マーケット・アウトルック 



このページは、当会会長の安井先生の担当ページです。 これまでのGo-21コラムに続く新シリーズをお送り
します。

当会会長安井昭先生の紹介をいたします。

安井 昭(やすい あきら)
1942年東京生まれ。日本大学法学部、同大学院修士課程を終了後、内閣調査室研究機関を経て、73年
山一証券経済研究所ニューヨーク事務所長、同香港事務所長、山一投資顧問の運用部次長を歴任。86年、
退社後UBS信託銀行、ソシエテ・ジェネラル証券会社などの各部門の責任者として、調査、営業、資産運用
に携わる。その間、アメリカ・ノースウエスタン大学MBAコース”ケロッグ・マネジメントスクール”にてエグゼ
クティブ・コース修了。96年アジア・エクィティ証券会社(香港)ジャパンデスク代表を経て、早稲田大学エク
ステンションセンター講師、99年より日本大学国際関係学部国際ビジネス情報学科助教授。02年より同教
授に就任。
日本証券アナリスト協会検定会員。





          マーケット・アウトルック

 
                第41回
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 H18.06.18
             「信用の世界の“パラダイム・シフト”」

                            ◆  ◆  ◆

1987年10月19日の「ブラック・マンデー」、1997年7月2日の「アジア通貨危機」(“日付”等、要確認・安井)
の前後を見てきた者にとって、ここ2−3週間、ことに5月、6月のNY,東京中心に世界的な株価急落、通貨市
場の変調は、「信用の世界の“パラダイム・シフト”」とでも言うべき経緯・展開のように思われる。 金融市場、通
貨市場のような非物理的の分野ではこれまでも、よく起こった、いわば心理的に通過せざるを得ない時間なので
はないだろうか、と見ている。

(1)“ブラック・マンデー”の時の暴落

87年の秋のブラック・マンデーの際のNY株式市場の急落のときを思い起こすと、あの時、NY、そして東京市場
の投資家の投資心理や市場内部の心理には、「いつでも起こりそうな“急落”の気配」が感じられた。進行中の
株価のレベルには“底値を確認した”と言える確信や、近未来の株価展開強気の可能性、あるいは信頼度、と
言ったものがなかった。FRB議長がボルカー議長からグリーンスパン新議長に代わり、その手腕がなお不透明な
段階で、投資家には、その後、時間を経て生まれてきたグ議長への、 愛情にも似た信頼感は、なお、定着して
いなかった。NY株式市場の投資家達は、個人もそうだが、機関投資家、有力ファンド・マネージャーら誰も何と
なく危うげな先行き感覚から逃れられない時間を過ごしていて、10月に先立つ2−3ヶ月は、「いつ崩落がくるか
?」と言うあやしい心理に覆われていた。ことに当時は、NYの投資家の確信のない投資心理が記憶に残ってい
る。その頃は今と比較にならない程、強い“インフレ”懸念があり、その上に、“新しい金融市場の番人”への疑心
暗鬼もあって、投資心理はひどく不安定だった。グ理事長就任の後、2−3ヶ月にはその“弱気”の心理はピーク
に至り、株式市場はNY,東京とも(主要な世界の株式市場も共に)急落したのだった。
これが”ブラック・マンデー“となった。新たな信用の基盤(パラダイムの変化とそのシフトへの移行)の確認が行われ
るまでの時期の、投資家の心理の不安定さがそこにあった。

(2)「アジア通貨危機」の際の暴落

一方、97年7月2日以降のアジアの通貨危機にも、「新しい信用の基盤が見えてこない」時期の投資家の心
理の不安定さがあった。「香港の中国返還」(1997.07.01)は全くの未知数だった。「香港は中国の体制
下、その輝きを失う」との見方は当時、根強く、香港の勝ち組の香港脱出、香港のお金持ちの資金の海外へ
の逃避も起こった。それで先進国へのアジアの資金"引き上げ“が大幅に起こり、アジア通貨(タイ・バーツ、イン
ドネシア・ルピー、マレーシア・リンギット、韓国・ウオンなどの通貨)の大暴落、株価、不動産等の急落を生み、
アジア経済を一時期、機能不善に陥らせたのだった。その後、アジア通貨の構築案(「ユーロ通貨の成功のイメ
ージ」を投影して)、アジア債券市場の構築案(マハテーィル前マレーシア首相らの提案)などのアジア経済再構
築志向の機運が生まれてきた。アジア全域の新たな信用の“パラダイム・シフト”が、実現しないまでも、 少し見
えてきた頃からアジアの証券市場はそれまでの活況を取り戻してきたのだった。

(3)今回も、“パラダイム・シフト”の最中?

