鳴虫山で疲れ果てる・・・

(2001/3/24、栃木県日光市)


(神ノ主山から女峰山を望む。いつか歩きたい山、気高く、遠い存在。)
ディジタルカメラKODAK DC3800

日光市の鳴虫山は 日光駅から直接アプローチが出来る歩程の短い山でちょっとした山歩きに向いていると言える。それでいて自分は北関東の山は全く知らないので入門には手ごろだろう、と考えた。

朝5:43の始発バスを使い最寄のJR京浜東北線の鶴見駅に出て、上野経由で浅草に着いたのは6:50だった。予定通り7:00発の快速東武日光・会津田島行きの快速に間にあった。前2両は日光行きだが後ろ4両は野岩鉄道に入り県境を越えて福島県の懐深くまで走っていくというのだから私鉄としては驚くべき長距離便だ。東武日光までは2時間強の長旅となるがクロスシートにトイレ付きの車両である。ロングシートの通勤型車両を想像していたのでこれは嬉しい。東武本線に乗るのは10年以上ぶりか、新型車両に進行する複々線化、安い運賃といいなかなか頑張っている。

知らない土地を走る知らない路線には自ずとわずかながらも旅情がわく。利根川を渡ると堤防越しに渡良瀬遊水池に沿って走っているようだった。名物の熱気球が幾つものんびりと浮かんでいる。あの遊水地の中をバイクで走ったのはもう10年は昔の話だろう・・。

関東平野を快調に飛ばし9:20には日光に着いてしまった。自宅から3時間半。通いなれた山梨県を想定すれば3時間半あれば自宅からちょうど富士急行の河口湖駅あたりか・・、横浜から遠いというイメージに反して栃木は決して遠くではない。

* * * *

東武日光駅から商店街を15分程度歩くと消防署がありそこを左折する。橋を渡り登山道へ。雪を想像して一応スパッツや軽アイゼンなども持ってきたが雪はまったく見えない。つづらおれで高度を稼ぎ日光の市街地がみるみるうちに箱庭のように小さくなった。

神ノ主山で一息入れる。山ランポイントなので430MHzをワッチするが関東平野へのロケは悪くモービルしか入ってこない。諦めて先を進む。しかし男体山から女峰山への残雪の稜線は如何にも気高く、遠い存在のようにも見える。いつの日か歩いてみたいのだが・・。

断続的に見上げるような急登が出るが、小さな木の根っこが網の目ように張り出ており足がかりが多く登りやすい。

わずかに残る冬の名残をサクサク踏みながら登りついた鳴虫山は展望台の工事中のようで資材などが置かれてあり感興をそぐ。大きな木の幹に安蘇の根本山や熊鷹山で見かけたものと同じ字体の山名標識が打ち付けてある。もしやと思い裏を見ると「K.A」と書かれていた。「山ラン」メンバー、K.Aさんの手による手製標識だ。
(わずかに残る冬の名残も柔らかくなった
空気に触れ日に日に小さくなっていく。
春が足音を高めてやってくる。
山頂まであとわずかだ・・。)

50MHz運用は苦戦する。釣竿デルタループでは神奈川あたりが55だ。JK1RGA・河野さんが自宅から呼んでくれて嬉しい。「日光にしては弱いね」「苦戦してます・・」まぁ標高1103m、日光市としてはロケの悪いほうだろう。

憾満ケ淵を目指す。整備中の急な石段で鳴虫山山頂からおりるとしばらくは左右を分かつやや狭い尾根道となる。なんどかアップダウンをこなし、急なのぼりで小ピークに登りついた。とここで北に向かう太い踏み跡とやや西よりに降りる下りに2分していた。ここが地形図上の1084mピークだろうか。であればここから北西に下りていくのが正しい道だろう。しかもこの下りには赤テープが何重にも巻かれている。腕時計の高度計も1080mを示している。であればここから左に下りるのが正しいのだろう。前方に進む道はなんだろう?多分地形図にない新しいコースなのだろう・・。

ややザレ気味の急な下り坂だ。潅木の枝には褪せた白テープや青テープなどが巻かれている。不明瞭ながら靴跡も残っているように見える。しかしさっきまでのハイウェイのような踏み跡とはどうも様子が違う。ミスってしまったか・・。いやいや自分なりに地図を読んだ末の結論だ・・。更に進む。100m以上は降りただろうか、踏み跡はさらに小さくなり行く先の見えないような急な下りがこの先に続いていた。うすうす感じていたがどうやら正しくない。そうだ、JH1HRT・津村さんのホームページからダウンロードしていた鳴虫山の山行記を印字して持ってきていたのだ。開いて見ると開いて見ると「15分ほどで「合峰」と名前のついた1084mについたが、そこには石の祠があり・・・」とある。そんなものは見かけなかった。よもや見落とすはずもない。畜生。しかしこのまま行っても日光から鹿沼へ抜ける車道が前方にあるのでそこには出るだろう。しかしいやな感じだ。ハマるより戻ろう・・。

