新緑の奥高尾縦走路、相模湖から陣馬山へ

(1994/5/28、神奈川県津久井郡)



1・相模湖から奥高尾縦走路、陣馬山へ :

瑞々しい新緑の香りを嗅ぎたく近場の日帰りコース、奥高尾縦走路を目指す。高尾山から城山経由で相模湖までは歩いた事があるので、今度は逆に相模湖から城山に上がり縦走路を西に、陣馬山まで歩く事にする。

天気は生憎の曇。重い雲ですぐにでも泣きだしそうな空模様。縦走路は登山道とは言えぬ程立派な道で人気のあるコースである事を窺わせる。

晴れていれば遠く南アルプスも見える、という陣馬山からの展望もミルク色の霧に妨げられて何も見えなかった。出かける前から北岳が見えないか期待していた事もあり残念ではあったがしっとりとした山行に満足して下山する。

2・山を往く人、山麓風景 :

(和田へおりてきた。
山麓風景は心なごむ)

相模湖から稜線に上がるまでの路はさして急ではないがだらだら坂。独り言を言いながら登っていくと前を行く御婦人に追いついた。ゆっくりとマイペースで山を味わっているかのような歩き方だ。追い越しざま挨拶を交わす。

"こんにちは、どちらからですか?"

"奈良からです。今日で高尾山に着けばようやく東海自然歩道完歩です。箕面から歩き始めて今日まで10年かかりました。"

"それは素晴らしいですね!" 

思わず大きな声があがった。大阪から東京まで!聞けば年齢は67歳との事で57歳から東海自然歩道を少しずつ歩き始めたそうだ。台風の日もあり色々な思い出に彩られた10年、とても充実した日々でした、と語る。今日で満願成就する彼女の顔は満足感に満ちあふれていた。あと数時間で高尾山なのだ。ゴールは目の前なのだ。

城山に着く。彼女は高尾へ、私は陣馬へ。気をつけて、と山頂に声が飛び交った。私も漠然とした毎日を送っていいのだろうか? 流れ始めた霧の中を陣馬山へ向かう。

都心に近いこのコースは色々な人々が行きかう。ジョガー。アップダウンをものともせず走り去る。同じ人間とは思えないあの軽快さは羨ましい。マウンテンバイク。どの山に行っても見かける。技術の未熟な自分には登山道を走るのは無理だけど。でも歩いた方が楽しいような気がしないでもない・・。

この冬にY氏が積雪期のこのコースを独り歩いたという話をしていたっけ。今迄ずっと山行を供にしてきたY氏が東京を去ってから今日は初めての山行。彼は元気かな。今まではずっと彼と山を歩いてきた。彼がいなくなるなんて考えた事もなかった・・。このピークを越えれば、あの角の先にのんびり歩くY氏がいるのではないか、そんな気がする。追いついて話がしたい。慌てて駆け上ってみる。息せき切って向こうを見る。ピークの向こうにはまぶしいばかりの五月の新緑の山が静かに続いているだけだった・・・。

すぐそばでウグイスがさえずる。目をこらすが分からない。向こうからはこちらがまる見えだろうに。汗をかきかき登る私達は彼らの目にどう映るのだろうか・・。

陣馬山から和田の集落へ下山。下りるにつれ路添いの草が刈払われた箇所や、お墓が現れ、段々と人里近い事を匂わせる。ふと民家の裏庭におりたった。

野焼きの煙の匂いや山仕事の人。路肩のトラクター。かやぶきの家に鯉のぼり用の立派な柱。山麓風景はどこか懐かしい。日本の山麓景色が私は好きなのだ。ただのハイカーである私にもすれ違いざまに御老人が軽く会釈をしてくれた。

バス便が不便なせいで中央本線、藤野駅まで約1時間半の舗装路歩き。登山靴の足にはこれはこたえる。足をひきずり駅に到着。汗で湿った千円札を切符の自販機は受付なかったので窓口に行くと、無愛想な駅員の態度。ここはもう都会なのか?山行後、山の気分と街の気分をどこで、いかに切り替えるべきやら・・。

(終り)

(相模湖駅8:05、千木良8:45、城山9:50、景信山10:40、明王峠11:50、陣馬山13:15、和田14:10、藤野駅15:40 陣馬山標高857m) 


Copyright : 7M3LKF, 1997/10/28