粉雪の樹林を縫ってクロスカントリースキー ・・日光光徳 

(栃木県日光市、2004/1/10,11)


今年も心ひそかに楽しみにしていたスキーの季節がやってきた。しばらくゲレンデスキーからも遠ざかっていた自分だが昨年三月の霧ケ峰へのスキーツアーは経験豊富な友人にご一緒していただいたこともあり成功裡に終えることができた。それは初めての自然のフィールドを歩くということ、小さいながらもツアーを楽しめたこと、足元を固定するアルペン板ではなく踵の上がるテレマーク板での歩行・滑走を味わえた、など自分にとっては興奮すべき経験だった。一度覚えた蜜の味は忘れられない。又そんな楽しみを味わいたい、という想いが一年間絶える事無く心の中に在った。

* * * *

(プラブーツで
テレマーク
もどきが
出来た。)
(佐野のラーメンは
手打ち麺で柔らかく
スープにからむ。)

1月の三連休を利用して日光へ。日光湯元温泉スキー場は子供でも楽しめそうななだらかで小さなゲレンデというのも気に入ったがそれにネイチャースキーヤーにとっては光徳牧場や戦場ヶ原でのクロスカントリースキーも楽しめる。初日にゲレンデでテレマークの練習をして2日目は、ちょっと背伸びしてクロスカントリーをしてみよう。

例によって行動開始の遅い我が家が自宅を出たのは朝8時を過ぎていた。スキーを楽しむといってもまったくルーズもいいところで、それでも空いている首都高・東北道で早くも1時間半で栃木県。途中、これまた例によって佐野で高速道路を途中下車してラーメンを食べていこう。安蘇の山々への山行の際にはここ佐野で高速を下りることになる。何度か通った安蘇の山のおかげで町々の風景も自分にとってはもはや馴染みのあるものだ。そんな訳で当然何軒ものラーメン屋を味わっている。朝11時というのに早くも何人も開店待ちをしているとある店の行列に加わる。堪能して再び東北道に戻る。

宇都宮が近くなり遠くに白くなった男体山を仰いだ。更に進むと前方には塩原の釈迦ケ岳がこれまた雪化粧をしている。日光に近くなると女峰山、大真名子、小真名子山が男体山の隣に綺麗に並び思わずハンドルを握っているのを忘れるほど歓声を心の中であげた。どれもまだ登っていない山だ。いつの日にか、ゆっくりでいいから、登っていきたい憧れのピーク達だ・・。

宿にチェックインしてからスキー場へ。午後1時半であるが空いているゲレンデだ。地元の小学生がゼッケンをつけて練習をしている。授業の一環なのかもしれない。我が長女は昨年スキーを初めて経験したがスクールに入れたこともありボーゲンがそれとなくできていた。一方二女は経験なしで、明日にでもスクールに入れてみよう。リフト待ちもなく空いたゲレンデは気持ちよい。長女もなんとか滑っている。二女は家内のボーゲンに合体して滑っているので大丈夫だろう。

さて自分の足元だが、今回は昨年との違いとしてプラスチックのテレマークブーツを履いてきた。シーズンに入る前に昨年の型落ちモデルを安く入手したのだ。どんなものか・・。

効果は大きい・・。なんと自分にもテレマークターンもどきが出来る・・!これは驚いた。昨年は皮ブーツであれほどおぼつかなかった足元が今回はがっちりと固まっている。そんなことで、本から見よう見まねで覚えていたテレマークターンを試みたのだが・・。もちろん昨年の自然の中のコースと、今回の整地されたゲレンデとの違いはある。が革靴ではシュテムどころかボーゲンも上手く出来なかった昨年と違い、いきなり猿真似とはいえテレマークもどきが自分にも出来るとは!これなど技術の未熟さを効果的に用具で補える格好の例だろう。逆に言えば、革靴でテレマーク姿勢をとれるというのは相当基礎のしっかりした人といえるのだろう。技術のない自分はいつも用具頼みだ・・。   

昨年あれほど失っていたスキーへの自信や「ゲレンデスキーとはいえ昔はもっと滑れたのに」という悔しさが今では嘘のようにも思えて、直滑降やターンなどを試してみる。それなりに、出来る。家内と子供達も楽しんでいる。随分と心が晴れやかになり初日を終えた。

宿に戻り硫黄のにおいのきつい湯につかっていると雪がちらほらと降ってきた。露天湯で雪・・・。隣の女湯からは垣根の向こうに我が娘たちのはしゃぐ声が聞こえた。

* * * *

翌日はゲレンデに向かう家族と朝食後別れて、戦場ヶ原へ向かう。いよいよクロスカントリースキーだ。昨晩からの雪がけっこう吹雪く様に降っており、これではだだっ広い戦場ヶ原ではホワイト・アウトの可能性もあるだろうしなによりも吹きさらしで辛いだけだ・・・。そう考え、急遽光徳牧場へ行き先を変更した。こちらは樹林帯でさほど辛くはないだろう。

