=================== * Diode Ring (bridge) ===================
KORGやYAMAHAの初期のVCF/VCA回路に使用されたdiode ring (bridge) による電圧制御可変抵抗器について考えます。下図はその基本構成です。 この回路はdiodeを可変抵抗として利用するのが特徴ですが、その対称的構造により audio信号系に対して差動増幅回路の電流取り出し的な動作(逆位相の電流を差動AMPで受けて1っとする受け方)が可能となり、
制御電圧の変動に対する Audio信号源側でのDC offset変動を軽減することができます。
またaudio信号に対して
<左の回路>
<右の回路> 左の回路の方がシンプルですがこの回路では制御電圧(ON/OFF信号)の直流分が出力に出てきてしまいますし直流を入力にすることはできません。右の回路はその欠点を補ったものです。ANALOG SWは単に信号のON/OFFを制御するものですが電圧制御可変抵抗器として機能させるためには制御信号を連続可変させます。 |
Diode Ring
上図に VCFに使われる diode ringと VCAに使われる diode ringを示します。 Vsig印加、Vcvの値が上昇して各diodeが活性化していくとOutポイントに電流が流れ始めます。Vcvが大きくなるほどdiodeの微分抵抗は小さくなるので出力電流は増えていくことになります。この場合Vcvはdiodeに対するバイアス電圧 となりそこにVsigが重畳される形になります。この回路はdiodeという2端子の素子を使っていますがAUDIO信号源と制御信号源入力が明白に分離されています(*1)。
*1:回路図上は分離されているように見えるが動作上は分離されていない。
基本原理
上図に diode ringの基本原理を示します。 入力 AUDIO信号 0V時各 diodeには CVの印加で発生した電流が流れ対応した動作点にバイアスされています。 * 制御電圧CVPに印加される電圧とCVMに印加される電圧は同じ値で極性を逆とする。 上記回路は 2っD1,D3 , R1の回路と D2, D4, R2の回路に分割して考えると、差動回路の差動ペア+定電流源によく似た回路であることがわかります。 すなわちRに流れる電流を簡易定電流源とみなし diodeの両端子を トランジスタのベース、エミッタとみなせば diodeに流れる電流はコレクタ電流、コレクタ端子がVccもしくはVeeにつながるかわりにここでは GNDにつながり上記2回路は特性の逆な回路。 ここでは上記の簡易定電流源を定電流源とみなして考えます。 トランジスタの差動回路との違いは Tr.はVbeの変化に対してIcの変化が主体になるためIbのことはあまり考えませんが、diodeの場合はIbに相当する部分がIcと同様の役割となるということでしょうか。
AUDIO信号0V時、各diodeに流れる電流値を5とすると定電流源には10の電流が流れこの10と言う値はAUDIO信号の印加では変動しない、また上記回路において AUDIO INと OUT端子は2っの回路で共通の端子であり、AUDIO信号が0V時、 両ノードに流れる電流は両回路での電流値に同じ方向が異なる電流によって相殺されて0であるということです。 D2、D4とD1,D3のペアdiodeに AUDIO信号として印加される電圧は差動ペア回路と同様に両者の微分抵抗の値によって分圧比が決定され、ペアdiodeにおいて電圧方向が反転しているので両者に対しは逆相になります。 さらにはRによる電流を定電流源とすればdiodeに流れる電流の分流比はdiodeの微分抵抗値によって決まるということです。
上図にAUIDO信号をプラスに上昇させた時の電流の変化を示します。 D1とD2の交点にAUDIO信号が印加されているのでD2の両端子電圧は上昇、逆にD1の電圧は下降します。 よってD2に流れる電流が増加するのでその分D4に流れる電流が差動的に変化して低下します。 D1、D2ペアにおいてはD1電流が減り、D3電流は増加しこの変化量もD2、D4ペアと同様の関係になります。 この時のAUDIO OUTと INの電流は AUDIO IN=0V時+5-5=0で相殺されていたものがプラス方向では3増えて、マイナス方向では3減っているのでマイナス側は反転してプラス側に足したのが答えなので6になり、片側のペアdiodeの変化を2倍したものが出力されることになります。 これらの反応はPASSIVEな差動回路のようなものでそれらの回路でVCAは構成されるということでもあります。 