富士山・双子山(二ツ塚)へバックカントリースキー 

 (2011/3/5、静岡県御殿場市)


2010年末に帰国してからはや2ヶ月が過ぎ、その間、生活立ち上げ、引越し荷物の整理、などで週末はまった く山に行く余裕もない日々。特に帰国後の勤務先が静岡県となり、横浜の自宅からは新幹線通勤で片道1時間40分。帰宅後も食事して寝るだけ。なんか山が遠い。山に行かなくてはという思いが棘のように心に突き刺さっているが体が言うことを聞かない。

週末近い金曜日、朝の通勤の新幹線から見る富士も、丹沢も、そして箱根までもが綺麗に冠雪してるではないか。木曜夜に降ったのだろうか。これだと、バックカ ン トリースキーが楽しめよう、一念発起して富士山の広大な裾野に位置する双子山(二ツ塚)を目指すことにした。

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(樹林帯の切り開きを行く) (宝永山と富士山頂が
手に届きそうだ)

双子山はアクセスが良いため関東のバックカントリースキーヤー、ボーダーにはなかなか人気のある山のようで、ガイドブック記事やネット記事が散見される。山スキーコースとしては初心者向けとのことなので足弱かつスキー技術も未熟な自分でもなんとかなるか、と考える。登れなかったら途中撤退も、ありだろう。

御殿場市内から御殿場口登山口への県道をぐいぐい車で登っていく。太郎坊トンネルの前、御殿場登山口への冬季閉鎖の道の横にはすでに何台か駐車している。隣の横浜ナンバーは宝永山へ登ると言う3人パーティ。アイゼン・ピッケルのツボ足です。朝8時ですがこんな時間から宝永山までいけるのだろうか、こちらはずっと下のピーク狙いなので、板にシールを貼り挨拶を済ませてゆっくりと出発です。6年ぶりに使うガーミンのハンディ GPSも無事衛星を補足してくれる。

高度計のダイアルを1260mにあわせてコンパスをセットすればもう後はスキーで雪上に一歩踏み出すだけだ。海抜1402mの駐車場までは車道が続いているが距離が長いので、すぐに適当な林の中に板を踏み入れる。点々としたトレースが林の中に伸びていますが、ウサギの足跡だろうか。快適な切り開きがありその中を進んでいく。なかなか辛い。さもない登りで早くもあごが上がる。着ていたゴアのヤッケは暑いだけでさっさと脱いでしまおう。

登り始めて15分もたっていないがはやくも足が言うことをきかなくなってた。 アー、山ってこんなに辛かったっけ。いや、6年間も全く歩いていないのにいきなり雪の山へ、しかもスキーでなんて、ちょっとなめすぎたか。早くも喉がからからだ。とはいえ飲み物は軽量化のために500ccのペットボトルのお茶1本だけ。まずかったか。バックカントリースキーは2004/5年の冬以来だ6年ぶり。昔の思い出が美化されていたのか、それとも単に体力・脚力が落ちたのだろうか。早くも汗まみれになりいささか放電気味に足を運ぶと ポッと樹林帯を抜け出せた。前方に富士山が大迫力だ。ただ、山頂までの距離感がつかめない。雪の原と偏向レンズを通してみる濃紺の空。そしてただ唖 然とするように大きな富士山。手を伸ばせば届きそうでもあり、果てしなく距離があるようにも思える。

ここで目の前の双子山。こちらは距離が近い分距離感がわいてくる。まだ遠い。このまま直進したいところなのだが目の前には沢があり行く手を阻んでいる。しかもそれをたどると何段かの砂防堰堤まであります。地形図によるとこの沢は海抜1650m付近が源頭のようなので上で巻いたほうが楽だろう。それまではこのまま左岸を進む。一息ついて進むと小広いところに出たが御殿場口登山口の駐車場のようだ。太郎坊トンネルからの先ほどの車道はここまで続いているわけだ。自販機のある小屋がある。誰もいないが近づいてみるとツボ足とスノーシューのトレースが乱れた。やや先には先ほどの3人組が衣類を整えるところだった。彼ら、迂回路の車道を歩いてきた割には思ったより早いではないか。いや、自分が遅いのだろう。

ここから見上げると遥か上にまた建物があるようだ。新2合目の大石茶屋だろうか。目指す双子山はその先。がっかりして歩き出す。ちょうど森林が途切れるあたりとなり行く手には時折ブッシュの頭が雪から飛び出ているのみ。ストックを思い切り雪面に突くとラッセルリングに雪面が届く前に硬い手ごたえがある。ほじってみると地表だ。黒い小さな岩礫。積雪は所により数センチ程度のようだ。それでも登る分には雪が浅いほうが楽というもの。大歓迎だ。

ひたすら登ると思ったよりも早く戸締りされた大石茶屋。海抜1500m地点だ。この少し先に双子山を示す指導標が立っている。ここでスキーを はずして一本立てる。ザックをあけ貴重なペットボトルのお茶。余り飲んではまずいと、一口だけにしておこう。下から単独のスキーヤーが登ってきた。彼は宝永山まで登るとのこと。ザックにはヘルメットとピッケルがセットされている。氷化箇所まではスキーで、あとはつぼ足で挑むのだろうか、軟派な双子山あたりでへこたれるも情けない、との念が沸いてくる。

この先双子山へは大斜面をトラバース気味に進んでいくことになる。幸いに先行パーティのトレースがありこれを利用させてもらう。トレースに沿って登っていくと20分ほどででやや荒れた沢の源頭を横切った。もう双子山は目の前だ。海抜1929mの兄山と1804mの妹山が仲良く並んでいる。よく見るとどちらのピークにも何パーティ かが登っているではないか。あそこまで、頑張らなければ。。

