御荷鉾高原で会いましょう

(2001/11/10、11、群馬県多野郡万場町)


山歩きとアマチュア無線を始めてからしばらくは特にこれと言った会やグループに縁の無かった自分であったが、あるときローカル局(アマチュア無線仲間)に紹介され、山岳移動同人会「山と無線」を知る事となった。同会は会員の投稿によって成立する年三回の同人誌の発行が会の主な活動内容であり山歩きとアマチュア無線運用、そしてそれらの山行記や無線運用記を文章に書く・読むという集いであったから、早速自分も仲間入りをさせてもらった。さてそんな同グループの恒例活動行事といえば同人詩発行以外には年一回のハムフェアへのブース出展それにやはり年一回のフェスティバルがあげられよう。

フェスティバルは泊りがけで行われる会員同士の会合で、その前日や翌日には各自近辺の山歩き・当然アマチュア無線運用も兼ねる、という、まぁ言ってみれば同じ趣味をもつ仲間が一堂に会して一夜を過ごすというまさに年一度の会員の「お祭り」で、自分も今までも参加してみたかった。が予定があわなかったり場所が遠すぎたりしてなかなか参加する機会に恵まれなかった。今年は出張で楽しみにしていたハムフェアに参加できなかったことも手伝って、その反動かなんとしてでも秋に行われるであろうフェスティバルに参加しようと言う思いが強かった。ハムフェアの最大の楽しみといえばもちろんあの独特の雑多なジャンク市の雰囲気もさることながら、やはり仲間と会い山や無線の話で盛り上がれることだろう。年一回の楽しい会合ともいえる。であれば泊まり掛けで行われるフェスティバルは会員とのより深い接し方が出来ようというものだ。今年こそ「お祭り」に出席しようと考えた。

今回は毎年幹事をやっていただいていた「山と無線」編集長の7K1FAT・野田さんが忙しいということもあり、代わりにJI1TLL・須崎さん、JQ1TQP・田中さん、JQ1HRA・斉藤さんの3人のOMと、それに自分も仲間に加えていただいた計4人で幹事をすることになった。

今までのようなキャンプ的な要素をなくし今回は”手離れの良い”公共の宿を使うことにして、行く先は町営の宿がある群馬県多野郡の御荷鉾高原とした。フェスティバルのコンセプト創出が須崎さん、宿との連絡・会計が田中さん・斉藤さん、そして自分は案内係といった業務分担。Eメールを駆使して入念な打ち合わせを行う。又須崎さんと自分は家が近いので、無線でのライブな打ち合わせも可能だった。幹事グループとしての自分の分担はおもに全国に散らばる「山と無線」のメンバーに出欠を問うというもので、野田さんから会員リストを頂き、案内状を発送する。これがなかなか大変な作業で、120枚以上の葉書の作成・印刷・発送、そして出欠確認・・。今までの野田さんの御苦労が、ほんの僅かではあるだろうが、偲ばれた。

準備は整い、あとは決行のみ。御荷鉾高原で、会いましょう・・

* * * *
(冷たいガスの中を、しっとりとした落ち葉を踏む。赤久縄山は
静かだった。)
Nikon FG20 Zoom Nikkor 35-70mm F4.5AE 
(雨に濡れるオドケ山。静かで
好ましい佇まいだった)

当日は期待に反して雨模様の朝だった。が予定通り4:30に「山と無線」会員であり非常にお世話になっているローカル仲間のJK1RGA・河野さんと合流し、一路国道16号線を北上した。ワイパーがせわしなく動くが、今日のメンバー一同の熱い思いで雨雲も飛んでくれよう。

御荷鉾高原の属する「西上州」周辺の山は自分には未開そのもので、幾つか今日・明日の目標の山が挙げられていた。が、なにせ天候がこうなので出たとこ勝負でいこうという考えだ。国道299号の正丸峠を越え秩父の市街地を抜けると、西上州も俄かに近くなる。志賀坂峠の二子山が霧の中に圧倒的なヴォリュームでその奇怪な岩峰を誇示しており、未だ知らぬその山頂に畏れと同時に憧れがわく。