光徳牧場はアストリアホテルを中心としてクロカンのメッカの感がある。難易度と距離に応じていくつかのコースが整備されていると聞くし、実際にクロスカントリースキーヤーをかなり多く見かける。車のウィンドウ越しに歩くスキーヤーを見つけ、早く自分も歩きたいと心がうずく。

(足の裏に軽やかな雪の感触が伝わる。
誰も居ない林の中、あぁなんという
素晴らしいひとときなのだろう・・。)
(白い雪の林に黒く沢が流れていた。
触ると手が切れてしまいそうな、
張り詰めた自然だった。)
(ステップカットのテレマーク板は
歩行、滑走にと応用範囲は広そうだ。)

ほぼ満車の駐車場で板を履く。歩き主体の今回は皮のテレマークブーツで行こう。アストリアホテルのフロントにルートパンフレットがあったのでそれを持って出発だ。一旦北東に向かって登り、冬季閉鎖の山王林道を超えて林間を滑降し光徳牧場へおりるという周回ルート、パンフレット上には「5Kmコース」とあったルートを辿ってみよう。

駐車場の横からルートは始まっていた。パスカング走法の練習をしているスキーヤーがいるがコースはまっすぐに北東へ伸びている。シュプールを追って歩く。すぐにホテルの敷地を出てブナとミズナラの林の中に導かれた。昨晩から降っている雪のせいか、軽くてふかふかの雪の感触がスキーを通じて足裏に伝わってくる。気分は、最高だ。

やがてゆっくりとコースは上り始める。左手に山王林道の雪に半ば埋もれたゲートを見るころ、板のステップカットでは耐えられない急な坂となり、逆ハの字で登っていく。体力の要る登りで、余り基礎体力に自信のない自分には辛いコースだ。がそれもわずかで、山王林道をカーブミラーの箇所で横切りほぼ平坦に林の中に一条のシュプールが伸びていた。

ゆるやかに下る。テレマーク姿勢を試みるが足元がぐらぐらだ。やはり昨日のプラブーツのようにはいかない。革靴は軽くて歩きやすいのだが、ターンはやはり辛い。いや、自分の技術力を棚に上げているだけの話だ・・。

ボーゲンで滑り降りると再び歩きが続く。先人のシュプールは一条のみで、今日はまだこのルートをあまり滑っている人は居ないのだろう。シュプールを離れ自分で木々の間を歩いてみる。足元は相変わらず軽い雪で、歩みを止めるとさらさらと降る雪以外はなにもない、まったくの静寂そのもので、自分の心までが軽くなっていくような気がする。足裏に伝わる雪の感触も素晴らしい。

(スキーのルート図。GPS
データをカシミール3Dで
ダウンロードし、付属の
地形図に展開したもの)


再び登りがあり辛い逆ハの字となった。横向きの階段登高も組み合わせて登る。平原が目の前に現れてその中をシュッシュと滑るように歩く。向こうからスノーシューをつけたハイカ−がやってきた。小雪降る雪の林で、お互いに笑みが漏れた。静寂のさなか、心は軽いのだ。

ゆるやかな下りが続き相変わらず危なかしい下降をつづける。昨日のテレマークターンなどとても出来ない。ぐらつくボーゲンとキックターンを交えて下りていく。林を抜けると前方に柵と広大な雪原が見えた。光徳牧場だ。右手に沢が近づく。真っ白な雪の野の中を走る沢の黒さが目に付く。流れる水はこの野山に降った雨や積もった雪が生んだ純度の高い自然だ。触ると手が切れてしまいそうなほど張り詰めた透明感が、この水にはあった。

牧場の柵の中で数人のクロスカントリースキーヤーが歩行練習をしていた。柵に沿ってゆっくり歩き、車道に出て駐車場だった。

* * * *

湯元スキー場に戻る。430MHzで家内と連絡をとりながら混雑の食堂で無事合流。家族向けのスキー場らしく値段も設備も昔ながらの食堂が自分には嬉しい。午後はプラブーツに再び履き替える。テレマークターンは昨日同様に、それらしく出来る。嬉しい。今度はゲレンデではなく実際のバックカントリーで使ってみたい。これで歩行感覚が皮に近ければ、自分にも十分使えるだろう。

午前中に入れたスキースクールの成果でボーゲンがなんとか出来るようになった二女。長女もすっかりボーゲンをマスターしたようだ。家族でリフト終了時間までたっぷりと滑り、温泉で暖まってから家路に着いた。

自分も家族も十分に楽しんだ。半日だけ自分の好き勝手にさせてもらったが、密度の高い数時間だった。楽しかったが、もっと楽しみたいという貪欲な遊びへの渇望が強い。次はどこへ行こうか、ゲレンデで皆で楽しむのも、バックカントリーへ繰り出すのも、楽しみで仕方がない。冬があと数ヶ月しかない、という事がちょと口惜しくすら思えるこの二日間だった。

(終わり)


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