美女のち美男、ときどき美少女。
〜Beauty, Handsome and Pretty girl〜
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 第11章 美女、絶命
 
   − エクシター島 死者の宮殿/地下50階 −
 
 アスモデの使徒となり、暗黒道の力で永遠の若さを手に入れる道を、
 ベルゼビュートは選んだ。
 (いつの日か、本当に転生できる知識を手に入れるまで……それまでの辛抱だわ)
 
 しかし、道は険しかった。
 アスモデ神は己の復活のために生贄を必要としていた。
 1万人もの魂を。
 最初はザドバに石化をさせる命令を出すことしか出来なかったが、
 何十年もの歳月を経る間に、自分自身の手で、命を奪うことにも
 ためらいを感じなくなってしまった。
 これが、暗黒道に堕ちるということなのだろうか?
 150年も経った今、初めの想いは忘却の彼方へ沈もうとしていた。
 
 しかし、今、ベルゼビュートは燃えていた。
 あの憎きデネブが現れた。
 そして、愛しのアルビレオまでもが。
 
 
 そして、この戦場にもう一人、異様に燃えている男がいた。
 解放軍の騎士、ペイトンだ。
 ペイトンは敵の中の1人、いや1匹と言うべきか… ゴーストに目を奪われた。
 それは、豪奢にも風の法衣を身にまとっていた。
 
 「あれは… もしや…? 風の法衣!?」
 ペイトンは、この死者の宮殿で、悔しい思いをしていた。
 同僚の僧侶ベイレヴラが、宮殿突入早々に風の法衣を手に入れたのだ。
 ワッハッハと喜ぶベイレヴラに合わせて、自分もワッハッハとやっていたのだが、
 内心はうらやましくて仕方がなかったのだ。
 (よし、あのゴーストを捕まえて、身ぐるみ剥いでやるぞ!)
 幸いにも指には、あの武器がはめてある。 …聖なる指輪が。
 
 元々、死者の宮殿探索に加わったメンバーは9人だった。
 デニム、オリビア、プレザンス、カノープス、デネブ、
 サラ、ヴォルテール、ベイレヴラ、そしてペイトン。
 
 その後、地下2階でアルビレオを仲間に加えて10人。
 なぜか、これ以上は一度に出撃できないシステムなので、これでいっぱいいっぱい。
 しかしながら、地下3階の戦いでは、ヴォルテールが石化されて脱落。
 恋人のサラも同時に脱落し、そのおもりとして、ベイレヴラも居なくなった。
 残り7人で挑んだ地下4階の戦いはさすがにきつかった。
 相手は、あの屍術師ニバスだったのだから、なおさらだ。
 
 なんとか、ニバスを退けたものの、命を奪うまでには至らず。
 死者の宮殿で再び会う可能性があると読んだデニムは、
 急遽、ニバスの娘オリアスと、息子デボルドを呼び寄せることにした。
 伝令として走ったのはペイトン。
 途中、地下3階には、サラとベイレヴラの姿はなく、どうやら本営に戻ったものと
 思われた。
 しかし、本営に二人の姿はなかった。
 
 どこに行ったものか?
 少し疑問に思ったものの、今はデニムたちに追いつくのが先決だった。
 オリアスとデボルドを連れて戻ろうとしたとき、ペイトンはあることを思いついた。
 (あの地下3階でのアンデッドども… あいつらに俺の攻撃は通用しない。)
 そこで、僧侶エルリグから、聖なる指輪を借りていくことにした。
 除霊効果を持つという優れものの指輪だ。
 
 宮殿内を戻る途中、地下3階でまたあの蛇女が、今度はただ一人で現れた。
 しかし、盾を前面にかざして突進したデボルドが、斧で一閃してアッサリと
 倒してしまった。
 その後、地下10階で、デニムと無事合流してから、ペイトンの活躍が始まった。
 
 (持つべきものは、優秀な仲間だな…!)
 ペイトンは今、初めて戦うことに自信を持っていた。
 仲間が強い… これがどれほど素晴らしいことなのかを実感しながら戦っている。
 多少、自分が無理をしようと、誰かがしっかりカバーしてくれるのだ。
 カノープスの弓が、ラドラムの魔法が、オリアスのヒーリングが。
 「聖なる指輪! ド─────ンっ!!」
 このセリフも、はまってきた。
 (ちょっと、かっこいいかもオレ…!)
 
