がホ−ムに滑り込んできた。今日は山頂での無線に熱中しすぎたかな。ぺース配分を考え、もう少し余裕が必要だった。そんな反省をしながら春の一日を振り返った。

(終り)

(鳥沢駅 9:25 - 小篠遊水池 10:00 - 石仏 10:20 / 10:30 - 高畑山・アマ無線 11:30 / 14:10 - 穴路峠 14:30 - 倉岳山・アマ無線 14:50 / 16:30 - 立野峠 16:45 - 林道出合い 17:30 - 梁川駅 17:45、高畑山標高981.9m、倉岳山標高990.1m)



アマチュア無線運用の記録

高畑山

山梨県都留市・大月市 (都留市で移動)、981.9m
1995/4/1 移動者:7M3LKF
PICO6(1W)+ダイポール
(1.5m高の立ち木に固定)
14局交信(50MHzSSB)、最長距離交信:茨城県つくば市、7K3TWQ/1

雑木の山頂。手ごろな山なので人は多い。山頂からは眼下にゴルフ場がよく見え、コースが傷痕のように生々しく感じられた。中央線の大月辺りまでの1000m前後の山では関東平野南部と交信するぶんにはどれもほぼ同様なロケではないだろうか。

倉岳山

山梨県南都留郡秋山村、990.1m
1995/4/1 移動者:7M3LKF
PICO6(1W)+ダイポール
(1.2m高、ストック利用)
26局交信(50MHzSSB)、最長距離交信:栃木県宇都宮市、JE1QVH

東西に細長い山頂。穴路峠から登っても立野峠から登っても山頂直下は短いが急な登りが待っている。そのぶん山頂は尖って見える。お隣の高畑山よりもわずかに山頂は高い。


Copyright : 7M3LKF, 1997/10/15