夏草わけて低山歩き - 丹沢前衛・華厳山

(2002/7/28、神奈川県愛甲郡清川村)


7月は梅雨があったり夏休みや出張の関係などで週末の殆どが他の予定で埋まってしまい、危うく「山無し月」になりそうであった。これはまずい、と7月の最後の日曜日に時差ぼけの残る体で無理やり車を丹沢方面に走らせた。梅雨も明けて毎日溶けそうな日が続いている。こんな時期こそ本当は遠出をして高い山で爽快感を味わいたいのであるが、そんな訳で時間も余裕も無く、近場の簡単に登れる所でお茶を濁そうと考えた。

丹沢前衛の仏果山-経ケ岳-華厳山と続く前衛山脈の中で華厳山は昨年の今ごろにやはり登ろうとしたが、山麓からの登り口がどうしても分からずに諦めた事もあり再訪を期していた。2.5万の1図をじっくり見ても山麓のゴルフ場のどこかにあるはずの登り口がどうしても見つからずに、それらしい箇所にムッと生い茂る深い夏草を前に、藪漕ぎの戦意もなく諦めたのである。その後この山からよく50MHzで運用しているJH1QZW局から、簡単にこの山に登る「裏道」を聞く機会を得た。今日はそれにトライするつもりなのだが、もっともそれとてこの季節は夏草の中の藪漕ぎだろうが、距離が短くて何とかなるのではないか、と目論んだ。その裏道とは、経ケ岳‐華厳山の稜線の丁度西を通る法論堂林道の途中から、直接経ケ岳‐華厳山の間の鞍部にむけて直登するもので、その区間にはそれなりの踏み跡があるという事であった。ただし、やはりこの時期は草藪がひどいだろうし、本当にその踏みこむ箇所を正しく見つけられるか、がネックになりそうだ。

(カーブミラーのある箇所が目印。ガードレールの左横
から藪を分けて暗い沢に踏み込んだ。)
(踏み込んだ谷の中は思いのほかに明るい。が重たい
湿気が支配する。左手に延びる沢を横目に上部の明るさ
につられ右手の山肌にそって登った。踏跡は明瞭でなく
読図と勘が必要だ。

煤ケ谷方面から法論堂林道に入る。地形図上海抜400m地点で林道が大きく北西に90度向きを変える箇所が、丁度経ケ岳‐華厳山の間の最低鞍部への最も短い距離になる。その箇所から遮二無二標高差約100mを詰めて、稜線に上がるというのがQZW局から指南されたコースである。それらしい箇所はないか、道を探しながらゆっくりと林道を登っていく。ともすれば車の速度は速く、歩けば見つかる物も見逃してしまうことが多い。それらしい箇所のあたりをつけるが、確信は無い。数メートルはなれて2箇所、谷筋があり、そのどちらかが正しいのだろうが、どちらも入り口は草いきれがひどく踏みこむことを逡巡するには充分だ。地形図を見るが、悪い事に丁度経ケ岳‐華厳山の間の最低鞍部のあたりが、2枚の地形図(2.5万分の1図「厚木」と「上溝」)の切れ目に当り、2枚の個々の地形図をつなげて見るが、見ずらくなかなかどちらが正しいかの見当がつきかねた。

地図を見る。下側(南側)のガードレールから入る谷は直接華厳山の頂上に向けて北西から突き上げている谷であると判断し、最終的に上側(北側)のガードレール横からその奥に続く谷に踏みこむのが良かろう、と考える。踏みこむのに適当な場所を探す。生い茂る深い夏草の奥に暗い沢がどんよりと見えて不気味でもある。とその時、ガードレールの左横に小さなカーブミラーが立っているのに気がついた。同時にQZW局が「カーブミラーのあるところから入る・・・」と言われていたようなかすかな記憶が思い出された。やはりここで良いはずだ。

勇を鼓して草いきれに踏みこむ。昨晩に雨でもあったのか露に濡れる下草にいきなりズボンが濡れる。蜘蛛の巣がたっぷり草木にかかっており、そこに雨露がついてなかなか不気味でもある。数メートル進むともうそこは暗い谷の中で、明の林道から暗の谷へと明暗の差に目がすぐには馴れてこない。振りかえると草藪の向こうに林道がぽっかりと明るく見えて、そこが随分と遠くの世界のような気がした。

谷は水は流れていないがそれらしい踏み跡もあり、入り口で躊躇ったほど悪い道でもなさそうだ。しかし、この湿気はなんだろう・・・陽の指しこまない谷はじめーっとして、むっとする湿気にたちどころに汗が吹き出てきた。すぐに二俣とは言わないが谷の本流が左手に向け曲がっていき、右手にはやや明るい斜面の広がりを予想させるような地形となった。手にした2枚の地形図からはこの谷をずっとつめていくのがが正しいようにも思えるが、見上げるその上部はかなり急で険悪そうでもある。それになんとなくか細い踏み跡は右手の斜面に逃げているような気がする。こちらの方向は上部が明るく希望が持てそうでもある。考えて右手に進む。あるいはこの踏み跡は正面のガレ沢を高巻いて登っていくのかもしれない・・。まぁともかく登る。湿気を帯びた土は踏むとズルッと崩れてしまい、なかなか登りにくい。