 そして、この地下50階で遭遇したゴーストの、風の法衣を目にして、
 ペイトンはまたいつもの、いや、いつも以上の無茶な戦いを始めていた。
 「プレザンス殿ー! スターティアラはダメですぞ! 風の法衣を手に入れるまではっ!」
 そう叫びながら、アンデッド群に突っ込んでいく。
 「聖なる指輪! ド─────ンっ!!」
 百発百中のビームが敵を貫く。
 百発百中なのは、もちろんデネブがスタンスローターで動きを止めているから
 なのだが…
 
 ベルゼビュートは、そんなペイトンの動きなど見てなかった。
 視線の先にあるのは、見事なコンビネーションで、ペイトンをサポートしている
 デネブとアルビレオの二人だった。見ているだけで、妬けてくる。
 「アル様、許して〜!!」
 そう叫びながら、ベルゼビュートは自分が唯一使える魔法、デッドスクリームを唱えた。
 それは暗黒の禁呪だった。
 凝縮された闇のエネルギーは、敵味方の区別なく襲いかかる。
 「ギャアー」「ミギャっ!」
 悲鳴をあげているのは、仲間のゴーストたちだ。
 
 
 ベルゼビュートは宮殿に来てからというもの、ずっと孤独だった。
 暗黒道の副作用は、一時的な老いだけではなかった。
 セイレーン・クラスで学んだ魔法を、全て忘れてしまったのだ。
 アスモデ神は告げた、「お前はデーモン・クラスに転向したのだ、あきらめろ」と。
 代わりにくれた呪文書がデッドスクリームだった。
 
 宮殿に進入してきた人間を何人か、殺さずに仲間にしようとした。
 しかし、彼らはみな、同じことを告げて、ベルゼビュートの元を去っていった。
 「お前の魔法、痛いからやめてくれ」と。
 
 ……気がつけば、周りにはゴーストとスケルトンだけが残っていた。
 そして、このアンデッドたちは、ほとんど、ろくな会話ができなかった。
 ベルゼビュートは、己の孤独さを感じないわけにはいかなかった。
 (あの、魔法学校の頃に戻りたい…)
 何度、そう思ったことだろう。
 
 その孤独が少しだけ和らいだのは、今から20年ほど前のことだった。
 ブリガンテスの王だったという、ロデリックという男の魂がここに住み着いたのだ。
 ロデリックは、ベルゼビュートの悩みを、親身になって聞いてくれた。
 「そうだろう、そうだろうとも…… 禁呪使うとなぁ、みんな離れていくんだよなぁ〜
  分かるよ、分かる、その気持ち…!」
 
 
 「アル様… あなただけは、あなただけは… 離れていって欲しくないの……
  でも、私が使える魔法はこれだけなの、許して…!」
 ベルゼビュートが狙うのは、もちろんあの女、デネブ。
 しかし、ベルゼビュートの魔法では、力が足りなかった。
 敵軍の見事な連携の前には。
 少しぐらいのダメージなど、すかさず仲間が回復魔法で癒していく。
 
 デネブとアルビレオは、猛烈な勢いで先行していくペイトンを追いかけていった。
 「聖なる指輪! ド─────ンっ!!」
 また、アンデッドが消滅した。
 残りは風の法衣をまとったゴーストと、ベルゼビュートのみ。
 ペイトンは、ゴーストに迫ろうとした。
 しかし、ゴーストはヒョイと、高台の上へとワープ移動をした。
 「このー! 臆病者めが!!」
 