峠を越えるともはや群馬県で御荷鉾高原は谷一つ向こうの距離だ。結局天候も優れないのでお手軽に済みかつ宿にも近い御荷鉾スーパー林道沿いの山に行こうと決定。御荷鉾地域ではもっとも高いピークでありかつ一等三角点もある赤久縄山をめざす。海抜1522mであるが、林道が直下を走っているのでわけなく登れる。駐車場近くなると後ろから一台の四駈が追いついてきた。田中さん・斉藤さんコンビだ。「山と無線」道を極めた感のある彼ら二人のベテランには風格が漂う。年齢的には自分の父親のやや下の世代なのだが、その山と無線にかける情熱とアクティブさは全く自分など比較の対象にもならない。

田中・斉藤両OMが傘を差して登り始めたのを追うように、自分と河野さんも傘を片手に登山道にはいった。濃いガスがかかり、しっとりとした落ち葉を踏む山は幻想的な眺めで、なかなか悪くない。霧の粒子が肌にまとわりつく感覚は山に同化したかのような気持ちにさせてくれる。赤久縄の山頂ではすでに田中・斉藤さんコンビが50MHzと144MHzのアンテナを設営しており、じきに運用を開始された。それが終わり自分もアンテナをそのまま借りて自作の50MHzトランシーバで運用する。雪が雨に混じり傘をさしてゴアを羽織っての運用。酔狂としか言いようが無いだろうが幸いにも皆ここにいるのは既に酔狂な連中なので、この光景が変だとも誰も思わない。山深い西上州ながら59-59で関東平野と交信できる。御荷鉾エリアはロケが良いのだろう。

車に戻り河野さんと地図を眺める。今日はこんな天気なので御荷鉾スーパー林道沿いの山を攻めていこうという作戦だ。赤久縄山の東に「オドケ山(1191m)」が載っている。次はこれに登ろう。

登り口は小さな路肩と立派な看板がありそのまま遊歩道のような山道をたどった。傘をさしながら登る山。雨に濡れる紅葉が暗く鈍い明かりを放つ。大変美しい。カラリとした秋に日に輝く紅葉とはまったく異質の、重厚な美しさがある。しっとりとした輝きがある。やや荒れたコースが続く。こんな忘れ去られたような寂峰を踏む人も少ないのだろう。山頂には石祠2つ。それに錆びた空き缶。滴る雨音が木立を濡らし、落ち葉を湿らす音しか聞こえない。とても良い雰囲気だ。430MHzのFMハンディ機で吾妻郡移動と交信をして、雨に濡れる静寂のピークを後にした。さぁ、天候も回復しないし、今日はこんなものか。そう河野さんと話し、今日の宿である御荷鉾高原荘に向かった。

* * * *

全国に120人以上いる「山と無線」の会員の中から結局参加となったのは18名。もちろん知っている人も、初めて会う人もいる。素晴らしい温泉につかり、夕刻から大部屋で自己紹介が始まった。山への想い、無線への想いなどが18人の口からそれぞれ語られる。山とはいえ里に密着した低山もあれば地形図とコンパスで踏み跡を探さねばならない藪山もある。高尾山クラスもあれば3000m級もある。色々登る人があいればテーマをもって登る人もいる。無線とはいえ電離層反射を狙うHFもあれば地上波が主流のVHFやUFHもある。さらにマイクロウェーブもある。それぞれのバンドにそれぞれ凝っている人たちがいる。それぞれのノウハウがある。楽しさのバリエーションは全く無限といえ、18人様々の世界が披露される。興味の尽きぬ時間だ・・。

夕食の楽しさも、部屋にこもって一升瓶の現れる二次会の楽しみも言わずもがなである。楽しい一夜は刻々と過ぎていった。

* * * *

(東御荷鉾山にて。
7K1CVP・左とJK1RGA・右)

昨日の雨が嘘のように素晴らしい天気の朝を迎えた。朝一番に宿のすぐ裏にある「桐ノ城山(1040m)」に登ろうという計画が同室の6人の間で話されていた。朝食は8時からなので「アサメシ前の一仕事」だ。

登山口からほぼ平坦のやや荒れた道を踏み、いったん高度を下げ登り返すと静かな山頂が待っていた。特にこれといったピークでもない。ただ樹林越しに眺めた奥秩父の山並みの勇壮さに心を奪われた。

