カイロプラクティック・アジャストメント前後の
静止X線像パラメーターに関する症例対照分析

A Retrospective Case Analysis of Pretreatment
and Comparative Static Radiological Parameters
Following Chiropractic Adjustments


Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics
VOL.13 NO.9 PP498-506 1990-NOV-DEC

GREGORY PLAUGHER, D.C.(1)
EDWARD E. CREMATA, D.C.(2)
REED B. PHILIPS, D.C., PH.D.(3)


(1)Gonstead Clinical Studies Society:(Director of Research)
(2)Gonstead Clinical Studies Society:(Research Consultant)
(3)Los Angeles College of Chiropractic:(Director of Research)
訳:前田滋:カイロプラクター(大阪・梅田)

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【概要】
静止X線像のパラメーターに関するカイロプラクティック・ アジャストメントの効果を判定する調査研究を行なった。 標準的な単純X線撮影法が用いられた。

症例対照研究の手法(後ろ向き調査)を用いて、 処置前後のX線写真からデータを採取した。

頚椎の前彎、仙骨底の角度、腰椎前彎、肩甲骨の角度、 Cobb角、アジャストした腰椎分節の後方辷りを、 盲検法に従いフィルム上へのマーキングによって測定した。

測定者内および測定者間の信頼度を頚椎前彎と後方辷りに 関して判定したところ良好な結果が得られ、 いずれも低い標準誤差であった

頚椎前彎では、ピアソンの相関係数の範囲0.89-0.97, p<0.01(有意水準)。

後方辷りではピアソンの相関係数の範囲0.74-0.90, p<0.01(有意水準)。

処置前後の後方辷りのデータはおよそ34%の有意な減少を示した。 対照群では後方辷りの減少は認められなかった。

頚椎前彎角、仙骨底角、腰椎前彎角、肩甲骨角、 Cobb's角では処置前後での相対的な変動は観察されなかった。

訳注:ピアソンの相関係数 2つの変数間に直線関係が成立するかどうかを判定するための 統計学的指標。
この数値の絶対値が0.7程度またはそれ以上なら2変数間に 強い相関があると判定され、逆に絶対値が0.2程度なら ほとんど相関はないと判定される。

訳注:有意水準(p) 統計学上の仮説が覆される確率のこと。 この数値が低いほど、統計仮説が正しいとされる確率が高い。

【序】

多くの医療従事者が脊柱病理を評価する客観的な基準として、 矢状面での弯曲の静的変動や、人体脊柱の配列に関する他の特徴を 用いている(1-4)。これらに加え、脊柱機能の動的変動を分析するために ストレス下でのX線像(2,5,6)やテレビ映像法(VIDEOFLUOROSCOPY)(7)が 用いられている。X線像上での配列異常が非常に大きい場合を除き、 通常はX線による検査に臨床上の評価を補足することが一般的である(8)。

冠状面または矢状面での脊柱分節間の関節異常(配列上の運動障害)と 姿勢変動が臨床上関連性があるので、患者には脊柱調整療法が必要かも しれないことの証明になるという主張を、他のあらゆる医療分野以上に カイロプラクターたちは提唱している(9-11)。

脊柱調整療法後の静的脊柱配列の改善に直接関連する、盲検法によらない 個別的な症例報告ないし研究が多数存在するが(9,11-14)、文献調査に よれば、無作為化された盲検法を用いた症例対照研究は全く 見あたらないことが判った。

本研究の目的は、脊柱の分節間に関わるカイロプラクティック・ アジャストメントの効果があるなら、それを判定することと、 脊柱の静的姿勢の関連性を判定することにあった。本研究は、 標準的な単純X線像が分節間および姿勢上の静的配列を評価する方法と して適合することを前提としている。

【使用器具及び手法】
患者のカルテとX線写真は、1986年1月1日から同年3月1日の間に治療者の オフィスを訪れた最初の25人の患者から採択した。治療継続中に、 治療前後の患者のX線像を撮影した。

同様に、1986年4月1日から同年6月1日の間に別の25人の患者を抽出した。 両群とも、統計分析にかけられた。総数200枚に及ぶフィルムが分析された。 そのうちの50組が処置前後の側面像、50組が処置前後の全身前後像である。

