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GGサロン・コンサート

近現代ギター名曲集
出演
金 庸太


 2001.6.30(土曜日)18:00 開演  

GGサロン(要町)




プログラム

主題と変奏、終曲

M.ポンセ作曲

黒いデカメロン

レオ・ブローウェル作曲

悪魔の綺想曲

カステル・ヌオーヴォ・テデスコ作曲

休憩


5つのバガテル
ウォルトン作曲

ソナタ
(アレグロ・モデラート/メヌエット/悲しみのパヴァーヌ/終曲)
ホセ作曲


アンコール

エチュード1番

グスタポ・カントゥール作曲
暁の鐘

サインス・デラマーサ作曲




小雨のぱらつく生憎の天気。その割にGGサロンには人が集まっていた。客席のイスがいつもと違ってステージに向かって囲むように斜めに配置され、ホールに着いた時最前列が左右とも空いていた。ステージに向かって右側最前列に座る。大学の授業じゃないんだから後ろに座るより前に座った方が左右のタッチも良く見えて参考になるのに勿体無い話・・・なんて考えるのはオイラだけか。演奏開始前には客席も8割方埋まっていたようだ。
今日は土曜日の為、金曜日のサロンコンサートと違って開演が6時からと1時間早い。自分も危く間違えるところだったが、当日チケットを見て気がついた。案の定、金さんのお弟子さんであるnakajima君は、7時開演と勘違いして遅刻。前半プログラムを完全に聴き逃していた。可哀想だけどどうしょうもない。チケットに開演時間が金曜日と違うということがわかるような工夫をした方がいいかもしれない。
今日はKAZUさん、Tajさん、なか☆ぴーさん、そして遅刻されたnakajima君、鎌田門下からはふみこう君、おおい君、くまの君らが来ていた。鎌田先生、製作家黒澤さん、新井君のご両親ご夫妻、広島からギタリストの長野文憲さんご夫妻、日渡奈那さんの姿も見られた。

使用楽器は3年前の東京国際で2位受賞された時の賞品の野辺さんの作品。弦は1,2弦がプロアルテのエクストラハード、3〜6弦がアリアンス(サバレス)のコラム。新井さんが打ち上げで使用弦について質問してくださったお陰で聞き逃さずに済んだ。

前半は、どうもいつもと雰囲気が違うなと思っていたら何のことは無い。多弁な金さんが沈黙を守ってひたすら3曲ギターを弾き続けていたのだ。沈黙は金(洒落にならない)とばかりに結局、後半ステージの1曲目5つのバガテルが終わるまで無言で演奏が続けられた。本人いわく喋る余裕が無かったとのこと。菅原編集長も控え室で珍しく金さんが蒼くなっていたとのコメントあり。演奏以外のことをするとかえって上がってしまうタイプの演奏家も多いだろうが金さんは逆にしばらく喋って場を和ませてからの方が聴衆だけでなく本人もリラックス出来て良いのかもしれないと今回実感。まあ喋りも演奏が素晴らしいから映えるのは言うまでも無いが。

最初のポンセは、出だしのゆったりとした主題を良く歌わせていた。弱音の処理、特に右手親指のタッチは参考になった。リズミカルなプンテアードで弾かれる和音が連続する箇所にやや固さが感じられた。もっともここは簡単そうに見えて結構リズミカルに弾くのは難しいから致し方ない。むしろ途中の早いテンポの変奏部分の方が力みが取れていたように思う。エンディングはまだ乗リ切れていなかったせいもあるのかもしれないが、ちょっと抑制し過ぎで自分にはやや欲求不満が残った。まあ曲もそういう作りだからこれまたしょうがないけど。

ここでいつもなら曲紹介を兼ねて挨拶が入るタイミングだが、そのままブローウェルに入る。1曲目戦士のハープでは、全体的に音量が小さく感じられた。早いパッセージになるとタッチも鋭くよく聴こえるのだが、pからクレッシェンドがかかるフレーズでは、細かいアルペジオの音が届かない。
2曲目のこだまの谷を駆けて行く恋人達では音も大きく感じられ演奏も良くなった。特に6、5、4弦が良く鳴っていた。中間部の長いaccelのスラーとアルペジオの部分では、素晴らしいテクニックが光っていた。
3曲目の恋する乙女のバラードは、Dチューニングの為、多分6弦が演奏中にピッチが上がるのを想定して低めにあわせていたのだろうが、予想に反し最後までピッチが戻らなかったのが残念だった。前半ステージでは3弦が演奏中ピッチが下がる傾向があったように感じた。

前半最後の曲、悪魔の綺想曲は、一転気合が入った演奏。主題がセゴビアの運指と違ってローポジションで処理されており他の運指も工夫がされていた。全般に早めのテンポで弾かれていて圧巻だったのは1フレットセーハで和音が変化する箇所をいとも簡単に左手2、4指が伸びて押さえてしまうこと。しかもセゴビアの演奏よりかなり早い。こうした曲は細かいミスがあっても勢いに任せて一気に弾ききってしまう方が合っている気がする。そういう意味では金さんの演奏は成功していた。後半のオクターブのメロディとDm→Am7→Fmaj7→Am7→Dmのフレーズはセゴビア式ではなく楽譜通りきちんとしたテンポ感で弾かれていた。セゴビアの演奏に慣れてしまうと楽譜通り弾くのは案外難しい。パガニーニの旋律は、ちょっとトレモロが早すぎて弾き急いだように聴こえたのが残念。でも迫力があったから前半最後を飾る演奏としてはGood。ここで休憩。

