椎間板ヘルニア

1997.06.20


腰痛といえば椎間板ヘルニア、ヘルニアといえば腰痛、 坐骨神経痛と言われるくらい、あまりにも有名になっている 病名ですが、言葉だけが広く知れ渡っていて、その病理学的な 実態をご存知の方は以外に少ないようですので、ここで、 できる限り判りやすく説明してみます。


A.椎間板の構造

椎間板は、中心部が髄核と呼ばれるゼリー状の物質と、 それを取り巻く周辺の線維輪から構成されています。

周辺部の線維輪は、線維質の膠原線維からなる層が幾重にも 同心円状に重なりあっており、隣接する層の間では、 線維がお互いに斜め方向に向き合うように走っています。 その結果、ちょうどX状に交叉するような多重線維質層を 形成することで線維輪の強度を高め、脊柱にかかるショックを 吸収しやすい構造になっているのです。

一方、椎間板の中心部を構成している髄核は、その重量の85%が 水分で、非常に粘度の高い液体です。これは、あたかもボール ベアリングのような作用を担うことによって、上からかかる体重を 受け止め、身体のバランスを取っています。

disk

B.腰部椎間板ヘルニアの分類

「ヘルニア」というのは、ある構造体の内部に存在しているものが、 その外部へ脱出するという意味です。 たとえば鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)など。

椎間板の場合には、その中心部にある髄核がそれを包んでいる線維輪の 外部へ飛び出ることを意味しています。病理学的には次の3~4種に分類 できます。

☆突出型へルニア

髄核が後方に押されて線維輪が断裂し、全体として椎間板は後方へ 膨隆しているが、髄核そのものは線維輪の外部へは脱出していない。 この膨隆している部分が、その近くを走っている腰部の脊髄神経の根部を 圧迫すると、いわゆる「椎間板ヘルニアによる根性坐骨神経痛」という 激烈な下肢痛を引き起こします。
protrude

☆脱出型へルニア

髄核が文字通り線維輪の外側へ脱出している。脱出する方向は椎間板の 後方で、左右どちらかへ膨隆する確率が高いので、上と同様に 根性坐骨神経痛を起こします。

rupture

☆椎間板の断片化

中年以後に、椎間板の水分が減少し、これに石灰が沈着すると(石灰化)、 弾力性を失って部分的に粉砕されることがあります。そして、 粉砕された断片の一部が椎間腔(椎骨間の隙間)から脱落して脊髄神経の 通る孔に落下した場合、これも神経根部で脊髄神経を圧迫するので、 坐骨神経痛を引き起こします。

fragment

☆シュモール軟骨小結節

椎間板が上または下の椎体の骨板を突き破って椎体内部に浸入している。 終板骨折、内ヘルニアとも呼ばれています。これは腰痛の原因に なりますが、通常は坐骨神経痛の原因にはなりません。

fracture


C.(腰部)椎間板ヘルニアが物理療法で治る理由

腰部椎間板ヘルニアのうち、最も多いのが突出型です。 このタイプのヘルニアは、後方へシフトしている髄核が正常位へ 戻れば、椎間板の後方への膨隆も解消し、断裂した線維輪が別の 組織となって(これを瘢痕化といいます)治癒するので、カイロ プラクティックによる脊椎矯正はもちろんのこと、整形外科で 行なう牽引療法や、鍼灸など、さまざまな保存療法(非観血的 療法=すなわち手術しないという意味)で治癒させることが可能です。

我田引水ですが、各種の保存療法のうちでも、カイロプラク ティックによる治療が最も効果が高く効率的であると我々は 考えています。というのは、椎間板ヘルニアでも、患部の 椎間関節が固着化しているので、その固着が徒手によって 直接的または間接的な関節矯正によって解消されることで、 椎間板にポンプ作用が働き、髄核が正常な前方位に 戻りやすいからなのです。

この場合でも、必ずしも患部を矯正するとは限りませんので、 誤解なきよう。しかし、乱暴な矯正を行うと、神経根への圧迫を 余計に強くする可能性がありますので、極めて慎重な治療が 要求されることは言うまでもありません。

