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2000年12月号

『SFの殿堂 遙かなる地平1・2』ロバート・シルヴァーバーグ編

『ギャラクティカの攻防(上・下)』デイヴィッド・ファインタック

『制覇せよ、光輝の海を!(上・下)』キャサリン・アサロ


『SFの殿堂 遙かなる地平1・2』ロバート・シルヴァーバーグ編

(2000年9月30日発行/1小尾芙佐・他訳2酒井昭伸・他訳/ハヤカワ文庫SF/1・2各880円)

 先月の『影が行く』に続いて、アンソロジーに収穫あり。ハヤカワ文庫三十周年企画として、人気SFシリーズの続編ばかりを書き下ろしで集めた豪華アンソロジー、ロバート・シルヴァーバーグ編『SFの殿堂 遙かなる地平1・2』が刊行された。良くぞここまで、という感じで集められたシリーズの名を挙げれば、ル・グィン〈ハイニッシュ・ユニヴァース〉、カード〈エンダー〉、シモンズ〈ハイペリオン〉、ブリン〈知性化宇宙〉、ポール〈ゲイトウェイ〉など全十一シリーズ。企画の特質上、編者の個性は見えて来ないが、一流作家を集めただけあって作品の質の高さは保証つき。どれか一つでもお気に入りのシリーズがあれば、そのためだけに買っても惜しくない出来映えの作品ばかりが集められている。作者序文が全作品に付されているのも嬉しいおまけで、丁寧な解説と合わせて読めば未訳シリーズの続編でも安心して楽しむことが出来るだろう。

 とりわけ印象に残った作品を三つ挙げれば、まずは巻頭に収められたル・グィン「古い音楽と女奴隷たち」。ある惑星に起きた叛乱を描いた連作集(未訳)の枝編であり、事件を傍観者的立場から眺める視点と抑制の効いた筆致は、まさしくル・グィンならではのもの。エクーメン大使と現地民との交流を主題とした点から名作『闇の左手』が連想されるが、あれほどの濃密な交感は描かれず、淡々とした味わいながらも読ませる佳品である。ブリン「誘惑」は、『スタータイド・ライジング』に登場したイルカたちの一部がある惑星で体験する事件を描く。シリーズの根幹に迫るスケールの大きな物語が展開され、SFの醍醐味を味わわせてくれる作品だ。シモンズ「ヘリックスの孤児」は、『エンディミオンの覚醒』に登場するアモイエテ一族の量子船が赤色巨星から飛来する〈破壊者〉と遭遇するシリーズの枝編。いずれの作品も馴染みの設定やキャラクターが登場する度に懐かしく、そんな時間はないのにシリーズ全体を読み返したくなって困ってしまった。他の作品も力作揃い。是非とも手元に置いておきたいアンソロジーである。

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『ギャラクティカの攻防(上・下)』デイヴィッド・ファインタック

(2000年9月30日発行/野田昌宏訳/ハヤカワ文庫SF/上下各820円)

 デイヴィッド・ファインタック『ギャラクティカの攻防(上・下)』は〈銀河の荒鷲シーフォート〉シリーズの第六巻。今回のシーフォートはもはや還暦を過ぎているが、まだまだ元気だ。勃発するテロを皮切りとする内乱の危機に、国連事務総長として、息子や愛妻、旧友らとともに堂々と立ち向かう。それにしてもシーフォートの頑固さ、頭の悪さは相変わらずで、毎度のことだが彼の行動によって引き起こされる悲劇的結末には嘆息させられる。反乱の鎮圧に集中せねばならぬ大切なときに、どうしてシーフォートは見習生との親子ごっこごときに夢中なのか。このシリーズを読むにつけ、シーフォートの神を拠り所とする秩序や規律への盲信は、変化と成長、何より相対性を核とするSF的な想像力とは無縁であるとの思いが湧き上がる。

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『制覇せよ、光輝の海を!(上・下)』キャサリン・アサロ

(2000年8月31日発行/中原尚哉訳/ハヤカワ文庫SF/上下各800円)

 ファインタックの偏屈さに比べれば、まだキャサリン・アサロの素直さには可愛げがある。『制覇せよ、光輝の海を!(上・下)』は〈スコーリア戦史〉の三冊目(原書では第四巻)。各巻独立して読めるシリーズだとは言え、今回は第一巻から直接の続編なので、できればそちらを読んでおいた方がいいだろう。本来なら互いに宿敵として争う運命にあったスコーリア王女ソズとユーブ帝圏の世継ぎジェイブリオルが恋に落ち、辺境の星に逃亡してから十数年。二人とも死亡したと思い込んでいる両国は本格的な戦争状態へと突入した。ひょんなことからジェイブリオルの居場所を突き止めたユーブ帝圏は、強行手段によって彼を取り戻す。愛する夫を奪われ怒り心頭に達したソズは、四人の子を置いて自ら戦場へと赴くが……。夫を救うために危険を顧みず突進して行くソズには、ひたすら悩むシーフォートにはない潔さとカッコ良さがある。マキャフリイが腰砕けになってしまった今、元気の良いヒロインを描かせたらアサロの右に出るものはいないのではないか。生まれつき奴隷を必要とするユーブ人のおぞましさには緩和の兆しが見え、戦闘場面のスピーディな展開は相変わらず切れが良い。正統派スペースオペラとしてお勧めである。

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