かんじちょの生物学講座

今回からやまだ@かんじちょの生物学講座を開設します。本講座は2月19日開催の定例会
での「再生医療」をテーマとした講演に先立ち、再生医療の理解の一助とするためにかんじ
ちょに解説をお願いしたものです。

この講座が皆さんのお役に立てば幸いです。    世話人拝


 2005年02月06日

                          
第3回
                    
生物の基本形〜細胞

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 皆さんこんにちは。やまだ@勧進帳、です。

 前回は細胞分裂とそれに関連するお話をしていきましたが、今回はその続きを。
 今回は受精と受精卵の細胞分裂=卵割、そこから再生医療に欠かせないESまで、を見て
 いきましょう。

 前回、卵子と精子の成長を見てきましたが、いよいよこの2つが‘運命的な出会’を経て、
 成長していくのです。

 1. 受精
 成熟した卵と精子が出会うことで受精(fertilization)となりますが、それまでに精子は長い
 旅をしなくてはなりません。
 受精は、子宮で行なわれると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際は、卵巣
 に近い卵管内(卵管膨大部)で行なわれます。そこにたどり着ける精子は、約100個と言わ
 れています。これは、精子が女性にとって異種タンパク質であるため、弱酸性の膣分泌液
 に阻まれたり、体内の白血球の食作用によって捕らえられたりするから、だそうです。
 放出時の約3億個から 子宮を通過できるのは、5000分の1の約6万個まで減少してしまい
 ます。


受精する際に、卵は巧みな仕組みで複数の精子の受精を拒みます。

複数の精子が卵の周りを取り巻く‘放射冠’をする際、精子の先体(Acrosome)から酵素
(ヒアルロニダーゼ)が放出され、放射冠の卵胞細胞を突破していきます。
続くバリアである透明帯に突入する際に今度は、先体から酵素(ノイラミニダーゼ、アクロ
シン)が放出され、透明帯を溶かして進んでいきます。

そして、一番乗りの精子が卵の表面の細胞膜に達すると、卵の細胞膜直下にある皮質顆
粒が刺激を受けて酵素を放出し、透明帯の糖タンパク構造を変化させ、これ以上精子が
侵入できないようにする‘透明帯反応’が起こります。この仕組みは‘多精拒否’と呼ばれ
ています。

一番乗りで卵細胞に接することのできた精子は体を横にし、卵細胞膜へ接触融合して、
細胞質の中に入っていきます。
細胞質内に入った精子の核は、男性前核(male pronucleus)を形成し、卵は女性前核
(female pronucleus)を形成し、接触して「接合子」を形成します。これが受精です。



2. 分裂(卵割)
受精した卵細胞(接合子:zygote)は活性化し、まもなく細胞分裂が開始されます。
受精後の細胞分裂は、「卵割(cleavage)」と呼ばれます。

まず1次の卵割が起こり、2つの細胞になります。これを2細胞期と言います。次の卵割
で4細胞、その次で8細胞、と卵割をくり返す事で細胞は倍々に増加していきます。
細胞数が16以上になると、外観が桑の実のようになるので「桑実胚」(morula)と呼ばれ
ます。

