長く憧れていた鹿島槍ケ岳へ 

 2019年8月11日-13日 長野県大町市 


8月11-13日と北アルプスは鹿島槍ケ岳(2889m)に登ってきました。扇沢からのピストンです。

本当は8月9日-13日に予定で薬師・黒部五郎の予定でしたが、当初の台風10号の動きが読めずに一日前に新宿発折立行きの夜行バスをキャンセ ル。しかし、台風の動きが大きなリスクでないと分かったため一日ずらしで、同じく未踏であった鹿島槍へ河岸を変えて臨みました。

8月11日
前夜は横浜を21時過ぎに出て中央道みどり湖PAで仮眠後扇沢へ。7時前ですがすでに駐車場は満車で、扇沢バスターミナルの下の駐車場へ誘導され ます。登山者も多いですがその大半は街着の人。黒部ダムからアルペンルートの観光でしょう。7:30、海抜1330m地点、入山届けを指導所に投 函し登り始めます。柏原新道は種池山荘のHPGにも書かれていますが、稜線まで1100mの標高差ですが最初の1時間半をガマンすると後は緩やか なルートが続き北アルプスの稜線に上がるルートとしては登りやすい道と言えるでしょう。ケルンと山と高原地図に書かれた場所を過ぎるとゆるやかな 道で沢のガレを2箇所横切ると再び急登となって森林限界を抜け出して最後のつずらおれで種池山荘(海抜2453m)まで上がります。11:40、 計3回30分の休憩を挟んでいますが、テント・3日分食料込みとしては4:10とはまずまずの登りでした。

上り始めて暫くしてからガスに囲まれたため種池ヒュッテからの眺めも遠望は効きません。小屋は石釜で焼いたピザ(1000円)が名物で、皆さん生 ビールジョッキ片手に成程美味そうです。思わず財布に手が伸びますが、ここで終了しては明日の行動がきつい。頑張ってザックを担ぎなおしここから 後立山連峰縦走路に入ります。爺ケ岳2669mまでは緩やかな登りで思ったより足が進みます。爺ケ岳中峰でザックを下します。眼下に大町の町並み が良く見えますが反対側の鹿島槍は雲の中で全くその姿は見えません。このピークは300名山なのでヤマランポイントを稼ぎます。430メガCQ一 発で富山市から呼ばれます。稼ぐつもりは毛頭無いのでこの一局でCQを終え念のためバンドをスイープすると奥穂高の山頂からのCQを捕らえたので これを呼び閉局。

今度はここから冷池山荘まで一気に200m以上下っていきます。左手側は見事なハイマツの谷が広がりその遥か下には黒部川の沢へ落ち込んでいま す。流石に種池山荘まで上がり更に爺ケ岳まで登ってからのこの下りは堪えました。半ばモーローとしつつ下ると右手から赤岩尾根ルートが合流しまし た。鹿島槍にはこれが最短ですが短い距離で標高差1100mを一気に登るハードなルートというガイドを見てこれは選択肢から外していました。この ルートの合流地点が最低鞍部と思っていましたが道は構わず更にぐんぐん下がっていき森林限界の中に戻ってしまいます。これはがっかりを通り越して もう言葉も出ません。下りきってからじわじわと100m近く登り帰してようやく冷池山荘へ。テントは1000円。水一リットルの引換券込みです。 ここで種池山荘のビールのリベンジとばかり500ml(750円)を2本調達してからテント場に上がります。この小屋のテン場はこれまでに経験し たことの無いようなとんでもない場所でした。小屋から更に10分、約50メートル以上の標高差を稼いだ台地にテン場があります。しかもテン場には トイレも無く、トイレは冷池山荘まで下りなくてはいけないと言う代物です。予めネットで調べていたので覚悟はしていましたが、ビール2本に調理用 の水1.5リットルを加えて最後の登りは堪えました。自分のもらったテント札は51番。確かにざっと見ても40張り以上はこの狭い肩にテントがひしめいている様はこれまで経験したことが無いものでした。15:00行動終了です。