一山終えたせいもあろうか大変に美味しい朝食を終え、宿の前で記念撮影をしてから解散となった。

河野さんと一緒に東と西の御荷鉾山にそれぞれ登ることにする。まずは東御荷鉾山(1246m)へ。スーパー林道の路肩に駐車して上り始める。植林帯を抜けやや主尾根を南側に巻きながら進み、尾根に戻ってしばらくで山頂だ。祠の立つ山頂からは展望がすこぶる良い。50メガを設営して運用をしていると昨晩同室だった7K1CVP・鈴木さんが登ってきた。29MHzのFMを運用するという。未知のバンドだけにその設備に興味が尽きない。テレビのフィーダー線を使ったJ型アンテナの一種だろうか、先端を適当な枝に引っ掛けただけでとても簡単そうだ。

山頂が混み始めたので鈴木さんと別れ、西御荷鉾山(1286m)に向かう。途中JI1TLL・須崎さん、JO1FFY・小林さんコンビとすれ違う。彼らは先に西御荷鉾に登ったようだった。手軽に登れることもあって今朝は両御荷鉾山に昨晩の面子の殆どが登っているのではないだろうか。

駐車場から山頂までは直登である。樹林をぬけるとカヤトの中のつづら折れで結構つらい。登りついた山頂は東御荷鉾山同様に眺めが素晴らしいが、こちらはカヤトの原が広がり雰囲気がずいぶん和やかだ。そんな山頂のど真ん中で5エレメントの大きな八木アンテナを上げているのは、ご存知JR1NNL・後藤さんだ。後藤さんの運用が終わったのを機に、運用をさせてもらう。5エレメントといった多素子のビームアンテナを使うのも初めてならば、山の上から50Wの出力で運用するのも初めてだ。自分のいつもの装備とはバズーカ砲と水鉄砲位の違いがある。興味津々であり同時にヘマせぬか、不安でもある。

ガンガンとパイルとなる。そのリアクションにややたじろいだがだんだん慣れてきた。後藤さんはいつもこんな「快感」を味わっているのだろうか・・。30分程度の運用で15局近くと交信する。この季節にしてはかなりのハイペースで、やはり装備の違いは大きいと納得する。

運用を終えて撤収。いつもこのスタイルの後藤さんだけに撤収もなれたもので、アンテナもあっけなく分解されどんどん収納されていくその様に呆気にとられる。随分と見えぬノウハウが随所に投入されているのだと思う。

* * * *

後藤さんの車と河野さんを乗せた自分の車の2台で関越自動車道経由で帰途についた。430MHzをスイープすると先ほど会った須崎さんが児玉郡の城峰山から波を出していた。須崎さん・小林さんは仕上げにもう一山行かれたのか・・。

関越道は順調に流れて都心がぐいぐい近づいてくる。自分もその運営のほんの一端を担がせてもらった「山と無線フェスティバル」だが楽しいひと時を過ごすことが出来て、大成功ではなかっただろうか・・。山歩きとアマチュア無線というこだわりをもった連中が一堂に会し、お互いを刺激しあい、又楽しい話題に明け暮れて、翌日はまた思い思いの山に散らばっていく。こんな楽しい年一回の、まさにフェスティバル。今度これだけの面子は何時何処で会うのだろう・・。来年も、その次も、ぜひ火を消すことなく続けていければ、と考えた。

(終わり)

アマチュア無線運用の記録

赤久縄山 (1522m) 群馬県藤岡市 50MHzSSB運用 自作CW/SSB機(4W)+ダイポール
オドケ山 (1191m) 群馬県藤岡市 430MHzFM運用 STANDARD C710+ホイップ
桐ノ城山 (1040m) 群馬県多野郡万場町 430MHzFM運用 STANDARD C710+ホイップ
東御荷鉾山 (1246m) 群馬県多野郡万場町 50MHzSSB運用 自作CW/SSB機(4W)+ダイポール
西御荷鉾山 (1286m) 群馬県多野郡万場町 50MHzSSB運用 YAESU FT690mkII+リニアアンプ+5エレF9FT


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