登り返しは体力もさることながら精神的な疲労が多い。なんで、という後悔。うかつさへの恨み。目の前の坂がイヤになるほどの急な壁に思えてしまう。しかしなぜ津村さんの記事にはこの分岐が書かれていなかったのだろう。そうか、津村さんが歩かれた時期は雪の豊富だった2月。積雪の稜線であればこの道に踏み跡がないのも肯ける。踏み跡が見えなければテープはさておきこの道はさして注目に値しない。むしろ素通りするのが普通だろう・・。

やっとの思いで分岐に到着。ザックを放り投げへたり込む。しばらくしてもう一方の踏み跡を辿ってみるとものの2分も歩かぬうちに津村さんの書かれていた通り「合峰」の山名標識と石祠があった。こここそが1084mピークだ。

何処を間違えたのか・・。成るほど、地形図の1084m峰の7,80m手前からほぼ西に向かう尾根が分岐している。コイツを下りていたのだ。支尾根とはとても言えぬかなり立派な枝尾根だ。「稜線上の尾根の分岐が始まる地点は通常小ピークとなっていることが多い」、とは本で読んだ教えだが、まさにそのトリックにひっかかってしまった訳だ。迷い込んだのではなく、迷った上に判断して選んだ道だったのだからタチが悪い。あのままあの尾根を下りていけば確かに林道には出るだろうが、その南の969mの独立峰から北上してくる尾根との合流地点が複雑そうで、かなりの焦燥を呼んだことだろう。

ため息をはいて1084mピークを後に急坂を下りる。精神的ショックで立ち直れず目の前の急な下りが怖かった。真新しい補助ロープにすがるように下りる。雪溶けの土が重く靴のグリップが失われる。ひざがガクガク震えている。

しばらく下りると925m峰への登りに転じた。実はさっきの枝尾根の下りに前方に独立峰の高まりを確認したことも道が正しいだろうという誤認の原因だったが、今思えばそれは925mではなくまったく違う969m峰だったのだ・・。
(国土地理院ホームページよりダウンロードした地図)

登りつき「独標」の看板を確認して下りる。相変わらず滑りやすい道だが、たんたんと下る。いや頭の中は真っ白で、ただ足が出ているだけだ。林道に合流してすぐに再び樹林の中にコースは分岐する。平坦となり日光宇都宮道路の脇の発電所に出た。

* * * *

手ごろなハイキングコースと思っていた鳴虫山だがとんでもなかった!短い行程の簡単な山となめてかかってはいけない。それに本を読み地形図の読図についてもわずかながらもそれなりの心づもりを持っていたつもりだったが、結局何の役にも立たなかった。決して複雑な地形ではなかった。もう一方の道は一体何なのかもう少し探求すればどおってことはなかったのだ。それに地形図上に現れないような小ピークも稜線から派生する枝尾根をたどればおのずとその存在は知れようものだった。しかしあの尾根の急な下りに頻繁に現れた古びたテープと僅かに見られるそれらしい足跡は一体なんだったのだろう。明らかにあの道を辿っても下山は出来ただろう。ただそこまでの心の準備がなかった・・。

単に100メートル近い登り返しには現せられない疲労感。例え稜線に無事戻れると分かっていても「道を間違えてそのために戻る」という事自体が精神的な焦りを生み必要以上に体力を消耗させるのかもしれなかった・・。

身も心も疲れきり、棒のようになった足を引きずりながら東武日光駅までの40分は、長かった。

(コースタイム:東武日光駅9:30-登山口9:50-神ノ主山10:25/40-鳴虫山・アマチュア無線11:45/13:25-(道を間違える)-14:12合峰-14:40独標-15:20発電所-16:00東武日光駅)


アマチュア無線運用の記録
鳴虫山 1103.5m
栃木県日光市
50MHzSSB運用、6局交信、最長距離:神奈川県愛甲郡
自作4WSSB/CWトランシーバ+釣竿デルタループアンテナ
日光市で標高1103mとはロケのいいほうではないだろう。もう少しいいアンテナを用意すれば違うだろうが、CQを出しても空振りが多かった。

Copyright:7M3LKFY.Zushi2001/3/25


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