梅雨空の下アヤメを見て歩く 石割山 

(2005/6/19、山梨県都留市)


明日からは一週間出張だ。今日を逃すと6月も山らしい山歩きをしないまま終わってしまう、そんな焦りをかかえていると目覚めは早いものだ。3時には布団から抜け出して家を出たのはまだ4時になる前だった。

梅雨のこの季節、何時降られてもおかしくないので余り行程の長い山はパスだ。走りながら行き先を考える。手ごろに歩ける行き先として山中湖近辺の山か、天子山塊の天子・長者ケ岳あたりを考え両方の地図を持ってきた。天子であれば富士宮まで高速に載らなくてはならない。面倒くさくなって山中湖畔エリアを選んだ。御殿場で東名をおりて北上する。山中湖北岸には石割山や杓子山、鹿留山などがあるがどこも行ったことが無かった。一番行程が手じかなのは石割山だった。

山中湖北岸の適当な場所で車から自転車をおろしデポする。地形図によると長池集落とある。車の駐車地点を探すが石割山登山口のある平野周辺にはなかなかよい場所が見つからない。結局平野の集落の西よりのはずれの古屋集落付近の湖岸の空き地に車を停めた。実質自転車をデポした箇所から余り離れていないようで帰りに楽をしようという目論みは余り達せられそうにはない。

石割の湯に入る手前の分岐を北に折れて舗装道をゆっくり歩く。ここまでくれば路肩に駐車できそうな箇所が多く、ちょっと失敗したようだ。緩やかな上り坂で神社のあるところで道は終わっていた。その横から真正面に一本とてつもなく長い登り階段が伸びている。ずっとと見上げるその先は緑の山に消えていた。一体何段くらいあるのか想像がつかない。

梅雨のさなかで天気は今ひとつ。初夏らしさがむんむんしており階段の周りにも夏草が覆いかぶさっている。息が切れてきたのを誤魔化しながら登るきるとそこは稜線上で、小さな広場だ。稜線の反対側から未舗装の車道らしきものが登ってきている。ジムニーなら登ってこれるかもしれない。その広い道をまっすぐ北上していくと檜の人工林は姿を消して天然林となった。いきなり素晴らしい新緑に包まれる。さらに緑に混じって紅の花に目が行った。トウゴクミツバだった。6月も半ばを過ぎたこの時期でまだ咲いていたとは期待していなかっただけに嬉しかった。

道は何時しか登山道の幅まで狭まった。この手の山にしては登り始めが早かったせいか、誰にもここまで会わない。しばらく登ると視界が広まりそこに立派な灯篭と祠があった。石割神社の本殿だ。その右手にはおそらくこの山の由来となったのであろう大きく割れたかのよう立石があった。軽く一礼をして神社から回り込むようにして更に登っていく。新緑は全く目に鮮やかでしかも瑞々しいのは梅雨時の山の持つ独特の顔だろう。

しばらく頑張ると視界が開け山頂だった。山梨百名山の山頂標識の横にザックを下ろす。しばらくしていると汗が引いて思いのほか心地よい。ダイポールを立てて自作の無線機をつなぐ。CQを出すと思ったとおり余り呼ばれない。道志の山は関東平野にはロケがよくどこに登ってもそれなりの交信成果が得られるがそこから引っ込んだ山中湖まで来るとさすがに距離があるのか厳しいものがある。それでも7局と交信出来たので満足だ。

暑くなる前に先を急ぐ。稜線を西へ、大平山へと歩く。富士山を正面に見る絶好のコースのはずだが生憎と高曇りで富士は見えない。たんたんと歩くと足元に点在する紫の花が目に留まった。新緑の中に輝くような鮮やかさで、それが目を惹いたのだ。アヤメだった。しばらく目を楽しませてくれるかのようにアヤメの点在が続く。別荘地が左手に近づいてきて、右手には無表情な檜の人工林が迫ってきた。いきなり味気ない尾根道となった。まぁこんな山ではそれもやむないだろう、起伏をいくつかこなして大平山だ。小広い山頂のこの山はパラグライダーの絶好の発着ポイントのようで、ここから山中湖に向けてテイクオフするのはさぞや気持ちが良いものだろう。もっともそのグライダーを回収して登ってくるためであろう、湖畔からは未舗装の車道が延びてきており軽四駆トラックが停まっていた。ここも無線のポイントとして有効ではあるが長居をするほど面白みのある山頂でもない。鞍部に戻って未舗装道をそのまま山中湖へ降りていく。とそこにもアヤメが群生していた。

花びらは細長く近づいて見ると花名の由来にもなっているであろう黄色と紫の文目模様が実に鮮やかだ。自然の模様とはいえなかなか緻密な模様に感心する。道端に点在するアヤメの花に目を奪われながら歩くと山中湖畔はあっという間だった。

今日の山はコースとしては手短すぎかつ別荘も近く特に面白いものでもなかった。しかし梅雨の山の持つ美しい色彩を堪能した事は満足だ。とりわけツツジの鮮やかさもさることながら緑に映えた紫のアヤメには期待していなかっただけに喜びが大きかった。山も植林だけに囲まれた季節感の無い山ならいざしらず、こうして自然の林が残った山を歩くと季節に応じた美しさを味わう事が出来る。6月のこの時期ならではの鮮やかな色彩が当分は頭から離れる事が無いだろう。

車に戻り未だ正午前だというのに自宅へ向けハンドルを向けた。季節を感じた小さな山歩きだった。

(どこまで伸びるのか
果てしない階段だった)
(トウゴクミツバがまだこの季節に
咲いていたとは。)
(新緑にアヤメの紫が映えていた。見事な
コントラストにしばし足が止まった)
(行程図。カシミール3Dと同
ソフト付属地形図を利用)

コースタイム : 6:45古屋集落-6:55石割神社への道分岐点-石割神社7:48-石割山8:05/9:20-大平山9:35/10:00-山中湖畔10:35-自転車デポ地(長池集落)10:40
アマチュア無線運用記録 : 石割山1413m 山梨県都留市 50MHzSSB運用、自作4WSSB/CW機+釣竿ダイポール 7局交信


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