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ステファノ・グロンドーナリサイタル



 
2002.4.22(月曜日)19:00 開演  

トッパンホール



プログラム
    

4つの前奏曲
アラビア風奇想曲

タレガ作曲
3つのロマン派作品
メンデルスゾーンの舟歌
シューベルトのメヌエット
ショパンのマズルカ


タレガ編曲
スペイン舞曲第5、10番

グラナドス作曲
リヨベート編

コルドバ

アルベニス作曲
リヨベート編

ロマンサ、練習曲、スケルツォ=ワルツ

リヨベート作曲
2つのカタルーニャ民謡、祈り、リメンブランサ

セゴビア作曲
歌と踊り第13番

モンポー作曲
朱色の塔

アルベニス作曲
リヨベート編

セビリヤ

アルベニス作曲

アンコール

ルソラベさん教えてくださって有難うございました。

メロディア   グリーグ作曲
先生    リヨベート作曲
羊飼いの娘  リヨベート作曲
ゴヤの美女   グラナドス作曲
エストレリータ    ポンセ作曲




気が付くとステージのグロンドーナの姿がぼやけて見えた。当夜の最後のアンコール曲となったエストレリータ。聴いている内に、不覚にも涙腺が緩んでしまったようだ。心無い聴衆のせいでオープニングは最悪のスタートとなったコンサートだったが、誠実に自分の音楽を奏で続ける彼の姿を見ている内にいつしか心が洗われる様な気分になっていた。
グロンドーナ1958年生まれ。私より一つ年下ということになるが、髪の毛は・・・私の方が少し勝っているかもしれない・・(^_^;)
CDやパンフレットで見る写真は多分まだ彼が若い頃のものだろう。背筋をまっすぐに伸ばし、演奏中も決して姿勢を崩すことが無い。ステージに登場する時も歩く位置まで計算されているかのように定位置で立ち止まり、折り目正しく美しいお辞儀をしていた。ギターはもはや伝説的な存在、トーレス。彼の音色同様とても美しく保存状態も良さそう。どんなに難しいパッセージもそうとは感じさせない確たるテクニック、特に左手が彼の美しい唄を支えている。
実はグロンドーナのことをつい最近まで全く知らなかった。GGショップでタマキさんから彼のことを教えて貰い、2枚組みのCDを買ったばかり。菅原編集長がぞっこんだという話を聞き、そんなに素晴らしいギタリストがまだいたのかと驚いたのだが、事実今日の彼の演奏はCDではなかなか分からないグロンドーナの人間性・・・音楽に対する誠実さのようなもの・・がギターを弾く彼の全身から伝わってきて深く心を揺さぶられた。
素晴らしい演奏を聴くと誰かとその感動を共有したくなるものだが、今日は、何故か独りになりたくなってしまった。こんなことは珍しいのだが。他人に涙を見られたくなかったからなのか・・飯田橋駅まで表通りを避け、切ない程美しいエストレリータの余韻に浸りながら歩いた。偶然だが、最近現代ギターのバックナンバーでポンセの伝記を読んだばかり。エストレリータを作曲したポンセという人は晩年世間に認められるまで経済的には随分苦労した人のようだ。今までこの曲はメキシコの太陽の陽光の輝くような明るいイメージを抱いていたのだが、今日のグロンドーナの演奏を聴いて、夏の終り、日が沈む頃のやや翳りが見えた頃の明るさを連想した。
随分感傷的なことを長々と書いてしまったが、音楽は聴き手の心の状態によって随分印象も変わってしまうものだ。彼の今日の演奏は技巧的な面では彼にしては多分パーフェクトな出来ではなかったと思う。ただ彼がギターを通して語ってくれた音楽は、比類の無いとても素晴らしいもので、母親の愛情のような安らぎを与えてくれた。
彼のギターの音の美しさを支えているのは、その音楽、彼自身の唄であることは言うまでも無いが、改めて間近で演奏を聴いてみて左手の正確な押弦テクニックがいかに重要であるか考えさせられた。どんな難しい運指でも必ず指板に対して垂直方向から左手指先が降りていたし、左手のポジション移動で発せられる弦のノイズが全く聴こえない。右手の腕を使うテクニック〜カルレバーロ奏法も多用していた。特に感心したのは左手人差し指と薬指のテクニック。右手はスケールにやや難があったが、今回たまたま調子が悪かっただけなのか・・一度の演奏だけでは良くわからないが。
曲毎に感想を述べるのはやめたい。良かった曲が余りにも多すぎるから。強いて上げれば前半最後のグラナドス、後半のセゴビアとモンポーの作品、朱色の塔が印象に残った。特に朱色の塔であれほど素晴らしい演奏を聴いたのははじめてだった。
アンコールがまた素晴らしい。一曲弾き終える毎に聴衆に感謝の笑みを浮かべながら心のこもった礼をする彼を見ていて、すっかり虜になってしまった。ゴヤの美女と冒頭に書いたエストレリータを聴けただけでも来た甲斐があった。手の痛さを忘れる程、拍手出来るコンサートに出会えるのは本当に幸せである。優れた演奏家から学ぶことは多い。