高石尾根から雁ケ峰への山スキーツアー 

 (2019/4/13、新潟県十日町市)


みつまたかぐらスキー場(新潟県南魚沼郡湯沢町)からシールで登る山スキーツアールートを山仲間のSさんと共に回ってきました。

目指す三角山だ。いかにも雪崩れそうな急斜面に不安は大きい。
ルート取りを考えながらひたすら進むのみだ。

回ったのは神楽峰ではなく、その北側に位置する通称・三角山(1996m峰)から東進のち北進と高石尾根に乗り雁が峰1667mまで辿り、そこか ら東進して一気に神楽スキー場ゴンドラ乗り場へおりるという、ガイドブックでも5時間を越す日帰りのなかでは長いクラシックルートです。終始素晴 らしい好天に恵まれ、ルートファインディングを続けながら尾根を滑ると言う、まさに会心の山スキーの一日でした、と言いたいところですがコース後 半の急斜面と春の悪雪に自分は大変苦しんだ、悔いの残る山行でもありました。

神楽スキー場最上部(第5リフトおりくち)で登山届けを提出し雪崩ビーコンの状態をチェックしてから10:20、入山します。オオシラビソが顔を出すルートをシールで登って行くとトレースの多くはそのまま西南西に伸びていきますが、これでは神楽峰方面のアプローチになる ので早々と西北西へルートを変更。一条のトレースを追いながら大きな沢に向かって進みます。ここは昨年の中尾根のツアーの際に偵察済みでしたので 無駄の無いコース取りでした。そのまま一気に無木立の半円球上のピークを上ります。中尾根の分岐するジャンクションピークです。昨年より2週間遅 い山行ですが雪はずっと多い。しかも昨年はザラメでしたがことしはまだ新雪が深く残っています。さてここから、今回は北西に向けてそのまま進路を維持し、主尾根をたどります。目の前には高石尾根のジャンクションピークとなる1996m峰(通称三角山)が鋭鋒をもたげ、その雪崩が起きても不思議ではない無木立の斜面が猛烈な高度感を感じさせ、これからアレに登るのか、と思うと内心ブルブルしてきます。

三角山への鞍部へ向け折角稼いだ標高も一気に下げます。シールをはいたままの板ですが適度な速度で滑っていけます。複雑な隆起の続く地形を抜ける とここで目の前に巨大な雪壁が立ちはだかりました。三角山です。目の上遥か上を豆粒のように山スキーヤーが登っています。ややおくれてスノー シューのボーダー。昨年もこの斜面を観察していたSさんも私も、ここで期せずしてザックから同じある装備を取り出しました。クトー(スキーアイ ゼン)です。山スキーのSさんとテレマークの私では形状は異なりますが、スキー履いた上からアイゼンを効かすという目的は同じです。やはりこの斜面をシールだけで登るのはお互い不安があったと言うわけです。さてクトーを効かせながら登って行くとその効果は絶大といえます。シールだけだと絶対にずるりと後退する斜度ですが、クトーは直登が効きます。おもったよりペースが上がり高度感のある斜面ですが難なく無事登りきりました。二人 して会心の笑みがこぼれました。

さてこの三角山のピーク、更に北に霧の塔1993mのピークがありますが、再び鞍部に下りて登る必要もあり、ここで軽めにパンをチャージしてからシールを剥がしました。

ワックスを塗って、さていよいよ高石尾根・雁が峰へのツアールートへ滑り込みます。12:50滑り出します。コンパスと地形図で慎重に滑るべき尾根を同定します。最初は眼前の大きな尾根である真北の1886mピークへ延びる尾根が正解のルートと勘違いしていましたが目指す尾根は一旦ほぼ真 東に伸びます。まだ尾根の形状が顕著になっていないため、上からではどれが正しいルートなのかが判然としません。一旦大きく沢筋にシュプールを描 くとすぐに目指す尾根が分かります。先行者がいるようで一条のシュプールがなかなか効率よいルート取りをしながらシラビソの林の中に続きます。

1826m点の北側、黒岩の平らは文字通り広い雪原になっておりここで辿るべきルートは北へ大きく方向転換します。後からやってきたパーティはそ のまま東進していきましたが1710m点を経由するエスケープルートを取るようでした。スケールの大きな原から一転してシラビソの林を縫うルート に変わります。このあたりから時折ピンクのリボンが枝にかかりルートが分かりやすくなります。林をぬけると無木立の沢の最上部となりここをトラバース気味に北東に向けて横断すると北北東に向け一気に雁が峰(1667m)に向けて登りに転じました。このように多少のアップダウンがあるルー トなので機動力のあるウロコ板をはいてきましたがそれが奏功し、雁が峰への登りはシールを履くこともなくステップソールでしっかりと登ることがで きました。

ここで14:30。あとはここから真東にルートを取りゲレンデに下りるだけで、先が見えたので大休止。雁が峰でヤマランポイントを稼ぎます。山スキーでしか来ることにないピークです。こんなピークで運用している局はなかなかいないのではないかと思います。自分は145MHzFMを運用しま す。新潟市・長岡市・上越市と新潟各市と交信できます。430FMのSさんは、東京都、珠洲市とかなりの遠距離交信が出来たようです。振り返ると三角山から自分の辿ってきたルートが延々と続いているのが見えます。こんな距離を進むとはスキーの機動力はやはりすごい。

さてここからはあとは一気に下るだけ、のはずでしたが、東向き斜面になり標高も下がったためか雪質が変わったたんのか一気に滑りづらくなり、しかもシュカブラがでてきて、ウィンドパック気味となり、足も疲れてきたのか雪に足がとられるようになって来ました。さらに海抜1400から1300mにかけては等高線が 非常に密になっているルートで、ツガの疎林の中高度感のある下りのなか悪雪で全くスキーのコントロールが出来なくなりました。仕方なく階段下降と 斜滑降、キックターンとしますが、遅々として下りられずに焦ります。そのうち脚に疲れがきて押さえが利かなくなり転倒続出。とても滑れる状態ではなく板をはずしてザックにつけて歩くと今度は足が股まで潜る深雪で、行動不能となりました。バクバクと心臓が脈打ちだらだら流れる汗で目が見えな くなります。えいままよ、と今度は雪の上に座り込み尻セードもどきとしますがとてもすすまず。このまま動けなくなるのではないか、という不安が湧いてきます。このままではダメと再び板をはきます。

やがてSさんが眼下で待ってくれているのが見えほっとしますが遅々として下りられない。ターンごとに転倒しながら、雪だるまさながらで無限の時間に思えた急斜面をようやく終えると眼下にスキー場のルートが見えました。もう体中ばらばらで、ようやくゲレンデに飛び出します。整地されたコースのなんと言う滑りやすいこと!もう16時も回っておりひと気の減ったゲレンデをおりて、スキー場駐車場には17時過ぎに到着しました。長い長 い、本当に辛いツアーとなりました。

土樽共同湯(500円)で湯船に浸かりますが体の芯まで疲れ切り、しばらくは湯から出られませんでした。

最後の東進の尾根が無ければまさに会心の山スキーでしたが、こんな悪雪に苦しむのもこれまた山スキー。山スキーの楽しさと辛さをしっかり味わった一日でした。当面スキー板は見たくなくなりました。

Sさん今日一日ありがとうございました。

登り始めて暫く。中尾根のジャンクションピーク
を右手高くにに仰いだ。あれを超えて行くのだ。
三角山からは痛快な滑りが待っていた。
トレースの無いオオシラビソの疎林に
シュプールを伸ばした。
傾きかけた日の中を、長く伸びた幹の影の中、
一条のトレースを残す。

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