ハイマツのそばにテントを張り終えて、よ う や く、缶ビール。一日の終わりを告げる幸せの一飲みはもう言うことがありませんでした。肝心の鹿 島槍はずっと雲の中ですが、すこし待っていると16時を回ったあたりでガスが晴れ、その素晴らしい姿が一気に、唐突に出現しました。それは想像を 超えたボリューム感で、遥かに堂々と聳えています。槍と言う名はどこからついたのか、そんなネーミングとは対照的に山頂部は柔らかなカーブで女性的ですらありますが、その少し下に向けては轟然とした巨大な岩が幾つものルンゼを刻み巨大な塊となっている、そんな様が槍という名称の元なのかもしれません。しかしあそこまで遠い。しかも頂稜部こそはまろやかだが、ピーク自体は岩の大伽藍です。果たして登れるのか、ぶるぶると畏れと緊張が湧いてビールの酔いも吹き飛びました。

(登山口7:30−種池山荘11:40/12:00-爺ケ岳13:10/13:35−冷池山荘14:40/55−テント場15:05)

登り始めて暫く、稜線を見上げた。まだ遠い。
下を向き、ただ登るだけだ
爺ケ岳までの稜線が雲に包まれた 爺ケ岳を超えて振り返る。歩いてきた道が
長かった。
ようやく今日の宿、冷池山荘が見えた。
ただテント場はそこから100m近く上だった
ハイマツ帯に張った今宵の宿。 明日登る鹿島槍が毅然と、気高く立っていた。


8月12日
昨夜は夕立のように良く降りました。しかも雷まで混じりましたが朝も濃霧のままです。皆さん鹿島槍の山頂でご来光を迎えるつもりなのか、朝2時半には行動を始めるテントも多くて驚きです。こちらは5時半に撤収完了、ザックをテン場の指導標の横にデポしてサブザックで臨みます。しばらくはウ サギキクやハクサンフウロの咲くお花畑を進み、これを過ぎると布引山へ向けて一気に登り始めます。200m近い標高差を一気に稼ぐ登りですが森林 限界も超えており素晴らしい大展望の中を登っていきます。何がすごいって、左手は黒部川の渓谷を挟んだ立山と剣岳の眺めが立派過ぎて言葉を失います。思ったよりも簡単に布引山へ。ここも2.5万図記載ピークですが先を急ぐので無線は割愛して目の前にますます大きく聳え立つ鹿島槍へ急ぎま す。ここから見る山頂は下から見上げた傲慢な威圧感はすでになく、柔らかな優しい表情を見せてくれています。この先の稜線も足元にイワギキョウが咲き、更に進むとトリカブトの群生地があり、真っ青な空に紫の花々が揺れる様はもはやこの世のものとは思えない美しさでした。

最後のガレ場のつづら折れでとうとう鹿島槍2889mの山頂です。(南峰) 下から見て遠く気高かったあの山頂にもとうとう至りました。まずは目 の前に聳える五竜岳に目がいきます。これは実に立派な、まさに岩そのもの、といった風情でガツンと盛り上がっています。あの山頂からこの鹿島槍の頂を遠く見たのも何年か前の話です。その間が有名な八峰キレットですが、遥か眼下に良く見ると小屋(キレット小屋)があるのには唸ってしまいまし た。このコースは滑落事故も多い難所として知られていますがさもありなん、峻険そのものの、岩の乱杭歯が続いているのです。あんなところを人が通れるのか、と思っただけで腹の具合が悪くなります。

無線は430メガFM。VX-3 (1W) にRH770ですが、CQ一発で蓮華岳のJA1DFOに呼ばれます。DFO局とは今年のGW、尾瀬・笠ヶ岳山スキーでの悪沢岳から交信以来でした。(DFO局は至仏山)。さらに富山県高岡市のJA9MGH局。MGH局は当局が中部山岳に移動すると必ず呼んでくれる常連で、乗鞍、御嶽に続いての3度目のQSOとなりました。さすがに前回の交信の話など話に花が咲くQSOとなりました。更に2局呼ばれて、閉局。

