OTA

OTAとは Operational Trans conductance Amplifierの略で入力信号が電圧なのに対して出力信号は電流(定電流出力)であるアンプでそのコンダクタンス(出力電流/入力電圧)を可変できるアンプです。 その昔は TCAなどとも呼ばれていました。 (Trans conductance Amplifier) 通常は帰還をかけないで使用しますがVCRとしての使用、すなわちVCFの1素子としての使用などでは帰還をかけます。(*0)

いろいろな構造のOTAが存在すると思いますが有名なものには CA3080, CA3280, LM13600, 13700, BA6110などがあります。 この中で 3080, 13600,13700は基本的部分がほぼ同じような構造をしています。 3280は構造が異なり、BA6110はこの3280の構造を模したもの(*1)となっているようです。

OTAはanalog synthにおいて重要な Key deviceです。 OTAがなくともanalog synthは構成できますがanalog synthの発展にはなくてはならないdeviceでした。 SSM/CEMのICもVCA/VCF chipはOTAを中心として構成されているでしょうし差動回路構成のVCAはOTAの原点たるものですし、一見OTAとは異なるような diode ringも動作は OTAと酷似しています。 なにより analog synthは voltage controlで動作する電子回路なのですからそれを平易に実現する為にはなくてはならないものです

 *0: 定電流出力ではこまる場合。---> OTAのVCR接続
 *1: 少なくとも内部等価回路のブロック図レベルではOTA部分は同じ構成です。


上図に 3080、13600 タイプの OTAモデルを示します。 


4個のカレントミラーと 1組の差動回路で構成されており基本的にはgm可変方式のanalog 乗算器です。 入出力端子は +,-の差動電圧信号入力と 制御電流入力 Iabc、電流出力端子、+,-電源端子で構成されます。

* 上図で差動回路の左側のiniputが (-) 端子であることに注意。

差動回路の電流関係は定電流源のI4によって支配されますが、このI4はカレントミラー CM3から得られる定電流源なので外部電流Iabcにより支配されます。 差動回路の負荷がCM1とCM2なのでそれぞれのカレントミーラーについては差動回路に流れる電流側のI1,I2が支配的でそのコピー電流がそれぞれI5とI6でそれぞれがカレントミラーCM4に印加されます。 CM4についてはI5が支配的なのでI8は必然的にI5と同じ変化にならなければなりません。

しかし出力に何もつながなければこれが実現できません。 出力に何かつなげば(たとえばGNDに)そこからI6だけでは不足分の電流を取り込み、多ければ出力に差分を排出することでI5=I7=I8を実現しout putの電流変化としては定電流のpush/pull動作を行うことになりそれが入力電圧(IN)に対する出力電流となります。 この動作によってカレントミラーの両側の電流変化は同じになりカレントミラーとして正常動作となります(*1)。 当然のことながらこの出力電流の大きさの元(gm)はIabcの値を反映したものになります。 定電流源の不思議を利用した動作ですね。(*2)

出力近くのカレントミラーCM4においてI2 + - (I1) という 差動増幅ベースのVCAにおける後段のOP AMPによる差動AMPの代わりの動作をさせているわけです。(この場合電圧でなくて定電流出力ですが)

*1: 出力に何も接続しなくても実はカレントミラーとしては両側の電流は同じ変化になる。
  詳細は以下の" Ioutに負荷をつながない時 "項目を参照。
*2: そもそもトランジスタのIcがVbeに依存した定電流性を示すことが不思議な反応です。


より単純な構造のOTAとしては以下のような回路になります。 基本動作原理は上記と同様です。  この場合は左側のVinがVinがプラス増加でIoutは排出(+Iout)、Vinマイナス減少でIoutは吸い込み(-Iout)になります。 SSM2040 VCFの core部分もこれに準じた構成のようですが。 この回路においては制御電流の変化に対するIoutの直線性が制御電流の上昇とともに悪くなるとかいくつかの欠点があるためそれを解消する形で始めにあげたOTAモデルはできています。 ということはSSM2040などはこの欠点の影響を受けるわけですがそれが味になって評価されているのでしょうか。 