この間、卵の外側をゼリー状の透明帯が包んでいるため、卵自体の大きさはほとんど
変わりません。


桑実胚の卵割がさらに進むと、徐々に内部に空間(内腔)が生じてきます。
この段階の胚を「胚盤胞」(blastocyto)と呼びます。一般の動物では、「胚胞」と
呼ばれている段階です。
内腔の事を「胚盤胞腔」(brastcyto cavity)と呼び、これが大きくなってくると、
分裂している細胞(割球)が大きく2つに分かれてきます。
1つは、卵の外側を包むように広がる細胞群、もう1つは卵の内部にある細胞
群、です。
前者を「栄養膜細胞」(trophblast)、後者を「胚結節」(embryoblast)または「内
部細胞塊」(Inner cell mass)と言います。
この2つの細胞群の役割は違っており、栄養膜細胞は将来の胎盤になり、内
部細胞塊は将来の胚、つまり人体を形成するものです。
このように、細胞が機能や役割によって分かれていくことを「分化」といいます。
胚盤胞における分化は、初めての「分化」と言えます。
胚盤胞も後期になると、卵の外部を覆っていた透明帯が外れ(hatching)、胚
盤胞は大きく育ちます。
そして、受け入れ状態を完了した粘膜層(子宮内膜)に胚は付着し、内部細胞
塊のある側を頭にして粘膜層へ進入していきます。
これが「着床」(implantation)です。
子宮内膜への進入が進むにつれ、内腔(胚盤胞腔)はさらに大きくなります。
また、胚盤胞の栄養膜は厚くなり、栄養膜細胞層と栄養膜合胞体層に分化し
ていきます。
一方、内部細胞塊は増殖を続け、やがて胚性胚盤葉上層と胚性胚盤葉下層
の2つに分かれてきます。(二層性胚盤)
この胚盤が将来、人間の様々な体の部分になっていくのです。

このようにして、たった1つの細胞が、60兆個もの細胞からなる人間を作り上げ
ていきます。


3. 幹細胞と分化
1) 幹細胞とは
先ほど1つの細胞から分裂を繰り返して人体ができあがる、とお話しましたが、
その元になっているのは、最初の分化が行なわれた後にできる「内部細胞塊」
でした。
これが分裂と分化を繰り返して複雑な人体を作るならば、内部細胞塊の1つ1
つの細胞は、将来そんな組織の細胞にもなることができる訳です。
このように、木の幹から枝葉が分かれていくかのごとく、様々な種類の細胞へ
と変身できる能力(多分化能という)を持つ細胞のことを「幹細胞」と言います。
この細胞の特徴は、なんにでも分化できる多分化能と、限りなく細胞分裂が可
能で自分のコピーを生み出せる能力(自己複製能)です。

2) 細胞の寿命?とテロメア
普通の細胞は、細胞分裂できる回数に上限が存在します。人間の細胞では、
おおよそ50〜60回と言われています。これを「ヘイフリックの限界」と呼んでい
ます。(この言葉を初めて知ったのは、アニメ「エヴァンゲリオン」だったりしま
す・・・・・)
限界まで分裂した細胞はやがてアポトーシスという‘自殺’をしてしまいます。
そこで、この限界の事を「細胞の寿命」とも言います。
この寿命、つまり細胞の分裂回数はどのように決められているのでしょうか。
これは「テロメア」といわれるものが関与しています。
このテロメアは、染色体の先端に存在し、同一の塩基配列が繰り返された(反
復配列という)特殊な構造をしています。
DNAが複製される際に、末端のテロメアの複製が行なわれず、複製のたびに
短くなっていきます。そして、テロメアがある程度以上短くなってしまうと、細胞
分裂ができなくなります。例えるなら、回数券やコーヒーチケットのようなもの
ですね。
この回数券の枚数が、生物によって決まっていて、人間の場合約50回程度と
言われています。これが分裂の限界です。


97年に誕生したクローン羊のドリーは、当時6歳だった羊の体細胞の核を移植して生
み出されましたが、テロメアを測定すると、普通に生まれた子羊よりも短かく、6歳程
度の短さだったそうです。そして、ドリーは6歳の頃、進行性の疾患、高齢羊に特有な
関節疾患等により死去しました。(安楽死)

ドリーは生まれた時にすでに細胞レベルで6歳だったと考えると、12歳で死んだ事に
なりますね。羊の寿命は15年程度と言われていますので、それより若干短かったこ
とになります。

ところで、ヒトの細胞の中で無限に分裂できる細胞があったりします。代表的なものと
いえば、常に細胞分裂を行なっている生殖細胞、そしてガン細胞です。

何故でしょうか?先ほどのテロメアと何か関係があるのでしょうか。
実は、これらの細胞が分裂したときに短くなるテロメアが、テロメラーゼという酵素の
働きによって欠損部分が補われるため、無限に分裂が可能になるのです。
これを利用して、ガン細胞のテロメラーゼを無効化することでガンをやっつけようとい
う試みがなされているとか。正常細胞に影響を及ぼさない等、安全性が確認できれば、
早く実用化して欲しいものです。

