BOOKSCAPE(海外)96年3月〜96年12月  by 磯 達雄



 まいった。ずいぶん昔に読んだもんで、すっかり忘れてしまっている。とりあえず、本棚にあった本で96年に出た本をかき集めて、コメントを付けることにするが、ホント、記憶がおぼろげなので、以下の本の評価の文末には“……だったような気がする”が続くものとして読んでね。

『カリストの脅威』アイザック・アシモフ(ハヤカワ文庫SF/96.3.15/620円)
 人間、三十を過ぎるとアシモフが読みたくなってくる。“「単なる観賞用SF」に堕したニューウェーブ以降のSFなんぞに興味はない。そんなのはオンナコドモの読むSFなのだ”とは、『オタクアミーゴス』で岡田斗司夫。それはいいんだけど、“A・アシモフ”とはおちゃめ。プフッ(ネタ提供=渡辺英樹)。

『永遠なる天空の調』キム・スタンリー・ロビンスン(創元SF文庫/96.4.26/850円)は宇宙をまるごと表現する究極の音楽演奏の話。シンフォニック・ロック・マニアの昼寝の夢みたいだが、こんな話が80年代にもなって書かれていたのだな。ロビンスンのことは馬鹿にしてよし。

『銃、ときどき音楽』ジョナサン・レセム(早川書房/96.4.30/2200円)
 この小説を紹介するのに引き合いに出される作家が、チャンドラー、ディック、オルダス・ハクスリイ、コードウエイナー・スミスとそっちこっちの大作家が並んで壮観。実際、その通りの作品になっているのがすごい。傑作。それにしても、このタイトル。見るたびに、薬師丸ひろ子の素っ頓狂な歌声が頭の中に鳴りひびいてしまうのは困ったもの。

『ゴーサム・カフェで昼食を』マーティン・H・グリーンバーグほか編(扶桑社ミステリー/96.5.30/860円)は、“異常な愛と欲望”をテーマとしたアンソロジー。マイケル・ブルームラインが良かった。

『残像を探せ』クリスティーン・キャスリン・ラッシュ&ケヴィン・J・アンダースン(創元ノヴェルズ/96.6.21/750円)では、殺された被害者の身体が殺人犯と入れ替わってしまう、と書くと何だかわからないだろうが、実際、そういう話。いかにも創元ノヴェルズらしくて満足。

『海魔の深淵』デイヴィッド・メイス(創元SF文庫/96.6.28/580円)はハイテク軍事スリラー。原著は84年だが、古さを感じる。

『アインシュタイン交点』サミュエル・R・ディレイニー(ハヤカワ文庫SF/96.6.30/540円)
 28年間かけて訳された本は、それ相応の時間をかけて読まなければならないと思います。ということで、感想は28年後に。

『ブレードランナー2』K・W・ジーター(早川書房/96.7.31/1800円)は、タイトルどおり、『電気羊』というよりも映画『ブレードランナー』の続編。難しい仕事をジーターはよくこなしたとは思うが、SF大会で彼が語ったという小説版の続編アイデアの方が面白そう。

『罪深き誘惑のマンボ』ジョー・R・ランズデール(角川文庫/96.8.25/760円)は繰り出される減らず口の連続が気持ちいい。デヴィッド・リンチが映画化するという。大丈夫か。

『仮面のコレクター』ニック・ガイターノ(ハヤカワ文庫NV/96.8.31/720円)はサイコ・サスペンスもの。トマス・ハリスに匹敵する小説がそうそう生まれるわけもないが、これもまたイマイチ。関係ないけど、TVの『サイコメトラーEIJI』の大塚寧々はサイコーだった。

『重力の影』ジョン・クレイマー(ハヤカワ文庫SF/96.8.31/780円)
 解説で菊地誠が書いてるけど、こういうのはSFというよりも科学者小説と呼んだ方が正しいのだろうな。凡作。

『ハッカーと蟻』ルーディ・ラッカー(ハヤカワ文庫SF/96.9.30/720円)も、SFというにはあまりに身近な近未来を書いいる。ラッカー以外が書いたらとてつもなくダサくなってたかもしれないが、そこはさすが、クールな出来栄え。イカす。

『ナイチンゲールは夜に歌う』ジョン・クロウリー(早川書房/96.9.30/2000円)は、小説読みの醍醐味を味わわせてくれる傑作群。“言葉”の力を感じる。

『衛星軌道の死闘』ボブ・ラングレー(新潮文庫/96.10.1/800円)
 創元ノヴェルズの常連作家で、スケールの大きさに見合わない馬鹿馬鹿しい展開が持ち味。けなしているのではない、ホメているのだが、今回は期待したほどではなかった。

