思い立っての三浦の山-森戸川から二子山・阿部倉山 

(2004/11/14、神奈川県三浦郡葉山町)


日曜日のもう昼が近い時間、思い立って三浦半島の丘陵地へ出かける。逗子市の二子山はこれまでも何度か登っており別段興味が湧かなかったが、二子山の北西に阿部倉山という山の名前が地形図に記されているではないか。どんな山かはわからないがいずれにせよ標高200mにも満たない里山だろう。余りハイキングの対象として聞いたこともない山だ。藪っぽいのかもしれない。俄然興味が湧いてくる。それに二子山へもまだ取ったことのない森戸川からのコースを辿れば、面白味のないあの南郷上ノ山公園からの車道歩きでのルートにくらべて変化があるはずだ。阿部倉山を絡めると程よい数時間コースになるのではないか。

長柄集落に車を停めて、森戸川源流へ向けて歩き始める。車道が途切れたところでテープで厳重に通せんぼがしてあった。崖崩れで通れないと書いてある。人が通れないこともないだろう、テープを潜り抜けて先へ進む。と10mも行かないうちに大規模な山肌の崩落現場があった。慎重に進むが高さ10m近くの崖崩れだ。それを越えると簡易舗装の道が森戸川に沿って続いている。ここ数日好天続きであったにもかかわらず山肌も、この歩道にもじめじめと水気で濡れている。歩き続けると驚いた。そこらじゅうで山肌が崩れて大木がごろごろと根こそぎ倒れている。くぐって、跨いで進んでいくがまるでジャングルの様に荒れている。この秋に何度か関東地方を通過した台風のせいなのだろう、そういえば鎌倉ではかなりの土砂崩れがあったと聞いていたがほど近いここ葉山も同様のはずだ。高さ十数メートルはあろうかという木々がそこらじゅうで根こそぎひっくり返っている様は異様でもあり自然の脅威も感じさせる。

しばらく進むと突然渓谷を一本の高架橋が貫通していた。逗葉新道から湘南国際村に抜ける出来たばかりの車道だ。幸いなことにフードのついたトンネルなので車の音もあまり聞こえてこない。その高架橋の下を進んでいく。頻発する倒木を越えながら進んでいくとやはり山崩れが行く手を塞いだ。注意して足場を選んで越えていく。しかし相変わらずそこら中の山肌から水が溢れている。一体どのくらいの雨がこのあたりを襲い、山の中に溜まっているのだろう。

二子山へは森戸川をしばらく遡ってから左右に沢が分かれる二股からその左側の沢に沿って更に遡行していくことになるのだが、その沢の分岐は何処だろう。地形図と現在地を照合するがいまひとつわからない。地形図上で自分の居場所のあたりをつけるが尾根道と違い沢道で地形図と実際の場所を照合するのは自分には難しい。

狭かった沢が広がり奥行きのある眺めとなった。緑が深く神奈川県の三浦半島にこのような規模で自然が残っているとは驚きだ。更に進むと再び大規模な崩落がある。その崖の下を歩くのはあまりいい気がしない。ひやひやで通り過ぎる。基本的には幅員2m程度の林道だがここまで山肌の崩壊があると重機でも入らない限り修復は不可能だろう。やがて林道がそこで終わっており「二子山」を示す小さな指導標が立っていた。ここが沢の分岐する二股だろう。ここまで、道が荒れていなければどうと言うこともないのだろうがなかなか気を使う道のりだった。

(林道歩きは倒木と崖崩れが続いた) (二股からは沢を何度も渡り返していく)

向かって左側の沢に沿って登っていく。登山道はたっぷりと濡れており滑りやすい。行く手の踏み跡は沢の中に消えている。何処を渡ればいいのだろう、コースはあっているのか。本来は浅い沢のであろうが水量が普段より多いのに違いない、渡れそうな箇所がない。対岸を良く探るとそれらしい箇所がある。あそこに、いくのか。靴が濡れても仕方あるまい、沢の中に足をいれる。慌てて転ばぬように・・。何箇所かこんな調子で沢を渡って対岸に進み、また渡り返す。この水量で渡るのに気を使う。適当な箇所もなく仕方なく浅瀬を選んで渡っていく。ナイロンのトレッキングシューズで来たのでいつのまにか靴下まで濡れていた。

