デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年9月23日放送
#11「真紅の妖花 ラフレール」
演出・鈴木 実(高見義雄) 脚本・辻 真先 作画監督・津乃 一 美術監督・横井三郎

明「行くって…どこ行きゃいいんだい?!」

次なる人間界への使者は、美しき花の姿をした妖獣・ラフレール。

道路がいきなり裂け、橋が崩れ、事故が起こった。牧村一家の乗る車の 目の前にも、マンホールのフタが開き、いきなり女性の姿が現れた。 ハンドルを切り何とか回避するも、同乗していた明が後を追い、マンホ ールの中へ。ラフレールが目の前に現れた瞬間、明は変身。だがその時 起こした稲妻に牧村博士が感電、病院へ送られる。ラフレールも、デビ ルマンを相手にせず姿を消す。

手術をしたものの一命を取り留め、心配するなと語る博士。ミキは 喜んでそれを明に報告するが、自らが原因で悩む明の癇に障り、ケンカに なってしまう。そのまま家を出る明。バイクを飛ばし、ボウリング、ゴー ゴー喫茶と深夜の街を行くが、気分は晴れない。

それこそがザンニンの作戦だった。ミキと離れ、戦意を喪失したデビルマン なら容易に倒せるという狙いだったのである。

翌朝、学校でも氷村がミキに接近、彼女の笑顔を向けさせるコトで、 どこかから見ているはずの明にプレッシャーを与えていく。しかし、 他に行くところもなく、ミキへの思いを断ち切れない明は、氷村へ 決闘を申し込むため学校へ再び現れる。

明と氷村とをやめさせようとやって来るミキ。氷村はなおも明の心を 揺さぶろうと、ミキに「助かったぜ」とうそぶく。怒り心揺れる明。 そこへ氷村の合図が飛ぶ。 地下に根を張ったラフレールが大地震を学校に起こす。そして3体に 分身したラフレールが出現、明とミキを襲う。「危険だ」とミキを離した が、地割れが襲い、ミキは地割れの底へ消える。すぐ後を追う明。

地割れの底で、明とミキはラフレールの催眠花粉攻撃に会う。猛烈な睡魔の 中、ミキは気を失うが、明は岩の欠片で体を傷つけ意識を留めつつ、変身。 それを見たラフレールも、巨大な目に耳まで裂けた口を中央に持つ、巨大 な花という真の姿を見せる。

茎を巧みに使い、腕を縛りつつムチのように叩きつけるラフレール。 デビルマンは辛くも脱出、デビルビームで焼き払うのだった。

地割れの底に戻り、ミキを介抱する明。彼女の口から意外な言葉が出た。 「デビルマンが助けてくれたのね、明クンも助けてもらったんでしょ?」 夢うつつの中ミキが見た自分の勇姿。明は大喜び、ミキを載せてバイク を飛ばすのだった。

辻真先が書いた作品、『ドロロンえん魔くん』に「美しいバラにはとげがある」 (第5話)という、美しきバラの妖怪・バーバラが病院の地下に巣食い、人を惑 わすという話があるが、このエピソードはさしずめそのパイロット版という印象がある。

とはいうものの、そりゃ妖怪バーバラと妖花ラフレールの能力と設定程度のもの ではあるが。穿った目で見ると、美女に惑わされた明がミキに振られ、深夜徘徊 する不良に成り下がるが、ちょっとしたきっかけで元の鞘に戻る、なんて見方も 出来るが、多少深読みのし過ぎという気もするので、この辺で。

そういや、ココから3話連続ミキ受難編および、女妖獣デビルマンに襲い来る、 て展開なんだけど(いや次は「襲い来る」ってんじゃないけど)何か狙いが?