丁度このあたりから急にお腹の具合が悪くなり、トイレ(大)にいきたくて仕方なくなってしまいました。そんな事もありQSOも早仕舞い。山頂には もっとゆっくりしたかったのですが時折押し寄せる「波」を抑えながら一気に下山にかかります。布引山も貴重なヤマランポイント対象でしたが、生理現象には勝てずにそのまま通過。いざとなったら「野しゃがみ」か、と適地を物色しながら下りますが、なにせ鹿島槍への銀座ルート、人も多く、森林限界を超えているので隠れる場所もありません。どこにいても「丸見え」。 しかも悪いことにティッシュをサブザックに入れてきませんで した。まずい、どう拭くか?ハイマツで拭いたら痛いだろうな。そうか。この首にかけているタオルで拭くか。真面目に悩みます。押し寄せる大小の波に耐えながら、高波ではやばいと立ち止まって棒のように突っ張って、とにかく耐えつつ下りる。これは辛い。波の間を縫うように飛ばしてテン場に下 りザックを回収してから冷池山荘までの最後の下りが長い。たまらずガスを放出(さっきから無数に出している)したらなんと気体のみならず液体も僅かに出てしまったようです。涙が出ます。が山荘のトイレに駆け込み満願成就しました。

液体流出もたいしたことがなかったようでほっとします。出発前にしっかり小屋で用足しはしたのですがはやり昨夜から疲れもあってから水分を多く取った事もあり、胃腸もくたびれて下痢気味だったのでしょう。山の体調管理、シモのリスクマネジメントの大切さを痛感します。

さてここから昨日苦労した下りをまた登らなくてはいけません。じっくり腕組みをしてからひたすら耐えての登り。昨日の自分と同じように疲れた表情 で下りてくるパーティと多くすれ違います。爺ケ岳直下のハイマツに雷鳥のつがいが可愛らしく遊んでいました。漂い始めたガスの中、種池山荘まで 戻ってきました。まだ12:50ですからコースタイム的には今から充分扇沢まで下れますが、もう疲れて戦意喪失。歩けと言われればいけますが、ここから下りても扇沢に着いたら虫の息だな、と感じます。しかも小屋の「生ビール」の幟には勝てませんでした。ビールに陶然としながらテントを張り、長い一日を振り返りました。

(冷池山荘テント場5:30−布引山6:30−鹿島槍ケ岳7:20/7:50−布引山8:22-冷池山荘9:00/9:50-12:50種池山荘)

朝。鹿島槍を見る。信州側は雲で埋まっていた イワギキョウが岩の間に可愛く咲いていた トリカブトの群落を稜線に見る
いよいよ鹿島槍の山頂が近づいてきた 満願成就の山頂 数年前に登った五竜岳が大迫力だった
雷鳥のつがいが稜線に遊ぶ 種池山荘迄戻ってきた。今日は此処で停滞 冷えたビールがあれば粗末な食事も又美味し


8月13日
今日は下山のみです。ゆっくり目の行動で6:15、テント撤収。一昨日は良く見えなかった対面の針の木岳も実に立派な姿で、見とれます。ぐるりと 北アルプス稜線の山々に軽く挨拶して下山です。  「・・山よご機嫌よう、また会いましょう・・」

淡々と下りて8:40に入山口へ下山。登山指導所のオジサンに聞くと下山届けは不要とのこと。大町温泉郷の薬師の湯(700円。朝7時からやっている)は熱めのお湯で、3日間の汗を流し、午前中のうちに中央道に乗り15時には横浜の自宅へ戻りました。

* * *

五竜岳から見た颯爽とした立ち姿、鹿島槍は憧れの峰でしたがなかなか足が伸びなかった山でした。自分としては五竜からの縦走は無理と思っていたので、行くのなら扇沢からの縦走か赤岩尾根のピストンかと思っていましたが、それなりに奥深い山なので今回こうして登ることができて思いを果たしました。しかしテントを背負っての縦走は、昨年の飯豊縦走あたりから年々きつく感じるように感じてきました。が、テントの持つ自由きままさ、プリミティブな魅力は捨てがたい。まだ当分は負けずに頑張 りたいと思っています。

まだまだ北アルプスの名だたるピークには登っていませんが、鹿島槍のスマートな美しさはこれまで自分が登ってきたいくつかの北アルプスのピークの 中でも断トツに感じました。笠ヶ岳も美しい姿でしたが鹿島槍には女性的な優しさと、轟然・毅然とした男らしさが混じった山だと感じています。


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