相模湖奥部・大月付近の落穂拾い 

(2004/9/25、山梨県大月市、北都留郡、神奈川県津久井郡)


天気図とにらめっこして過ごした金曜日、停滞する前線に明日の土曜日は時間のかかる山歩きは出来ないと断念。でも9月は明日を逃すと「山無し月」になってしまう。とにかく行かなくては。傘をさしてカッパを着て雨の山を歩くしかないと覚悟。であれば小さな歩行時間の少ない山だ。地形図を拡げ未だ行ったことのないピークを探す。相模湖奥部一帯から大月付近にかけ、いくつか候補が浮かび上がった。いずれも地形図には載っているものの改めて手間隙かけて登るまでもないような小ピークたち、これらをこんな機会に傘を片手にいくつか登るのも悪くないだろう・・・。そんな落穂拾い計画ではあるがやはり河野さん(JK1RGA)も興味を示してくれた。明けて土曜日の早朝、ワイパーを動かしながら河野さんの自宅へ向けハンドルを向けたのであった。


1.岩殿山 : 山梨県大月市・634m

国道20号線を高月橋で右折すると俄然目の前に岩殿山の岸壁が大きい。いつか登ろうと思っていながら中途半端な大きさからなかなかその為に出かけてくる機会を得なかった山頂に、思いもかけずに登る機会が来た。天気に感謝しなければなるまい。岩殿バス停横に路側帯が広い。駐車してコンクリートの階段に取り付いた。前回の山歩きから1ヶ月以上もブランクが開いている。こんな登りでも汗がだらだら出てきて息が上がってくるのが悔しい。雨は上がっていたがここへきてどんよりとした雲の合間から日が差してきた。途端に湿気があがり明るい日差しに包まれた山はサウナのごとき不快な空間へと様変わりした。ダラダラと流れる額の汗をぬぐってとにかく登るしかない。道は紅白に塗られた鉄パイプのガードレール、そしてコンクリートの階段にがっちりと護られている。こんな道のくせに妙につらい。心臓もバクバク言うし体の芯が痺れそうだ。こんな調子ではたとえ天気が良くてもまっとうな山には登れなかっただろう。自分の不摂生が情けない。

傾斜が緩むとはや稜線に合流した。東西に走る尾根道を東方面に進むと最高地点の高まりで、そこには無線中継所が立っていた。「山梨百名山」の山頂標識は何処だろう。まぁいいか、ここが山頂に相違ないだろう。50MHzの装備を拡げてCQを出すが634mという標高にしては続けて呼ばれる。桂川の谷に沿って電波が抜けていくのだろう。ローカルとも交信が出来て満足して閉局。先ほどの合流地点からやや西に戻るとそこには「山梨百名山」の標識が立っていた。見慣れたものよりもやや細身で色が濃い。しかしここはどうみても先ほどのピークよりも低い。先ほどの無線ピークが正解だろう。大月の市街地方面を見てみると手すりの向こうはものすごい高度感で落ち込んでいた。さすがに戦国時代の山城である。下界から見た、あの断崖絶壁の上に居るのだった。

岩殿バス停9:28-岩殿山9:58/11:00-岩殿バス停11:20
アマチュア無線運用 50MHzSSB YAESU FT690mkII+ダイポール、9局交信


2.斧窪御前山 :山梨県大月市・523m

JR梁川駅の西数百メートルにJR中央線の下り線のガードをくぐる道がある。そこを北に侵入してJR中央線の登り線をくぐる手前に駐車。そこから西へ伸びる幅員1.5m程度の簡易舗装の道を緩く登っていく。手入れされた農家の花壇が美しい。目の前にこれから上る斧窪御前山が立っているがひとかどの藪山の呈をなしており嬉しいではないか。登り口は何処だろう。河野さんとあたりを右往左往する。簡易舗装が途切れる当たりに小さな看板が立っていた。

登り始めるともうただひたすらジグザグに高度を稼ぐ藪道が待っているだけだった。蜘蛛の糸がしきりにかかってくる。湿気の多い藪の生臭い匂いが体を包む。この匂いはなかなか好きになれない。滑りやすい土の道。トカゲが薄暗い濡れた草むらへ逃げ込んでいく。汗がにじんできた。河野さんが小枝を渡してくれた。ありがたい。これを上下に振りながら進めばすこしは蜘蛛の糸も払えるだろう。

道は悪くはないが藪が深い。やはりこの手の山は冬枯れがふさわしいのだろう。素朴な鳥居が小さな肩に立っていた。そこを抜けてさらに藪を分けていく。見上げる薄暗い樹林の向こうに青空が見えてきた。傾斜が緩む。倒木を越えて枝を払いのけていくとテレビの中継アンテナ設備が立っていた。山頂だ。立ち木にくくりつけた素朴な看板がこの手の山にはよく似合う。容赦なく降り注ぐ陽差しがたまらなく暑い。雨天という天気予報はいったい何だったのだろう。

河野さんに引き続き430MHzで昭島市の局と交信。お仕事も無事完了。ザックを担いで山頂を振り返る。多分もう2度と踏む事もない寂峰ではあるが、マイナーゆえにその山頂に残す思いはやはり「満足」の二文字だった。

