近頃尾国でコケるモノ 第100回 by 山田 卓



 クラークの「3001年」が出た。特に何も言うことはないが、やっぱり昔のクラークは良かったなあ。読み終えた後にこう、なんて言うのかなあ、ふつふつと希望みたいなものが湧き上がってきたよなあ。ふう。

 前回の原稿を書き終えてからはや半年以上が過ぎているわけだが、もちろんその間にコケた物はいろいろとあったわけで、新しいP6マシンがまともに起動しなくなってマザーボードを交換したとか、P5マシンの電源ユニットがプッツンしたとか、4倍速CD-ROMドライブがいつのまにか標準速ドライブ程度のパフォーマンスしか出なくなっていたとか、OpenGLアクセラレータを新婚旅行直前に返品交換する羽目になったとか、まあネタにはまるで困っていないのだが、自分自身振り返ってみても今回はこれにまさる話はないと思う。
 というわけで、今回のお題は「近頃尾国でコケた人」である。
 前回もちょろっと書いたが、去る4月にぼくはようやくというかとうとうというか、まあ結婚をした。入籍を4/18、挙式・披露宴を4/19に済ませて、4月下旬はまるまる新婚旅行に費やし、スペインはアンダルシアの突き抜けるような青空と眩いばかりの白い町並みを満喫して来たのだが、話の本題である事件は帰国後わずか2・3日にして起こったのである。その頃はかみさんの荷物やら旅行の荷物やらで当然のことながら我が家はゴッチャゴチャで、その日も(ちょうど仕事が休みだったこともあり)まる一日家の片付けについやして、そろそろ寝ようかなと思ったときに、なんだか腰が痛むのに気づいたのである。
 実のところ、これまでに何度かいわゆるぎっくり腰というのはやっていたのだが、その時はいつも腰に一瞬電気が流れるような衝撃が走ったものだが、今回はそういう覚えがなったし、ちょうど旅行中も時々腰が少し痛むことがあった(へんな想像をしてはいけない)ので、ちょっと疲れがたまったのかなくらいに考え、その後しばらくしても痛みはそれほどひどくならなかったこともあって、とりあえずその日はそのまま寝てしまった。翌日になると痛みはややひどくなったものの、立ったり座ったりできないわけではなかったので、とりあえず仕事には出ることにした。ちょうどゴールデンウィークが重なっていたこともあり、休むに休めなかったというのもあったが、過去の経験からこれくらいならこの後の休みの間おとなしくしてれば治るだろうという読みもあった。ところが、ゴールデンウィークが明けても一向に痛みは治まらず、むしろひどくなってしまったのである。
 仕方がないので病院に行ったところ、医者は「前にやったときにX線では何もでなかったですから、今回はMRIにしてみますか」ときた。しかしまだこの時になってもぼくは「おお、MRIは初めてだなあ」などととお間抜けにもわくわくしていたのである。
 一週間後、その病院でMRIを受けたのだが、ほとんど音もなくて本人も気がつかないうちに撮影は終わっちゃうんだろうなあとか思っていたらさにあらず、とにかくうるさいのだ。まずベッドに横たわると、そのベッドごとでっかい金属のチューブというかトンネルみたいなもののの中に入れられる。中はほとんど真っ暗だ。はじめは音といってもまるで真空ポンプが回ってるみたいな「ポコンポコン」という音しかしていなかったのだが、やがて突然外からハンマーで思いっきりぶん殴っているみたいな「ドガガガガガガガガガガガガガガッンッ」というけたたましい音がするのだ。はっきり言って、これは恐い。「もしかしてこれ壊れてるんじゃないのか」とか「人体にはまったく無害とか言ってるけど異常動作してたらただじゃ済まないよなあやっぱり」とか、考えなくてもいいことまで考えてしまう(余談だが体の中にマイクロチップを埋め込んだ人間とか出てくるようになったらまじでMRIは無害じゃないよなあ)。
 当然ながらそのけたたましい音は正常な動作音で、断層撮影は無事に終了したのだが、MRIで撮影された写真を見て、医者はぼくにこう宣告したのである。

 「椎間板ヘルニアだね」

 さすがにこの時は血の気が引いた。過去に何度かぎっくり腰をやっている関係で、椎間板ヘルニアについては人からいろいろおっかない話を聞いていたし、なにより長期入院とか手術とか手術が失敗して下半身不随とか言うことになったら結婚してまだ一ヶ月たってない妻があまりに不憫ではないか。
 しかしながら、さいわいにして椎間板ヘルニアとしてはまだ軽いもので、しばらく自宅で安静にして病院へリハビリに通えば良いとのことであったので胸をなで下ろした次第である。その後2ヶ月ほどは仕事を休んで、病院へリハビリに行くほかはほとんど寝たきりの毎日が続いた。途中くしゃみをしたはずみに(!)病状が悪化し背骨にブロック注射を打たれるというハプニングはあったものの、何とか無事職場復帰できたのだが、今にいたるも完治したとは言い難い状態が続いており、コルセットが手放せないありさまである(だいたい医者によれば一度なってしまった椎間板ヘルニアが治るということはなく、良くなっても痛むことがなくなるという程度らしい)。
 何故椎間板ヘルニアになったのかという原因であるが、要するに中年になって腹の周りに贅肉がついたのと日頃の運動不足からくる腹筋の衰えで下っ腹が前に出っ張り、そのため背骨の腰の部分、すなわち腰椎が前に引っ張られて弓上に湾曲し、結果として一番曲がったところの椎間板がつぶれてはみ出したということらしい。医者には体重を落として腹筋を鍛えろと言われている。
 「おれはまだまだだよ」なんて若ぶっていると、ある日突然ピシッとくるかもしれないので御用心御用心。ちなみにぼくを診てくれた医者も(だいたい年の頃は同じくらいだったが)、やはり椎間板ヘルニアで、曰く、「患者さんの診察をしていると、私のほうが悪いよなあと思うことがありますねえ」ですと。