3) 幹細胞と再生医学
プラナリアという生き物をご存知でしょうか。
別名ウズムシと呼ばれており、北海道以外の日本各地の清流にいる生物です。難し
い言い方をすると、「扁形動物門 渦虫綱 三岐腸目に属する生物種の総称」です。大
きさは大きいもので2cm程度、三角形の頭を持ち、つぶれた三角矢印のような体型を
しています。

この生物は、すさまじいほどの再生力を持つことで知られており、記録では、270の小
片に切り分けられた1片から個体が再生された記録があるそうです。これは、プラナリ
アの全身に幹細胞がくまなく存在しており、切られた部分を再生していくためです。
しかし、270分の1から元通りになるとは・・・。孫悟空もビックリです。


また、イモリの手足を切断してもちゃんと再生しますし、カナヘビの尻尾も身を守るために
切った後にちゃんと再生します。これらも幹細胞のおかげです。

他の動物ではどうでしょうか。
アフリカツメガエルの胚を使った興味深い実験があります。カエルの受精卵が胞胚期にな
ったときにできる「アニマルキャップ」という部分があります。


これは幹細胞に似た性質を持つ未分化な細胞のかたまりで、これを取り出してア
クチビンという物質で処理し培養すると、なんと、いろんな臓器を作ることができる
というのです。

作ることのできた臓器は、腎臓、膵臓、肝臓、筋肉、血球、など17種類におよび、
拍動する心臓もできるとか。

この作り分けは、細胞増殖因子であるアクチビンの濃度を変えることにより、可能
となります。

これだけの再生能力が、人間にはないのでしょうか。
人間の大元である受精卵や胚盤胞の内部細胞塊は幹細胞のかたまりで、将来
どんな体細胞や臓器官にもなることができます。これを、胚をもとにした幹細胞
ということで、胚性幹細胞(Embryonic Stem cell)、ES細胞と呼びます。
これを取り出して培養すれば、きっといろいろな体内器官を作り出すことができ
るでしょう。しかし、これを取り出すということは、受精卵を壊す必要があるという
ことで、倫理的な問題が発生します。また、受精卵はヒトか否か、という根本的
な問題もあります。

現在、ヒト胚を用いた実験をどうするかは世界中で検討されている問題となって
います。

では、他に幹細胞はないのでしょうか。
最近の研究で成体にも幹細胞が存在することが分かってきました。ES細胞ほど
の多分化能はなく、分化できる種類にも限度があります。
これらの体細胞に存在する幹細胞ということで、体性幹細胞(成体幹細胞)と呼
ばれます。

その主なものは、造血系幹細胞、肝臓内の肝幹細胞、血管幹細胞、造骨幹細
胞、軟骨幹細胞等があります。
マウスの背中に人間の耳が生えている衝撃的な写真をごらんになった事があ
る方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、生分解性ポリマーでヒトの耳の形を作り、これを足場として軟骨細胞を
植え、ヌードマウスに移植して作られたものです。(1995年、ハーヴァードのC.
ヴァカンティ博士、J.ヴァカンティ博士によって行なわれた)

このように、再生医学に工学的アプローチで研究する部門を「組織工学」ティッ
シュエンジニアリング(tissue engineering)といいます。

今後の再生医学部門の研究によって、あらゆる臓器の再生ができるようになる
かもしれません。
一例として、神経の再生ができるようになりば、神経切断などによる様々な障害
や、パーキンソン病などの神経性の難病の完全治療ができるようになるかもし
れません。
そんな夢の再生医療の現在と今後を、寺岡先生の講義を勉強していきましょう。

