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2002年1月号

『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス

『エンド・オブ・デイズ(上・下)』デニス・ダンヴァーズ

『黄金の幻影都市5』タッド・ウィリアムス


『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス

(2001年10月25日発行/浅倉久志訳/角川文庫/895円)

 イアン・M・バンクスの『ゲーム・プレイヤー』は、ヴォクトとベイリーとディックを足して三で割ったようなワイドスクリーンバロック風スペース・オペラ。以前から名のみ高かった〈カルチャー〉シリーズの本邦初紹介作品となる。その手の作品が好きな方はもちろん、そうでない方も読んで損なしの傑作だ。遠い未来、銀河全体に広がった人類は他の異星種族と〈カルチャー〉と呼ばれるゆるやかな連邦を形成しデカダンな生活を送っている。プレートから構成される軌道コロニーに住む〈カルチャー〉随一のゲーム・プレイヤー、グルゲーは、ある事件を機に銀河から十万光年彼方にある野蛮な帝国アザドへ旅することになる。三つの性(男性、女性、頂性)を持つヒューマノイド種族から成るこの帝国では、《アザド》なるゲームによって政治、経済、法律、軍事などあらゆる社会システムの決定が成されるばかりか、ゲームの勝者は皇帝の座に就くことまでできるのだ。ドローンと呼ばれるAIフレール=イムサホーと共にアザドに到着したグルゲーは《アザド》のゲームに次々と勝利を収めていくが……。壮大かつ魅力的な舞台設定、時にシリアス時にユーモラスな変幻自在の語り口、シンプルではあるが快調なテンポで進む力強いストーリィ展開、とにかくグイグイと読まされてしまう面白さなのだ。未開の帝国アザドが漂わせる暴力と性に満ちたノワールさには『共鳴』など既訳の諸作にも見受けられたバンクスらしさが遺憾なく発揮されているし、モフリン=スケル、ショホボホーム・ザーなど作者独特の造語感覚も帝国の異質さを際立たせるのに一役買っている。社会の縮図としてゲームが存在し、ゲーム自体が社会への欲望を生むなどゲームの本質を鋭く突いた考察もあり、様々なレベルで楽しめる知的な娯楽作品である。これを機にシリーズの紹介が次々に進むことを期待したい。

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『エンド・オブ・デイズ(上・下)』デニス・ダンヴァーズ

(2001年10月31日発行/川副智子訳/ハヤカワ文庫SF/上下各740円)

 デニス・ダンヴァーズの『エンド・オブ・デイズ(上・下)』は、昨年刊行された『天界を翔ける夢』の続編で、現実世界と同等の仮想世界〈ビン〉を舞台にしたシリーズの二作目である。前作は、現実世界に生きる少年と仮想世界の少女とのストレートな恋愛物語に仮想世界を破壊しようとする宗教団体の謀略が上手くブレンドされてなかなかの佳作に仕上がっていた。今回は、現実世界で愛し合っていながら〈ビン〉と別の仮想空間との間に百年以上も引き裂かれたままでいた恋人同士の再会という時空を超えた愛の物語を軸に、もう一組のカップル(軍の兵士とクローン人間の娼婦)の恋愛物語と、再度仮想世界の破壊を目論むクリスチャン・ソルジャー軍対〈ビン〉の攻防が絡んで、前作よりも複雑な構成のドラマが展開されていく。誰もが不死を手に入れたはずの〈ビン〉の中で死の研究を続けるドノヴァンの存在によって、前作では棚上げにされていた「不死の仮想世界は本当に人々に幸せをもたらすのか」という問いがより深められていることも見逃せない特色である。狂信的なクリスチャン・ソルジャー軍の矛先は〈ビン〉だけでなく、今回はコンストラクトと呼ばれる「組み立てられた人格を持つクローン」にも向けられており、排他的で残虐なイメージが一層際立っている。このような絶対悪との戦いが宗教的な様相を帯びるのは当然だろうし、題名も含めてすべての伏線がここに向かっている以上仕方がないとは思うが、それにしても最終二章の慌ただしい展開は評価の分かれるところだろう。筆者としては、この部分はやはり唐突で消化不良と判断せざるを得ない。現実世界の意義深さを語るために宗教を持ち出すのはかまわないのだが、既成のイメージに頼るのではなく、もう少しヒネリを効かせてほしかった。

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『黄金の幻影都市5』タッド・ウィリアムス

(2001年10月15日発行/野田昌宏訳/ハヤカワ文庫SF/680円)

 タッド・ウィリアムスの《アザーランド》シリーズ第一作『黄金の幻影都市』が五巻で完結した。アフロ・アメリカンの女性である主人公レニーからブッシュマンの血をひく!Xザッッブ、孤独な老人セラーズと少女クリスタベル、天使を追い求める兵士ポールら多彩な登場人物を配して、リアルな電脳空間での冒険を描くという作者の狙いは成功していると思うが、いかんせん物語の主軸であるレニーの弟の救出劇がまだ途中なので、作品の評価はとりあえず保留。それにしても五巻(原著では一冊)まで読んでこれではちょっと展開がスロー過ぎるかなという気はする。一刻も早い二作目の刊行を望む次第。

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