医師 ヒポクラテス著
Physician Hippocrates


英訳:W.H.S.Jones (1876-1963)
「HIPPOCRATES」 VOL. II 1923
Loeb Classical Library
邦訳:前田滋 (カイロプラクター:大阪・梅田)
( https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-physician.html )

掲載日 2013.11.30

英文サイト管理者の序

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。


1.
医師の尊厳に要求されるのは、健康的な風貌と、ふっくらした体つきである。というのも、一般大衆は、卓越した身体の持ち主でないと、他人の世話などできないと考えているからである。そこで、医師は身ぎれいにし、着衣をよく整え、芳香を放つ軟膏を、それとなく身体にすり込んでおく。病人たちは、これらの事を喜ぶので、医師はこのことに気を配らねばならない。

心の持ちようにも配慮するべきで、寡黙なだけでなく、規則正しい生活を送るように心がけるべきである。このようなことが評判を高める上で大切なのである。医師は紳士的で、沈着で誰に対しても優しくあらねばならない。差し出がましく、出しゃばりな人は、たとえ非常に便利であっても軽蔑される。

自身で考えた自由な処置についても考慮するべきである。同じ患者に同じことを行なうにしても、めったにしないことが評価されるのだ。容貌に関しても、厳粛であっても冷酷な顔つきであってはならない。冷酷な顔つきは傲岸で薄情な印象を与えるからである。一方、意味なくへらへら笑う人や過度に陽気な人は下品と見られるが、この下品というのは特に避けねばならないことである。

全ての社会的交際において、医師は公平であらねばならない。公平であることが大いに役立つはずである。医師と患者の関係も親密になる。事実、患者は医師に自分の身を委ねるし、医師は常に婦人たちや若い女性、はたまた数々の高価な持ち物に囲まれることになる。従って、医師はこれら全てのことに自制を持って接しなければならない。医師たるもの、身も心もそのように心がけるべきである。

2.
医術に上達するための訓戒としては、最初に何を教えるかをまずもって考えねばならない。

おそらく初心者が学ぶべき事は診療所内で行なう処置である。最初に適切な場所を決めねばならない。すなわち風が吹き込まず、邪魔が入らず、日光や明るさなどが障碍とならない場所である。照明については、処置している人にとっては明るくするべきであるが、患者に障碍とならないようにすること。時には光によって眼に障碍が出ることがあるので、上記のようにして常に明るさを調節すること。照明は次のように整える。すなわち、患者の顔に直接光が当たってはいけない。視力が弱いとさらに妨げとなるゆえ。眼を病んでいる人には、どんなことでも障碍となるのであるから。照明の準備は以上の通りである。

さて椅子は、医師と患者ができるだけ同じ高さになるように調整し、双方に便利なようにする。

外科医は、自分の器具を除き、青銅の使用を避けるべきである。そのような器具を使用することは、ばかげた見せびらかし以外の何物でもないと、私には思える。

患者のための清浄な水を携行すること。また、清潔で柔らかい消毒綿を用意しておく。眼のためには亜麻布を、外傷のためには外科用の海綿状のものを。というのも、これらは、それ自身で充分役立つと思えるからである。

全ての器具は使いやすい大きさ、重さ、精密さのものを用意すること。

3.
医師が使用するものは、全て丁寧に取り扱うように気をつける。特に患部に用いる包帯や薬剤、傷口に当てる亜麻布、湿布など。これらは患部に非常に長い時間当てられているので、それらを取り除いた後は患部を短時間だけ水に浸けて冷やしたり、洗滌する。そして何か行なう時には、その程度を考慮すること。使用程度の強弱は適正でなければならない。それを誤ると、結果に大きな違いが出てくる。

4.
患者に有益な正しい包帯の巻き方がある。次の二通りの方法が最も有益である。一つは必要な部位を締めつけるやり方で、もう一つはゆるく巻きつける方法である。季節の時間に応じて、いつ包帯をするか、いつしないかを考慮する。そうすれば、患者もまたさまざまな状況に応じて、どちらにするべきかを理解するだろう。

見栄えのよい派手な包帯は何の役にも立たないので避ける。この種のものは悪趣味で、単なる見世物であるゆえ。またこれはしばしば患者にとって有害となる。患者はきらびやかなものより効果のあるものを求めているのである。

5.
切開したり焼灼する外科手術においては、操作が早いか遅いかが、それぞれ意味があるので、等しく重要である。

一ヶ所の切開で済む手術の場合には、素早く行なう。概して患者は痛みに苦しんでいるので、苦しむ時間をできるだけ短くするべきで、素早く切開すれば、痛む時間も短かくて済むからである。

しかし、何ヶ所も切開する必要がある時には、ゆっくり手術する。間を置かずに手術すると痛みが強くなり、長引くからである。一方で、休止を入れると患者の痛みも休止するようになる。

6.
これと同様の原則が器具の使用に関しても適用される。メスは、先端の鋭いものと幅広いもの二つを薦めておく。しかし、全ての場合で無頓着に使用してはならない。

身体の中には、血液の流れの速い部位が数ヶ所存在している。そしてその部位は流れを止めるのが難しい場所である。例えば、静脈瘤からの血管とその他数ヶ所の血管がそれである。これらの部位を切開する場合には狭くするべきで、そうすれば出血はあまりひどくならずに済む。しかし、このような部位からの瀉血は、時には有利な場合がある。

危険でない部位で、しかも血液が薄くない部位では、幅広いメスを用いる。そうすれば血液がうまく流れ出す。そうしないと全く流れ出ない。また、自分の思い通りの手術が達成できないのは非常に不名誉なことである

