ARP PWM回路の動作原理


* ARPの transistor PWM回路


この回路は差動コンパレータを基本とした回路にPWMを可能とするSAW波のレベルシフト回路で構成されています。 差動コンパレータは特殊な物ではないですが Q4のレベルシフト回路は数々の技がかくれた回路かと思われます。

LEVEL shift回路のみを抜き出した回路を以下に示します。


* SAW波のDCレベルシフト波形

SAW波に対して DCのOFFSET成分を重畳させて SAW波全体をLEVEL SHIFTさせる回路です。 OP AMPを使えば SAW波をコンパレータにかけ閾値をDCでコントロールすれば簡単にPWM回路が構成できますがTr.を用いた回路の場合両者を重畳するのに工夫が必要です。 単に 抵抗MIXするだけでは両者電圧が干渉してしまうので上記のように構成することでpulse width用のDCレベルを変えてもSAW波の振幅の大きさは変化しないように工夫されています。

Q4はちょっと変わった構成でコレクタ端子にSAW波を入れエミッタ端子にCVを印加しています。 上図において R8、R6の電圧降下はV3とV1によるPW CVによる変化を受けたコレクタ電流変化を反映したもののみで SAW波の電圧変化の影響を受けません。 また基本的に SAW波の振幅レベルも CV電圧(電流)の影響を受けません。


* 電流波形にSAW波の変化が伝達されていない

transistorの定電流性を利用しているのでコレクタに印加された SAW波の変化はR8、R6の電圧降下には反映されずR8とR6の分圧においてDC成分だけがシフトされた電圧変化だけがSAWSHFT電圧として現れます。  電圧変化が現れているのは Q4のコレクタ端子です。 よってR8とR6の分圧点にはR8の両端子間の固定電圧が 入力SAW波から引かれたものが発生しています。


棚型HP filterによるDCレベルシフト量補正回路

図中のC1の0.001uFの Cap.はR8とR6によって棚型HPFを構成しています。 これはどのような働きがあるのでしょうか。

低域でpulse幅を1%程度の最少にした時、高域では非常にpulse幅の存在時間は小さいため コンパレータのON/OFF時間以下になってしまい結果 pulse幅が 0%の DCになってしまうのをさける機能です。 すなわちpulse幅が小さい場合、高域になるにしたがってpulseの期間の時間を少しずつ延ばすというPWMの scaling機能ということでしょう。

上記の回路は棚型HPFですが実は filter機能は期待していません。 この filterの特性を以下に示します。


上図のように遮断帯域と言うかHPF特性のGAIN変化は10octaveで -5db程度ですし低域は一定GAINがありますのでfilterとしては利用していないということです。(*1) ではこの作用は何なのか?。 これは SAW波の DCレベルを高域にいくに従って微調整として上昇させ上記の scalingを実現する機能です。

マイナス方向のDCシフト量が印加されたSAW波に対してシフト量が少ないほどpulse幅は大きくなるのでDCレベルが上昇すればpulse幅は広がります。

ここで始めの説明では Q4が飽和しないと言いましたがそうであればR8とR6はSAW波に対しては抵抗体でないのでこの棚型filterは機能しないことになってしまいます。 その部分 はよくできた物で PW MANUAL を大きくしてpulse幅をせばめていくとするとコレクタ電流が増えるのでQ4はRの電圧降下で飽和し、飽和することによってfilter回路が動作するという仕掛けになっています。 逆に言えば pulse幅が広いうちはscaling機能が活性化しません。(なかなかすごい仕掛けだと思います。)

*1:さらにF特はSIN波に対してのものなのでSAW波に対してはさらに振幅変化は小さい。



上図は DC offset付きの SAW波(MIN=7.5V MAX=14.5V)を棚型HPFに入力した様子です。 SAW波の周波数によってSAW波の電流値でのshift levelが異なるのがわかります。 周波数が低い方が低い位置になります。 Cap.を通過した信号電流に対してはHPF効果が聞いて いますが HPFとLPF(89K)の合成電流となる(120K)の電流はHPF効果は軽減され棚型HPFの特性になるので HPF filterとしての効果はあまり無いので波形の変形は少ないです。


