全部で400粒の星屑 第43夜 「Be Grey」  by 大矢



 ある夏の日、太陽が一段とシャウトした午後。動物園に客はほとんどいなかった。乾いて粉をふいているセメントとモルタル製の氷山。一匹のペンギンが立っている。足の裏の皮が剥がれるような疎ましさを感じながら。
「もういやだ!」彼は叫んだ。「なんだこんな所!」回りのペンギン達は何事かと彼を見た。
「本物の氷。悠々とした大氷山だ。ひんやり冷たい海。自由に泳ぎまわりたいんだ!」
 プールで泳いでいたペンギンが水滴をぶるんとひとふりして、彼の横に立ち、言った。「どうした。何か気にくわんのか。」
「ああ、そうさ。俺が何をした。なぜ連れてこられたんだ。」彼はまくしたてる。
 彼に声を掛けたペンギンは、嘴をこすり、再びプールに飛び込んだ。その水しぶきを避けようと顔をそむけた時、彼は初めて回りのペンギン達が悲しげな目で彼をじっと見つめているのに気づいた。それでも彼は泳ぐ後ろ姿に叫んだ。
「こんなちっぽけなプールが俺の世界の全てなんて!」
 泳いでいたペンギンは器用に背泳ぎをして首をひねり、彼の目を見て言った。
「お前がいた海だって、せいぜい地球一つ分のプールさ。」その時、大きな雲が彼らの上に涼しい日影を一つ作った。

(第43夜・了)



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