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「とダイナミックプロ」的作品

あばしり一家・外伝 (単行本未収録)

石川賢とダイナミックプロ
『あばしり一家・外伝(1)下肥一家の巻』

別冊少年チャンピオン1971.7月号(秋田書店)
「永井豪とダイナミックプロ」といえば「ハレンチ」だが、当時の 状況を知るヒトから聞くと、『ハレンチ学園』よりも暴力もエロも より過激な『あばしり一家』の方がインパクトが強かったようだ。

現在の目で見ても、既に『ハレンチ』を通じて「一ギャグまんが家」 永井豪から、「ダイナミックプロ風」を確立した後の タッチが強い『あばしり』。特に「パラダイス学園編」や 「菊の助夢幻編」など、奔放なイメージがたまらなかったりする。

熱烈なる豪ちゃんファンであったテレビアニメ『キューティーハニー』 のプロデューサーが、『あばしり一家』からのスピン・オフキャラ として悪馬尻=早見一家を登場させたのは有名な話だが、それも当時の「通」 の見方を裏付けているのかもしれない。

そんな中、何冊か「チャンピオン」では『あばしり一家』の 特集号を出している。他の号が連載再録に留まっているのに対して、 1971.7月号では、当時ドラマ化されていた『ガッツ・ジュン』と『あばしり』 の2本の柱をメインに構成、『あばしり』は堂々60ページ 描き下ろし。

しかもそのメンツが、石川賢・岩沢友高・風忍の 3先生である。(本編ではさらに五十子勝氏、岡崎優氏など他の方々の タッチも見えているが)現在なら当然「原作・永井豪」という表記が 入るところだろうが、この作品群にはまだその表記がない。

岩沢友高とダイナミックプロ
『あばしり一家・外伝(2)
大子ちゃんだよ〜の巻』
風忍とダイナミックプロ
『あばしり一家・外伝(3)
血と汗と涙の巻』

▼石川賢『下肥一家の巻』
極悪非道を自ら名乗る「下肥一家」5人が 放火や盗みなどを尽くすが、もう一つうまく行かない。 下肥のオヤジが見本を見せてやる!とばかりに、うっかりあばしり家 に忍び込んで、半殺しのひどい目に会う…というま、他愛のない話。

初期石川作品に見られるスカトロ風味がふんだんだったり。 ちなみに本家悪馬尻の面々が出るのはラスト一コマ。「外伝」として 本家を意識している点を上げれば、石川忍法帳テイストなヒロインが、 かなりたっぷりとハレンチなサマをさらしているトコロかなあ。

▼岩沢友高『大子ちゃんだよ〜』
コレは、本編に最も近い外伝といえるかな?超巨大女番長・法印大子 の3歳の時の物語だけに、本編に入ってもいいんではないだろうか? チョウチョを追っかける大子が意識せず、手塚治虫風の少年を叩きのめしたり、 電柱を振り回したり、力自慢を倒したり、横丁を破壊し尽くすという話。

岩沢氏の特徴は、カブラペンのぶっとい線が好まれるダイナミック風の 中でもヒトキワ太い描線。コレでコロコロしたキャラクターを描き起こ している。トビラに唯一出ている成長後の大子(コレだけはしっかり そっくり永井豪絵柄)がまた、太い描線で 丸っこいフォルムをうまく醸し出していてステキ。

▼風忍『血と汗と涙』
冒頭、キュートな猫が悪馬尻家にうっかり入り込む。響き渡る 追いかけっこの音の後、ボロボロになった猫が逃げ出してくる。 追っていたのは、三男・吉三だ。「ムッ くいそこなったか」。

いやココまでは確かに『あばしり一家』の一編に見えるのだが、 そこは近年の『ネオデビルマン』でも軍用拳銃握った女闘士の 話を作ってしまう風先生。暴走しなきゃウソだ。

よろよろと歩く猫は、なぜかいきなり登場した通りすがりの オヤジに捕らえられ、ディナーとなるべくそのオヤジのウチへ。 長男の腹に入ったまでは良かったが、引き続いてじいさんも そのオヤジも長男の腹の中へ消えていき、のんびり会話を楽しむ …という、謎のオチを見せる怪作へ。絵もこの時期の風先生が 好んで使った断面図で詳細解説つき。さすがだ。

▼果たしてどの程度の「お決まり」があってこの3本が描かれたのか、 どう読んでもそれが見えてこない謎一杯の「外伝」。

誤解承知で『あばしり』本伝のテイストを語るならば、彼ら「アシスタント」 は、かなり共作に近い立場で参加されていた回があるように見受けられる。 ペンタッチや台詞回しなど、確かに各々の作家らしさは隠しようもなく出てはいる。

が、この短編3本を読むと、彼らが本気で作家性をむき出しにしたら、 ココまで違う作品になってしまうのだ、というコトが分かる。つまり裏を 返せば、「永井豪とダイナミックプロ」となることによって、ある一貫した 流れが、各々の個性を一方向に率いているのが炙り出される 結果になっているのだ。

永井豪が提示する「ダイナミックなイメージ」。それに拮抗するような パワーを人物やコマに込めているアシスタントに擬態している作家たち。 彼らの様々な作風が入り乱れて分散されずにプロデュースされているのが、 この時期の「永井豪」+「とダイナミックプロ」ではないか。引いては それが、読み込めば読み込むほど滲み出てくる、ご存知ダイナミック風味 になっているのではないだろうか?

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