練習招き猫

練習時間について 

大学のギター部の合宿等を見ていると朝から晩まで、殆ど休み無くギター漬けというケースが多いようです。
社会人の場合、やりたくてもそんな真似は出来ないでしょうが、逆に少ない時間を有効に活用したいと考えている方は多いと思います。仕事や勉強は勿論のこと、スポーツや楽器の練習でも何が一番大切かと言えば、どれだけ練習に集中出来るかということに尽きると私は思います。
また長時間練習する場合でも1回の練習時間を1時間程度に区切って1日に何回かに分けて練習した方が効果的なようです。
最近読んだ本で「大バイオリニストが貴方に伝えたいこと〜100のレッスン」という武蔵野音楽大学教授の千倉八蔵先生が書かれた本(株式会社春秋社刊行)にギター練習にも通じる有益なバイオリニスト達のコメントが数多く紹介されていました。
また現代ギター社が出版した古い本ですがセゴビアを追悼し、昭和62年に現代ギター12月号増刊号として出版された「永遠の巨匠〜アンドレスセゴビア」からこれもまたセゴビアらしいコメントがありましたので引用紹介させていただきたいと思います。

手塚健旨氏が1987年にセゴビアの自宅で行なったインタヴューから抜粋(練習時間に関するコメント他)

あなたの1日の睡眠時間はという質問に対するセゴビアの答え〜ずっと昔から1日4時間が私の睡眠時間です。明け方の3時に床につき、朝7時まで熟睡します。それから私のスタジオに上り(マドリードのセゴビアの自宅はマンションの3階と6階の2フロア有り、6階にスタジオがある)7時半から9時まで練習。その後3階まで降りて朝食を取り新聞を読んだり、その日の出来事に目を配ります。一休み後、スタジオに行って先程と同じく1時間15分(計算すると先程と15分ほどの差が有るがそんなことはどうでも良い)ギター練習。そして昼食。午後も休みをまじえながら2時間ギターを弾きますが、その合間に30分椅子に座ったままで仮眠を取ります。このように練習と体と休めることを交互に行うことにより、私は未だに1日5時間練習してもちっとも疲れません。
貴方が演奏する時、テクニックの面で最も難しいことはなんでしょう〜指が置かれるべき場所にいつも完璧に置かれるとは限らないことです。
ギターの弦高について〜ギターは弦高が高いほど弊害が多くなるのです。高い弦高のギターを押弦すると、必ず音程が狂いますよ。そのうえギターのまろやかな音は失われ、何よりも弾きにくくなるはずです。

(当時セゴビア94歳)〜現代ギター社発行「アンドレスセゴビア」より

「大バイオリニストのがあなたに伝えたいこと」より

ピエールバイヨの言葉

一度に一つのことを練習しなさい。初歩者の場合は、練習時間を短くしたり、何回かに分けて練習し、数分間練習したら休みを取るようにし、1日のうち何回かそうするようにしなさい。〜中略〜短い時間で克服できることと、長い時間をかけなければ克服できないことを区別しなさい。疲れるまで練習を続けないこと。貴方の演奏に活力が失われ、貴方の情緒が生気を失ってしまうほど疲れないようにすること。貴方の健康や進歩にダメージを与えないように、貴方の力を知ることが大切である。

デヴィット・マンスの言葉

バイオリンの真の美しさを表出する為には、毎日6時間から8時間は練習しないと出来ないなどとはイザイは考えていませんでした。学生が毎日3時間の練習をしなければ満足すべき進歩が得られないとするなら、バイオリンを弾こうなどと試みるべきではないというイザイの考えには全く同感です。ヴァイオリンの練習は1回に45分以上集中してやることは無理だと私は考えています。生徒はこの3時間の練習をもっとも有効に使う為に、それを4回に分け、その間に休息の時間を取るといいと思います。休息の時間には文字通り休むことが必要で、例えば読書とか、音楽には全く関係がなく、他の芸術への興味も引き起こさないような何か別のことをやれば、それがエネルギーの転換を図ってくれるからです。

ヨーゼフ・シゲティの言葉

毎日二時間の練習で十分だと私は考えている。しかしその集中的な練習の前にフットボールのコーチが言う「頭での練習」をやらなければならない。音符の背後にあるものを求め、それを表面に引き出してくることで、作家の言葉の裏側にある意味を求めるのと同じ事である。ある音程も、ある旋律の流れもその作曲家が生きた時代を音楽家に語り、その時代の理想を表現しているのである。〜中略〜その作品を演奏者がすっかり把握してしまうまでは、実際の練習を始めては鳴らないと私は強く感じている。優れた練習というのは、テクニック的にもそうだが、楽譜を見ないで練習することである。ここではもちろん作品の鼓動あるいはテンポ、その色合い、クライマックスへと盛り上げていく演奏計画を意味している。そしてテクニックの弱点も忘れないことである。

ダヴィート・オイストラフの言葉

最良のアドバイスはゆっくりと注意深く練習するということです。それから毎日、一日中バイオリンと共に暮らすということです。午前中あるいは午後に沢山の時間を練習にあてるというのは、私が考えている練習の方法では有りません。一日中でなければいけません。私の意味するのは、午前中に練習を始める。そしてバイオリンをおく。午後に練習を始める。そしてまたバイオリンを置く。夜に練習して、バイオリンを置く。そして就寝前に練習する。この練習方式がもっとも重要です。そうです、練習は一日を通して、一定の間隔を置いてすべきものです。
午前中に4時間も練習して、午後や夜には練習しないというのは最良の方法とは言えません。
短い練習中にも心に緊張感を失わないようにすることが、より重要であることに気づかなければいけません。

イブリー・ギトリスの言葉

やりたくないことはやるな(笑)。まず、それが一番。ハイフェッツが言っていたそうですが、「もし、貴方が一日に12時間も練習しなくちゃならないのなら、止めて別のことをやんなさい。」とバイオリンを演奏するということは、生きることそのものです。だけれども、だからといって音楽しかないのでは勿論いけません。他のことにも目を向けて、心や考え方が非常に豊かでなくてはいけない。だから、どれだけ練習するかじゃなくて、どう練習するか、それが一番大事です。そして求めるものをしっかり見極めているかどうか、それが大きな問題だと思います。〜中略〜他者と違うものを目指せと言っている訳ではありません。個人というものは、そもそもみんな違うのだから、自分というものを見極めれば、必然的に他者とは違ったものが出てくるんですよ。

サルバトーレ・アッカルドの言葉

非常に役立つのは後で聞きなおせるように自分の演奏を録音することだろう。こうすれば、演奏中に意識に上らなかった多くのことに気づくだろうし、何よりもピッチやフレージングをやりすぎた、強調しすぎたと思っても、聴き直してみると、それは最初に意図したとおりで、別にそこだけが演奏の中で目立っている訳ではないことがわかる。〜中略〜録音し、聴き返し偉大な演奏の録音と比較する。私は聴き返す時に、まずいところを書き留めることを勧めている。そして、どうしてまずいのか、どうすれば正しく弾けるようになるかを根気良く研究するのである。


「大バイオリニストが貴方に伝えたいこと〜100のレッスン」武蔵野音楽大学教授の千倉八蔵先生箸(株式会社春秋社刊行)より