多田 久美 ヴァイオリニスト,詩人

1998/02/23より
最終更新日2001/12/04


多田久美フォトアルバム

昭和13年4月19日:銀行員 山川 久五郎,みきの長女として兵庫県芦屋に生まれる。祖父 山川 勇木は横浜正金銀行(後の東京銀行 現東京三菱銀行)創設者の一人。母方の祖父 茂木 仁一郎は旧制浪速高校(現大阪大学)の生物学教授。
昭和16年:東京都武蔵野市 井の頭公園の傍らに移住。明星学園小中学校 東京芸術大学音楽学部付属音楽高等学校を経て。
昭和36年3月:東京芸術大学音楽学部器楽科卒業 ヴァイオリン専攻。第31回読売新人演奏会出演。
昭和38年:同専攻課修了。ヴァイオリンを兎束 龍夫先生、会 則道先生、ジャンヌ イスナール先生に師事。
昭和41年:東京文化会館小ホールにて第1回独奏会。音楽グループ「森のつどい」発会。
昭和45年11月15日:合気道家 多田 宏とローマで結婚。
昭和46年8月10日:長男 武丸誕生。
その後毎年:日本とヨーロッパを往復して日欧両文化の研究と相互の普及に努める。ヨーロッパ各地でサロン、教会で独奏会を催す。十代より作歌を始め、作詩にてコロンビアよりレコード発売、ペンネーム 秋川由美。迯水短歌会同人、からたち社社友、日本演奏連盟会員、日本弦楽指導者協会々員。著書「ヴァイオリン弾きのひとりごと」「歌集 縁(えにし)ありて」「歌集 花月物語」渓声出版発行。


マリアンヌ


一、春の渚を     マリアンヌ
  靴を片手に    マリアンヌ
  散歩していた   マリアンヌ

    風があなたの    髪を吹きあげ
    波がキラリと    光ったときに
    恋をした      あなたのすべてに

  ひかりの中を   マリアンヌ
  たわむれていた  マリアンヌ

二、朝の光を     マリアンヌ
  追いかけながら  マリアンヌ
  ほゝをそめてる  マリアンヌ
  かげろうみたいな マリアンヌ

    波のしぶきに    虹をみつけて
    黒い瞳が      輝いたとき
    恋をした      あなたのすべてに

  ふたりいっしょに マリアンヌ
  青い海辺で    マリアンヌ

    ルルル・・・・・・  ルルルル・・・・・・
1970年(日本コロンビア SAS-1404)


知らない小径


   ある日わたしは  いつもの道を
   横目でながめて  通りすぎたい
   ある日わたしは  知ってる犬に
   知らん顔して   通りすぎたい
   ある日わたしは  あのひとと
   知らない街へ   行って住みたい

     ある夜わたしは  知らない街へ
     ひとりでかくれて 歩いて行った
     ある夜わたしは  いつもの家を
     横目でながめて  通りすぎた
     道ゆくひとは   みな急いでた

   ひとりぼっちの  知らない街は
   わたしをのこして にぎやかだった
   知らない犬が   わたしに吠えた・・・
   夢からさめて   あたたかだった
   いつもの部屋で  いつもの景色
   わたしの小屋に  朝日がさした
(1970.6.25.財団法人グループワーク協会誌 ユースワーカーに掲載)


いかやうにこの道まがりくねるともわれゆく道は道なりの道
(1970.9.15.)


いのちのはじめ−胎動−


春は  朝
外は  鳥の声とひかり
アレッ  お腹の内側を
ちょこ  ちょこ  ひっかくのは
誰?

    今日は  わたしの誕生日
    ローマのあなたは  朝一番に
    国際電話を  下さった
    とすると   これは
    だれ?

ここに居るのは  だれ?
<1971.4.19.>


若ものよ


一、若ものよ  この命みなぎるもの
  艶やかで  力満ちて
  止まるいと間  無きもの
  フレッシュ・ハート・ユア・ハート
  一緒に歩こう  少しの間

   二、若ものよ  一日歩いたならば
     もう昨日と 同じではない
     若い誰かが 続いている
     フレッシュ・ハート・ユア・ハート
     一緒に休もう 少しの間

三、若ものよ  目を上げて見れば
  先行く友も 手をのべる
  止む無き  時の流れ
  フレッシュ・ハート・ユア・ハート
  一緒に語ろう 少しの間
<1982.1.早稲田大学合気道会「天地」掲載>


  縁ありて夫婦となりしその人に茶をつぐ時はしみじみとつぐ

                  武蔵野市    多田 久美


 評:夫婦の一生は、その出発が千差万別である如く決して一様ではない。
   作者御夫婦はいかなる縁に結ばれたか知れないが、ご主人に茶をつ
   ぐ時にはしみじみとした心持でつぐと言われるのは、一通りならぬ
   深い因縁に結ばれたのであろう。いくらか、神秘的な心も動くよう
   なところに、この一首の存在があるのであろうか。
(1988.3.8付)読売歌壇入選 土屋 文明先生評より


悠久をめぐる瞬時の今に生き花月に添ひて夢成就せむ

花の師の母の子なれば折々の花生け継ぎて思ひ暮せり

喜びてヴァイオリン弾きて生きゆくがわれのお務め神様ありがたう

志は高く誇りは捨てず一日づつ日の明かるさを愛でて生き継ぐ

ヴァイオリン奏で教へて歌詠みて神話のごとき世過ぎの日夜

武者冑戦国の世より家伝ふ冬に向ふ夜にぶく光りぬ

餌をまけばキャッチのうまい鳥のゐて朝ごとの話冬枯れの庭

窓辺には顆粒のごとき日の光モンマルトルの日だまりの午後

子の将来見たしと思ふ親心今宵の風はウンブリア平野ゆ

日はすでに暮れていにけりアッシジの石坂道は闇ばかりなる

客席の熱気受けとめ弾きてゆくベートウベンのへ調のロマンス

見はるかすひまはり畑の真中に天狗のごとき農夫顔出す

四百年同じ場所差す夕陽影フィレンツエの館ベンチスタの書斎

九時からはシニョーラタダのコンチェルト広間に集ふ夕食後の客

雲海をひたに飛行す果ての果て富士の影見ゆ時は嬉しき

ナポリ湾見渡すサロンゆ電話くる三十年来のイタリアの友

コクリコの花は紅くて帰国せばモネの画集にゆれ残りをり

幾春秋弾き来しヴァイオリンでバッハ弾く人と神との中を行きかひ

遠山に輝く新雪のごとき希望先達歩みし道は続けり

銀婚の年を迎へて夫見上ぐ言葉はいらず只手を握る

星の夜何光年も一直線われと星とをつなげる光

大宇宙に魂ぬけ出し飛びかひぬ地上の夜は七夕の夜

大宇宙にこぎ出し魂を泳がせる刻過ぎゆけば星座動けり

手に慣れし自分の箸の心地良さかほどの些事に気づく朝あり

若人の将来思えば遙けくて見とどけたかり心しみじみ

りんご一つころがりている夜の部屋今日の明かりを消し難くいる

〜〜〜〜〜  多田 久美 平成8年8月3日 逝去  〜〜〜〜〜

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