7.
吸角は二通りのものが有用である。表面組織からかなり深いところに体液流が留まっている時には、吸角の円形の口が狭く、器具自体はあまり膨らみが大きくなく、取っ手は長く、ただし重くないものにするべきである。この形状の吸角を用いると、漿液を真っ直ぐに吸い寄せるので、散らばっている漿液を表面組織までうまく吸い寄せることができる。。

痛みが表面組織まで拡がっている場合には、円形の口が大きいもので、他の部分は同じ形状の吸角を用いるべきである。この形状であれば、かなり広範囲の部位から病因物質を吸角に吸い寄せられるのが判るだろう。広範囲に組織を吸い寄せるには、吸い口が大きくなくてはできない。

吸角が重いと、上層部を圧迫するのはもちろんだが、一方で除去すべき体液はむしろ深部に押し下げられ、そのためにしばしば病巣が奥に残ってしまう。

体液の流れが遮断されて表面からかなり深いところに留まっている時には、吸い口の広い吸角を用いると、他の組織から病因物も共に吸い寄せられる。そして深部から集められた漿液と共にその場所(すなわち表面組織)から体液が吸い寄せられる。その結果、病因物質が残され、無害なものが取り除かれることになる。

どんな大きさの吸角が有効であるかは、それを当てる体部によって判断する。乱切りを行なう時には、血液を深部から吸い寄せねばならない。これは、切開部の血液をはっきり調べるためである。

吸角によって吸い上げられた円形部は乱切りしてはならない。その理由は、表面組織の方が病巣部よりも大きく膨らむためである。

その部位には彎曲していて細すぎないメスを用いる。これは、流れ出る漿液の粘性が高く、濃厚なことがあり、切開するのがあまりに狭いと、切り口の所で漿液の流出が遮断される恐れがあるからである。

8.
腕の血管は結紮によって安定させる。多くの人の場合、血管を覆っている組織は、それに密着しているわけではないのだから。組織は滑りやすいので、両方(組織と血管)を切開すると、別々の場所が切開されることになる。そして血管が膨らみ、そこが覆われているので血液の流出が妨げられる。そのために多くの場合、膿が形成されることになる。実際、このような処置は二重に有害である。切開された人に対する痛みと、切開した医師に対する多大な悪評である。同じこと(結紮の使用)が全ての血管に対して推奨される。

9.
これらが手術に必要な器具であるので、初学者はこれに習熟しておかねばならない。歯科用鉗子や口蓋垂用の鉗子は簡単に使えるように思われるので、誰が使ってもよいだろう。

10.
腫瘍と病巣は主要な疾患に含まれるものである。腫瘍に関しては、消散させるのも、形成を防ぐのも、充分に熟達していないとできないと理解するべきである。そして腫瘍がある時には、それをできるだけ小さく表面に制限し、腫瘍全体にわたって体液密度が均一になるようにするのも、充分熟練している必要がある。

体液密度が不均一であるなら、腫瘍が破裂する恐れがあるので、治療しにくくなるからである。そして、腫瘍全体は化膿させて均一に熟させるべきで、熟す前に切開したり、自然に破裂させたりしてはならない。腫瘍を均一に熟させる方法については、他の所で論考した。

11.
腫瘍の進行には四通りあるように思われる。一番目は深部に進む瘻管性で、表面組織の下方にあり、内部が空洞になっている。二番目は過剰な組織が表面上に形成される。三番目は横に拡がるタイプで、これはヘルペス様と呼ばれている。さて四番目であるが、これだけが自然な進行型であるように思われる(前田注;四番目の具体的な説明が記述されていない)。

これらの腫瘍は組織に生起し、全て同じ凝固経過で進行する。そして腫瘍の徴候や処置の仕方、凝固したものを溶解させる方法については他の所で説明している。

これらの腫瘍の徴候である隆起、陥没、横への拡散に関しては、他のところで充分述べておいた。

12.
湿布に関して。亜麻布の包帯を薬剤と共に病変部に用いる必要があると思われる時には、薬剤を塗布した亜麻布を患部に密着させ、その周りを湿布で覆う。このように湿布を用いるのは術に適した方法で、非常に多くの症例に効果がある。患部の外側に当てた薬剤の効果は病変部にも有効であるように思われるからである。そして亜麻布は患部を保護し、湿布は患部を外側から支えている。湿布の使用法は以上の通りである。

13.
以上のようなことを、それぞれ何時使用するべきか、これまでに説明したことの適性をどのように習得するべきかについては、説明を省略した。これらの主題は医術を実践することの範囲を超えており、すでに医術にかなり習熟している者にふさわしい主題であるので。

14.
これに関連して、矢を引き抜くことに関する戦場での怪我の手術がある。街場の治療では、このような事例はほとんどない。市民の争いや戦闘などというのは、一生のうちで非常にまれなことであるゆえ。実際、国外に派遣される軍隊では、このようなことは非常に頻繁に、しかも続けて発生するものである。従ってこの種の手術を目指す者は軍隊に入り、国外遠征に従軍する必要がある。このようにすれば、この種の治療に上達するだろう。

これらのことに関する、さらなる技術的側面と思われることはすでに説明されている。身体の中に武器が埋まっている徴候を理解することは、この医術およびこの種の外科手術の最も重要な要素である。これを理解しておけば、怪我をした人が適切に手術を受けていない場合でも、見過ごすことはないだろう。これらの徴候に精通している者だけが、適切に仕事をこなせるのである。これに関する事項は、全て他の論考で説明している。

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