幸せな(?)入院生活 by 渡辺 睦夫



 ひょんなことから背骨を圧迫骨折してしまった。あれは忘れもしない2月26日、「3年生を送る会」での出来事だった。慣例として、うちの学校では教員による劇やら歌やらが毎年余興として行われるのだが、今年は一部3年生担当教員および有志教員により踊りを踊ることになったのである。よく考えれば変な学校だ。中学校ならいざ知らず、僕は高校時代に、教師が歌だの踊りだのするところなんか一度も見たことがない。大体だなあ……などと言っていると学校批判になるのでやめておくが、とにかく、一世風靡セピアのビデオを見ながら「そいやそいや」と猛練習に一週間ほど励み、当日を迎えた。途中舞台から飛び降りる場面があり、僕は足から飛び降り、しかる後に前転をすることにしていた。ところが、どこがどうなったのか自分でもよくわからないうちに、飛んだ瞬間前転の姿勢になっていて、そのまま背中から着地してしまったのである。バシン。背中から腰にかけて強烈な痛みが走った。息が出来ない。しかし、まだ2番がある。ステージに上がらねばならない。ああ、この涙ぐましいプロ根性(涙...)。まさか骨折したとは思わないから、もう1回痛みをこらえて踊りましたよ。これには自分でも感心することしきりだ。よく踊れたよな。その後は保健室で痛さをこらえつつ、翌日の答辞担当生徒を指導。これもすごいね。ベッドに寝ながら、「もっと感情をこめて」なんて偉そうなことを言っているのだから、指導する方もされる方も情けない。その後しばらく様子をみたが、ちっとも痛みが消えないのどころか段々ひどくなり、歩行不可能になりつつあったため、病院へ行ったところ、即入院が決まったのだった。おかげで翌日の卒業式には出れず、担任の面子は丸潰れ。散々な年度末になってしまった。

 入院してまず困ったのはCDが聞けないことだった(笑)。リハビリ室へ行くとなぜか70年代の洋楽がBGMで流れていて、オリヴィア・ニュートン・ジョンの「Please Mr. Please」(好きだったなあ)やシカゴの「長い夜」やキッスの「ハード・ラック・ウーマン」やボズ・スキャッグスの「燃えつきて」やホール&オーツの「リッチ・ガール」やその他いろいろ懐かしい曲に心なごませたり、心中ひそかに曲名当てクイズをしたりしながら腿上げや伏臥上体そらしにいそしむことが出来る仕組みにはなっているのだが(周りはお年寄りばかりなので状況的には結構変だった)、それでは満足できない非懐古主義的体質を逆に実感させられてしまった。翌日早速ポータブルCDプレイヤーを買ってきてもらい、Son VoltやらRainravensやらで心を潤している内にCDnowから頼んでおいた新譜が到着。この1ヶ月一番気に入ってよく聴いたのがSteve Earleの新作だった。アコースティック路線だった前作とは打って変わってパワー全開。ざらざらした音触を生かして、ポップでありながら極渋という内容。ニール・ヤング・ファンには絶対お薦めの1枚だ。途中添野さんが送ってくれた「No Depression」#3のSteve Earleインタビューを眺めつつ、Steve Earle三昧の幸せな(うそ)入院生活だった。

 本は同僚のミステリ好きの先生からごっそり借りて随分読んだ。山田風太郎の明治ものを初めて読んだのだが、「幻灯辻馬車」はやはり傑作。「警視庁草紙」はいまいち。他にはデクスター(つまらん)、マーガレット・ミラー(文章がよい)、ジェイムズ・エルロイ(まあまあ)など。なぜか中に「マイン」上・下が入っていたのが偶然とはいえ面白かった。けーいちと山田が持ってきてくれた「少年時代」を呼んだ直後だったのだ。なんで皆マキャモンなのだろう。キングより軽いからかな。入院を通して、僕の中には「マキャモン=お見舞い本作家」という変な図式ができてしまった。ちなみに、この機会にと挑んだ「重力の虹」は挫折。SFはほとんど読まずじまいだった。

 ギプスのおかげで後半はかなり楽になったものの、最初の頃は動くに動けず、背骨の効用というか必要性というか、そんなものをつくづく実感した。実は退院後1ヶ月以上たつ今でも特注コルセットをつけて、週1回は病院でリハビリをしている。そんな状態だ。みんなも体育館で踊りを踊るときは十分注意しよう。

(おわり)



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