今回の主要先進国、後発国の株式市場、為替市場の変則的な動きや急落には、そのような“パラダイム・シ
フト”完遂以前の、不意安定時の心理的動揺、もないだろうか?グ議長がバーナンキ新議長に代わったのが
2006年2月末、その後の株式市場、為替市場の投資心理には、@FF金利の上昇、A国際石油価格(W
TI)の値上がりとそれが主因のガソリン価格上昇、Aデフレ懸念がアメリカ、日本、その他の国々にも出てきた、
などへの懸念が強く影響している。比較的スムーズに金融の世界の“キー・パーソン”であるバーナンキ議長が、
権限や信用の定着を上手く印象づけてきたものの、これまでの18年余のグ前議長の「信用の定着」の努力、
工夫、成果が勢いとなって残っていて、それが市場を支えてきた。が、世界経済の「ファンダメンタルズ」(基礎的
な条件)は全くのように、以前とは様変わりである。時代は変わり、BRICsの台頭、原油、商品市況以外の国
際商品市況も上昇、国際紛争が以前とは異なる地域、過酷さの違う緊張で拡大している、などだ。そこにバー
ナンキ議長の登場である。つまりパラダイム(投資の前提、安全観の中味)に、変化が大きい。投資家は以前
と同様の投資心理で行動を取るようには見られない。
投資心理は改めて不安定である。したがって、市場は急落中だ。(このように、投資への市場心理を捉える「ス
トラテジスト」は、ほかにもいるようだ。 この「マーケット・アウトルック」ではバーナンキ議長の登場がこのような基本
的な投資環境の変化を懸念されるとしていて、前2回のコメントはその辺りの指摘だった。)

問題はここから先の読みだ。NY株式市場は、今回の下げからの回復は比較的、強いと見る。それはガソリン価
格の高騰、自動車市場の変調こそあるものの、企業業績、個人消費、設備投資、物価、金利などの先行き
見通しに大きな悪材料がないことから、指摘できる。他方、東京株式市場は今回の下げがまだそれほど、きつく
ない。2007年3月期の企業業績見通しも明るい(上場企業8%増益、4期連続の上伸予想)。 日銀の金
融政策のアカウンタビリティーが高いなどもあり、前回の高値への戻りは早めで、さらにその後の展開は好調と言
うより、堅調程度の地味な展開と見ている。 (AY)






          マーケット・アウトルック

 
               第40回
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 H18.02.12
             「グリーンスパン議長の退場」(その2)


                            ◆  ◆  ◆

 証券市場のもろもろの価格の根拠は、実は“怪しい”。株価ではPER,PBR,PCFRなどが価格の根拠として
 議論されるが、市場が好調な地合いの時にはいかにも正しいような印象を与えるものの、これらは急落時や熱狂
 的な相場の際にはあまり正しいと思われないこともある。 平和時の価格判断の際には役立つだろう、と言う印象
 がある。

 ボルカー元FRB議長が辞めてグ前議長が就任し、2ヶ月経った1987年10月17日以降の“ブラック・マンデー”
 のことと、HKの中国返還の翌日、1997年7月2日のタイ・バーツ急落、その後の“アジア通貨危機”の際の株
 価、地価動揺を思い起こす。それまで人々が信じていた前提(その時の与えられていた好環境、諸条件)は、翌
 日にはまるで無かったもののように怪しまれて、足場取り外されたかの様になり、市場は奈落への急落を経験した。
 手に負えない状況がくる時がある。

 NY証券市場のこの2月以降の相場展開には心理的に安定感があって、今のところ信用の軸たる“主”の変化
 に神経質ではない。グリーンスパン前議長が長らく市場に与えた投資心理の安定感が市場に生き残り、バーナ
 ンキ新議長への安心感も相当程度、定着しているのであろう。 新議長は元議長のやり方(投資家の各種市
 場に対する心理を大事にし、評価する)を良く知っている人であり、プリンストン大学の経済学教授(29年恐慌・
 デフレの研究者、幼少時からの脳力も高く謳われている)、経済諮問委員会委員長を経験し、加えて52歳と
 若くFRB理事の経験もすでに5年以上と長い。彼に対する安心感は根強い。

 が、今、人々がよしとしている前提(米個人消費堅調、設備投資プラス成長、上昇中の金利を市場が容認中、
 通貨米ドルはしっかり・・・)が、明日、そのまま同じように信じられているのかどうか、誰にも分からない。このまま、
 今のように安定した投資心理が継続する保証はどこにも無い。人々と同様、筆者も今のこのままに投資家の安
 定的な心理とNYSEの健全な投資心理がなお、 続くことを望むが、ボルカーの時代もアジア通貨の比較的活
 発な時期も、誰もが明日を疑わなかった。