 病気のことばっかり書いてても仕方ないので少しはPCまわりの話も書いて置こう。
 P6マシンを組み立てた当時、我が家にはP5マシンを組み立てたときに買ったNANAOの17インチモニターFlexScan53Tのほかに、台湾のADIというメーカーの15インチモニターがあったのだが、さすがに今時15インチモニターではしょぼいのでもう一台17インチモニター(やはりNANAOの56TSあたり)を買う予定であった。
 と、そんな折、NANAOの名古屋営業所の展示会を覗く機会があり、そこで同社のTFT液晶モニターE141Lを見たのである。解像度が1024×768ドットというのがややしょぼいが、表示される画質は横に同社のCRTモニターを並べて比べてもまったく遜色のない素晴らしいものであった。これを見るまでは液晶モニターなんぞ高いだけで省スペースのほかに能がなく画質はCRTの方が遥かに上と考えていたが、これならプロフェッショナルなグラフィックワークはいざ知らす通常の使用には十分だと思った。なにしろ、E141Lの使っている液晶パネルはSharp製なのだが、Sharpが同じ液晶を使って出している液晶モニターよりも明らかに画質が上なのだ。そして、何よりもやっぱかっこいいのである。デスクサイドにちょこんと乗った液晶モニター。なんともSF心をくすぐるアイテムではないか。
 といろいろ書いてきたが、実のところをいえばこのモニターの重量がたった5.5kgしかないというのがもっとも心ひかれたポイントであった。先にも書いたとおり椎間板ヘルニアになってしまったため、20kgもある17インチモニターなんぞとても持ち上げられないのだ。実売価格は約30万円だが、お腹と背中は交換不可能なので、思い切って買ってしまった。夏のボーナスはこれでパーである。
 E141Lの良いところはほかにもいくつかある。まず第一にアナログRGB対応だということである。確かにビデオメモリの内容をダイレクトに液晶モニターへ転送するデジタル転送の方が画質的には優れているのかもしれないが、現時点ではグラフィックスカードがモニター付属の専用ボードに限られてしまう。デジタル転送方式についてはLVDSとPaneLinkの2方式が有力とされているがまだ標準がなく、現在あるいは近い将来(少なくとも後2・3年といったとこか)において一般に販売されるグラフィックスカードにデジタルインターフェースが載ることはないんじゃないかと思う。逆にアナログRGBが無くなることは今世紀中には絶対にないであろう。要するに液晶モニターであってもアナログRGB対応の方が使い勝手は遥かに良いのだ(もちろん画質劣化がひどくなければの話だが)。
 第二に電源部にACアダプターを使っていないこと。液晶モニターでACアダプターを使っている機種は結構多く、おそらくはACアダプターを変えるだけでいろいろな国へ輸出できるからであろうが、なにがうざったいといってACアダプターほどうざったいものはない。E141Lはモニターを支える台座部分に電源部を内蔵しており、これによってうっとおしいACアダプターを使わないですむだけでなく、機体の重心を下げて安定性を大きくする効果も生んでいる。
 面白いのは、CRTモニターと違ってリフレッシュレートが60Hzでもまったくと言っていいほどちらつかないこと。目に優しいという点ではCRTよりも数段優れているようだ。
 ただ一点だけ悔しいのは、TFT液晶につきもののドット抜けである。たった1ピクセルしかなかったのだが、何と画面のほぼ真ん中に白いブリップが出るのだ。何でも出荷基準が1万分の1以下ということらしいのだが、1万分の1といったらこのクラスのパネルでは約80画素である。使う側としてみれば1画素でもあったら嫌なものなので、もう少しどうにかならないものだろうか。
 とにもかくにも実際に使ってみて、液晶モニターこそが今後の主流だと実感した。ゲームや動画再生においてもCRTモニターと比べて決して遜色はない。1280×1024ドットのTFT液晶モニターが出たら、17インチモニターはお払い箱にしようかと考えている。もちろん財布と折り合いがついたらの話だが(こればっか)。ちなみに購入後半年たった現在、14インチXGAクラスのTFT液晶モニターの実売価格は各社ともだいたい20万円ぐらいにまで下がってきている。
 ところで現在我が家のE141L様はいかがお過ごしであるかというと、お座敷用パソコンラックに鎮座ましましている。まことにもってSF心をくすぐらないことこの上ない状態である。おまけに普段使っているのはかみさんだったりする。