本流から左手の山肌に取り付いて沢を離れていく。山肌を直登していくかと思えば今度は枝沢の中を歩くようになった。かなりか細い枝沢ではあるがそれなりの水流がある。目の周りは奔放に成長したアオキの群落の中に中にシダ類が混じりじめじめとしている。登山道とも沢の中ともつかぬその中をぐいぐい登っていく。ルートファインディングといい足さばきといい結構手ごたえのあるコースが続き一汗かかされる。やがてそこを離れる。枝沢の源頭は湿っぽく荒れた斜面の中に消えていた。つづらおれで登っていくともはや尾根に登りつき、南郷上ノ山公園からの車道に合流した。ようやく一息ついた。ここまでなかなか手こずらせてくれたではないか。

二子山(下の山)の山頂は一面刈り払われており展望が広がった。犬連れのハイカー二人がのんびりと展望を楽しんでいた。この山頂には用事がない。ここから今度は二子山の西峰(下の山)をへて阿部倉山への尾根歩きとなる。下の山までは踏み跡もあるだろうがその先はどうだろう。コンパスがあったほうが良いだろう。磁北線にコンパスをあわせ進行方向をセットする。

とはいえ下の山へは拍子抜けのするような良い道が続いておりややがっかりする。白いナイロンテープが滑りやすい黒土の斜面に手すりの様に続いている。鞍部から登り返すとすぐに下の山で、ここは見晴らしはないもののいつも人で賑わう上の山に比べていつも物静かなピークなのだろう、自分には好ましい山頂だった。再びここでコンパスを今度は阿部倉山に向けてセットする。踏み跡はやや薄くなったがそれでも迷うことのない道が北西に向けて続いている。地形図の示すとおりの急な下りとなり下りきるとそこには南郷上ノ山公園方向を示す小さな指導表とそちらに向けて下りていく踏み跡があった。尾根を進む自分はそれを右手に分けて更に進む。歩く人の殆どはここで下りてしまうのであろう、ここから先の尾根道は途端に希薄な踏み跡になり、ようやく藪っぽくなってきた。目の前のピークが阿部倉山であることには間違えがないが一応コンパスで進む方向を確認しながらあるく。地形図上に示されている阿部倉山との最低鞍部に下り立つ前の小ピークはその北面を巻いて通り過ぎた。立ち木につかまって下りていくと最低鞍部で、あとは阿部倉山に向けて登り返していくだけだ。ここからは杉の植林帯となる。歩くにつれて植林帯とはいいながらかなり下草が奔放となり藪っぽくなってきた。踏み跡は阿部倉山の山頂を通る模様もない。山頂を一応踏まなくては。それらしい分岐からやや強引に低木常緑樹の藪を分けて阿部倉山を踏むが、とんでもない藪のさなかで山頂を同定することも叶わなかった。一応一番高そうな箇所まで進み、ここが山頂か、と自分を納得させる。

ヤマランでもないかぎりまず来ることのなかったピークだ。一応アマチュア無線運用。海抜161m。この標高では430MHzでCQをだしても全く呼ばれず時間のみが経過する。じっとしているだけで不安になるような藪のさなかゆえ、とうとう根負けして強く入感している移動局を呼んだ。スタイルの問題ではあろうが430MHzでは移動サービスとはいえいきなりの長話モードになるパターンがある。50MHzではありえない世界でどうも慣れることが出来ない。何とか閉局、これで一安心。さぁ戻るとは言っても四周ぐるりと深い藪の中、自分が歩いてきた踏み跡を探すのも一苦労だ。ようやく踏み跡に戻り、あとはしっかりした道型で、長柄集落に降り立った。

思い立っての午後のひと時、わずか3時間にも及ばない行程ではあったが緊張の沢沿いの道から地図を片手に楽しむ藪の中へ、小粒な中に面白さが凝縮された山歩きだったといえるだろう。疲れ気味のこの週末ではあったが、体と頭をそれなりに使ったおかげか疲労感などいつしか忘れ去っていた事が嬉しかった。

(終わり)

コースタイム:長柄集落12:15-車道高架橋下12:44-二股13:00-車道合流13:18-二子山(上ノ山)13:25/13:30-二子山(下ノ山)13:42-阿部倉山14:10/14:35-長柄集落14:45

(阿部倉山山頂へはここから藪漕ぎ) (下山して、阿部倉山展望) (今回のGPS軌跡。カシミール3Dと付属地図使用)

アマチュア無線運用の記録

阿部倉山 161m 神奈川県三浦郡葉山町 430MHzFM運用 STANDARD C-710 + ホイップ


(戻る) (ホーム)