 辺りをキョロキョロと見渡したペイトンは、急遽、今来た道を引き返すことにした。
 「おりゃ〜! あっちの階段から回りこんでやるわー!」
 その余りの勢いに、思わずデネブはよろめいてしまった。
 「きゃあ、ちょっと気をつけなさいよ!」
 ととととと…… それを受け止める形になったのは、アルビレオだった。
 偶然にも、二人の姿は、熱い抱擁をする恋人同士のようになってしまった。
 …と勘違いをしてしまう女が、この場に居た。
 
 「!!!!・・・;、mfjkhgふぃ絵3ふぇ位jfsdqwm2んvftvfdc9い0wq−−−!」
 高台の上にいたベルゼビュートは、声にならない声を、泡を吹くようにもらした。
 その指は、ぶるぶると震えながら、二人の方を指していた。
 (ア、アル様……!? やっぱり…… で、デネブとそんな…… ハレンチな…)
 二人の姿が、霧に包まれたかのように、白く霞んでいく。
 (あ、 ……わ、 ……た…し……? い……けな……い…)
 ベルゼビュートは、そのまま倒れこんでしまった。 
 
 その直後、ペイトンは遂にゴーストを追い詰めた。
 聖なる指輪を使うわけにはいかない。
 ギリギリまで痛めつけて…とペイトンは思ったのだが、その必要はなかった。
 先ほど続いていたデッドスクリームのダメージで瀕死の状態になっていたゴーストは、
 すっかり戦意を喪失していたのだ。
 
 そこに、ようやくデニムが駆けつけてきた。
 「おお、デニム様、早くコヤツを説得して下さい!」
 「ああ、分かったよ。 …え〜っと、嫌なら無理にとは言わないけど、仲間になる?」
 コクコクとゴーストはうなずいた。
 「あ、色が変わりましたよ! 説得成功です、さすが、デニム様!」
 「いや、さすが…って言われてもなぁ」
 
 ペイトンはさっそく、最大の目的を果たそうとゴーストに迫った。
 「おい、新入り! 悪いことは言わん。その風の法衣を私に渡すんだ。」
 イヤイヤとゴーストは首(?)を横に振った。
 「何、この! 逆らうつもりか!?」
 拳を振り上げるペイトンから逃げたゴーストは、デニムの後ろに回りこんで
 隠れてしまった。
 「まあまあ、落ち着いて。 どのみち装備品はステージ・クリアしないと奪えないよ。」
 「おお、それを忘れていました!」
 ポンっと手を打つペイトン。
 「えっと、残りの敵はと……」
 ペイトンが周りを見渡したが、どこにも敵は見当たらない。
 
 デネブとアルビレオは、倒れこんだベルゼビュートの元へ歩み寄った。
 デネブが、ユサユサとベルゼビュートの体を揺する。
 しかし、一向に反応がない。
 その時、突如、聞きなれた音楽が、この空間一体に流れ出した。
 
 ♪タッタカター タッタカター ズビズビズビズビズン ズンズクズン
 
 「おや、ステージ・クリアのファンファーレだね。」 
 アルビレオがつぶやいた。
 
 「えっ? えっ? なんで? まさか、ベルちゃん、ベルちゃん!!」
 デネブは、なおもベルゼビュートの体を揺すったが、やはり反応はなかった。
 「ベルちゃ─────んっ!!」
 
 魔女ベルゼビュート、失恋再確認ショックにより昇天。 享年173歳……
 
 
 余談…
 風の法衣を着たゴーストは、結局、ペイトンに法衣を渡すことはなかった。
 ちゃっかり10番目のアタック・メンバーとして活躍。
 地上に戻った後、ベイレヴラとサラは、やはり行方不明ということが判明。
 そして、いつの間にやら、風の法衣を着ているというだけで、
 このゴーストは、ベイレヴラと呼ばれることになったと言う…
 
 
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