海の見えるアルプスへ・・沼津アルプス

(2004/2/7 、静岡県駿東郡・沼津市)


沼津駅から伊豆長岡温泉行きのバスに乗る。狩野川を渡り暫く走ると右手に濃紺の駿河湾が広がった。風が強いのだろうか、銀色の波頭が高い。多比でバスを降りる。干物屋の軒先に烏賊の一夜干しが並んでおりいかにも海産物で知られる沼津らしい。買って帰りたかったが今から山に登るのだ。諦めてコンビニの脇から簡易舗装の道をあがっていく。

沼津アルプス。標高400mにも満たない山々の連なりだがアップダウンが続き全山縦走すると手ごたえ十分だという。左手に蜜柑農園を見て急な簡易舗装が続く。振り返ると海が光るがそれは青というより黒い。波が光る皺のようにきらめき立っている。

舗装が途切れると地元の山岳会が立てたのであろうか丁寧に作られた指導標が立っていた。山道らしくなった道を登っていく。南国らしく色の濃い常緑低木帯だ。高度を稼ぐにつれて風が強くなってきた。上空に寒気団でも入っているのか、温暖な伊豆に似つかわしくない寒風に思わず毛糸の帽子を被りなおした。

しばらくぶりの山歩きなので息があがる。がそれでもはや空が樹林越しに広がってくると稜線近しの予感。さすがに山が低い。あっという間に多比峠だ。

(多比バス停は海辺だった。風が強く
波が銀色に輝いていた)
(烏賊の干物・・。買って帰ればよかった
と大変に後悔。多比にて。)
(沼津アルプスの最高峰、鷲頭山。
駿河湾に手が届きそうだった。)

ここで大平山まではピストンとなる。木の根の張り出す急な上り坂を5分もがんばると傾斜が緩み山頂だ。標高356m。海抜0メートルの海岸から登ってきたので標高差がわかりやすい。「おおべら山」と書かれたポストが立っている。高年のパーティが何組かいる。多比峠からここまでで何人ともすれ違ったが地元では格好なハイキングコースなのだろう。430MHzでCQを出すと三島市移動の局から声がかかった。手短に交信を済ませて先へ進む。

多比峠まで戻る。前方には沼津アルプスの最高峰・鷲頭山が思いのほか立派に立っている。稜線には岩が露出した箇所もあり滑らないように進むと急な上り坂となりおもったよりペースが上がらない。鷲頭山。標高392m。カヤトの山頂からは駿河湾が黒々とぎらつく。風で空気中の不純物が取り払われたのかのようで海に手が届きそうだ。

三島の市街地の向こうの伊豆スカイラインの山並みが目線と同じ高さだ。なんとか電波が飛び越えそうなので50メガにトライしてみる。ぎりぎりでも電波が伊豆の稜線を越え関東平野まで飛べば、微弱な電波でも1エリアのビッグガンが拾ってくれないか。ダイポールを釣竿にセットしてバンドをスイープするが何も聞こえない。声を出してみるがパワー計が全く触れない。出力を200mWに切り替えてみても駄目だ。昨秋の御坂・十二ケ岳でもこうだった・・。永く使っている自作の無線機だが・・やはり本当に壊れたか。仕方なく430MHzのハンディ機を取り出し、山麓の駿東郡の固定局と交信するだけにした。50メガの運用が出来ないと、やはり欲求不満でもある。

じっとしていると耐えられない風の冷たさで、交信を続けるのが辛くなってきた。温暖そうな伊豆の山ということもありガスストーブもコッヘルも持ってこなかった。暖かいココアでも飲めればとも思うがそれもなく手早くザックをまとめ先へ進もう。

コースガイドにはロープ場のある沼津アルプス随一の難所と紹介されている箇所がこれから始まる。すぐに急降下となった。滑りやすそうな道に黄色のクレナモロープが垂れ下がっている。難所といえば峻険な岩場を想像するがそれはなく、ただ無闇に急な土の道が一直線に下に伸びている。

(今回の行程。ハンディGPSでの軌跡ログを
カシミール3Dを用い同ソフト付属地形図に展開。)