長々と拙い説明にお付き合い頂きまして有難うございました。


参考文献&図)
ビジュアルワイド図説生物(東京書籍)、Color Atlas of Embryology(Thieme
FlexiBook)、発生学アトラス(文光堂)、ムーア人体発生学(医歯薬出版)、フィッ
ツジェラルド人体発生学(西村出版)、スネル臨床発生学(メディカルサイエンス
インターナショナル)、Essential細胞生物学(南江堂)、カープ分子細胞生物学
(東京化学同人)、生命科学資料集(東大出版)、再生医療の仕組みと未来(か
んき出版)、ラングマン人体発生学(医歯薬出版)、受精卵からヒトになるまで
(医歯薬出版)、再生医療とはなにか(メディア株式会社)、再生医学がわかる
(羊土社)、痛快!人体再生学(集英社)、ニュートン2004年6月号「人体はどこ
まで再生できるか」(ニュートンプレス)、ブルーバックス「新しい発生生物学」
(講談社)、チャート式生物TB・U(研数出版)他





 2005年02月06日

                          
第2回
                    
生物の基本形〜細胞

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皆さん、ども。幹事長です。
  
 第2回は、細胞の分裂と、生命の発生についてみていきましょう。

1.細胞の分裂

前回お話した細胞が、分かれて同じ細胞を複製することを‘細胞分裂’といいます。
細胞分裂の定義は、「1つの細胞が、分かれて2つ以上の細胞になること」です。

分かれる前の細胞は‘母細胞’と言い、分かれた後の細胞は‘娘細胞’、‘嬢細胞’と
言います。
細胞分裂は、最初に染色体(を構成するDNA)の複製と倍量化がおこり、二分され
ることで遺伝形質が均等に2つの娘細胞に配分されていきます。
この核の分裂は厳密にいうと‘有糸分裂’と‘無糸分裂’があります。
・有糸分裂は、核が二分される際に紡錘糸の形成が行なわれるものです。
・無糸分裂は紡錘体が存在しない形で行なわれる分裂

   1−1.細胞分裂の流れ
  細胞分裂はおよそ次のように進んでいきます。
  まず、細胞の核で、核膜が消失し、核内のDNAが凝集し、コンパクトにまとめられて
   染色体となり、複製されて2本の染色分体が形成されます。
  続いて、中心体が複製され、これが細胞の両極に移動し、星状体となり、紡錘糸を
   伸ばし始めます。
  細胞の中央(赤道面)には染色分体がならび、両極の中心体から染色体に対して‘
   錘糸’が伸びていき、染色体の中央にある‘動原体’(セントロメア)に付着します。
  
続いて、紡錘体が収縮を始め、両極に染色体を引っ張ります。この時、増殖してい
   た染色体が均等に分かれていきます。


  両極に分かれた染色体は染色糸に戻り、核膜が再形成されて、核の形に戻ります。
  その頃、細胞質の分裂が起こります。まず、赤道面で細胞膜から陥入が起こり、細
   胞がくびれてきます。
   これを収縮環と呼びます。
  そして、くびれが深くなり、やがて細胞は二分され、細胞分裂が終了します。

  細胞質を形成するオルガネラ(細胞内小器官)では、有糸分裂の担い手である中心
   体や、ミトコンドリア、ゴルジ体などが分裂します。

   1−2.細胞分裂の種類

      細胞分裂は、大きく2つの種類に分かれます。
   a)体細胞分裂
   その名の通り、カラダを構成している細胞がその数を増やす際に行なわれる一般的?
   な細胞分裂です。
   この細胞分裂では、先に述べたように、核が複製された後、均等に二分されていき
   ます。


  a)減数分裂
  生殖細胞の増殖時に起こる特別な分裂です。

  体細胞分裂が分裂に核が増殖して二倍量になり、その後、均等に分裂します。
  (2n →(複製)→ 4n →(分裂)→ 2n×2)
  これに対し、減数分裂は2回の分裂を経てDNA量が半減します。
  (2n →(第一次分裂)→ n×2 →(第二次分裂)→ n×4)
  生殖細胞は、雄の精子と雌の卵子が受精することで1つの細胞を形成するため、
   DNA量が半減しないと大変なことになります。
  (何らかの原因により、本来23×2=46本の染色体が、三倍体(23×3=69本)が
   まれに発生するが、ほとんどの場合、自然流産する。奇跡的に出生しても、複数
   の先天性畸形などによりすぐ死亡する)
  さて、細胞分裂の概略がわかったところで、いよいよ1つの受精卵が細胞分裂し
   ていく過程を見ていきましょう。