本編班。

今回は、東映社内班(本編班)・つまり普段はリミテッドアニメのテレビには関わら ないで、戦前の伝統を引き継ぐ「日本のディズニー」を目指したフルアニメの 劇場作品をメインに担当しているメンバーの唯一参入回だ。(『ハッスル・パンチ』 や『魔法使いサリー』などでも、社内班に劇場版の仕事がない時は、彼らの 名前が見える)

名前こそロック・アウトの影響で変えられてはいるが、「台久 明」こと 大工原 明氏なんて、『ルパン三世』でお馴染みの大塚康生氏の師匠に当たる 大アニメーター。彼がメインで原画を描いた『安寿と厨子王丸』(1961年) の作画ワークなんてたまりませんことよ。今回だと、ラフレールが川 (隅田川だろう、たぶん)に落ちて来て、ダンプを襲う辺りの独特な アングルなんてのは、恐らく彼の手になると思う。エキストラのオヤジたちのやや アナクロな顔のせいでそう思うってのもあるが(笑)

「尾田ベレー」てのは間違いなく奥山玲子氏。『マジンガーZ』でもさやか がいきなり独特の繊細な線の美女になるため、東映アニメファンなら知っていて 常識ではあるが、実は『母をたずねて三千里』『じゃりん子チエ』『マリオブラザース』 などのキャラデザイン・小田部羊一氏とご結婚されており、 本名は「小田部玲子」なのである。ラフレールの作画は彼女の手になる のだろうかなあ、やはり。

で、作画監督「津乃 一」は角田紘一氏。『マジンガーZ対デビルマン』 作画監督のあの方である。劇場版では『どうぶつ宝島』(1971年)から 原画に昇格した人なので、もう翌年の『デビルマン』で作画監督というのも 実力のほど、であろうか。

しかしながら、ストのために作業は恐らく作画の7〜8割くらいで中断、 あとは「赤田武士」こと白土武氏のタイガープロが引き取った模様。 バイクのエンジンにしっかり「タイガープロ」って書いてあるし(つーか、 タイガープロさんは担当回にかなりの頻度で自社名を入れていないか? 電柱の看板とか) 何より、時折挟まるあの独特の目と鼻を持つ明が、白土氏以外の誰に 描けるだろうか(笑)

演出は高見義男氏の手になるようだが、この方、『ゲゲゲの鬼太郎』 や『魔法のマコちゃん』の演出を経て、後には『魔女っ子メグちゃん』 やら『北斗の拳』の企画・プロデューサーになるヒト。

それでもざっと総覧すると、劇場版メインの作画経験のせいか、動きは 非常にダイナミックな一面、画面構成がやや凡庸に見えるカットがある。 特に左右の動きをする画面に顕著だ。コレは憶測だが、テレビフレーム ではシネスコのように左右に奥行きがでないため、ミキが地割れから逃 げるカットも、追いすがる地割れにドコまでも追いすがる長い感じが出 なかったような印象。まるで、アメリカのリミテッドアニメの安い動き に近いカンジだ。部分的にそう見えてしまう、という気がする。

と、文句をつけるだけじゃアレなんで、

「おお」と思うカットといえば、 後にエンディング延長の際に付け加えられることとなる、ラフレールの 出現カット一連の美しさに尽きるだろう。

朝顔の蕾を見ると、あのスクリューの形が実に美しい。それが回りながら 開いて、大輪の花になる美しさ。アレをハイスピード撮影のように引用して いる。スクリュー上に画面に伸び上がり、開いた途端に白い髪がなびき、 「カアァーッ」という音効さんのナイスな効果音とともに、光る効果。

コレに代表されるように、ラフレールの動きは常に動的な描線で作り上げ られ、常にある方向性を持っている。比較的劇画調の描線で、フォルムの 止め絵的なデッサンで見せる『タイガーマスク』チルドレンによる普段の回と違 って、この回は似て非なる、まさにアニメートされる線に基づいて設計 されていると思う。お陰でバンク(使い回し)してるけども。(や、実際 良く動いてるよ、この回)

地割れの動きは文句つけたけど、その地割れに追いつかれ、ミキが 落ちる時のつまづきに至るポージングなどは、やはり基礎のしっかり 出来ている劇場班というカンジだし。コレは奥山氏の成果か、明に抱かれる ミキの絵なんかも、妙に色気のあるアングルだったり。