 @米住宅市場、金市場の価格行きすぎ?A金利の上昇なお継続か?BGM退潮は退場?Cエネルギー価
 格不透明、D史上最大の米貿易赤字7,257億ドル・・・。皆、一歩マネジメントを誤ると投資家の心理が転
 げる坂はきつい。小生はそれを望まないが、バーナンキ議長の登場にも、過去同様、注意を怠ることは出来ない。
 2月25日にバ議長の始めての「議会証言」がある。 加えて各種市場の何回かの動揺を乗り越える手腕などが
 序々に見えてきて、人々が期待するような金融環境の好条件が次第に固まってくるだろう。 (AY)







          マーケット・アウトルック

 
               第39回
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 H18.02.05
             「グリーンスパン議長の退場」(その1)


                            ◆  ◆  ◆

 金融市場への影響力の大きさと、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を正確に捉える努力を怠ら
 ない、と言う2点からアメリカの中央銀行「FRB」の金融政策および議長、理事らの判断や認識の中身
 を追いかけてきた。加えて、身近にグリーンスパン議長の謦咳に接したことがあること、FRBのワシン
 トンの会議室(FOMCなどを行う)で若手エコノミストとも彼のことを話したことがあること、などの経緯も
 あって、アメリカのFRBの活動にはことのほか思い入れがある。グリーンスパン議長が18年半の長き
 に渡った職責を終えて静かに立ち去った(2006年1月末)今、 議長も座ったあの大会議室の一角に佇
 (たたず)む思いで、思い出すことなど記しておきたい。

 最初にお会いした当時の氏はまだ民間のエコノミストで、当時はNY中心にコンサルタント業務にあっ
 たが、シアソン・レーマンBros.の朝の会議室の一角で、もの静かに証券営業マンの朝会に参加して
 いた。いつの時代の経済もインフレ、金利、証券市場や住宅市場の動向等が注視される。彼は自身
 の事務所から持ってきた中古住宅市場の取引の動きと金利(「モーゲージ・レート」)の動向を記録し
 たかなりの分量のデータを読みながら「上昇傾向が見られるのでFF(フェデラル・ファンド)レートなど
 金融市場の金利の動きは緩慢だが、(主要金利の動きは上がりかねず)“要注意”と見ています。」と
 言った判断を語る。営業マンたちはメモを取りながら顧客へのセールス・トークを確認するように仲間
 同士、目配せしたりしている。

 そうした朝会に何度も参加しながら、彼の人となりを盗むようにみていた当方に感じられた当初の印象
 は、@この人は原則に忠実、金利動向の判断に対してあくまで緻密だ、A巷間、流布されている余分
 な情報には惑わされないな・・・と言ったことだった。その後、FRB議長になってからの激動の時代を冷
 静に耐え、人々の心理が揺れやすく、だからこそ金融市場のバランスをとる必要がある時に、平衡感
 覚優れた判断を具体化した。折にふれFF金利を小刻みに動かす。その手法は今でこそ大方の理解を
 得た対応だが、87年―95年当時は意外な政策であった。内外の株式市場、WTI市場、金利動向にも
 自在な見方をとる柔軟性と信用の確保に揺るがない判断と行動力を持つ姿は、97年夏の「ニューエコ
 ノミーが経済の質の向上に貢献しているかも」の発言、98年秋のヘッジファンド「LTCM」の破綻回避
 (欧米14金融機関の協調資金拠出)、ここ2年あまりの間に14回ものFF金利上げ(インフレ懸念とイン
 フレ自体の抑制)、などに遺憾なく発揮された。“市場と対話する議長”と言われる理由はこうしたところ
 にあった。

 さて、バーナンキ新議長が持つ可能性などを含めて、今後の展開についての見方は・・・。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
               第38回
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H16.02.01
              金融政策・・・微妙に変化
                   29日のFOMCからの発言


FRB(連邦準備制度理事会)がこの半年あまりの間、公定歩合を1%の低水準にして手をつけなかった、
つまり上げも下げもしなかった背景に
は、

@ 03年央以降、回復過程に入った米景気を温存する必要があった、
A 
日本、欧州の景況や、為替市場動向等に悪影響を与える変化は避けた、

どがあったと推測しますが、1月28日のFOMC(公開市場委員会)のプレス・リリースを読むと、最近
の米経済の実態の変化(自動車、住宅等の耐
久消費財の好調な売上状況など)と、おそらく、次第に出
てくるであろう
金融市場での資金需給の逼迫感、それに伴う金利の上昇、少なくとも上げの必要・・・と言
う"懸念”、一方、第3四半期8.2%、第4四半期4%
の高度成長への評価などがあった、と考えられます。
 