 P5マシンのCPUをPentium/120からMMX Pentium/200に換えた。これまでCPUはパーツショップで剥き出しで売っているのを購入していたのだが、今回のMMX/200と、これの前に買った2発目のPentiumPro/200は、しばしば「Boxed」と形容される、Intelが小売り用にパッケージしているもの(OverDriveProcessorのことではないので念のため)を購入した。Boxedにした最大の理由は、ヒートシンクファンが同梱されているのと、リマーク品(遅いクロック数のCPUに印刷された本来の型番を削ってずっと早いCPUの型番を印刷した粗悪品だが見た目ではまずわからず大手PCメーカーでも掴まされた例があるという)を掴まされるのをでき得る限り避けたかったからなのだが、買ってみてびっくりしたのは、このBoxedは剥き出しで売っているCPUと異なり、ちゃんとIntelの保証が3年間ついているのである。もちろん日本国内でも保証を受けることができる。取り付け方法に関する説明も懇切丁寧なきちんとしたマニュアルがついてくるし、おまけのCD-ROMまで入っている。価格的にも「剥き出しで売ってるCPU+SANYOのヒートシンクファン」の価格と比べて1000円程度高いだけであり、きちんとした保証があることを考えれば満足度は非常に高い(MMX Pentiumになってめちゃめちゃカッコ良くなった「Intel Inside」シールもついてくる)。時代は変わったなあとつくづく感じ入るとともに、今後はこのBoxedを買うようにしようと思った次第である。
 ちなみに、最近大手メーカーにも採用相次ぐAMDのK6にしなかったのは、Intelに比べて今一つ信頼性にかけたからである(Cyrixの6x86MXはMMXの互換性に疑問があるので論外)。知人でK6を買ったらなんと不良品で狂ったK6にHDDをとばされてしまったという人がいるのだ。K6のパフォーマンスは大変魅力的なのだが、AMDはK6の歩留まりの悪さにかなり苦労しているという話もあり、ここはやはり大人の態度でMMX Pentiumにしたというわけである。
 で、どのくらい速くなったかというと、スペック的には倍近く速くなっているはずなのだが、使い心地としては実のところ一般的なビジネスアプリケーションを使う限りにおいてはそれほど速くなった気がしない。もっとも、メインのP6マシンをデュアルプロセッサーにしたときよりはマシなのだが(この場合は当然の話なのだが全然速くならない)。

 最近オーディオアンプを買い換えた。これまで英国はMusicalFidelityのA-1という純A級動作のプリメインを使っていたのだが、この純A級動作というのが災い(なにしろ発熱量が半端ではなく触れないくらい熱くなるのだ)して、ついにガタがきてしまった。もっとも10年近く使ったので寿命が尽きたと言えなくもないのだが。新しいアンプはやはり英国はNaimのNAIT3である。A-1で懲りたのでAB級動作だが、なんとも良い音のするアンプである。
 こうして考えてみると、いろいろな所で言われている事ではあるが、パソコンというのもとんでもない商品である。「壊れるまで使う」などということは、少なくともこれまでは、パソコンではまず考えられなかった。たいがいは3年ぐらいで性能的な不満が我慢の限界に達して買い換えられてしまったものである。
 しかしながら、最近はちょっと様子が違ってきたように感じるのだ。最近パソコンが売れないという話を聞く。消費税率アップ前の駆け込み需要の反動だとか、来年のWindows98/NT5.0を間近にしての買い控えだとかいろいろいわれているが、自分自身を省みて考えてみると、基本的にはそんな理由ではないと思う。実をいうと、ハードウェアのアップグレードに対してぼくは最近それほど強い欲求を感じなくなってきた。我が家のメインマシンはP6/200のデュアルプロセッサである。これを今PentiumU/300に買い換えようなどという気にはぜんぜんならない(え、Alphaの633MHz? 買ってどうすんだよそんなもん)。95やNTがバージョンアップしたとしても基本的には今のマシンを使いつづけるだろう。ようするにPCの性能は自分にとって必要十分なところをはるかに超えてしまっているのだ。おそらくは多くのPCユーザーは無理をしてまで最新機種に買い換える必要性を少なくとも現時点では感じていないのではないだろうか。
 とまあそんなわけで、次回以降、前回書いた3Dソフトなど、なるべくソフトウェアまわりの話を中心にしていこうかと路線変更を考えているのである(ソフトといえば最近平凡社から出ている世界大博物図鑑のCD-ROM版を買ったがこれがひどい出来でもうお話にもならい)。

 「銀河おさがわせ中隊」の作者R・アスプリンのファンタジー「お師匠様は魔物」「進め見習い魔術師」を読んだのだが、これが結構良い。「銀河おさがわせ〜」の時は気づかなかったが、ちょっとキース・ローマーに似てるような気がしないでもない。このファンタジーのシリーズは順調に翻訳が出るみたいだけど、「銀河おさがわせ〜」の続きはどうなっているのだろうと思ったら、まだ原書も出てないんじゃ仕方ないか。
 それではまた次回。



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