中でもラストの一連のミキのアップ、「デビルマンに助けられた」と夢うつ つの記憶をたぐる目線から、現実の明に視線を移す視点の実に微妙な持って行き方、 これ、案外最近のアニメでもおろそかにされていると思うよ、マジで。

で、色味なんだけど。

『デビルマン』って、デーモンがこの世ならぬ妖獣って設定だったりするせいか、 主人公が緑色だったり、デーモンにも中間色が多用されていて、そのものずばり の原色はあんまり使われてないんだけど、今回もその形は踏襲されている。

…にもかかわらず、ラフレールは毒々しい「花」に見えるというのは、 コレ色彩設計の細かい計算が生きてるんでしょうなあ。普通に考えたら、 花びらなんて真っ赤にして、茎は緑でしょ、やっぱし。そこをあえてピンクで 攻め、顔の色も灰色の混じった青でシメるというのがまたステキ。これ、 素直に考えたら、凄いコトですよ。

陰険ザンニンの美女作戦。

ラフレールの存在感が実に色々な 描写の積み重ねだ。冒頭まず、氷の洞窟のエッジが赤くツヤを出し、 まず不気味な予感を起こす。続いてゼノンに呼ばれる時も、地下を這う根っこ がヒュルヒュルと伸びるように見せ、美女姿に。しかし、指令の後に その姿は消え、残った影が風に舞い、今度は矢印状になって空を行く。 その実体は美女でなく、影の向こうだという描写か。

で、この美女(しかも3人)アルとポチが

 ポチ「美人です!」
 アル「同感ナノダ!」
 ポチ「ドコのPTA?」
 アル「ボクのクラスに決まってるノダ!」

などとハナの下を伸ばすので分かるよーに、非常に美しい。だが、 ソコヘ来て辻真先、美しい女にはトゲ付けないと気が済まないようで、 非常に口と性格が悪い。

今回の作戦立案者は、デーモン界で最も性格の悪い(だろう)幹部、 ザンニンだが、それを嬉々としてこなしているフシがある。要は デビルマンをチクチクと苛め抜くのが目的ってカンジ?

白眉なのが、明と初対峙の時。下水道で美女姿を見せるが、いきなり 明は開口一番、「ごまかすな!ラフレール!」と早くもその正体が他に あることを見抜いている。だが、3人美女姿のラフレールは、

 ラフレールA「おおこわい」
 ラフレールB「逃げましょ」
 ラフレールC「そうしましょ」

…とまあ、こういうヒトを食った態度(デーモンだからな)。

でこの後、おじさんが自らの「デビル雷」に打たれ、憔悴する明。 コレも計算の内だったら、ホントにザンニンってヤなヤツだなあ。 ミキを守るはずの自分の超能力が、誤ったとはいえ大事なミキの父に 当たってしまった。やり場のない怒りを持ってるところに、ミキが 「デビール、って声聞かなかった?」なんて訊くもんだから、もう 反射神経で生きてるこの男、その場でミキに当たってしまう。

せっかく雷が当たらなくて良かった、と心配してるのに、 ワケの分からない八つ当たりされて、ミキも怒ってしまう。で、 平手をお見舞いしようとするが、ココでなんと劇中初めて、 明がミキの平手を受けとめる!まあ、そりゃデーモンの能力にして みりゃ、たかが小娘の腕なんて容易く避けられるだろうが、それだけに、 普段はあえて叩かせているんだね。その上で言っちゃいけないセリフを 吐いてしまう、おバカな明。

ココのセリフ、意識してギリギリの線を突いてるんだろうけど、

 明「てめーらに心配してもらうほどヤワじゃねーよ!」

こりゃいけない。「てめーら」=「人間」でしょ、ココの文脈は。 明は自分と大事な大事なミキの間に「デーモン族」と「人間」という どうにも越えようのない溝があるコトを、口に出してしまったのである。 だからこそ、もう自分の苛立ちを収めるコトが出来ないまま、家を飛び出して しまうのである。