  1.動物の発生(ヒト)
  先日、最近話題の某国営放送の教育チャンネルの子供向け科学番組でも、ヒト
   の生命の発生を取り上げていました。
  排卵の瞬間の映像や受精前後の激しい生存競争、受精時の映像等貴重な映像
   がわかりやすく解説かれていました。
  生命として誕生してくる事がどれだけ大変な事か、が良くわかる内容で、命の重さ
   が軽視されがちな現代に絶対必要な内容だと思いました・・・。
  1)受精するまで
  生殖細胞が減数分裂をすることは上で触れましたが、では、この生殖細胞はいつ
   頃、我々の体の中にできあがるのでしょうか。

  冒頭で触れた番組の中でも、出演している子供たちに、「卵子はいつ頃できるの
   か?」という質問がされていました。
  それによると、女の子の体の中にある卵細胞は、生まれた時にはすでにあるとい
   うのです。
  もっといえば、生殖細胞の元になる始原生殖細胞は、受精後35日ころ(第5週)に
   は動き始めるそうです。
  もうすでに次の世代のための生命の準備が始まるんですね。
  ちなみに、胎生期の頃の卵の数は約700万個、出生時には約100万個、思春期を
   迎える頃には約40万個、そして実際に排卵できるまで成熟するのはおよそ400
   個、といわれている。

  一方、精子は、1回で約3億個が放出されるというから、1人の赤ちゃんが生まれる
   には、700万個のうちの1つの卵細胞と、3億個のうちの1個の精細胞が出会う必要
   があるわけで、その確率は、単純計算で(700万分の1)×(3億分の1)って事にな
   る?う〜ん普通の電卓では桁が足りない。天文学的な数字だ。

  それだけ、生命は貴重なものだ、と言うことですね。

  卵の形成)
  卵子の場合、この胎生期に原始卵細胞は成長を続け、出生時に卵母細胞となり、
   思春期を迎えるまで第1次減数分裂の状態のままで停止している。
  
思春期後に、排卵の前に止まっていた第1次減数分裂が始まり、その後の排卵を
   待つ。
  排卵時に第2次減数分裂が始まるがこれも途中で止まり、受精した場合のみ、分
   裂が再開され、成熟する。
  卵は1つの卵原細胞から4つの卵ができるわけではなく、1つのみが卵となりあと
   の3つは極体となり、消失してしまう。

  精子の形成)
  精子は、思春期後に約2ヶ月をかけて連続的に生産される。
  
精子は、1つの精原細胞から減数分裂を経て、4つの精細胞に分かれる。
  その後、精細胞は‘変態’と経て形態形成を行なう。


 精細胞の‘変態’とは、運動能力を獲得するためにその形態を変化させることだ。これを
 見ていこう。
 a) 精細胞のゴルジ体が融合をおこして‘先体’を形成する。
 b) 中心体が先体と反対方向(後方)に移動し、そのうちの1つが伸長して運動の
  ための‘鞭毛’を形成する。
 c) 先体と鞭毛の成長に伴い、精細胞の細胞質は後方に移動し、ミトコンドリアが
 鞭毛の周りに凝集し、1つに融合して、鞭毛にらせん状に巻きつく。
 d) 余分な細胞質が捨てられ、精子が完成する。
 ミトコンドリアは、鞭毛を動かすためのエネルギー源、鞭毛はエンジンである。
 まさに、DNAを運ぶためだけに特化したロケットと言えよう。
 余分なものを一切そぎ落としたその形には感動すらおぼえる。






 2005年01月23日

                          
第1回
                    
生物の基本形〜細胞

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 皆さん、如何お過ごしでしょうか。山田@漢字帳、おっと幹事長?、です。

 さて、次回開催される定例会のテーマは「再生医学」でしたね。かなり専門的な知識が要
 求されるのでは?と不安に思われ、定例会への参加を躊躇されている会員の方もいらっ
 しゃるのではないでしょうか。


 報道などでも連日様々な医療に関するニュースが取り上げられ、今、医学・医療に関する
 国民の関心は非常に高くなっている中で、先端医学の代表でもある「再生医学」を生で聞
 くことができるこのチャンスを逃す手はありません。

