詰中将棋第16図解説


解説
 詰手数3257手!詰中将棋の最長手数は、伊藤宗看の中将棋作物の第五十番(作意未解明だが2080手台と言われている) であるようだが、その目安となる手数をも大幅に上回り、今回自ら作成した2769手の作品を改良して更に488手手数を 伸ばすことに成功した。
 本作の構成は、馬鋸+金飛車 の上下運動である。金飛車(旧作では竪行(成銀)) の上下運動の部分は、普通詰将棋の 河原泰之氏作「SWING II」の飛車横追いを金飛車の縦追いに応用したものである。中将棋では鯨鯢が使用できる分、 この部分に関してはシンプルに表現できた。が、なんと言っても本局の特徴は、5六と5七を起点とした上下対称の2種類の 馬鋸を交互に繰り返していくところである。「>」の字型に往復されるこの馬鋸の軌跡は、詰中将棋、 普通詰将棋を通しても前例がないようだ。

 手順の要点を整理すると、5筋から10筋までの玉方の駒を順次はがす。この際に、
10一鯨鯢を剥がすには10十一竪行(成銀)を剥がさなくてはいけない。
10十一竪行(成銀)を剥がすには9一飛車を剥がさなくてはいけない。
9一飛車を剥がすには9十二飛鹿を剥がさなくてはいけない。
9十二飛鹿を剥がすには8二飛車を剥がさなくてはいけない。
8二飛車を剥がすには8十竪行(成銀)を剥がさなくてはいけない。
8十竪行(成銀)を剥がすには7四鯨鯢を剥がさなくてはいけない。
7四鯨鯢を剥がすには11四奔王(成鳳)を剥がさなくてはいけない。
11四奔王(成鳳)を剥がすには6四竪行を剥がさなくてはいけない。
6四竪行を剥がすには6八竪行を剥がさなくてはいけない。
6八竪行を剥がすには5五麒麟を剥がさなくてはいけない。
という因果関係があり、剥がす駒の順序が決まってくるのである。駒を剥がすには、剥がす駒の元へ馬鋸で龍馬(成角) を接近させ、1サイクル動かすために毎回、金飛車の縦追いを行うのである。
さて、10一鯨鯢を剥がすことで、 2917手目の9十二龍馬(成角)を玉方は同とと応じるしかなくなり、同龍馬によって、龍馬(成角)を龍馬(生)に すりかえることに成功する。
この龍馬(生)で更に馬鋸を続け、6五龍馬として次に成って角鷹を作るぞと迫る。
ここで、玉方は手を変え、4七金飛車と応じ収束に入る。収束は、序盤からの変化で何度も登場し、既に見えている が、主役駒が捌けるので気持ちがよいと思う。尚、本局は最終3手以外は非限定はありません。

創作期間は、発想から完成まで結局6年半かかった。最初の図は、約半年ほどで出来た。但し、その後更に手数を伸ばせない かと考えて今回の改良図を作成した。作品の大枠は上記の通りで旧作と大きく変わってはいない。
今回の改良ポイントは、
1.縦追いを今迄二筋で折り返していたのを一筋で折り返す。そのために、攻め方3二銀、玉方4一奔王を置いた。 尚、3二銀を置くために、竪行(成銀)の2枚の縦追いというのを金飛車2枚の縦追いに変更している。
2.下辺の駒の交換位置をずらす(6八→6九、7九→7十、8十→8十一)。
3.駒の交換回数を一回増やす(奔王(成鳳)消去が加わる)。そのため、最初に消去する麒麟の位置が変わって しまい、盤面全体を左右対称に置き換えている。
4.導入部に18手に及ぶ適度に変化、紛れのある駒捌きをいれた。
などである。 惜しいのは、収束三手目に、1九角鷹以下上部に追って詰んでしまうキズが発生してしまったことだ。 これは、2一金飛車に3二銀のヒモがつくようになってしまったため、修正するのは難しい。この仕組みがあればこそ、 今回大きく手数を伸ばせたので、この程度のキズは目をつぶっていただくしかない。

作品名「摩天楼」は、金飛車の縦追いを超高層ビルのエレベーターに見立てたことと、3257手という長手数自体をも 表している。しかし、この摩天楼は決してこの高さが限界というわけではないのだ。まだまだ新たな摩天楼が 出現することは充分可能と私は見ている。これで終わりではなく、これは新たなスタートラインと認識している。 ともあれ新たに増築された「摩天楼」を充分ご鑑賞されたい。