Angenieux Zoom 45-90mm f2.8

このアンジェニュー製ズームレンズは1969年に登場した。12群15枚という複雑な光学系をもち、全長122ミリ、直径69ミリ、重さは780グラムの堂々たる体躯をもつ。小型なR4系ボディでは、このレンズを付けて首にかけるとおじぎをしてしまう。バラスト代わりにモーターワインダーかモータードライブは必須である。
焦点距離は45-90ミリ。45ミリ側の画角はズミクロン50ミリとほとんど変わらない。撮影した印象でも、45ミリ側ではあまりパースがつかず、準広角とは考えずに標準とみなすべきであろう。
MTFのデータ等、客観的な数値は手元にないものの、70年代のズームとしては抜群に高性能だと思う。広角端、望遠端とも絞り開放から実用になり、フレアによるコントラストの低下もなく、きわめてシャープな写りをする。ただし、12群15枚というレンズの多さが災いするのか、境界面同士の反射は激しいようで、逆光にはすこぶる弱い。シリーズ8のフィルターを落とし込む標準装着のフードは浅いため、レンズを構える方角には注意が必要だ。
驚愕すべきはそのボケの美しさで、単焦点レンズも凌駕するほど。とくに望遠側のそれは、トゲトゲした葉っぱであってもささくれだつことなく、きれいに溶け込んでゆく。
色ノリは比較的淡泊な印象だが、使い始めて間もないため、結論は保留したい。
唯一の難点は90ミリ側での糸巻き型歪曲。45ミリ側では完全に補正されており、そのツケが望遠側に回ってしまったようだ。しかし、歪曲といってもバリオエルマー28-70ミリと比べれば軽微である。
ライカRマウントのアンジェニュー製レンズには、35-70ミリf2.5-3.3、70-210ミリf3.5のズーム、180ミリf2.3、200ミリf2.8のアポレンズがある。すべて試してみたいが、どれも美品は高価で手が出ない。
作例は90ミリ側で撮影したヤエザクラ。プロのカメラマンに「こんなに枝を入れちゃダメよ」と注意を受けた。