ACカップリング(HPF)で直流成分が除去できないケースを考えます。


DC成分付きの SAW波(MIN=4V MAX=8Vの例) を上記回路に印加した場合HPF出力には直流成分は出てこないはずですが初期状態ではDC成分に対して微分電流が流れ capacitorにはそれによる充電電圧が発生し入力の SAW波の DC成分とLPF側(抵抗)のDC分の積分値としての充電電圧がつりあえばそれ以降はcapacitorは直流を通さないという状態になります。

上記の例はCR回路の時定数にくらべて発振周波数の周期が十分早い場合の例です。  この場合DC成分の過渡反応を中心軸としてHPF成分とLPF成分の交流信号(SAW波)のDCレベルが変化して定常状態では HPF出力の SAW波はDC成分が消滅し0Vを中心とした振幅が +/-で一致する形になっています。

*: LPF成分が最少なので DC成分の充電電圧変化が明確に見えます。
 DC成分は6Vということですね。(入力DC成分とバランスする為にLPF側に発生)

時定数よりも周期が十分短いということはSAW波の周波数がHPFの通過帯域にあると言うことなのでLPF成分の振幅はほぼ0で LPF出力にはDC分の過渡現象で生じた充電電圧のみが現れています。



次に上図のようにSAW波の周期が遅い場合、DC成分の過渡現象の微分電流の変化の開始位置がずれるため定常状態で HPF出力の SAW波成分は0Vを中心として振動せず中心レベルはマイナスとなり直流分が発生し、(-) 振幅に比べて (+)振幅が小さい状態になります。

*: LPF側のDCレベルは入力信号のDCレベルとつり合うがHPF側は(-)offsetが発生。

ARP PWM回路のpulse幅補正回路はこの原理を利用して周波数の高いSAW波ほど DC offsetレベルが相対的に高くなるように動作します。

ちなみに上記回路に SIN波を入力した場合は周波数が低くとも定常状態では HPF出力には DC成分が抜かれたSIN波が発生します。 また上記回路にDC成分を除去し+/-振幅が同じ値の SAW波を入力しても周波数がHPFの通過帯域より低い場合はやはりHPFoutに DC成分が発生します。


1次HPFの遮断領域は微分区間だということでさらに低周波のSAW波に対してはcapacitorのインピーダンスが大きくなり、CR直列回路としては抵抗による微分電流に対する負帰還が弱まります。 このことはcapacitor単体時の電流特性、すなわち微分特性が顕著化することになります。 SAW波の微分波形は以下に示すようにSAW波が一定値上昇区間に対して一定値、 MAXからMINに向かう区間ではマイナス最大値になるため波形の中心レベルはマイナス最大値の約1/2になるわけです。


* SAW波の微分波形

一方周波数が高くなれば高くなるほど負帰還の効果は大きくなりますので結果電流波形は微分要素が減りオリジナルの入力波形に近づくことになります。 ここで両周波数において入力SAW波のDC成分自体はHPF出力からはどちらの場合も除かれます。と言うことはこの遮断領域(-6db/octのスロープ区間)においてHPF出力に発生するDC成分は入力SAW波のDC offsetではなく周波数が低い時はより微分波形に近いので中心レベルはよりマイナスよりになり(+)振幅成分は小さくなり、逆に周波数が高い時はよりDC成分のぬかれた入力SAW波に近くなるということです。


*: 周波数が低いほど微分波形に近づく(中心レベルマイナス)


* 周波数が高いほど入力SAW波に近づく(DCレベル0に近づく)

HPFの周波数特性は SIN波を対象にした特性ですからSIN波では周波数が低くなればGAINは どんどん小さくなりますがSAW波の場合は倍音の関係で変動が小さいです。上記のように周波数の大小はどれだけ微分特性に近づくか、入力波形に近づくかと言う違いですから SIN波を微分した場合は波形そのものは変化がないのでHPFのスロープ区間にあっても DCレベルは0になるということになります。



* PWM波詳細


* pulse幅が小さい時のPWM動作波形

DC shift用 Tr. Q3 は飽和していることに注目。



* pulse幅が大きい(50%)時のPWM動作波形

Tr. Q3 は飽和していないので 89K、120Kの電圧降下は SAW波電圧に影響されずコレクタ電流のみに依存している。 DC shift SAW波の振幅も入力と同じで変化していない。 さらには0.001uFのHPF(Vm4)も機能していないことに注目。



<2017/12/02 rev0.8>
<2017/12/01 rev0.1>