差動回路ベースのVCAと同様、定電流源の電流値を変えることが VCAのゲイン、この回路の場合は減衰度を変えることになります。 さらに言うと差動増幅回路において出力を差動で取り出すためにはOP AMPなどの差動回路がもう一組必要になりますがこの回路はその要素も含んでいます。 ちなみに一般的なOTAにおいては差動回路に加えて4個のカレントミーラーを使用して最終出力がpush-pullの定電流出力になりますがこのdiode ringでは制御回路を除けば単純なdiode 4個の回路で push-pull動作を実現しています。 大元がシンプルなのでいかにCV制御回路をシンプルにできるかもポイントなのかも知れません。
Diode Ring (VCA core)の電圧/電流変化のグラフ * diode ring (VCA) 電流特性 Vsigが大きくなると出力電流は飽和に向かいます。 I3とI4は逆相になりますが、出力電流は方向がI3と同相I4の変化は出力電流方向としてはI4を反転してi3に加える形になります。 これはAUDIO信号を中心に考えた直列回路が2系統あると考えれば当然でOTAの出力などとも同様の反応。 上図の緑のカーブが出力電流特性。 それにしても差動回路を使ったVCAや OTAの特性によく似ています。
* diode ring Diodeに印加される電圧特性 Vsigが分圧されdiodeに印加される時、順方向に電圧がかかる方のdiode は低抵抗、逆方向電圧がかかる方のdiode は高抵抗になるので分圧比は高抵抗の方が大である。 Vsigが0Vより遠くにいくにしたがって微分抵抗の比率は大差がつくのでほとんど電圧は逆方向側のdiodeにかかるため順方向のdiode D2に分圧印加される電圧変化は微小になる。 すなわち逆方向側のdiodeが高抵抗 + 正方向が低抵抗の直列回路になり抵抗の負帰還により順方向側のdiode に印加される電圧の増加は少なくなりdiodeの電圧変化は LOG特性に近くなり上記の電流特性においてVsigが0Vに近い区間ではリニアVsigが大きくなるにしたがって飽和へ向かう。 これは差動増幅の特性と酷似していますが一点の違いはAudio信号入力側のdiode D2に抵抗Rに流れる電流の増加要素がのるのでそれを発生するのに足りる電圧がD2に加算されるという違いがありD2とD4に加わる電圧は完全に対称ではありません。
* 電圧波形 AUDIO信号として SIN波を印加した場合、diodeの順方向を電圧/電流の正方向に取ると、Vsigの電圧が0から+上昇するとD1とD2の接点は上がるのでD1の両端子電圧は低下し逆にD2の両端子電圧は上昇し、 D1とD2の電圧変化は逆相になります。 また D1,D3の直列回路に印加される電圧とD2,D4の直列回路に印加される電圧は同じですが上記のように逆相関係となります。 よってここではD2側の直列回路側についてまず考えます。 D2、D4と抵抗の回路をよく見ると差動増幅回路の差動ペアと同じであることがわかります。 すなわちdiodeには増幅作用が無いもののTr.のB-E間と diodeの A-K間は同じ働きをします。 Vsigの変化は D2とD4の微分抵抗の比で分圧するということです。 この場合D2とD4の電圧変化も逆相変化となり、Vsigの+上昇に対してはD2の微分抵抗が低下し、この時D4に対しては逆相で電圧がかかるのでD4の微分抵抗が増大するため分圧比がVsigの変化で刻々変化しdiodeの印加電圧変化は VsigがLOG変換される形です。 D2,D4に繋がっている抵抗のdiode側の端子は電圧変動があるので電流変動が発生しますので定電流源のように制御電流が固定でなくなり、その変動分の電流はAUDIO信号側のdiodeのみに流れます。 よってD2の電圧の変化幅の方がD4よりも大きくなります。 D2,D4を流れる電流は電圧変化が基本LOG変化なので電流はほぼリニアな変化になりますが、 RとCVにより簡易定電流源が構成されるためdiodeのbias電流の2倍の値が制御電流でこれが定電流源に該当し差動ペアの電圧 - 電流特性に近い特性となります。 さらにこの回路は上下に対して差動ペアが2っつながった構造になっていますので上記の説明のように出力電流は I4の2倍すなわち I3+(-I4)となります。 上記のグラフは AUDIO印加電圧が大きい場合ですので出力電流は完全にリニアでなく飽和気味です。 これは通常の差動増幅特性と同様です。
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