特に線維輪に対して捻る力を加えると、その断裂をさらに 増悪させてしまうことがありますので、このような矯正は厳禁です。

整形外科を受診して「椎間板ヘルニア」という診断を下された方で、 治りが悪くて私の所へ来られた患者さんのレントゲンフィルムを 観察すると、ほとんどの例で腰椎の後方変位を伴っています。

また、良く訊いてみると、病院では、問診と簡単な検査で 診断を下されている例が多く、X線CT(これは最近ほとんど行われていない) やMRI(大きな磁石の中に入って身体の断面像を調べる方法)など、 いわゆる画像診断に基づいて診断されている例が少ないことから、 腰椎の後方変位が大きくて椎間孔(脊髄神経の通り道)を 狭くし、その結果として坐骨神経痛を起こしている例も、 「椎間板ヘルニア」という診断を下されている例が多いと 思われますので、話は少しややこしくなります。

もちろん突出型へルニアと腰椎の後方変位を併せ持っている方も 多いです。一方、脱出型ヘルニアと断片化のタイプは、 飛び出している髄核または椎間板や、椎間孔に入り込んでいる 椎間板の断片を手術によって摘出しない限り、神経に対する 圧迫状態を解消することはできません。

しかし、これらは、突出型に比べて発生率は低いので、 どうしても手術をしないと駄目な例は少ないはずです。 突出型と脱出型の発生比率に関する信頼できる報告は 現在のところ見あたりませんが、筆者の経験では、 病院で椎間板ヘルニアと診断された方で、カイロ プラクティックの治療で症状が解消している例がほとんどですので、 大部分が突出型であると考えています。


D.突出型、脱出型、断片化のタイプを
どのように判別するか?

ある種の体表反射や圧痛などを用いて、これらを区別することが できますが、これとて100%の確率ではなく、ある期間 (およそ3ヶ月)治療を継続して、治癒が思わしくなければ 手術を考えるという手順を踏んでいます。

病院で行う画像診断(MRIなど)でも、今のところ突出型と 脱出型は区別できません。両方とも脊柱管へ浸出した椎間板の 膨隆状態の像が得られるだけです。

さらには、腰部に全く異常が認められない人のMRI像を撮影したところ、 椎間板の膨隆状態(ヘルニア)が結構な確率で観察されているという、 最近の調査報告もあるようなので、果たしてこの画像診断が 確定的な診断法であるのかという疑問も発せられています。

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病院では、
(1)最初に投薬 消炎鎮痛剤:痛みと炎症をおさえる
筋弛緩剤:筋肉の凝りをとる
 消炎酵素剤:腫れを引かせる
 理学療法(牽引や温熱、低周波通電)
を行ない、これでだめなら、

(2)硬膜外ブロック(脊髄神経周辺への麻酔注射)
これでも駄目なら

(3)神経根ブロック(脊髄神経そのものへの直接的な麻酔注射)
それでも駄目なら


*下肢の麻痺症状が出ている
*膀胱直腸障害(排便や排尿の障害)が出ている
*痛みがあまりにも強い
*患者さんの仕事の環境や家庭環境の都合で、
長い期間をかけて保存治療を行なうだけの時間的な
余裕がないなどの条件を考慮して、最後に

(4)手術

という段階を踏んでいるようですが、これも基本的には、 「いろいろやってみて効果がなければ手術」という考え方です。

手術に成功しても、手術で摘出したとなりの椎間板が、 再びヘルニアを起こす確率が高いようです。最近の統計では どうか知りませんが、筆者が教わった整形外科医の話では、 隣接する椎間板のヘルニア再発率は3~5年後で50%という ことでした。

その医師いわく「若い医者は切りたがる。 経験を積んだ医者は再発率が高いことを知っているので、 あまり切りたがらない」そうです。

でもこれは、結果的に多数の患者による経済的負担とヘルニアの 再発という苦痛の代償として判明した事実であるということを 忘れてはなりません。

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