トップページへ


一時帰国ソロ・リサイタル
村治奏一



 
2001.7.28(土曜日) 18:00開演  

王子ホール(銀座)




プログラム

魔法の輪”組曲「恋は魔術師」より”

M.ファリャ作曲

ゴヤのマハ

E.グラナドス作曲

森の中で(1995)
T.ウェインスコット・ボンド
U.ローズデール
V.ミュアー・ウッズ

武満 徹作曲

ソナタ・”ボッケリーニ賛”
T.アレグロ
U.カンツォーネ
V.メヌエット
W.ヴィーヴォ・エネルジコ

M.C.テデスコ作曲
休憩


マルボローの主題による変奏曲Op.28

F.ソル作曲

シャコンヌ”無伴奏バイオリン組曲 第2番より”
BWV.1004

J.S.バッハ作曲

ソナチネ”我が母へ”

A.バリオス作曲

ワルツNO.4

ビラロボス作曲

アンコール



リブラソナチネよりFUCCO

R.ディアンス作曲

曲名不明、3つの作品より

奏一君の台湾の友人が彼の為に作曲
カバティーナ

マイヤーズ作曲




シッカリ者のお姉さんとちょっとシャイで気の良い弟・・・村治佳織、奏一の二人の兄弟を見ていると足立充のアニメの世界で出てくる主人公を思い出す。奏一君は、HPに日記を公開しているので、彼がアメリカにいる時、何度かメールを送ったら律儀に其の都度返事をくれた。彼に言わせると私は彼のお父様に良く似ているらしい。よくよく考えてみると彼と私の高3の長女はたった二つしか歳が変わらない。ギタリストの卵というよりも自分にいない息子に接しているような感情を抱いてしまうのも無理の無いことかもしれない。

何はともあれずっと彼の演奏を聴きたいと待ち望んでいたが、ようやく其の日がやってきた。「またギターなの」と言う家内の呆れた声を他所に銀座王子ホールへと足を運ぶ。土曜日の銀座は歩行者天国で平日と変わらない混雑、いやむしろそれ以上かもしれない。実は仕事でここ王子製紙本社ビルに来た事はあるのだがホールに入ったのは今夜が初めて。
ホールは2階にあり、オーナーが上場企業の中でも所有不動産日本一の王子製紙だけあって贅沢なつくり。ステージは客席に向かって扇形にゆるいカーブを描き、ステージ後方には木材がふんだんに使われ装飾兼反響版の役目を果たしている。ギターのコンサートには正にうってつけのホール。演奏開始前は8〜9割の入りだったが後半開始時には、ほぼ満席状態。

会場には、ギタリストの大沢さん、鈴木大介さん、大萩君、木村大親子、中村創君、ギター製作家では黒澤さん、今井さん、星野さんらの姿を見かけた。それから鎌田門下のふみこう君、高田門下のTajさん、そしてKAZUさんらと会う。(KAZUさん情報では福田進一さん、浜田滋郎さん、製作家の桜井さん、それから木村大君の弟も来てたらしい)

まずは、奏一君、リサイタルの成功おめでとう。今夜のコンサートを一言で言うなら、奏一君の人柄がにじみ出たようなとても温かい演奏会でした。ご両親やご家族の愛情と数多くの友人やギター関係者の方々に支えられたとても素晴らしいソロ・リサイタルだったと思います。ドクターストップや、指紋が無くなる程の練習量を経て今夜のステージに臨まれただけあって、期待通りの素晴らしい演奏を聴かせて貰うことが出来ました。多分本人は今日の出来に満足はしていないでしょうが、数多くのプレッシャーを跳ね除けて最後まで切れることなく演奏に集中した姿には感動させられました。



ステージで見る奏一君は、細身で童顔、やや華奢な感じ、演奏が始まるとハウザー(2世)から実に甘く美しい音が紡ぎ出される。
オープニングのファリャはギターで聴くのは初めて。誰の編曲かわからないが原曲の雰囲気を壊すことなく、甘く美しい音で演奏が始まる。続く火祭の踊りも聴いてみたくなったが、ギター一本じゃ無理かな。
コンサート全体を通じて感じたことだが、彼は古典やバッハの作品も上手いが、武満徹や、彼の台湾の友人が作曲したという現代のレパートリーに彼のセンスの良さが特に感じられた。実際彼が弾くとあの難しい武満の作品もひどく易しい曲に聴こえてしまう。ギターを弾くという行為が純粋に音楽表現だけに使われていて、実に自然に音楽が流れてくるのだ。
テデスコのソナタは、今回のプログラムの中でも特に楽しみにしていた曲。第一楽章から一気に彼の演奏に引き込まれる。バスの美しい音と明瞭で力強いスケールが見事。武満の緩やかな音楽から一転して緊張した空気が辺りを包む。第二楽章の調弦では5弦をただGに下げるのではなく一度Dまで下げてからGに戻し弦を早く安定させていた。当たり前のことだが彼のギターの音はとても音程が合っていて気持ちが良い。曲間、曲中の調弦も動作が素早く、余計なノイズを立てること無くスムーズに演奏が進められたのには感心した。
V楽章のハイポジションのスケールも綺麗な音で弾かれていた。最終楽章は、出だしのフレーズを原曲通りではなくセゴビア式にローポジションで一部音を変えて(ソをオクターブ上げて)弾かれたが、早いテンポで弾くには効果的で細かい音も良く聴こえた。前半を締めくくるにふさわしい華やかなエンディング。

後半に入り音量が一段と増してくる。ソルは、第二変奏の下降スラーで上手く左指が弦に掛からず流れを壊してしまったのが残念。彼ほどの技量を持っているのにちょっと意外。まさかとは思うが練習しすぎで左指を痛めていたなんてことはないだろうかと心配になる程。

いよいよシャコンヌ。バイオリンの原曲に忠実なアレンジで余分な低音の追加音は、殆ど無し。その分旋律の流れが良く分かりバッハの音楽が良く表現されていたと思う。特に前半の早いスケールからアルペジオに入る瞬間の美しさは忘れられない。中盤以降も気迫のこもった音で弾き切り、立派な演奏だった。但しスラーは余り使わずに弾いていたが、意図してそう弾いていたのか、本人に聞いてみたい気がするが。

プログラム最後のバリオス2曲は、シャコンヌという大曲を弾き終えた安堵感からかやや緊張感を欠き、勿体無いミスが何箇所か散見した。この辺りは今後の研究課題だろう。
プログラム最後のワルツを明らかに不本意な演奏で終え舞台の袖に一旦引っ込み、アンコール。1曲目はディアンスのFUCCO。高速で一気に弾き切り聴衆を魅了し大拍手。アンコール2曲目は彼の台湾の友人が彼の為に作曲したという3つの作品より1曲。譜面台を立てての演奏だったが水を得た魚のように巧みに演奏していた。
アンコール最後の曲は、なんとあのカバティーナ。村治佳織の定番ですがという彼自らの曲紹介に場内が沸く。美しい音が会場を包む。随所にセゴビアを彷彿させるような美音が響き、ギターの音のシャワーを浴びているかのよう。

アンコールを全て弾き終え今夜のコンサートも無事終了した。彼のギターの音は、輝き、音量共申し分の無いものだった。さすがハウザー&奏一君。君の気持ちは充分伝わったと思うよ。とても暖かい気分で胸が一杯になりホールを後にした。