一、春の渚を マリアンヌ 靴を片手に マリアンヌ 散歩していた マリアンヌ 風があなたの 髪を吹きあげ 波がキラリと 光ったときに 恋をした あなたのすべてに ひかりの中を マリアンヌ たわむれていた マリアンヌ 二、朝の光を マリアンヌ 追いかけながら マリアンヌ ほゝをそめてる マリアンヌ かげろうみたいな マリアンヌ 波のしぶきに 虹をみつけて 黒い瞳が 輝いたとき 恋をした あなたのすべてに ふたりいっしょに マリアンヌ 青い海辺で マリアンヌ ルルル・・・・・・ ルルルル・・・・・・ |
ある日わたしは いつもの道を 横目でながめて 通りすぎたい ある日わたしは 知ってる犬に 知らん顔して 通りすぎたい ある日わたしは あのひとと 知らない街へ 行って住みたい ある夜わたしは 知らない街へ ひとりでかくれて 歩いて行った ある夜わたしは いつもの家を 横目でながめて 通りすぎた 道ゆくひとは みな急いでた ひとりぼっちの 知らない街は わたしをのこして にぎやかだった 知らない犬が わたしに吠えた・・・ 夢からさめて あたたかだった いつもの部屋で いつもの景色 わたしの小屋に 朝日がさした |
春は 朝 外は 鳥の声とひかり アレッ お腹の内側を ちょこ ちょこ ひっかくのは 誰? 今日は わたしの誕生日 ローマのあなたは 朝一番に 国際電話を 下さった とすると これは だれ? ここに居るのは だれ? |
一、若ものよ この命みなぎるもの 艶やかで 力満ちて 止まるいと間 無きもの フレッシュ・ハート・ユア・ハート 一緒に歩こう 少しの間 二、若ものよ 一日歩いたならば もう昨日と 同じではない 若い誰かが 続いている フレッシュ・ハート・ユア・ハート 一緒に休もう 少しの間 三、若ものよ 目を上げて見れば 先行く友も 手をのべる 止む無き 時の流れ フレッシュ・ハート・ユア・ハート 一緒に語ろう 少しの間 |
縁ありて夫婦となりしその人に茶をつぐ時はしみじみとつぐ 武蔵野市 多田 久美 評:夫婦の一生は、その出発が千差万別である如く決して一様ではない。 作者御夫婦はいかなる縁に結ばれたか知れないが、ご主人に茶をつ ぐ時にはしみじみとした心持でつぐと言われるのは、一通りならぬ 深い因縁に結ばれたのであろう。いくらか、神秘的な心も動くよう なところに、この一首の存在があるのであろうか。 |
悠久をめぐる瞬時の今に生き花月に添ひて夢成就せむ 花の師の母の子なれば折々の花生け継ぎて思ひ暮せり 喜びてヴァイオリン弾きて生きゆくがわれのお務め神様ありがたう 志は高く誇りは捨てず一日づつ日の明かるさを愛でて生き継ぐ ヴァイオリン奏で教へて歌詠みて神話のごとき世過ぎの日夜 武者冑戦国の世より家伝ふ冬に向ふ夜にぶく光りぬ 餌をまけばキャッチのうまい鳥のゐて朝ごとの話冬枯れの庭 窓辺には顆粒のごとき日の光モンマルトルの日だまりの午後 子の将来見たしと思ふ親心今宵の風はウンブリア平野ゆ 日はすでに暮れていにけりアッシジの石坂道は闇ばかりなる 客席の熱気受けとめ弾きてゆくベートウベンのへ調のロマンス 見はるかすひまはり畑の真中に天狗のごとき農夫顔出す 四百年同じ場所差す夕陽影フィレンツエの館ベンチスタの書斎 九時からはシニョーラタダのコンチェルト広間に集ふ夕食後の客 雲海をひたに飛行す果ての果て富士の影見ゆ時は嬉しき ナポリ湾見渡すサロンゆ電話くる三十年来のイタリアの友 コクリコの花は紅くて帰国せばモネの画集にゆれ残りをり 幾春秋弾き来しヴァイオリンでバッハ弾く人と神との中を行きかひ 遠山に輝く新雪のごとき希望先達歩みし道は続けり 銀婚の年を迎へて夫見上ぐ言葉はいらず只手を握る 星の夜何光年も一直線われと星とをつなげる光 大宇宙に魂ぬけ出し飛びかひぬ地上の夜は七夕の夜 大宇宙にこぎ出し魂を泳がせる刻過ぎゆけば星座動けり 手に慣れし自分の箸の心地良さかほどの些事に気づく朝あり 若人の将来思えば遙けくて見とどけたかり心しみじみ りんご一つころがりている夜の部屋今日の明かりを消し難くいる |
〜〜〜〜〜 多田 久美 平成8年8月3日 逝去 〜〜〜〜〜