ボウリングでストライク、ゴーゴークラブ(JAZZ喫茶の看板だが、踊ってる のはゴーゴーだやね)に足を運び…しかも顔見るだけで腹の立つ氷村が ふらっと現れ、「ゴキゲンだな」なんてイヤミ言うもんだから、ミキのこと が忘れられない。で、パンチングマシーンをデーモンパワーでぶっ壊す。

それでも翌朝にはしおらしく、つーか情けなくもそっと橋の影から 登校途中のミキを最後に見納め…と(男だネエ)出るが、ココにも 氷村。もうその話してる姿見るだけで、絶望と怒りが再燃。

 明「フン、コレで用は済んだぜ。さ、行くか…行くって…どこ行きゃいいんだい?!」

…(哀)…。デビルマン不動明の存在意義が激しく揺らぐ。今までの デーモンはせいぜいミキをいたぶるコトでデビルマンに精神攻撃を 喰らわしていたが、今回はピンピンしてて、なおかつ明以外の世界に 生きているコトこそが、最大の攻撃になるという最終回の妖獣ゴッドに 勝るとも劣らない陰険MAXな作戦。さすがザンニンさま!

いや、実際この辺の作戦をしっかりこなしてるのは、今回の主役 デーモン・ラフレールでなくて、氷村だったりするんだけどね。 また井上真樹夫氏のねちっこいヤなヤツぶりが、たまりません。 見てるこっちも腹たって来ますな。人間界生活長いからなあ、彼も。

で、氷村のミキアタックに腹を立てた明、とうとう我慢できなくなって、 (男だネエ)氷村に決闘を挑む。ベルトピシピシ!

で、怒りに燃え我を失うデビルマンの前にラフレール登場。って、 地震起こして水道管壊し大騒ぎの中で、ミキ守らせると、これまで やったコトが無駄にならないか?…と視聴者は気付かないでもないが、 ラフレールが自分の能力に自慢げなので、気付かないようにしよう!約束だ!

 ラフレール「仲の良いこと。ついでに仲良くお墓にお入り。」

そうか!そのセリフのためにわざわざ地の底に二人を落としたのか!(笑)

がしかし、催眠花粉のお陰でミキは気絶、安心して明は変身し、隅田川 (だ。デビルマンの川は)上の戦いへ。この時の天に伸び上がるラフレールの 根(茎?)の作画は流石の迫力。なんだが、その割にラフレールは、高笑いし ながらデビルマンに焼き殺されてしまう。この時、「デビルアロー!」と 言いながらデビルビームを発するデビルマンだが、もちろんコレは フェイントなのだと、視聴者は理解してあげよう!

で、最後には地の底のミキを助け起こす明。

 ミキ「(遠い目をしながら)デビルマンのお陰ね」
 明 「え?」
 ミキ「夢うつつで聞いたわ
    …デビルマンが怪物をやっつけてくれたんでしょ、ステキだわ
    (目線を明に移し)明クンも助けてもらったんでしょ?」

さっき書いたのはココの目線ね!いや細かい!明にとって、理想的な状況が また帰ってきた上で、人知れず闘ってきたデビルマンの勇姿をミキが褒めている! もう明有頂天!見てるこっちもバンバンザイだ!

 明 「え、そ、そうだよ!『デビール』なんておかしなコト言いやがってよ!
    でも、強かったぜ、アイツ…ハハ、ハハハハハ!」

そしてゴキゲンなタンデム!いや良かった良かった、と心底思える話だが。 ラフレールより氷村の陰険さが勝った回でもあったり。てゆーか、ザンニンさま お姿見せず。なぜ?

▼メモ。ペンネームと言えば、ちっと前から気になるのが、演出助手の 「火邑 明(ひむら あきら)」と制作進行「信 弘(のぶひろ、だが 『しんこう』とも読める)」の名前。これ、むっちゃくちゃに ペンネーム臭いんですがねえ。

▼毎度アルフォンヌと明のやり取りはステキだが、今回も姿を消した 明を喜ぶアルがいい。ソコヘ割り込む明のドスの効き具合もサイコー。

 アル「不動!不動!はいませんね!
    …不動のオタンチンはいませんね!
    …不動のウスラバカは…
 明 「ウスラバカはオメーだろっ!」


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