50人の患者が調査された。それぞれ4回のX線照射を受けた。 平均の皮膚入射線量は0.85Rad/人であった。助手またはドクターが フィルムを抽出する際には、予断が入らないようにした。

側面の全身像は14×36インチのフィルムを用いて2度の照射を行なって 撮影した。フィルムの焦点距離(FFD)は80インチとし、前後像は1回照射で 焦点距離80インチで行なった。希土類による増幅スクリーンとアルミニウム製 のwedge filtrationを用いて検査中のX線被爆量を低くした(15)。

高電圧法(平均90KV)を使用した。この方法もまた、低電圧法に比較して 患者への皮膚入射線量の低下に寄与している。性腺と胸部を遮蔽するのに Bolin濾過システムを用いた。

検査のための患者の配置は治療者によって基準が設定された。 前後像フィルムの場合には、患者をバッキー(訳者柱:フィルム・カセットの ことか?)に接近させて固定するために、頭蓋の後頭部とバッキーとの間に、 発泡樹脂製の楔を配置した。患者の両足は均等に6-7インチ開かせ、 バッキーの中心から等距離になるようにした。踵の後面は、バッキーの前縁に 平行になるようにした。側面像の撮影に際しては、患者の両腕を横に渡した バーに載せた。他の制限装置は使用しなかった。X線装置は垂直かつ水平に 配置された。

患者配置の一貫性が開業医を選択する理由となった。 本研究は症例対照研究(後ろ向き調査)であったので、筆者たちは 検査に立ち会ったわけではない。しかし、患者の配置法とX線撮影法が 著者たちに実演された。別の報告では患者の配置法は体重の かかっている状態で再現性があるかもしれないことと、基準化 できるかもしれないということ、そしてこれによりX線フィルム上に 極めて類似した解剖学像が形成されるという結論が得られている(16)。

個々の開業医による患者配置法の再現性は本調査では検討しなかった。 治療したドクターが日常業務として治療前後のX線撮影を行なった。 治療後のX線検査は脊柱アジャストメントに対する患者の回復度や反応を 評価する方法として用い、また適切な位置を判定し、その後の脊柱アジャスト メントの際の正しい力の方向を決定する情報源として用いられた。 X線検査を行なう前に可動性の触診、静止触診、皮膚の表面温度測定器具に よる分析などの臨床評価が行なわれた(17)。

採用された脊柱アジャストメントの形式は、特殊な短い梃子の原理を用い、 徒手による高速で軽い力のスラスト法である。スラストの直後、コンタクト している腕は、およそ1ー2秒間保持された。ドクターが強調した力の方向は +Z方向(前後方向)である。この+Z方向は特に腰椎において強調された。 治療の際の患者の配置法を含むアジャスト・テクニックの詳細は 他の文献に記されている(9)。

選択されたフィルムは無関係の測定者の下へ送られた。患者の身元など、 フィルムに関する全ての情報は遮蔽され、マーカーペンの痕跡は消去された。 測定者には、どれが治療前のフィルムで、どれが治療後のフィルムか ということは知らされなかった。しかしながら、それぞれのフィルムの 解剖学上の諸点を判定しやすくするために、治療前後のフィルムは常に イルミネーター(シャウカステン)上に同時に配置された。

治療前後のフィルム上で多数の変数が分析された。フィルム上に点をつけ、 アジャストした腰椎分節の後方辷りをmm単位で計測した。 この測定では、まず隣接する下方の椎体の前上方の角と後上方の角に点を打つ。 その上方の分節には椎体の後下方の角に点を打つ。その後、下方の椎体に 打った点を線で結び、この水平線に垂直な線を、後上方の角から下へ降ろす。 この垂直線に平行な線を上方椎体の後下方の角から降ろし、これら2つの線の 距離を測定した(図1)。

図1
fig1
測定者には、アジャストされた腰椎分節を判定するために患者のカルテの コピーが渡された。脊椎辷り症、疼痛回避姿勢、および/または点を打つのが 困難な診断精度の低いフィルムは、腰椎の計測から除外した(n=5)。

