両吟free連句 まはるまぐろの巻          東直子(李桃)+遠藤治(四童)

 

本館と書籍館ある初秋かな                         四童

 月夜さし出す貸し出しカード                       李桃

膨張する宇宙背高き車掌来て                        四童

 未来を見せてくださいと言ふ                       李桃

運命が夏の扉を叩きをり                          四童

 ひやさうめんのすうるりとゐる                      李桃

 

ぐるぐるとまはるまぐろをみるうちににんぎよとなるのはうへからしたから?  四童

爪割れてある日の夢がにじみだす深く想へばすべてつながる          李桃

今響くぼくらの鼓動今届く生まれた頃の星の瞬き               四童

横顔の不思議なかたち重ねれば螺旋のひかり胸に抗ふ             李桃

肩紐の捩れを直す鮮やかさよそに鏡の中の髭剃る               四童

ぐづぐづと出かけ損ねてをりますと村に最初の雪ふりそめぬ          李桃

 

通信や春とほりゆく象の骨                         李桃

湯を沸かす遺伝子に髪黒々と                        四童

歴代の社長の写真亀鳴けり                         李桃

新しき花街を行く夜涼かな                         四童

ほうたるや描きかけの絵の中の指                      李桃

トレモロの最後のふるへ柿落ちる                      四童

即興のピアノの果てや水澄めり                       李桃

夢ゆるき夜の続きの虫鳴けり                        四童

近づけば遠ざかるなり年の暮                        李桃

サイフォンの香り楽しや平和鳥                       四童

春雷や助産婦ふたり湯を浴みぬ                       李桃

むつまじき太極拳の日永かな                        四童

 

秋燈に虫をあつめて棚卸し                         李桃

 自由落下の夜食重たく                          四童

鍵にある「ウ」の字は裏のうの字にて                    李桃

 水捌けのよき地下室の跡                         四童

目を開けてみればふたたび花の宴                      李桃

 くちづけで割る大石鹸玉                         四童

 

 

初出 「恒信風」第11号(2000年4月)

 

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