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MUSIC LAB
 2001
2001年・音楽・旅立ち
第4回:「アトム・ハーツ・クラブ・デュオ」


福田進一・エドアルド・フェルナンデス

 2001.7.13(金曜日) 19:00開演  

グリーンホール相模大野



プログラム

<第一部>

アトム・ハーツ・クラブ・デュオ op.70
吉松隆作曲

アストール・ヴィッツ・エイトール Astor visits Heitor

エドアルド・フェルナンデス作曲

ラ・クンパルシータ〜フェルナンデス氏のソロ M.ロドリゲス作曲
C.ティラオ編

クンパルシータ嬢の履歴書 A.トーレス作曲

休憩〜南米産ワインサービス by メルシャン

サンバとガトー(5つのアルゼンチンの歌より)
A.ヒナステラ作曲

ワルツ「チキリン・デ・バチン」〜福田進一氏ソロ

A.ピアソラ作曲
藤井敬吾編

タンゴ組曲(1984)


A.ピアソラ作曲

アンコール


ミュージカル「雨に歌えば」  野平一郎編

ラ・トランペーラ

A.トロイロ作曲
飯泉昌弘編

広島という名の少年

武満徹作曲

ドン・タコのミロンガ
C.ティラオ作曲
福田進一&フェルナンデスの為に作曲

酔いどれたち

J.C.コビアン作曲
飯泉昌弘編




知らぬ間に梅雨が明け、日本列島は亜熱帯性気候のような異常な暑さが続いている。今日は相模大野という都心から大分外れた場所でしかも平日のコンサート。本厚木に仕事を作って会社に戻らず今夜の会場であるグリーンホール相模大野へと向かった。
このホールに来たのは初めてだが、まず相模大野駅前の景色が一変していたのに驚かされた。真新しい駅ビルが聳え立ち駅そのものもゆったりと広々としたホームに変わり昔の面影は全く残っていない。駅前広場で若い女の子達がフォークギターを弾きながら歌っているのを横目に一路ホールへ。開演まで40分以上あるというのに既にホール入り口には長い列が出来ていた。

汗を拭き開場を待ちようやく小ホールに入る。思っていたよりコンパクトなホールで座席の傾斜が結構きつい。グレーで統一されたメタリックな空間でステージ左に花が置かれていた。
前から4列目の中央やや右側の席をゲット、ちょうどステージを階段1段分程、上から見下ろす感じ。場所柄か年配のご夫婦やオバサンの団体客が多くいつものギターの演奏会とは大分客層が違っている。ギター関係者の姿は私の知る限り見つけることは出来なかった。

今回のコンサートはグリーンホール相模大野が企画している音楽の実験シリーズの第4回目に辺り、福田フェルナンデスデュオはそのフィナーレを飾ることになる。
主催者の挨拶があり、ようやく福田進一、フェルナンデスがステージ左より登場。二人とも黒っぽい上下で髪をオールバックにしており間近で見た福田さんはちょっと太られた印象。フェルナンデスはひも付きの眼鏡をかけ最初出てきた時は、身体の具合が悪いのかと思うほど精彩が無かった。

オープニングの吉松隆作品は、終盤に向けてそれなりにテンションが揚りまあまあの滑り出しだったが、最初の内はフェルナンデスの演奏に精気が感じられず、小さい割にデッドな響きのホールのせいで音量がひどく小さく感じられた。
福田さんのギターはフェルナンデスに比べると良く聴こえたが残響が少なくギタリストにはちょっとつらいホール。
1曲目が終わると福田氏がマイク片手にGood evening!、続いてフェルナンデス氏がどうもコンバンワの挨拶に場内が沸く。

