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ELIOT FISK
GUITAR RECITAL

 2001.2.21(木曜日)19:00 開演  

紀尾井町ホール


昨年のデビッドラッセル以来の紀尾井町ホールでのコンサート。去年は道に迷ったが今回は迷うことなく辿り着く。幸い会社も早めに退社出来余裕で会場に着いた。入り口でNAKAJIMA君に会う。ロビーにはギタリストの福田さんと鈴木大介君の姿が見られた。二人ともギターを持参。客の入りは8割ぐらい。今回はかま先生門下のSAWADA君にチケット取ってもらい前から4列目の席でフィスクのプレーを見ることが出来た。ただすぐ前のお客さんがちょっと乗りすぎで騒々しかったのが残念。ところでコンサート前に上智卒のSAWADA君の隣に座っていたお陰で、上智のOBと間違われ若い女性に挨拶されるというハプニングがあった。HUMIKOU君の彼女によく似た女性でてっきり彼女と勘違い、相手の女性もすっかり私が上智大学ギター部OBと思い込んでいたようだ。SAWADA君の情報では、フィスクのCDは現在輸入がストップしており全く入手出来なくなってしまっているらしい。早くどこかのレコード会社が輸入再開してくれればいいのだが。





プログラム

ソナチネ イ長調
モレーノ・トローバ作曲

アリアと変奏「ラ・フレスコバルダ」 フレスコバルディ作曲
フィスク編曲

3つのソナタ

ドメニコ・スカルラッティ作曲
フィスク編曲

プレリュード・フーガ・アレグロ


J.S.バッハ作曲
フィスク編曲

〜休憩〜

カデンツァ〜ギター協奏曲より
ビラロボス作曲

12の練習曲

ビラロボス作曲

アンコール4曲

グアヒーラ   パコデルシア
3つのメキシコ民謡より マヌエルポンセ
リュート組曲4番よりプレリュード  J.S.バッハ
アルハンブラの思い出  F.タレガ




フィスクは想像より小柄で色白、赤いスカーフを首に巻き颯爽とステージに登場した。使用楽器はアサドも使用しているというハンフリー。ギタリストいいずみさんの情報では使用弦は、オーガスティンだったようだ。
ギターを構えた姿勢はやや左肩が下がり気味で顔がギターのボディに近い。特徴的なのはいわゆる歌舞伎役者のように見得を切るような左右の腕のポーズ。自然に出てしまうのだろうが特に左手でやると完全にネックから手が遠くなってしまうのであわてて指板に戻る動作がちょっともったいなく思えた。
特筆すべきはなんといっても右手の親指。あれほどパワー溢れる、良く動くp指は初めて見た。
オープニングのトロバは良かった。特に第二楽章でしばしば登場するセゴビアを思わせるかのような歌いまわしが面白い。第3楽章では彼の特徴である右手親指のテクニック〜プルガールが存分に発揮され曲を華やかなものにしていた。
続くアリアと変奏、スカルラッティのソナタ、バッハまでのプログラムはチェンバロを意識した彼のアレンジで確かに演奏にもそうした工夫が生かされていたが個人的には余り好きではない。音の追加も多く豪華なアレンジだがうるさく感じる程でかえってゴテゴテした印象だけが残ってしまった。バッハではスラーはほとんど使用されず左手のテクニックが光ってはいたが、余り良い演奏とは思えなかった。
後半のステージがはじまる前に前半のステージでスカルラッティのソナタの作品番号を言い忘れたということであらためて演奏曲目の説明があった。以前現代ギターか何かの記事でフィスクの変人ぶりを読んだ記憶があったので快活な彼のステージを見ているとそうした印象は全く感じられず意外な感じ。
いよいよ今夜の目玉のビラロボス。最初にビラロボスのコンチェルトからカデンツアが抜粋され演奏、休む間もなくエチュード1番になだれ込んだのはなかなかにくい演出。
前半と違って音楽が自然に流れていく。1番のアルペジオでは12フレットから1フレットに半音ずづ降下する際、右手がサウンドホールとブリッジの間を蜘蛛が這うように自由に移動し音色の変化をつけていた。
2番はとにかく早い。3番は予想より良い曲に聞こえたのはフィスクにしてはゆったりめのテンポで弾かれたせいか。
4番では彼の得意の右手pを生かしたプルガールを多用する演奏が独特の雰囲気を醸し出していた。
5番は本当に練習曲になってしまった。あんまり力を入れていなかったのかな。個人的には好きな曲なのだが。
6番はまたまた右手親指のプルガールを多用した演奏が効果的だった。
7番は圧巻。高速スケール(アルアイレとアポヤンドがミックス?)と中間部の早いアルペジオが素晴らしい。特にアルペジオで右手の薬指が弦を掻き揚げる様に弾くテクニックは参考になった。まるで馬が後ろ足で蹴るような感じ。
8番、9番はアゴーギクが独特。
10番は珍しく弾く前に呼吸を整えしばし間を置いてから演奏が始まった。最初の和音は極めて早いテンポ。難しいスラーと低音のメロディーはしっかり弾き分けられていた。
11番は案外おとなしい演奏。
12番も予想よりストイックな演奏だったが右手親指の推進力のあるプルガール奏法で弾かれる和音が素晴らしかった。
中間部の低音は意外にも親指では無く imaで弾かれていた。
何はともあれこの12のエチュードをこんなにもあっさりと(おまけにカデンツアつきで)弾ききってしまうフィスクのテクニックはやはり尋常ではない。前半物足りなく感じた演奏もビラロボスではよく音楽が流れていて素晴らしい演奏だった。
アンコールは4曲。
席につくなりいきなりフラメンコを弾き始める。知らない曲だったが終了後パコデルシアのグアヒーラと説明される。フィスクの演奏はフラメンコでもクラシックでも無い彼独特のもの。はじめから最後までとにかく圧倒的なテクニックで素晴らしいエンターテイメントだった。
この後一転してゆったりとしたポンセのメキシコ民謡が演奏される。
拍手に促され続いて演奏されたバッハのリュート組曲4番のプレリュードはとにかく早い。全ての音がしっかりと弾かれグアヒーラ以上にぶっ飛んだ演奏を聴かせてくれた。とにかく左手の運指をあえて12フレット以上の難しいポジションを使用し大きく開く左手を生かし最後まで猛スピードで弾ききってしまった。圧巻だったのは難所を低音を省いていたように聴こえたがとにかくしっかりした音で一音一音はっきりと超高速で弾ききってしまったこと。演奏中会場の空気が緊張感に包まれ思わず鳥肌がたった。音楽以前にフィスクの強靭なテクニックに圧倒される。
アルハンブラが最後に演奏されたのは意外だったが、これまた音は硬いもののよく粒のそろったトレモロでしっとりと歌い上げられた。まだまだ演奏を聴きたかったが、時刻も9時を廻っており残念ながらコンサートは終了となった。演奏後ステージで両手を胸の前で交差しながら何度も丁寧に観客に挨拶していた。
華奢な外見からは全く想像がつかない彼のパワー溢れる演奏にすっかり圧倒された一夜だった。