戯曲・怪人二十面相★伝


プロジェクト・ナビ『戯曲・怪人二十面相★伝』☆☆☆

原作は、とっても面白い、二十面相がいかにして二十面相になったか、というお話でした。当時の時代背景とか目に浮かぶようで、その中で宿敵明智小五郎との丁々発止の戦いが繰り広げられ、不自由な世の中を自由に生きようとした二十面相の生き様が爽快で、うれしくて少し涙ぐむような、いいお話です。昭和という時代をいきいきと活写しているという点で、焼け跡文学の傑作「麻雀放浪記」に通じるような、一度引き込まれたら最後まで読み通さずにはおかないような本でした。

で、この舞台は、その「怪人二十面相・伝」が、どこかの学校の劇団で上演されることになり、それを原作者(げたむらさん?)が見学にきていて、原作者と演出家により背景が語られる中、劇中劇による「怪人二十面相・伝」が進行していく、という趣向になっています。

もとより、原作の豊富なエピソードを全て取り込めるはずもなかったので取られた手法でしょうが、同時に、映画化の計画がバブルでつぶれた話や、原作が既に絶版となった話が語られます。物語の中の二十面相が痛快であればあるほど、現実の厳しさが浮かび上がってきます。もちろん当時がそんなに自由な時代であったというわけではありません。今より暗い世相の中で、精一杯自由に生きようとしたのが二十面相(サーカス団員である武井丈吉)でした。その宿敵となる明智は、「本当の正義などどこにもありはしない」とうそぶき、知と権力をもてあそぶ為に探偵を選んだ男で、いわば、冷酷な社会の象徴ともいえる人物でした。そんな社会に向けての戦いに丈吉は身一つで挑んでいくのです。

そして最後の戦いです。国立博物館の美術品を全て盗んで見せると明智に予告する丈吉。新聞を見て、美術館の回りには大勢の見物人が集まってきます。その中には丈吉の弟子、後の二代目二十面相、平吉の姿もあります。実は江戸川乱歩が一度だけ、二十面相について言及したのが、「サーカス団員の島谷平吉」という男でありました。大勢の観客が見守る中、丈吉は秘芸「葛の葉」で、まんまと脱出に成功します。二十面相をはじめたときからの丈吉の夢が実現したのです。そのとき、平吉の目の前で、信じられない事が起こります。。。

ラストは、走り続ける平吉の姿で終わります。平吉二十面相の話は、ここでは語られることはありません。映画化もならず、本も絶版となり、この物語がもはや、どこでも語られることがないのとの符号を感じずにはいられません。けれど、ラストの平吉は走り続けています。何かが終わったけれど、まだ何も終わってはいない、そんな感じの幕切れでした。


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【作・演出】北村想
【会場】スペース・ゼロ 【期間】4/6〜4/9
【観劇】4/6 18:00〜

時かけ



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