SSM2040と似た構成のSSM2024(VCA)の等価回路が data sheetに記載されています。


* SSM2024(1/4)等価回路



* OTAに関する文献は海外の雑誌等のアーカイブや国内の書籍にもいくつかあります。

* 国内
 1:電子展望(1976?)
 2:電波科学(エレクトロニクスライフ)(198?)
 3:アナログICの機能回路設計入門 (青木英彦) 4typeのOTA
 4:アナログ回路の設計・製作 (青木英彦) 13600
 5:トラ技(1994/02) 13700
 6:トラ技(1997/10) 13700

* 海外
 01:Musical Engineer's Handbook CA3080
 02:Electro Music Circuit CA3080/CA3280/13600
 03:Elektor Electronics(1975/09) CA3080
 04:Elektor Electronics(1982/04) 13600
 05:Elektor Electronics(1982/07/08) 13600
 06:ETI (1988/01) 13700
 07:Electronic Design(1976/09) discrete
 08:Nutes & Bolts (2003/04/05) 13700
 09:RADIO-ELECTRONICS(1988/05/07) CA3080
 10:Mapllin (1989/06/07) 13700
 11:Polyphony 1980(01/02) CA3280
 12:ETI CA3080 curcuit (1979/04)
 13:Studio Sound ..VCAs (1989/06..09)

その他
 各メーカーの DATA Sheet等
 RCA Linear IC App. ICAN-677

国内編の3:がとても詳しいと思いますしOTAに限らずカレントミラー、差動回路、バンドギャップ電流源等、analog機能回路の解説としてはこの本は一番詳しいように思えます。 またこの本の著者が参考文献にあげている"アナログ集積回路設計技術(上)"もとても有名な本だと思います。また13:はCA3080の他にPro AUDIO用のDBX等のComp.等のVCA回路が多数掲載されています。


詳細は上記の文献を参考にすればいいと思います。 基本的な動作原理は上記に示したものですが、以下に具体例と計算式等を示しておきます。


* 定電流値の変化


1: +,-入力を同じ値にしてIabcに電流を流入した時の電流の流れを考えます。

Iabc端子がある current mirror CM3の I3には Iabcに入力した電流と同じ値の電流が流れます。 そうすると入出力関係が 1:1の構成のcurrent mirrorなのでI4=I3になります。

I4は差動Transistor pairの共通エミッタ電流なので、 +,-入力端子電圧が同じという条件からI1=I2となりこの値は I4/2になります。 I1,I2は CM1, CM2のそれぞれ一方の電流なので結局 I1=I2=I5=I6=I7=I8となります。

ここでIoutの出力端子に抵抗負荷をつないだとします。 はたして出力電流はいくらになるでしょうか。 出力電流に関与するであろうI6はCM4に対しての電流供給元になるのでCM4の一方の電流I7と同じだけ I8が定電流として流れなくてはならないという条件からI6はそのままQ7のコレクタに流入してIoutには電流が一切流れないという一見不思議な定電流源特有の反応になるわけです。

つまり +,-入力端子が同電圧の時は出力電流が0になります。


2: +入力端子にプラス電圧を加えた場合を考えてみます。

+端子と-端子に電位差があるということは Qと Q0のtransistorの dynamic resistanceの値に違いが生じるということなので両者の抵抗値の比で定電流源I4の電流が分流します。

かりにIabc=I4=1mAの時、I2=0.6mA, I1=0.4mAになったとすると I5=0.4mA, I6=0.6mAとなりCM4のI7,I8には同じ量の電流が流れる必然があるので結局、I6がQ7のコレクタ電流 0.4mAと負荷に対して0.2mAの電流吐き出されるというように分流してバランスします。

すなわち出力電流Ioutは +0.2mAとなるわけです。


3: +入力端子にマイナス電圧を加えた場合を考えてみます。

Qと Q0のtransistorの dynamic resistanceの値の関係が逆転しますので、かりにIabc=I4=1mAの時、I2=0.4mA, I1=0.6mAになったとすると I5=0.6mA, I6=0.4mAとなりCM4のI7,I8には同じ量の電流が流れる必然があるのでこんどは Q7のコレクタに流入する電流がI6だけでは不足するので GND--負荷 --Q7コレクタ間にマイナス電流 0.2mAが 流れQ7のコレクタに吸い込まれることでトータル 0.4mA+0.2mA=0.6mAとなってバランスします。