意に反してか細い踏み跡はますます沢から離れて右手の斜面をゆっくりと登っていくようだ。しばらく様子を見ようと進んでみるとすぐに鹿柵が行く手を遮っている。が良く見るとやや右手に錆びて開いたままになった扉があるので、どうやらこの道であっている様子だ。柵をくぐるとか細い踏み跡が更に不明瞭となった。というよりも、下草と覆い被さる藪の勢力がにわかに濃くなり完全に地面を隠している。湿気が一段と激しく、雨露に濡れた草と容赦無い蜘蛛の糸が不気味にきらきら光る。真っ白な不気味なキノコがそこそこに生えており、なんとなくジャングルの中、といった感じすらする。とたんに湿気と不安で、汗とも冷や汗ともあぶら汗ともつかぬものがカッと吹き出てきた。

さて、どう行こうか・・・。ちょっと途方にくれる。身をかがめたり伸ばしたりしてそれらしい踏み跡を目で追うが確信の持てる物はない。とにかく標高差は知れているのでとにかくここを突破すればよいのだ。草を払い枝をくぐりながら高度を上げて行く。しかしなんという湿気だろう・・、それに雨に濡れた草藪の持つ独特の生臭さが鼻をついて正直早くこの不気味な箇所を抜け出したい。変わり映えのしない藪を適当に進んでいくと前方に何か見える。汗をぬぐってよく見ると再び鹿柵だ。先ほどと同様に倒壊しかけた扉を抜けるとその先は比較的踏み跡が明瞭となり、と同時にぼんやりとしたガスの中の上方が俄かに明るく稜線が近いようだ。勇気づいて雷光型に斜面を登って行くとあっさりと良く踏まれた尾根路に出た。まさしく上りついた箇所の左右とも上り坂であり、ここが経ケ岳と華厳山の丁度真中の最低鞍部であることは明白だった。

(登りついた山頂はひと気も無かった。)

時間にして見るとわずか15分程度の藪歩きではあったが上手く目指した箇所にピンポイントで登れたのは正直うれしい。が、なによりもあの不気味な藪から当面おさらばなのでほっとする。ここから先はうその様に明快な踏み後に導かれる。登りはややきついが標高差120mも登ると傾斜が緩みもうそこは山頂の一角だった。指導標2本の立つ、ブッシュに囲まれた冴えない山頂である。ザックを下ろすと汗がモワーッと出てきて、それを嗅ぎ付けてか、ハエやらブヨやらが一斉に自分の周りにたかり始めた。

余りに飛びまわる虫を目の前にして腰を落ち着けてアマチュア無線運用をしようと言う気が消えてしまう。が数局でも良いので運用しなくては・・・。デルタループを設営して50MHzに出る。相変わらずぶんぶん飛びまわり首筋や腕などにとまるので、仕方なくゴアのレインウェアを羽織っての運用となった。いくらゴアとはいえ、かなり蒸し暑い。が、そこは標高もありガスで日光も遮られているのでじきに落ち着いて来た。ローカルの7M1XPRやJG1OPH、地元厚木の7L4PLA等とつながる。何とPLA局は今回自分の通ったコースで何度か華厳山に来たことがあるとのことで、山頂の様子にも詳しかった。凍らせて持って来た缶ビールがころよく溶けており冷たくて美味しい。虫もやがて気にならなくなった。交信中に突然電源が落ちてしまう。どうも電池切れらしい。確かこの鉛電池は充電してきたはずだが、もしかしたらもう寿命かもしれない。なんとか交信を終え、今度は出力を下げて電信でCQを出してみる。「ツート・ツート・ツー・ツー・ト・ツー」と打っているとやはり電源が落ちてしまった。諦めて装備を撤収する。

このまま高取山まで尾根通しで更に進んでも良いが、高取山はそれなりにまた道を探しながら下から登るという事も可能であり、であれば次回のお楽しみとしてとっておく事にした。それに正直こんな時期に夏草生い茂る低山を歩いても面白く無いものだ・・。

下山はあっけなく、最低鞍部におりつく。そのまま左手の斜面におりていくとすぐに鹿柵だ。がそこをくぐると再び道の不明瞭な状態となった。下から見あげるコース選びと上から見下ろすコース選びではやはり見える物が違う。何度か行きつ戻りつをしながら藪を分けていくと以外にあっけなく鹿柵に行き当たった。もう安心だ。ガレ沢に出て藪の向こう前方にぽっかりと明るい下界が「帰っておいでよ」と手招きしている。つられて草を分けて「ポン」と飛びでて夏の陽に真っ白に輝く林道だった。車に戻り汗を拭き乾いたTシャツに着替えると腕に何かがついている。払いのけるとヒルだった。例のガレ沢あたりでついたのだろうか、まだ血は吸っていない様であったがなんともおぞましい姿・・・。

まぁそれにしても、山歩きとも言えないような短時間の「散歩」であったが、それなりに山の感触を味わえたので良しとしよう・・。

(コースタイム:林道・カーブミラー9:50-最初の鹿柵10:02-次の鹿柵10:08-稜線(経ケ岳と華厳山の鞍部)10:10-華厳山10:30/11:55-鞍部12:10-林道12:23)


アマチュア無線運用の記録

華厳山 602m 神奈川県愛甲郡清川村
50MHzSSB運用 YAESU FT817 + 釣竿デルタループ、13局交信


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