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SCRとPUT(負性抵抗素子)
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A: サイリスタ構造

ON-OFF状態を切り替えることのできる3っ以上の接合を持つ半導体素子の総称。


1: PNPNダイオード(ショックレイダイオード)

PN junctionが 3っある素子でA-K間に高抵抗を介して+/-の電圧をかけると

 J1:順バイアス
 J2:逆バイアス
 J3:順バイアス

になります。 通常のダイオードと異なりJ2がN,Pの並びだからJ2は 逆バイアスになる。

Trの場合は B-E順バイアス、B-C逆バイアスで使用し、 エミッタからベース領域に侵入したキャリアはB-Cが逆バイアスなので コレクタからはキャリアが侵入できないため楽々コレクターに排出される わけで、単純に考えれば上記の構成でも電流は流れそうに思います。

実際、印加電圧を上げていくと電流は流れ始めるのですがこの構成ですと印加 電圧のほとんどがJ2の逆バイアスされた junction(すなわち抵抗値の高い部分)に かかってしまい結果J1,J3には電圧があまりかからない形になる為、供給されるべき キャリアが増えることができず電流の上昇カーブは減少します。 (順バイアス部分に印加電圧があまりかからないという部分がポイントだと思います。)

減少しますが0になるわけではなく、またカーブが下降するわけではありません。  これは逆バイアスによりJ2junctionの幅が広くなる為アーリー効果が働いた分 だけJ1,J3の junction幅が狭まるための電流増加です。

さらに電圧を上げていくことにより、逆バイアスされたJ2のjunctionはブレークダウン を起こし、J2の前の N領域に電子が、J2の後のP領域にホールが、大量 に蓄積され J2の電位を下げる方向に動くため負性抵抗が表れます。


印加電圧上昇に対する A-K間電圧(V)と電流の関係

負性抵抗特性が現れると印加電圧の上昇に対して電流は増えるが抵抗値が低下したた分、A-K間の電圧降下は小さくなるので上図のような電流、電圧特性となる。

上記のグラフはSCRの特性グラフでもよく見る形ですが一瞬わかりにくい図のように見えます。すなわち図ではVの値が印加電圧の上昇に対してある時点から逆方向に動いています。 これは上記のように A-K間の電圧降下が下がると考えれば納得できるでしょう。

また上図から再度、電圧Vが上昇するまでの区間の電流上昇は小さく、再度上昇してからは電流が急激に変化しています。このような変化を電流制御形負性抵抗特性と言うそうです。

つまりJ2の電位が下がる(つまり抵抗値が下がる)と印加電圧が J1,J3にもかかるように なりJ2も順バイアスになり大きな順バイアス電流が流れることになります。 (基本的なキャリアの流れは変わらないがJ2付近にキャリアが蓄積することでJ2が順 バイアスされるということが重要)

* 重要なのは印加電圧がかかるのは各障壁にかかるのであってP,Nの領域にかかって いるのではないということ。 またキャリアの蓄積によっても電位がかかるということ 。これによっても障壁が緩和されるということ。*



2: SCR (Silicon Controlled Rectifier)

PNPNダイオードのP2の部分に第3の電極Gateをつけ、それから流れ込むゲート電流に よってブレークオーバー電圧を制御できるようにしたもの。


ゲート電流Igを流すとP2にホールが供給され、これが n1,p2接合でなだれの種となり 低い電圧でブレークオーバーする。 Igが大きいほどブレークオーバー電圧Vboは低く なる。



B: UJT

ここで本題のPUTについて考えます。
PUTというのは UJT(ユニジャンクショントランジスタ)をプログラマブルつまり負性 抵抗が生ずる電圧値を外部から設定できるようにしたものだそうです。  以下にUJTの構成図を示します。

* UJTの構成


* 図解電子デバイスより

原理的にはPN接合のdiodeの P端子にN型半導体の抵抗素子をつないだかたちです。 2っのベース間に電圧を加えると半導体内に直線的な電位分布が生じます。 エミッタ電位がN型半導体内の電位より低い時はPN diodeは逆バイアスですが、Vinを上げてエミッタ電位がN型半導体内の電位より高くなるとdiodeは順バイアスになり、ホールがN型半導体内に注入されるため、E - B1間の抵抗が下がる。

このためN型半導体内の E-B1間電位は下がり、diodeはますます順バイアスされ電流が増加するのでこの区間は負性抵抗となるというわけです。

電流がさらに増すと電流による電圧降下の方が優勢になり正抵抗となります。 ということらしいのですがこれは半導体というかPN junctionの本質をついた作用を利用しているわけです。

すなわち通常の抵抗体は電流の元となる電子の密度が電流が流れている時もいない時も電流値で変化しないわけですが、PN junctionにおいては 順バイアスとなる印加電圧は障壁電位を緩和させ、それによって電流の担い手である少数キャリアが増加、その増加 つまり担い手の増加が電流を増加つまりは抵抗値を下げる元であるわけです。


PNPN diodeとUJTの動作を見てみるとPNPN diodeの方は逆バイアスによるブレークダウンにより負性抵抗特性が生じるようですがUJTの方はそうではないようです。

両者をプログラマブル化した物が SCRとPUTということのようでSCRとPUTは2個のトランジスタで構成することができ両者は端子の引き出し方が違うだけで基本構造は同じです。

ただ VCOのような発振動作に使用する場合は逆バイアスによるブレークダウン現象を利用するわけではないので明らかに上記の UJTをプログラマブル化したPUTとしての使用法ということになります。

ただKORG typerの VCOは端子の引き出し方が SCR接続と言うだけですので使用目的からすれば SCR VCOではなくPUT VCOと言うのが正解です。 また単純に 2Tr.で構成した PUT/SCRに対して上記のPNPN diodeの動作の項のように印加電圧を上げていっても上記のような特性はシミュレータでは出ません。


SCRは

 J1:順バイアス
 J2:逆バイアス
 J3:順バイアス

の状態から J2がブレークダウンすることで J2が貫通するわけですが、VCOの項で紹介している2TrのSCR接続では3っあるPN接合のうち最後にJ2が逆バイアスから順バイアスになり

 J1.... Q1Vbe: 順バイアス
 J2.....Q1Vbc: 順バイアス
 J3.....Q2Vbe: 順バイアス

になることによって 2TrのC-E間が貫通するということであって 負性抵抗はC-E間の飽和作用によってもたらされます。 実際上は Trを飽和領域で使用すると C-E間の抵抗が下がるということを利用するわけです。


<2019/05/26 rev0.1>
<2017/09/14 rev0>