まさに定電流源の不思議といったところです。

このように入力の+,-端子の電位差によって出力電流Ioutは吐き出し、吸い込みのpush-pull動作で外部負荷に対して電流を供給します。 つまりIoutに抵抗をつないだ場合原理的には入力電圧が0Vを中心に動作すれば出力も0Vを中心として電位が変化するわけです。

またこれがOTAの真骨頂なのですが 電流Iabcは差動増幅器を駆動する定電流I4を間接的にコントロールしているのでIabcの変化はI4の変化となり結局これは出力電流Ioutの倍率をコントロールすることになるのでこの回路はanalog乗算器として機能するわけです。


* 計算式

上記回路の電流と電圧の関係を考えます。

Q,Q0で構成されている差動回路は通常の差動増幅と同じなので、

Q,Q0のベースに印加される入力電圧の差Vinにより Q,Q0のコレクタ電流は

  Q の Ic--> I1=Iabc/{1+exp(-Vin/Vt)}
 Q0 の Ic--> I2=Iabc/{1+exp(Vin/Vt) }

となります。
*: Vt=kT/q (熱電圧) 常温で26mV

各CM回路の入出力電流は1:1なので

 I1=I5
 I2=I6

となり最終的な出力 Iout=I2-I1=I6-I5

Iout=  Iabc / {1+exp(Vin/Vt)} - Iabc / {1+exp(-Vin/Vt)}

Iout=  { exp(Vin/Vt)-1  / exp(Vin/Vt)+1 }* Iabc ...(式A)

となります。 以下にそれらのグラフを示します。



* Iabc=1mAの時 +Vinを-200mVから+200mVまで変化させた時の I5, I6, Ioutの関係

I6-I5=IoutになるのでIout(黄色)は上記のような出力電流特性となります。

I6,I5は抵抗負荷の差動増幅と同じ最小電流が0、最大電流がエミッタ共通電流値の特性の曲線ですが、 出力電流は 最小-Iabc、 最大+Iabcの +/-出力となるため変化範囲が2倍になっています。

この為 +,-の入力端子の電圧差がない時は出力電流が0になるわけです。


* I5/I6/Ioutの波形例


*gm値

入力電圧に対する出力電流の関係が相互コンダクタンス(transconductance)  gmです。

この場合 gmはΔ(I6-I5)/ΔVinです。
僮6-I5というのは上図の通り僮6の倍の大きさですから、 I6-I5=Iabc/{1+exp(+Vsa/Vt)} *2ということになります。

よってgmは、

gm=Δ(I6-I5)/ΔVin
  =d/dx{ 2*Iabc/(1+exp(+Vin/Vt)}
  =(-2*Iabc/Vt)*{{exp(+Vin/Vt)}/{(1+exp(+Vin/Vt)}^2}

展開して絶対値を取って

 (2*Iabc/Vt)* {{exp(+Vin/Vt)}/1+2{exp(+Vin/Vt)}+exp(+2*Vin/Vt)}

Vin=0の時の接線の傾きは Iabc/2*Vt となるので、上記カーブの直線性が確保されている 範囲での gmは

gm=Iabc/2*Vtとなります。  Vtは常温で26mVなの結局

gm=19.2*Iabc となります。 よって

直線範囲のIout(mA)=19.2*Iabc(mA)* Vin(v)  という関係式を得ます。

 * ちなみに Iabcは Amplifire Bias Currentの略です。
 * Vt = kT / q なので gm(増幅度要素)は温度の影響を受けます。

実際には直線に近似できる領域はせまいです。
Iabc=1mAの時の直線カーブと実際の Ioutのカーブとの差を以下に示します。

Vin=26mVで8%ほど入力波形が圧縮されて歪んでいます。

入力電圧直線カーブ Iout(*1) 比率(*1)
1mV 19.2uA 19.2uA100%
2mV 38.4uA 38,4uA100%
4mV 76.8uA 76.7uA99.9%
6mV115.2uA 114.9uA 99.7%
8mV153.6uA 152.6uA 99.3%
10mV192.0uA 190.0uA 99.0%
12mV230.4uA 226.7uA 98.4%
14mV268.8uA 262.9uA 97.8%
16mV307.2uA 298.3uA 97.1%
18mV345.6uA 334.7uA 96.8%
20mV384.0uA 366.7uA 95.5%
22mV422.4uA 399.4uA 94.6%
24mV460.8uA 481.3uA 93.6%
26mV499.2uA 462.1uA 92.6%
30mV 576uA 520.5uA 90.4%
40mV 768uA 646.6uA 84.2%
50mV 960uA 744.9uA> 77.6%
60mV 1152uA 819.1uA 71.1%
80mV 1536uA 911.8uA 59.4%
100mV 1920uA 958.2uA 49.9%