ひと段落するとそこは小鷲頭山とある。そのまま直進すれば駿河湾にダイブ出来そうな大展望がダイナミックに広がっている。そこからまた長いロープ場となった。下から高年パーティが鈴なりで芋虫のように連なりながら登ってくる。皆、完全にロープに体重を預けながら登ってくるので切れでもしたら大変だろう。通過するのを待って下りていく。平坦地になり先へ進む。やや登り返して振り返ると鷲頭山が大きく翼を広げたかのように立派に立っている。岩場もあり高度感をもって立ちはだかるその姿はなるほど鷲とも言える。ひとかどの山姿だ。

風の通り道のようなカヤトの小ピークに向かって登っていく。先ほどまで何組ともすれ違った対向パーティもさすがに見かけなくなった。ヒュルヒュルと風の音に吹かれっぱなしで気がめいってきた。立っていると思わずよろめくような風だ。

志下坂峠を越え282mピークに向けての登りとなった。山は小さいが、なるほど結構こき使われる。小さな岩があるがこれがガイドにある千金岩だろうか。そこに中年パーティが疲れ果てたように座っている。行きのバスで乗り合わせた団体だろうか。この辺りはたしかに辛くなってくるところだ。こちらも空腹で足に力が入らなくなってきた。そういえば朝からサンドイッチひとつしか食べていない。登り切ったら何か食べよう。

登りきると樹林帯で風が防げる。ペットボトルのお茶が冷たくて美味い。パンを一つ食べると少し元気が回復したように思える。

このあたりからちょうど沼津アルプスも山の割にはダイナミックなイメージのあった大平山・鷲頭山付近に比べ単調で特徴のないコースになってきた。色の濃い樹林帯の中をすすむ。香貫台分岐を過ぎると再び急な登りとなった。階段状のステップが足幅に合わない。竹で出来た手すりに手をかけて一歩一歩のぼると徳倉山256mで、カヤトの山頂から振り返ると歩いてきた大平山から鷲頭山の連なりがはや遠くに立っていた。こうしてみると、二峰ともなかなか立派な姿であり、あぁあそこを歩いてきたのかと、満足な思いもわくではないか・・。

この後もコースはずっと横山・香貫山へと北上して続いていくのだが、もうこのへんでいいか、という気がしてきた。しかも眼前の香貫山には車道が山腹を巻いている。面白くはなさそうでもある。

手すりのある急な下り坂をおりきるとそこは小さな峠のようになっており、ちょうどこの辺りで終えるのが良いだろう。縦走路を離れその峠道を西に向かって下りる。5分も歩くと住宅が見え横山トンネルの横に出た。

折りよくやって来た沼津駅行きのバスに乗り、山を後にする。

南アルプス、鎌倉アルプス・・・今まで歩いたことのアルプスにまた新たなアルプスが加わった。今日のアルプスは山は小さいけどそれなりに体も使わされた。海の見える縦走。地元の人々に愛されているのが実感できる整備されたコース。横浜からはるばるやってきたけど、山の終わりはいつもどおりの満足感だった。

(終わり)


追記 : 昨秋の御坂・十二ケ岳に続く自作の50メガの無線機の不調はやはり心配だ。かろうじて受信音は聞こえるがまったく送信できなかった。前回はアンテナの調整不足と結論づけたが・・。充分実用になるしなによりも愛着のあるこのリグに何がおきたのか・・。自宅で調べてみてわかった。無線機は全く正常で、単に山に持ち歩いている鉛シール電池がいかれていたのだった。初期電圧は11V 近くあるが負荷をかけるとすぐに7Vあたりに降下してしまう。これでは回路が動作しようがない。

鉛電池は少々扱いがラフでも耐えてくれるのだが、やはり寿命はあるのだった。原因がわかったのでほっとする。次回の移動運用までに、次の電池のことは考えておこう。

(鷲頭山を越える
とカヤトの道。)
(風の中を暖かい
日差しを浴びた)
(振り返る鷲頭山。思いのほかに
立派な姿だった。)
(徳倉山から振り返る。左に大平山、右に
鷲頭山。海を見る素敵なアルプスだった。)

山行日 2004/2/7、多比バス停10:35−多比峠11:10-大平山11:20/11:37−鷲頭山12:15/13:00-馬込峠13:30−徳倉山14:25/14:28−鞍部14:40-横山トンネルの脇14:45−香貫小学校バス停14:50


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