後方辷り症に関する計測が、分節間の分析に関する唯一の操作であった。 分節間の線引きに対する対照群として別の23名の患者が選択され、 後方変位を起こしている分節がアジャストを受けないままで分析された。 これらの患者は、検査と検査の間に腰椎のアジャストを受けなかった 人(n=5)や、アジャストされたレベルから少なくとも2椎骨以上離れている 後方分節を持っている人たちであった(n=18)。これら2つのグループは Z軸方向の位置の変動分析を受けた。全ての計測値は0.5mm単位で測定した。 これはフィルム上のペンの線幅に起因する最大の精度であることが、 その理由である。

後方辷り測定の測定者間信頼度を3名の測定者で20例について調査した。 一人の測定者が20例について再測定を行ない、測定者内信頼度を調査した。 相関係数に加えて、推定の標準誤差と95%信頼区間を計算した(表1)。 後方辷りの測定結果は、優れた測定者間信頼度であると判定された(図2)。

患者のイメージと姿勢を模倣するために、患者の姿勢に関する問題点と、 後方変位に関する姿勢の効果を、乾燥人骨を用いて調べた。大腿骨頭が 50mm離れるところまで骨格を回旋した。L2に5mm、L5にOmmの後方辷りの ある例では、この場合、後方辷りには何の影響もなかった。全ての椎骨分節が 回旋するので見かけ上は回旋するように見えても、L2-L3の可動分節の 相対的な回旋角は変動しないので、このことは歪みの物理学とも一致する。

本研究では、前後のX線フィルムをシャウカステン上に同時に並べて配置した。 これによって、-Z方向への移動の測定を行なうための適切なジョージ・ラインを 選択することが可能となった。まれに、見せかけの後方辷りを引き起こす 分節間の回旋が存在するので、最も前方のジョージ・ラインを用いて測定した。 側面の全身X線撮影では、腰部側面は焦点距離を80インチで行なったので、 14×17のフィルムで用いる40インチの焦点距離に比べて角度の歪みは小さい (6゜VS 12゜)。前後の測定の間に腰椎をアジャストした回数は1~15回の範囲で、 平均7.97回であった。

表1.後方辷りに対する三人(A,B,C)の測定者間の信頼度と、    同一測定者(A,A')での測定者内信頼度
            
測定者ピアソンの
相関係数
推定標準誤差
(mm)
95%信頼区間
(mm)
測定値の範囲
(mm)
AとB0.740.821.601.0~6.5
AとC0.790.721.411.0~6.5
BとC0.830.671.322.0~6.5
AとA'0.900.531.041.0~6.5


図2.このグラフは、測定者内信頼度に関する相関係数の回帰線を表す。
fig2
点線は測定値の標準誤差を示している。


図3.腰椎前彎の測定法と、仙骨底角の測定法
fig3

ファーガソン角(仙骨底の角度)が作図され、記録された(図3)。 角度の測定は市販の6インチ分度器で行なった。角度測定は 0.5度単位で行なった。仙骨底角は極めて高い測定者間信頼度を 有することが、これまでに提示されている(9)。

対照群の患者では、仙骨底角その他の測定と分析については 行なわなかった。これらは全て全体としての姿勢の分析であるので、 対照群の同一患者での測定は不可能だからである。腰椎の前彎は Cobb法(18)を用いてL1からS1の間で計算し、0.5゜単位で測定した。 椎体終板のラインを後方へ伸ばし、これに垂線を引いて交叉した角度が 前彎角である(図3)。大規模な症例研究(19)において、腰椎前彎角に 関する測定者間での有意差は認められなかった。

頸椎の矢状面でのカーブはC2-C7間、またC1-C7間で測定した(図4)。 椎体終板ラインはジョージ・ラインに直角に引いた。 測定は0.5゜単位で行なった。治療前後のフィルムはシャウカステン上に 同時に配置し、解剖学上の同じ点を判定しやすいようにした。