 そこで、講義を聴くにあたって、最低限でも高校生物レベルの知識があれば何とかなるの
 ではないか、との前提の元、昔学んだはずの知識を蘇らせるきっかけになれば、と思い、
 はなはだ僭越ではありますが、生物大好きだった私があれこれと書いてみようと思ってお
 ります。
何卒宜しくお願いいたします。

 そうそう、生物を理解するのに有用なのが、高校生物用の生物図説集です。フルカラーで
 内容豊富なのに、教科書と言うことで1000円以下で買えてしまいます。見ているだけでも
 楽しいので、生物をやり直そうと考えている方は是非。

 さて、早速の第1回は・・・。

 再生医学に欠かすことのできない、生命の基本である「細胞」について振り返ってみたいと
 思います。

 <生物の基本形〜細胞>

 生物はいまや数え切れないほどの種がありますが(一説には、300万種、あくまでこれは
 既知のものに限られる)、すべて細胞という1つのシステムから構成されている大原則が
 あります。人間も、始まりは受精卵、たった1つの細胞でした。そこから、細胞が分裂して
 いき、様々な細胞に分かれ、そして、全身で60兆個とも言われる多細胞動物として人間は
 存在しています。
じゃ、一体細胞って何だ?その基本構造から見ていきたいと思います。


 1.細胞の発見
 細胞を初めて見つけたのは、1665年、英のロバート・フックという「物理学者」でした。彼は
 手製の顕微鏡を使い、コルクの切片を観察し、それが蜂の巣のように多数の小部屋から
 構成されていることを発見し、それをセル(Cell)と呼んだ。 厳密に言えば、彼が見ていた
 のは細胞ではなく、細胞が死滅した後に残った遺構つまりコルクの細胞壁)を見ていたの
 でした。
 ちなみに、携帯のことをセルラーと呼ぶ事がありますが、これは、携帯の基地局がカバー
 するエリアが細胞のように多数集まっている状況から名付けられた、とか。


 さて、フックと同時期に、オランダのレーウェンフックは、自作の顕微鏡を使って様々な微小
 生物の観察を行ないました。その中で、様々な細菌を世界で最初に記述したことが有名です。

 1.細胞の定義

 細胞とは・・・生物体を形づくる、構造と機能の基本単位のこと。

 1830年代になって、ドイツのシュライデンとシュワンにより、「細胞理論」が提唱されました。
 これは、
 ・すべての生物は1つ乃至それ以上の細胞からなること
 細胞は生命の構造上の単位であること
 というものでした。
 これが、細胞が定義される基本となりました。

 2.細胞の大きさと分類

 細胞というと、顕微鏡で見ないとわからないくらい小さい、というイメージがあります。 
 では、主な細胞の大きさを調べてみましょう。
 小さい細胞の例を挙げると、


 マイコプラズマ:0.08〜0.25μm、大腸菌:2〜4μm、赤血球:7〜8μm、
 ちなみに、1μm=1/1000000m。
 大きい細胞だと、ダチョウの卵:75mm、人の卵細胞:140μm、ゾウリムシ:300μm・・・

 卵ってあれで1つの細胞なのですね。

 ちなみに長い細胞だと、
 人の坐骨神経はなんと1m以上。
 坐骨神経は、腰の椎間板ヘルニアが悪化するとシビレが走る、あの足へ伸びる神経ですね。
 これも1つの細胞だったのか〜。

 細胞を分類すると、まず大きく分けて2種類。

 1つは、原核細胞(prokaryotic cell)。もう1つは、真核細胞(eukaryotic cell)
 この違いは、細胞内に核がハッキリと見えるか否か、つまり細胞内に核膜に包まれた核があ
 るかどうか、によります。

 さらに、真核細胞は、
  植物細胞
 動物細胞
 に分けられます。

 今回の定例会は再生医学がテーマなので、動物細胞のみを取り上げて行きます。

 1.細胞の基本構造

 電子顕微鏡で見ると、細胞の中にはいろいろな小さい器官が存在しています。

 細胞のなかで、生命活動に関わる部分を原形質(protoplasm)といい、核(nucleus)と細胞質
 (cytoplasm)に分けられます。
細胞質には、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リボゾーム、
 中心体、微小管などがあり、これを細胞内小器官(オルガネラ、organelle)といいます。