*1:計算値(上記(A)のOTAのIoutの計算式)

Vin=100mVを過ぎるとIoutはほとんど飽和状態に近くなり、値はIabcに近づきます。


* OTAのVCR接続



* Ioutに負荷をつながない時

定電流源の不思議という部分の例として、Ioutの出力端子になにも負荷をつながない場合の 電流の変化について考えてみます。


Iabc=1mAの時の I5,I6,I7,I8,I9,I10, I2の電流特性を以下に示します。


* 橙: I9、I10
* 黄: I7、I8
* 白: I5(I1)
* 桃: I2
* _: I6(矢印および以下のグラフ参照)



1: +Vin端子がマイナス電位の時

I1=0.7mA、I2=0.3mAの時を例にとって考えると、CM1,CM2の相手側の電流 I5, I6はそれぞれ0.7mA,0.3mA流れる必然があります。 Ioutに負荷がつながっている場合は両者の差 0.7-0.3=0.4mAの電流がが負荷から流れ込みバランスしますが、この場合は負荷がつながっていないのでI6の0.3mAはそのままQ7のコレクタ電流になります。

ところが Q8,Q10のベース電位は同じにならなくてはならない必然から I5の電流はQ8のコレクタ通過後エミッタに0.5mA,ベースに0.2mAと分流することになり分流した 0.2mAがQ10のコレクタに流入することで Q8,Q10のエミッタ電流が両者とも 0.5mAとなることで両者のベース電位は同じになり カレントミラーの出力電流もちゃんと同じになるというわけです。

上図で+Vin端子マイナス区間は I7,I8は0.5mA固定で変動しません。


つまりこの場合、Q8の トランジスタが飽和領域で動作することで カレントミラーの基本性質が成立するわけです。


* Q8の VbeとVbcの関係

上図において Vin<0時は Vbc>Vbeとなり飽和動作になる。
Vin>=0では Vbe=Vbcとなる。


2: +Vin端子,-Vin端子=0Vの時

I1,I2,I5,I6,I7,I8,I9,I10のすべての電流が同じ値になりつりあっています。 元々 Vin=0Vでは負荷があっても負荷には電流が流れないわけですから負荷があっても無くても同じ反応です。


3: +Vin端子がプラス電位の時

I2=0.7mA, I1=0.3mAの時を例にとって考えると、本来 CM1,CM2の相手側の電流 I5, I6はそれぞれ0.3mA,0.7mA 流れるはずですがグラフを見るとI6は I5と同じ値の 0.3mAになっています。

この為CM4に対しては I7,I8が同じ値となり カレントミラーの基本性質は成り立ってはいます。 それでは I6がI5と同じになってしまう原因はCM2にあるということで CM2周りを見てみます。

CM2の Q3のコレクタ電流I2は差動トランジスタQ0につながっていて電流値は0.7mAになっています。 グラフを見ると CM2に流入している電流 I9,I10はそれぞれ0.5mAとなっていて カレントミラーの吸い込み側は正常に機能しています。

結局この場合もQ3のトランジスタ飽和領域で動作することでQ3のエミッタ電流が 分流してベース電流0.2mA、コレクタ電流0.3mAとなるので I2は 0.5mA+0.2mA=0.7mAに I6は0.3mAになるわけです。

上図で+Vin端子プラス区間は I9,I10は0.5mA固定で変動しません。またI6はI5と同じ動きになります。



* Q3の VbeとVbcの関係

上図において Vin>0時は Vbc>Vbeとなり飽和動作になる。
Vin<=0では Vbe=Vbcとなる。


カレントミラーを構成する素子がトランジスタなので基本性質としてベースに加わる電圧が同じならエミッタ電流が同じにならなくてはならないことと トランジスタのコレクタ電流の定電流という基本性質があって定電流の性質が破られる条件としてはトランジスタ飽和動作というのがあるわけで基本性質に沿ったバランスメカニズムが働くわけです。



<2021/01/12 rev0.5>
<2018/09/30 rev0.4>