頸椎前彎(C1ーC7)の測定値に対する測定者間及び測定者内信頼度を、 推定標準誤差と95%信頼区間とともに計算した(表2)(図5)。

図4.C2-C7およびC1ーC7間の頸椎前彎の測定法
fi41

表2.頸椎前彎の測定値(C1ーC7)に関する
三人の(A,B,C)測定者間信頼度と、
同一測定者(A,A')での測定者内信頼度
測定者ピアソンの
相関係数(*)
95%
推定標準誤差
(゜)
信頼区間
(゜)
測定値の範囲
(゜)
AとB0.894.989.766.5~50.5
AとC0.963.456.766.5~50.5
BとC0.944.047.9110.0~49.0
AとA'0.972.885.645.5~51.0
* p<0.001


図5.このグラフは、頸椎前彎角の測定値(C1ーC7)に対する
測定者内信頼度に関する相関係数の回帰線を表す。
点線は測定値の標準誤差を示している。
fig5


図6.側彎角の計算にはCobb法を用いた
fig6


前後像で側彎が存在するときには-49例中18例で認められた-Cobb角が 測定された。Cobb角の測定に際しては、処置前後のフィルムで同じ 椎骨を選んだ(図6)。

これは、シャウカステン上に処置前後のフィルムを同時に配置する ことによって可能となった。Cobb角の測定者内信頼度は良好で あることが認められた(平均誤差1.9゜)(20)。肩甲帯の姿勢は左右の 肩甲骨の水平線をなすラインを用いて定量的に分析した。左右の肩甲棘上の 小柱構造を表す同じ解剖学部位を選び、それを線で結んだ。

これは肩甲骨の水平線と交叉する(図7)。フィルム面格子のラインが 水辺線を表すものと仮定した。この部位の角度の変位は極めて小さいので、 測定者には0.25゜単位で測定するように要請した。高位側の肩甲骨はR またはLと記録した。この測定には測定者間または測定者内信頼度は 調査しなかった。

図7.肩甲帯の配置を評価するための
左右の肩甲骨間の角度を計算する方法

fig7

【結果】
本研究には全部で49の症例が使用された。全ての分析測定点の解剖学的な 標識点を決めるのに困難であるという理由から1例が除外された。

X線像では、治療前の49枚の全身前後像と、治療後の49枚の全身前後像、 治療前の49枚の全身側面像、治療後の49枚の全身側面像となった。 この患者グループの平均年齢は44才(標準偏差=20才)であった。 性別分布では、女性が31名(63%)、男性が18名(37%)であった。

症候像は分類されて単純化された。腰痛が最も共通する症状で、 患者の79%に発生していた。患者の53%が中背部または頚部に原因を 求め得る症状を有していた。肩や上肢および/または下肢の関連痛は 64%で記された。症例の47%におぴて他に分類される症状(体制内臓、器官)を 有していた。

【側面像での測定】
治療前後の全身側面像の調査から、いくつかの測定結果が得られた。 その結果をまとめると、

仙骨底角の平均値が37.7゜(範囲:11゜-62゜,標準偏差8.9゜)、

腰椎前彎角の平均値が59.4゜(範囲:26゜-83.5゜,標準偏差10.4゜)、

調査された分節の後方辷りの平均値が2.7mm(範囲:0-7mm,標準偏差1.6mm) であった。

対照群の後方変位は平均2.3mmであった。
対照群の平均年齢は36才(標準偏差14才)で、症候像は類似していた。
頸椎前彎(C1ーC7)の平均角度は33.8゜(範囲:5゜-65.5゜,標準偏差9.4゜)、
頸椎前彎(C2ーC7)の平均角度は6.1゜(範囲:-17゜-53゜, 標準偏差11.4゜) (表3)であった。
治療前後のグループの平均値を比較するために、両側のt検定を行なった。 後方辷りに関しては、アジャスト前の平均値は3.15mm(標準誤差=0.257mm)で あった。
アジャスト後の平均値は2.03mm(標準誤差=0.203、p<0.001)。 後方辷りの平均変動率は-34%となった。

訳注:t検定=2変数の平均値に差があるかどうかを判定するための 統計学上の手法。平均値、標準偏差、測定データ数を用いて判定する。

対照群では、有意な変化は観察されなかった。仙骨底角、腰椎前彎角、 頸椎前彎角(C1-C7、C2-C7)など、側面像での他の測定値は、アジャスト前後で 有意な変化を示さなかった。表4はアジャスト前後の側面像での各測定値である。