 それでは、細かく見ていきましょう。

 細胞膜  :細胞を包み込んでいる膜。脂質の二重膜から構成されています。
 ・細胞質  :細胞膜の内部にある細胞を満たしている物質。
 ・        :遺伝情報を保持する物質。真核細胞の場合、核膜という二重膜で囲まれた
         中に保持されています。
         核の内部は核液で充たされ、染色質(クロマチンchromatin)と仁(核小体)が
         存在します。
        染色質は染色糸からなり、この染色糸がDNAです。
          ヒトのDNAをすべて繋ぎ合わせると、なんと2mもの長さになるそうです。
          このDNAの中には、遺伝情報が含まれています。

          核小体は、RNAを合成する場所です。(RNAは後ほど触れます)

 細胞内小器官

 小胞体  :一重膜からなる扁平な袋状の構造物。互いに重なり合ったり繋がったりして、
         細胞内を網目状に広がっています。表面にリボゾームが付着している粗面小
         胞体では、リボゾームが合成したタンパク質を蓄えたり、運搬したりします。

 ・リボゾーム:タンパク質とリボゾームRNAからなるダルマ型の粒状構造物。核からmRN
          A が運んできたDNAの遺伝情報を読み取り、tRNAが運んできたアミノ酸を
          組み合わせて、タンパク質を合成します。

 ・ゴルジ体  :扁平な袋が積み重なった層板構造をしています。消化腺などの分泌腺には
          特に多く存在しています。小胞体で合成されたタンパク質が通過する際に糖
          やリン酸を付加する等の「修飾(processing)を行ないます。
 ミトコンドリア:細胞小器官の中で比較的有名なものではないでしょうか。
        このミトコンドリアはソーセージ状の形をしており、内膜・外膜と2枚の膜構
          造に包まれています。
          内膜は襞状に内部に突き出しており、クリステと呼ばれます。
          ミトコンドリアは酸素呼吸を行なって物質を酸化し、その時出される化学エ
          ネルギーを使って、生命活動のエネルギー担体であるATPを産生していま
          す。
        このエネルギーを産生する過程の中に、「ユビキノン」という補酵素が重要
          な役割を果たしていますが、これは最近流行のコエンザイムQ10の事です。
        ミトコンドリアは自分自身のDNAを持っており、自己増殖・分裂します。
          また、このDNAは母方からしか遺伝しません。それは、卵が受精したときに
          精子のミトコンドリアが「お役御免」で破棄されてしまうからです。
 ・中心体   :細長い樽形の構造物(中心小体)が2つ、互いに直角の位置の状態で、核
          のそばに存在しています。
          3つの微小管で形成された三重微小管が9対、円を描くように並んで円柱を
          形成しており、これが樽型の中心小体です。
         細胞分裂時には、中心体が分裂し、2対の中心体(合計つの中心小体)がで
          き、それぞれの中心体が核をはさんで両極(反対方向)に動くとともに、紡錘
          体を形成し、2倍に増殖した染色体(染色分体)を引っ張り、染色体も分裂し
          ていきます。
そして細胞が2つに分裂するのです。

 以上、細胞の主な構造について触れてまいりました。

 次回以降、再生医学に関係する部分に近づいてまいりますので、お楽しみに。

 (参考文献)

 現代用語の基礎知識(自由国民社)、チャート式生物TB・U(研数出版)、生きもののからく
 り(培風館)、
カープ分子細胞生物学(東京化学同人)、Essential細胞生物学(南江堂)、細胞
 紳士録(岩波新書)、
ビジュアルワイド図説生物(東京書籍)、生命科学資料集(東大出版)、
 再生医療の仕組みと未来(かんき出版)、他

 (図)
 Color Atlas of BioChemistry(Thieme Flexbook)(翻訳本:生化学アトラス(文光堂) )





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