(斧窪集落から望む斧窪御前山。
藪っぽそうだ・・・。)
(入山口。標識が
あった。)
(山頂は寂境
だった。)
(下山して。薄暗い藪の中から秋の日差
の中へ。里の明るさが眩しかった)

JRガード下11:56-登山口12:05-神社12:22-斧窪御前山12:33/12:50-登山口13:05-JRガード下13:10
アマチュア無線運用 430MHzFM ICOM IC-T81+ホイップ、1局交信


3.四方津御前山 :山梨県北都留郡上野原町・461m

(四方津御前山山頂) (入山口はガス会社の裏手)

JR四方津駅の東からコモア四方津ニュータウンに向かう。汗まみれの体にはガンガンにかけた車の冷房が気持ちよい。トンネルを抜けて左手にぐるりと回るとすぐ右手にガス会社がある。その横手に駐車。汗も充分乾かないが今日の三山目に取り付こう。

鉄製の手すり階段を登ると思いのほかに良く踏まれた登山道が目の前に続いていた。斧窪御前山とは大違いだ。緩やかに登っていく。あっというまに稜線に登りついた。東へ折れて緩く登っていくと稜線の北側にトラバース側に進むようになった。薄暗くてやや湿った山だが、これまでの中では最も歩きやすい。とはいけ時折蜘蛛の糸が絡んでくる。トラバースから転じて南に上り東へ向きを変えた処が明るく開けた四方津御前山の山頂だった。

1200MHzでCQを出すが全く呼ばれない。430MHzのお世話になる。

三等三角点がなかなか可愛らしい。目立たぬ山ながら地元民に愛されている山、という気がする。この先にはナイフリッジのような岩場もあるという。結構バリエーションに富んだ山なのだろう。残念ながら今日はここからUターンしなくてはいけない。

ガス会社13:30-四方津御前山13:50/14:05-14:20ガス会社
アマチュア無線運用 430MHzFM ICOM IC-T81+ホイップ、1局交信


4.鉢岡山 :神奈川県津久井郡藤野町・460m

(鉢岡山入り口。木柱の標識がある) (藪の向こうに
山頂を望む。)

計画ではこの鉢岡山まで登る予定だったが、果たして四山登れるかは半信半疑だった。藤野から篠原へ抜ける道をしばらく走ると木柱の登山口の看板が立っている。。どうせここまできたのだ、頑張ってしまえ、河野さんと目線を交わす。

里山らしくいくつもの登山コースが山中に交錯していた。季節もあるがかなり藪っぽい。道標は小さなものが随所にあるのは意外だった。山梨県では晴れていた空もここではどんよりとしている。ポツポツと降ってきた。藪にあたる雨音が思いのほかに大きい。濡れた草薮を払いのけて先に進む。蜘蛛の糸。もう戦う気力も起こらない。

藪を体で押しのけて鉢岡山の山頂に立った。ここにも無線中継設備が建っている。ハンディ機を出して1200MHzで河野さんと奥の手交信。雨音から逃れるようにさっさと下山する。

津久井郡藤野町にあって長く未踏として気になっていたピークをようやく踏むことが出来た。もっとも山頂は期待通りにぱっとしないものではあったが・・・。金剛山、宝山、そしてこの鉢岡山。相模湖奥のこの一帯は好事家向きの小さな藪山天国といえるのだろう。

田ヶ岡登山口15:05-15:15尾根道合流-鉢岡山15:25/15:30-田ヶ岡登山口15:45
アマチュア無線運用 1200MHzFM STANDARD C-710+ホイップ、1局交信


5.藤野やまなみ温泉

(藤野やまなみ温泉。
山の後の湯は極楽だ。)

ここから藤野やまなみ温泉はとても近い。以前から気になっていた日帰り湯設備だ。汗でぐっしょり濡れた体が不快極まりない。温泉の誘惑には勝てなかった。

600円払い入湯。サウナで体の芯からの汗を流しだす。雨の降り始めた露天風呂。湯船に雨粒が波紋を広げるというのも悪くない。周りの山々がグレーのガスの中に沈んでいる。なかなかいい湯だ。湯上りにはビールの自販機が目の毒だ。隣に並んでいたノンアルコールビールのボタンをもどかしく押して河野さんと二人で喉を鳴らす。こんなものでもたまらなく美味い。

予定通り四山ともになんとか登った。岩殿山以外はハイキングガイドにも載っていないようなマイナーピークではあったがそれなりに登ることが出来た。わざわざそれだけのためには登りに来る事もなかったであろう小さな山々。こんな「落穂拾い」山行でもなかなか満足感を味わえた。これは予想外に嬉しいことだ。

きのこ蕎麦を美味しく戴いて温泉を後にする。河野さんも自分も、疲れてはいるものの山の充実感と湯上りの爽快感で満足ここにあり、といった顔をして車に乗り込む。雨の天気予報が生んでくれた小さな山歩きの一日だった。

終わり


ルート図 (ハンディGPSにて取得したデータをカシミール3Dにてダウンロード、同ソフト付属の地形図上に展開したもの)

       
(岩殿山) (斧窪御前山) (四方津御前山) (鉢岡山)

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