表3.アジャスト前後の、全身側面像での測定結果
測定項目平均範囲標準偏差
仙骨底角37.711~628.9
腰椎前彎角59.426~83.510.4
後方辷り(mm)2.70~71.6
頸椎前彎角
C1-C7
33.85~65.59.4
頸椎前彎角
C2-C7
6.1-17~5311.4


表4.アジャスト前後の、側面像の測定
測定項目n平均(前)平均(後)p
後方辷り453.152.03<0.001
仙骨底角4837.7338.110.572
腰椎前彎角4459.9459.800.512
頸椎前彎角
C1-C7
4832.7733.890.386
頸椎前彎角
C2-C7
487.097.150.952
(n=測定数)

【前後像での測定】
側面像と同様に姿勢の評価が行なわれ、次の結果が得られた。 肩甲骨の傾きの平均値は2.3゜(範囲:0゜~9.0゜, 標準偏差=1.7゜, n=42)。

X線フィルム上での標識点を同定するのが困難な例や診断上この部位の 映像が不鮮明であるという理由から、数例が除外された。

側彎のCobb角の平均値は9.4゜(範囲:0゜-54.5゜, 標準偏差=10.1゜) (表5)であった。

18組のアジャスト前後のフィルムについて側彎の評価が行なわれた。 Cobb角に関しては、統計学上有意な変動は観察されなかった。 肩甲骨の傾きも、アジャスト後有意な変動を示さなかった。 表6はアジャスト前後の前後像における測定値を表わしている。

表5.アジャスト前後の全身前後像での測定結果
測定項目平均範囲標準偏差
肩甲骨の傾き2.30~91.7
Cobb角9.40~54.510.1


表6.アジャスト前後の全身前後像での測定
測定項目n平均(前)平均(後)p
Cobb角1810.728.080.472
肩甲骨の傾き422.632.180.244
(n=測定数)

【考察】
アジャスト前後のX線上の検査では、頸椎前彎角には有意な変動は 認められなかった。この結果は、アジャスト後に2.22゜~4.55゜の 有意変動があるとしたLeachの結果(11)と対照的である。 Leachの研究では、使用した測定法の信頼度に関する実証付けが なされていないことと、アジャスト前後のフィルムの測定者に関して 盲検法が用いられていないので、彼の結果には疑いが残るかもしれない。

頸椎前彎の測定には、より正確さを期するために2つの測定法が用いられた。 Farfan(21)は、1つの角度で腰椎前彎角を測定することの不正確さを暗に 言及している。腰椎に対するのと同様に、頸椎の後彎が存在していても、 上部頸椎部が明らかな前彎の増強を示すことがある。C1だけを上部の 測定椎骨に用いたときに、このことが発生する。

アジャスト前後でのX線撮影の間に頸椎または上部胸椎をアジャストした 平均回数は6.5回であった。全ての被験者は、アジャストされた脊柱部位には 無関係に抽出された。このこともまた、理論上前彎の減少に影響すると 思われる椎骨レベルをアジャストされた被験者のみを分析したLeachによる研究と 対照的である(11)。

頸椎前彎についてのカイロプラクティック・アジャストメントの効果に 関する将来の研究は、操作の種類や頻度、頸椎枕および/または 頸椎牽引などの補助操作に関することについての処理を行なうべきである。 ある手技操作は前彎減退を解消し、他の操作は効果がない、あるいは逆に 反対の効果を現わす可能性さえあることが判明するかもしれない。

【腰椎の前彎角】
仙骨底角(ファーガソン角)には変動が観察されなかった。 仙骨底角に関する治療効果を扱う将来の研究では、治療の開始時に 仙骨底角が異常な(正常範囲外の)被験者を用いるべきである。

腰椎前彎角はCobb法によって測定した。この方法では、L1とS1の 椎体終板に平行に引いたラインからの垂線を用いる。腰椎前彎角の 正常範囲は大きい(43゜~77゜)(22)。仙骨底角と同様、この大きな 正常範囲は、初期の値が正常範囲を超えているのものでなければ、 治療効果を判断することを難しくしている。本研究では、アジャスト 前後での腰椎前彎角の変動は認められなかった。