後半は、席につき調弦を軽くチェックしたかと思うと直ぐに演奏に入る。5つのバガテルのアレグロ、1弦12フレットミ以外、開放弦の和音が突き抜けるように響く。前半とは打って変わって楽器も良く鳴リ始めた。早いスケールやアルペジオも粒が揃い音も綺麗に響く。オクターブハーモニックスの音のなんて美しいことか。客席の全員の視線が金さんの指先に集中し、指先から輝くような音がつむぎ出されていく。多分控え室で調弦を十分チェックされたせいだろうが、倍音が良く聴こえ、音に輝きと艶が感じられるようになった。前半ステージで感じた3弦、6弦のピッチのダウンも無い。2曲目はしっとりした演奏、大好きな3曲目Alla Cubanaは、もっとドラマチックな演奏を期待していたが意外にクール。でも左手を大きく開く和音のフレーズはいとも簡単に押さえていたのは流石。4曲目は独特の和声進行が美しく響き、とても良い演奏だった。エンディングのCon Slancioは快速で一気に弾き切る。結局この日1番の素晴らしい演奏だったと思う。

固さも取れたのかそれまでずっと沈黙を守っていた金さんの口がようやく開く。前回のピアニスト高橋さんとのジョイントとの共通点(@全ての作曲者の国が異なる。Aギタリストが作曲者の曲は1曲だけ、B20世紀の作曲家の作品・・でよかったかな?ちょっと自信無い)を説明され、今朝それに気づき面白かったんで紹介というセリフに場内が沸く。聴衆も金さんのいつもの軽妙な語り口に引き込まれリラックス。いよいよいフィナーレのホセのソナタだが、現代ギターに演奏法の解説を連載されていた金さんだが、観客に向かって模範演奏を期待しないで欲しいとの弱気なコメント。オマケに寛大な心をもって聴いて欲しいとのせりふに場内大笑い。ホセのソナタを最後に持ってきて後悔しているとの一言は、案外本音だったのかもしれない。

ホセのソナタはブリームの録音でしか聴いたことが無いが、金さんの演奏はブリームの演奏に劣らぬ名演だった。最初の左手にかなりな負担を強いる難しいフレーズの連続も、レガートにメロディーが流れてお手本と呼ぶにふさわしい演奏だった。苦労する割に報われない曲の代表格がこの曲だと自分は思うのだがあえてこうした地味で聴き手に苦労がわかりにくい大曲で勝負する金さんのスタイルを評価したい。終曲はブリームの演奏より早めのテンポで弾かれている様に感じた。本人の意識はより早いテンポを目指しているようなコメントが打ち上げ時にもあったけど、メトロノーム120で十分です。金さん。130から138の世界ってどんなものか聞いてみたい気も少しはあるけど・・・ステージでなくてもいいからいつかチャレンジして聴かせて下さい。(^^ゞ

アンコールは2曲。1曲目は初めて聞く名前でグスタポ・カントール作曲のエチュード1番。フォルクローレだが左手のテクニックが要求される難曲。スラー&トリルが多用されしかも和音を弾きながらのトリル連続技は、かなり疲れそう。自分が弾いたらエンディングの左手スラーによるソロで留めを刺されて左手が壊れてしまうかな。そもそも終りまでたどり着けるかどうかが問題。金さんがGGサロンで12月にバンドネオン奏者とジョイントコンサートを行う予行演習とのことで演奏された。続くアンコール2曲目は、アルハンブラの思い出を弾くと見せかけて・・今夜九州の久留米からはるばるやって来られたさつきさんの為に捧げますと前置きがあり暁の鐘が演奏された。以前金さんからトレモロの曲で一番好きな曲がこれだと教えていただいていた曲で今回初めて聴くことができた。冒頭の摩訶不思議な響きが面白かった。(今回唯一のフォトは金さんとさつきさんのツーショット)
流石に大曲続きで、アンコールは2曲で終了。金さん今夜は本当にお疲れ様でした。

打ち上げで印象に残ったスピーチを3つ紹介

ギタリスト新井先生〜めったに生で聴く機会の無い(難しくてステージではプロでもなかなか演奏出来ない)大曲を、聴けた大変貴重なコンサート。勿論金さんの演奏はとても素晴らしかった。
菅原GG編集長〜自分のことで精一杯のギタリストが多い中で将来のギター界のことまで考え若手ギタリストを集めて勉強会を開くなど地道な活動を続ける金さんをこれからも応援していきたい。(大賛成)
金さん本人の弁〜プログラムについて、やってみて始めて気がついたことだが、難しい5つのバガテルやホセのソナタの方が聴き手の感想も良く、易しい(金さんにとってだが)前半のプログラムがかえって練習不足が露呈してしまったのが勉強になった。

いやいやこちらこそ本当に勉強になりました。金さんどうも有難うございました。次回の10月のバイオリンとのジョイントコンサートも楽しみにしてます。




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