一九九八年 七十句
葉牡丹の花壇できみは産まれけり
古時計あなたと同じ風邪をひく
咳をすれば四人八人十六人
盲腸の手術痕ある星座かな
雪の夜のピアノのごとく沈思せよ
降る雪やプー横丁にたつた家
サイモンとガーファンクルと冬日かな
恋猫や水なしで飲む征露丸
春宵の録画に臨時ニュースかな
私は最初の異性梅の花
スジャータが親指につく遅日かな
坂上といふ地下の駅春の昼
永き日の脳内麻薬物質かな
信号は我が意のままに青嵐
背に甲羅ありて卯の花腐しかな
残りもの残らず食ひて天白し
黒南風や刻々変はる運命線
光るものすべて鯖なりはしご酒
おしぼりをくるくるまはすリンダかな
いろいろな携帯の鳴る更衣室
SPEEDの構成員の名を覚ゆ
山ほどの機材を抱へアロハシャツ
緑陰やまた四つ足で走る夢
炎昼のひとの背中の長さかな
だらしなきあふひのごときうつくしさ
人妻と泥鰌を放つ生態系
やみてなほ雨の音する木下闇
老木を切れば裸体の現るる
刈草が青汁となる夕立かな
サイダーを盗む角度や腕相撲
いろいろなひとのつがひのボートかな
波のプール流れるプール生身魂
夏帽子にて漂へる浮輪かな
四番の日焼け止めにて仕上げけり
水のある私の星の桔梗かな
敏感な鼓膜となりぬ夜の秋
音楽の一部としての落下かな
仏蘭西に渡り即身仏となる
骨を包む膚の温度や桃熟るる
かなしみの首に鈴ある九月かな
銀漢や電波を受けて泉湧く
魂を盥に受けて水澄めり
賜杯見てお暇をする秋の暮
降りしきるプランクトンや秋麗
銀色のジャズドラマーの津波かな
対称の顎と額や天高し
ぶら下がる偽装農地のキウイかな
浮かぶもの分けて漕ぐなり台風過
ももんがとなりてあなたにとびうつる
お団子の根元の二個は父が食ふ
いがいがの中身は猿が食ひにけり
教会にファックスのある秋黴雨
韓国人街へ廻るや酉の市
お早うを貫き通す今朝の冬
探検の子ら寄りて去る焚火かな
黄昏の色を集めて柿熟るる
旗竿の音響くなり冬の朝
大いなる両手を拡げ欅枯る
等速度にて落下する時雨かな
髪型は脳の皺なり毛糸編む
セーターの猫の温度の起伏かな
強く吸ふあなたの風邪や冬銀河
肘までの長さで抱く冬の海
水得たる魚の部分や夜半の冬
下の子の写真少なき深雪晴
どの家も火鉢で金魚飼ひにけり
利き腕が当たらぬやうに鍋囲む
洗濯機のごと徐行する師走かな
ビバップの唾液を抜くや冬木立
火の酒の後の吐息の白さかな
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