夏の檜洞丸

 (1993/8/21、神奈川県足柄上郡、津久井郡)


1・檜洞丸:

自宅から見える丹沢が気になり、思い立って早起きし丹沢へ車を走らせる。4月に登った塔ノ岳は丹沢の最も表に位置する、ということで今度は最も奥に位置する山に登ろう。目指すは檜洞丸だ。その昔、檜洞丸は奥まった位置にあり又ヤブも濃く、その為アプローチが困難で秘峰、怪峰などと呼ばれていたそうな。しかしそれは遥かに昔の話であろう、今ではもちろん日帰りも可能な山だ。標高は1600メートル、丹沢山塊での標高最高峰の地位は蛭ケ岳に譲るもののどっしりとした山で、標高差も厳しく急坂の連続。ちょっとした鎖場もあり、日帰りとはいえかなりのハードな行程となった。しかし同時に秘峰のイメージを残し出会う人も少なく静かな山行でもあった。

2・山で会った人、動植物、展望 : 
(むせるような緑。
山頂直下の木道
沿いには黄色い
可憐な花が咲き
乱れていた。)

沢沿いの路を無心に歩いていたら小枝を踏む私の音に驚いたか、ガサガサッ、という樹木を揺るがす音。振り向くと樹林の奥を悠然と鹿が山肌を登っていった。何を苦しそうに登ってるんだ、もっとしなやかに登れよ、そう言っているかのようだった。 

檜洞丸山頂手前はバイケイソウの自生地。保護の為木道がつけられている。木道の周り一面に黄色い花が目に鮮やかだ。寂しい山頂に人知れず咲き乱れる黄色い花、それはさながら天国を思わせた。

檜洞丸から犬越路峠への下山路。細いヤセ尾根。切り立った尾根の東側の谷の展望は遮るもの一つ無く開けているものの西側の谷は谷底が一面の霧。分水嶺とはよく言うがこれはまさに分霧嶺であった。と思った刹那霧がふわーっと上がってきて細い尾根は霧に巻かれる。瞬時だった。

ふと木肌をみると3センチ程のオスのクワガタ。しばらく指にのっけて楽しむ。小さなクワが可愛らしい。野生のクワガタなんて触ったのは20年ぶり位かな?子供の頃よく近所の雑木林に採りに行ったっけ。

下山路では私と同じく単独行の50歳位の男性とペースが前後し、やがてそれとなく一緒に歩く事となった。この方は植物に詳しく山葡萄や野苺の木などを教わる。山椒の葉を2、3枚ちぎってくれる。強烈な香り。山椒がこんな形で生えているとは知らなかった。ブナの林を抜ける風は涼しく山にはもう秋の気配が漂っていた。

犬越路峠でイギリス人の若い夫婦に出会う。漢字が読めない、と言いながらも日本語の地図を頼りにトレッキングしている行動力に感心。山行の無事を祈り合い別れた。

沢沿いの下山路。口笛を吹きながら歩く。靴下を脱ぎ沢に足をいれる。冷たいがいい気持ち。ほてった足が引き締まる。せせらぎの音が耳に心地よい。

車に戻り、手帳に時間を記入。手帳にはさんで持ってきた山椒の葉が強烈にいい香りを放っていた。 (終り)

西丹沢自然教室 7:20, ゴーラ沢 8:00, 檜洞丸山頂 10:50 / 11:40, 犬越路峠 14:10, 西丹沢自然教室 16:00、檜洞丸標高1600m

Copyright : 7M3LKF, 1997/10/15