『つぎの岩に続く』R・A・ラファティ(ハヤカワ文庫SF/96.10.31/700円)
 いまさら言う必要もないけれど、どれもこれも、よくぞまあこんなことを思いつくなあという、とてつもなくくだらないヨタ話(これもホメている)。解説も傑作。“痩せているのは顔だけだったのだ!”というエピソードにはあらためて笑った。

『チャイナマン』スティーヴン・レザー(新潮文庫/96.11.1/680円)は、中華料理店のオヤジが肉親を殺したIRAを復讐するという話。タイトルにもかかわらず中国人ですらないというのがミソか。

『大暴風(上・下)』ジョン・バーンズ(ハヤカワ文庫SF/96.11.30/各720円)
「風が吹けば桶屋がもうかる」方式で、災害小説からどんどんエスカレートして、ブリッシュ、はたまたヴォークトというとんでもない話になる。好みである。

『Xのアーチ』スティーヴ・エリクソン(集英社/96.12.18/2500円)は難物。これはすごいという箇所がところどころにあるが、何せ読みにくい。傑作なのでしょう。たぶん。

『うつろな男』ダン・シモンズ(扶桑社/96.12.30/1800円)は山田正紀が書きそうな小説。ちょっと泣けます。

▼以上、19作。もっとあったような気もするがまあいいや。前回に掲載した分を含めて、1996年に読んだ新刊海外作品のなかから恒例のベストファイブを挙げる。
『この不思議な地球で』巽孝之編
『銃、ときどき音楽』ジョナサン・レセム
『ナイチンゲールは夜に歌う』ジョン・クロウリー
『つぎの岩に続く』R・A・ラファティ
『大暴風』ジョン・バーンズ

 まあ、こんなもんでしょ。行数が足りないので、以下付録。


1996年CDベストテン

1 X-LEGGED SALLY /THE LAND OF THE GIANT DWARFS
2 CAMBERWELL NOW /ALL'S WELL
3 MATS-MORGAN /TRENDS AND OTHER DISEASES
4 STEVE HACKETT /GENESIS REVISITED
5 BONDAGE FRUIT /U
6 THE STRANGLERS AND FRIENDS /LIVE IN CONCERT
7 GREG LAKE /IN CONCERT
8 YES /KEYS TO ASCENSION
9 MOTT THE HOOPLE /THE HOOPLE
10 PEVO /CONVEX AND CONCAVE

1……ベルギーのプログレッシブ・ジャズ・ロック・バンドの4作目。切れ味の鋭さと意表を付くセンス。これまでの作品と比べてもこれがベストと思う。世界最強。来たる4月の来日もおおいに期待。

2……チャールズ・ヘイワードがTHIS HEAT解散後に結成したバンドの残したレコード3枚を集めてCD化。音が素晴らしい。歌が素晴らしい。泣ける。ヘイワードの来日ソロ公演も良かった。

3……スウェーデンのザッパ・フリークによるユニットの第一作。アバンギャルドだが、ミョーにポップ。真顔で冗談を言われているような恐怖と可笑しみ。

4……ジェネシスのギタリストが在籍時の名曲を再演。後ろ向きと言われようとも、こういうのはやった方が勝ち。日本公演ではジョン・ウェットンやイアン・マクドナルドを引き連れて「クリムズンキングの宮殿」までやってた(もちろん拍手喝采)。

5……鬼怒無月、勝井祐二らレギュラーメンバーに加えて福岡ユタカ(ex.ビブラトーンズ、ピンク)がゲストボーカルで参加。ちゃんとロックをやってくれているのがうれしい。

6……麻薬所持で逮捕されたヒュー・コーンウェルの釈放を求めて1980年に開かれたコンサートの記録。こんなのが聞けるとは思わなかった。プログレ関係でもロバート・フリップ、ピーター・ハミル、スティーブ・ヒレッジ、ニック・ターナーらが参加。

7……キング・ビスケット・ライブのシリーズから。ギターにゲイリー・ムーアが入って「ファンファーレ」や「悪の教典#9」、はては「21世紀の精神異常者」までやってくれる。

8……過去の名曲をセルフ・カバー。後ろ向きと言われようが、やった方が勝ちである。「シベリアン・カートゥル」と「神の啓示」(!)を入れてくれた選曲もポイント高し。

9……70年代を代表するB級バンドがCD一挙再発。『すべての若き野郎ども』がベストかもしれないが、晩期のこれも捨てがたい。

10……Pモデル人脈によるディーボのトリビュートバンド。なかなか凝っていて、きてます。



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