演奏は全て譜面台を立てて行われ、楽譜の整理が悪いのが気になった。アルハンブラMLの津田ホールの感想にもそんなコメントがあったが確かに折角いい感じで演奏が終了しても曲間の準備で興が削がれるのは惜しい気がした。
最初の内は、やや走り気味の福田さんに比べ、フェルナンデスの演奏がもたつき気味に聴こえたが次第に調子を上げスケールでは、流石に見事なテクニックを披露していた。特に右手のテクニックが素晴らしく楽器の鳴りが今ひとつだったが甘くノイズの少ない美音が心に残る。右手のホームポジションがサウンドホール真上よりさらに指板(ネック)寄り。それでなくても最初の内は音量が小さめでギターの鳴りが良くなく、ソフトな音質が災いし聴こえにくかった。対照的に福田さんのギターの音は硬質で音量も豊か、アンサンブルを常にリードしていた。

福田さんのMCはいつもながら流暢でユーモアに溢れ、会場をすっかりリラックスした雰囲気に変えてしまう。フェルナンデスがタンゴが嫌いで演奏しなかったという話や、ラ・クンパルシータをコンサートで演奏するのは今夜が始めてという説明に観客席から驚きの声があがった。フェルナンデスのソロによるラ・クンパルシータはCDよりもさらに早めのテンポで演奏されたが、言われてみると余り楽しそうに弾いているようには見えなかったかも・・。
前半は、演奏は、決して悪くはなかったが、気温が暑いせいか調弦が安定せずチューニングの狂いに泣かされていた。演奏中二人とも頻繁に糸巻きを調整しながらの演奏で、弾くことだけに十分集中出来なかったのは残念。

後半も調弦には二人とも泣かされていたが徐々に調子を上げヒナステラは初めて聴いたが終盤の盛り上がりが印象的。
続くピアソラでは今度は福田氏のソロで演奏された。福田さんは演奏前のチューニングを余り時間をかけない人という印象を持っているが、この曲でもすぐに演奏を開始したが、最初から低音弦の音程の狂いが目立ち、福田さん自身も演奏に没頭出来なかったのが表情にも表れていた。
プログラム最後のタンゴ組曲はさすがに難曲だけあってテクニシャンの二人を持ってしても音楽を楽しんで演奏するという訳にはいかなかったようでゆったりとした中間部を除くと、生ではのスリリング?な場面に何度か出くわした。やはり難所のスケールの箇所で、二人のコンビネーションに微妙にズレが生じ、リズムに乗リ切れない為、なかなか音楽の躍動感を感じる迄には至らなかった。明らかなミス等は全く無かったのだが、この曲をステージで完璧に弾くのは極めて難しいなと改めて実感。

大曲を弾き終えた安堵感とギターに耳が慣れたせいかアンコールはいずれも本編以上に良い演奏が続いた。
雨に歌えばはとても凝ったアレンジで、欲を言えばもう少し低音を充実させた編曲の方がギターの高音のメロディー部が映えてくるのではと感じた。無論これは演奏者の責任では無いのだけど。
ラ・トランペーラは、デッドなホールのせいでパーカッション部の演奏効果が上げづらく、福田さんも苦労していたと思う。中盤以降は息が合ってきてフィニッシュはバッチリ決めていた。
広島という名の少年は、やや速めのテンポで演奏されたが、易しい曲だけに余裕を持って演奏され、ギターの美しい音色が心に染みた。ドン・タコのミロンガのタコとは踵を意味する言葉だそうで直訳すると「踵さん」の意味になる。結局この日最後の曲となった酔いどれたちとこのドン・タコのミロンガの2曲は、いずれも素晴らしい出来でコンサートの最後を飾るにふさわしい演奏だった。アンコール5曲のサービスで8時30分終了の予定が20分以上超過したが、誰一人席を立つものもなく今夜の演奏に観客全員が満足していたと思う。

終了後、ロビーでフェルナンデスのCDを買いサインと握手をして頂いた。福田さんのCDは全て持っているものばかりだったので残念ながらサインは無し。でもフェルナンデスの目の前にCDのジャケットを置いた時、福田さんがテーブルが濡れていると気を使って下さった。暑さのせいか、握手の際のフェルナンデスの顔が疲れ気味に見えたのが気の毒だった。早く休んで明日のGGサロンで今度は素晴らしいソロを聞かせてもらいたい。