Robertら(23)による報告では、腰椎のマニピュレーションは静止X線 フィルム上でのパラメーターには効果がないと結論付けられている。 彼らの研究と本研究との間には、多くの相違点がある。実施された 腰椎マニピュレーションの方式は、非特異的な両側性の腰椎回転法 (ランバー・ロール)である。操作は、医学的な訓練を受けた施術者に よって3週間の間に3回行なわれた。Cassidyら(24)によって実施 されたのと同様に、施術は機能不全の分節に向けて行なわれていない。 後方辷りに関する分析は行なわれておらず、また採用した測定法に 関する信頼度の検定も行なわれていない。このことから、マニピュ レーションは腰椎の静止X線パラメーターに効果がないという 研究者たちの仮説にはかなりの疑惑が残る。

抽出された49名の患者の内18名は測定可能な側彎を呈していた(>5゜)。 このグループには、原発性の成人側彎症(Primary Adult Scoliosis)が 含まれていた。アジャスト前後での測定結果には、統計学的に有意な 変動は認められなかった。前後の検査の間に受けたアジャストの回数は 平均7.97回であった。この分野での、特に青年期の側彎症患者を 扱う今後の研究は、側彎のリハビリテーションにおいてカイロプラク ティックの果たす役割があるかどうかを判定する必要がある。

今回は、突発性側彎症が治癒したという証明は提出できなかった。 側彎を計測するCobb角の正当性に関する注意が与えられている。 終端椎骨の小さな姿勢変動は彎曲の大きさに顕著な効果を示すので、 検査している実際の彎曲は、補足測定の必要がある。

左右の肩甲骨の間で形成される角を用いた、アジャスト前後の 肩甲帯の姿勢変動を判定する分析が試行された。肩甲角に関しては 有意な変動または傾向は認められなかった。それから、この角度を 使用する正当性と測定者信頼度は未だ判定されていない。

本研究の結果は、変位した可動分節を、+Z変位から-Z変位方向へ アジャストした後の後方辷りが解消することを示唆しているように 思われる。第5腰椎の後方変位が重要で、良くある腰痛の原因であると 証明した最初の研究者の一人がSmith(25)であった。後方辷りは 腰椎の回旋障害や椎骨の変性に付随する不安定性に伴って 認められる(26、27)。

Hadley(28)やKirkaldy-Willis(29)など他の研究者たちは、後方辷り症は 一般に腰椎の椎間板変性に付随することを提示している。椎間板変性の 波及効果と、これと後方辷り症との関係に関する論争がなされている。 Rothman(30)は、後方辷り症は椎間板変性によって引き起こされると 主張している。

一方Teplickら(31)は、後方変位は関節の変性疾患が存在しなくとも 認められるという所見をほのめかしている。椎間板変性、特に中程度の 椎間板の狭小化が後方変位の原因であるか、その逆の帰結が妥当であるか どうかは不明である。

本調査では、確かに椎間板狭小化のない状態で測定可能な程度の 後方辷りを有している多くの人たちがいた。後方辷りは最終的には 椎間板狭小化その他の変性を誘発する椎間板損傷によって 引き起こされるかもしれないし、あるいは、その結果であるかも しれない。Hensonら(32)の研究が、この仮説を支持している。

彼は脊椎辷り症の上位の後方変位分節をディスコグラフィーによって 分析し、明白な椎間板狭小化のない状態で病理変化が発生していることを 発見した。脊柱辷り症に付随する後方辷りは本研究では分析されなかった。

Epsteinら(33)は側方陥凹とそれに続く神経根圧迫への後方辷りの効果に 関して証明している。後方辷りを有している患者の神経孔を評価するのに 多面的コンピューター・トモグラフィーが使用されている(30、31)。

後方辷りを有する被験者たちに頻繁に付随する所見が椎間孔の狭窄 である(30,31)。変性関節疾患に基づく正中または側方の狭窄や、 さらなる中心菅の閉塞あるいは側方陥凹によって、後方辷りは患者の 症候像を複雑にするかもしれない。椎間板の突出が明らかな例では、 椎間板の膨隆に適応している神経根の空隙を後方辷りが制限するかも しれない。アジャスト後のX線撮影を行なうまでに平均で7.97回の アジャストが被験者たちに行なわれた。