双子山の鞍部まで、息が上がる。目線を足元に落とし、数字を数えながら登っていく。苦しいときは、これしかない。でも体が辛くて30も数えると止まって息を整えざるを得ない。あー、山ってこんなにきつかったけ。だましながら登っていくといつしか妹山の山頂が目線と同じ高さになってきた。歓声を上げながら上から3人パーティーが滑ってくる。自分も早く、滑りた い。気ばかり焦って体は言うことをきかない。いよいよ兄山への急斜面、直登。ただしシールがガンガン効いてくれるので滑ることはない。先行者のトレースに感謝するのみ。

傾斜は益々強まり、もう30歩どころか5歩ごとに休憩だ。つど息を吐き天を仰ぐしかない。山頂は未だか。まだ目の前の雪の壁が途絶えな い。とここで、信じられないことに先行者のトレースが途切れているではないか! 踏み跡が錯綜しており、彼はここでシールをはずし滑り出したのだろうか。 「こんなところからラッセルかよ!」思わず唸るしかない。しかし山頂まではあと標高差50mくらいだろう。頑張ろう・・。

ラッセルはくるぶし程度ですが、硬くパックされた雪面のラッセルはきつい。綺麗に形のついたシュカブラを踏むと、まるでタイルが割れたかのように あたり10cm四方が崩れていく。そのまま自分の足も後退しそうでうんと踏ん張る。一歩進むとぐぐっとスキーが雪面に潜ってしまい、これを抜くのにも一苦労。1歩1歩休みながら登るしかないのだ。

あー、くらくらしてきた。山頂は未だか。唸りながら登るととうとう傾斜が収まり、やった、そこにケルンが立っているではないか。ほーっと安堵の声。双子山・兄山山頂だ。ここはさすがに 風が強く、吹き付ける西風に立っているのも辛いほど。目の前には宝永山と富士山山頂が大迫力で立っている。ゴアのヤッケを羽織り体が温かいうちに板からシールをはがす。チトシートが風に飛ばされぬかと気が気ではない。手がかじかんでなかなかうまくいかない。

(兄山山頂から。眼前の妹山、その先は伊豆半島の山だ) (滑ってきた自分のシュプールを見る。嬉しい。)

シールをしまうと大事な一仕事だ。アマチュア無線運用、貴重な山岳移動運用ポイントを稼がなくてはいけない。ザックから430ハンディ機を取り出してメインで山ラン(山岳移動ランキングの同好会)メンバー局をコール。するとなんとコール2発目に同好会主催者のTさんから呼ばれる。寒風吹きすさぶ山頂でこんなに嬉しいことはない。「あれ、帰国したんですか?」とTさん。12月末で日本に戻ったこと、そして海外転勤のため休会中だった山ランも近く復活したい意を伝えると早速最新の会報を送っていただけるという。Tさんとの交信はレポート59-59、明瞭な変調だ。ここからTさんの常置場所・大宮までは100kmはあるだろうか。こちらは出力0.7WのハンディにローディングホイップなのだからこちらのロケもあるとはいえTさんの設備に助けられているのだろう。

さぁあとは滑り降りるだけだ。登ってきた急斜面は避 け、それでもややゆるい東斜面から滑走しよう。

しばらくは急な斜面、さらに表面クラストのシュカブラだ。さすがに自分の下手糞な技術では何の役にも立たず、ターンごとに転んでいく。それで もじきに緩斜面まで来るとあとは自分のへっぴり腰テレマークでも滑ることが出来る。なんだろう、この充実感。なんだか、すごく楽しい。頭が真っ白になってしまう。そうそう、これが楽しかったんだよな・・6年前まで何度か出かけていたバックカントリースキー。この充実感がやみつきだったんだよな・・。なんだか思い出してはいけない喜びを再び思い出してしまったようだ。下手な滑りでも鼻歌が出てくるのだ・・。

雪面はやがてフラットに近くなる。あれほど苦労した登りなのに本当に下りはあっけない。時折石礫を踏むが積雪は浅いところと深いところが混じっているのだろう。

下界まで見渡せるのでのんびりと下ろう。ただ失敗したことにやや北寄りに進みすぎたせいか、噴火の名残と思える”崩れ”-岩屑の谷間、を横切る羽目 になってしまった。ちょうど持ってきた2万5千分の1図「印野」にはこの崩れ部分が含まれていなかったのだ。北につながる地形図「須走」にはこれがきちんと描かれていて、横着しないでこれも持ってくるべきだった、と反省。

この崩れはさすがにスキーを外し手を使い下りる。見上げると宝永山が真正面で、宝永山から崩れ落ちてきた岩が作った谷間だろうか、と 思うと胃の底がむずむずしてくる。対岸に渡って一安心。

へっぴり腰テレマークも、やはりゲレンデとは違い色々な筋肉を使うようで直に下るのも足が痛く苦痛になってくる。それでも大石茶屋は気づかないうちに通り過ぎて、あっという間に駐車場の小屋だ。さすがにスキーは早い。緊張感も解けてあとはすっかり余裕の心持。ここからはルートの偵察をかねて行きにとらなかった車道で太郎坊トンネルまで戻ることにする。

心配していた日本帰国後の初の山行も無事に終わった。忘れていた楽しさ・・それは頭が真っ白になるほどの楽しさだった・・にも再び出会える事が出来、装備を片付けながらとても満足な思いであった。

太郎坊トンネル8:30-駐車場9:15-大石茶屋9:45-双子山(兄山)11:05/11:15-太郎坊トンネル12:25


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