測定者内信頼度は良好であった (ピアソンの相関係数r=0.90、p<0.001、推定標準誤差=0.53)。 測定結果は再現可能であると思われるし、静止X線像で観察する 腰椎の後方辷りを分析するための充分に正確な方法であると思われる。 またこの分野での今後の研究のための手段となるだろう。

【結論】
本研究の結果は標準的な単純X線フィルムで評価されたように、 カイロプラクティック治療による腰椎の後方辷りに対するアジャスト メントが、変位している脊柱の機能ユニットをおよそ34%回復させる ことを示唆している。対照群では、このような変化は生じなかった。

さらに、この分析に用いられた測定法は優れた測定者内信頼度と 測定者間信頼度を有することが認められた。95%信頼区間での 測定者内信頼度の標準誤差は1.06mmであった。正確さを期すと、 この誤差はアジャスト前後の標本の平均値の差(1.12mm)に対しても 適用可能であると解釈すべきではない。

平均値の差に帰されるべき適切な誤差は平均値の標準誤差で、 これは小さい(0.20-0.26mm)。正確に言うと、測定値の誤差は もしも幾らか大きいなら、その効果が統計上有意であるという 仮定の下に効果が現われていることを現実に強調している。 誤差はアトランダムに発生するので、与えられた数値の近辺の 不確実性の群として考えることができる。測定器具が極めて正確な 場合には、測定数nを充分大きく取れば、測定値を統計上有意に するための努力は遥かに少なくて済む。逆に測定器具の精度が それほど正確でない場合には、標本間での小さな差異を取り込むことが できない。

大小の側方陥凹変位-中心菅およびそれに付随する軟部組織構造-の 妥当性に関する研究が必要である。この実験で認められた後方辷りの 平均値の変動は小さい(1.12mm)が、この値は変位の34%が減少している ことを表わしている。

これ以後の研究において初期変位のより大きな標本(>5mm)をあらかじめ 選択して用いるなら、34%の減少は臨床上さらに大きくなるかも しれない。配列の相対変動が実証されているものの、このことは 患者および患者管理に対して、いかなる重要性をもたらすであろうか?

今後の研究では、この研究で実証されたような椎骨配置の相対変動と、 来院患者を評価する基準手法との関連性を扱う必要がある。また、 解剖学的な関連性と、これらの変動がどのように正常機能に関連するか ということを実証する必要がある。それらの研究ではまた、 アジャストメント評価のための対照群に関する検討を行なうべきである。

後方辷りの測定に対する対照群の患者は23人であった。その内訳は、 非アジャスト分節からの測定(n=18)と、全くアジャストを受けなかった 純粋な対照群(n=5)であった。アジャストを受けた分節から2分節 離れている分節は、アジャスト操作の影響を受けないという仮定が なされている。この仮定は検証されないままであるので、疑いが残るかも しれない。アジャスト前後での後方辷りの評価に有意な変動が認められた ものの、頸椎の前彎、腰椎の前彎、仙骨底角、肩甲骨の角には、アジャスト 前後での変動は認められなかった。これらの測定の価値は本研究の結果を 基礎にしていると思われる。前後の測定の間のアジャスト回数は8回 (1回~15回の範囲)である。

頸椎前彎の測定に対する信頼度は良好であることが判った。しかしながら、 95%信頼区間での測定者内信頼度は6゜の大きさであった。頸椎前彎角の 平均値の小さな差は、それが実際に起きたとしても、測定値の精度が 低いためにしっかり隠されてしまうだろう。 X線が、どのように症例管理に有益であるかを実証することが、我々に 課せられた義務である。放射線を用いた評価と、脊椎アジャストメントと それとの関連性に関する分野における今後の研究が、カイロプラク ティック界にとって極めて優位なものとなるべきである。

【謝辞】
患者の治療を行ない、その記録を科学的に綿密に調査することを許可して 下さったRichard A. Gohl, D.C.に対し、著者たちは感謝を申し述べたい。 また、この実験に試験者として、あるいは助手として参加して下さった Stancy Aslan, D.C.、Joe Flowers, D.C.、Robert Katona, D.C.にも 深甚なる感謝を捧げたい。ある校閲者の有益な助言にも感謝したい。

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