特に、タイミングとして今年の年央以降は、米経済は個人消費、設備投資の堅調さを反映した資金需給
の逼迫感に置かれるでしょうから、利上げ
は早晩、考えられるシナリオです。

しかし、利上げが与える個人、産業界
への不安は相当大きいはずで、加えて中間選挙、FRBは時の大
統領の再
選に悪影響を与える金融政策は取らないのが暗黙の了解です。

利上げはせ
ざるを得ない、が、上げるに上げられない・・・、ハムレットのような心境のFOMCは「委員会
は今後数ヶ月間の持続的な成長維持につき、上昇
のリスクと下降のリスクは大体、同等と認識」すると
して、現状を変えず、
しかし、「景気の現状を維持する政策を取りやめるについては我慢する」
(the commitee beleives that it can be patient in removing itspolicy accomodation.)、つまり「変えない」
としていて、これはいずれ、
利上げある可能性を含んでいると思います。
そういう時に向かって、株式市場、債券市場は共に次第に、現在の比較的楽観的な投資心理を慎重な
ものに変える時が来るでしょう。もう1ー2ヶ
月のうちに市場は中期的(半年位のスパンで)にも反転、下
落の方向をた
どるハズ、というのが筆者の見方です。

なお、もう一つの関心事は2月6,7日予定の「G7」(フロリダ)。円が強く、ユーロはその拡大可能性への
評価が一段落している状況です。ドル
が弱いのはアメリカにとって総体的には「unhappy」ですが「テロ」
の可
能性が消えない以上、ドルが弱含みの局面は続きそうで、今回のG7では主要経済圏の景気の現
状を維持することの確認とテロ抑制への言及と言うこと
になろうかと思います。  (AY)






           マーケット・アウトルック

 
                第37回
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H16.01.11
                    年頭にあたって


皆様、新年のご挨拶を申し上げます。
 
このページでは、「金融リスクマネー」(株式、債券、投信、国際石油・金・非鉄などの商品への投資資金)の
値動きを手掛かりに海外
および国内のお金の流れを読むようにしています。それが見えれば、金融市場への投
資と言う”波乗り”に、我々も上手く合わせられるか
も知れないからです。
 
で、2003年末から2004年にかけての世界の資金の流れを、欧米の年金・投信の資金、日本人の銀行預金に
あるような超保守的な資
金の中に見られる資金の動きと、投資心理、指数等の動きを念頭に分析してみます
と・・・。
 
国際商品市況(CRB指数などから見て)はしっかり上昇中、国際石油価格もWTIで見ると1バーレル30ドル
を超える日が多く、金価
格株価も1オンス425ドルの高値まで値上がりしています。
 
東京、NY、欧州、アジアの株式市場は、ともに値上がりの基調揺るがず、”リスクマネー”の動きは強気の心理
で安定しています。唯一、不
安定感を与えるのは米ドルで、円が1ドル=105円台、1ユーロが何と136円台
に入りそうな騰勢です。
 
背景にあるのは、アメリカの景気が消費、金利、設備投資などから見てなお好調、日本経済も長年の不振か
ら脱出し始め、欧州もEUの潜在
力から見て、成長率が2〜2.5%と言う巡航速度の予想、加えて中国
済が絶好調(2004年は9%台の成長予想)でアジア諸国、特にシ
ンガポール、韓国、インドなども見通しが
明るいことにあります。
 
心配症の投資家は否定的な材料を好みますし、メディアも必ず、悪材料を挙げますので、それに習うと、懸念
は国際テロ、中国経済のバブル破
裂、各市況好調の反動への恐れなどでしょうが、私はアメリカの金利上昇
懸念を挙げたいと思います。個人消費、設備投資が戻ってきていてなお、堅調に推移する予想ですが、最低
水準の金利(3ヶ月ものMMF金利が
1.05%レベル)が継続しています。

基調が強気の経済は物価の上昇懸念を孕んでいて、金利上昇の可能性を否定できません。
大統領選挙の年はFRBも利上げをしませんが、抑
えておけば金融市場はいずれ、資金需給のタイト化などか
ら逼迫気味にな
ってきましょう。2005年の話をするのは時期尚早ですが、上手く収まっている物価の上昇が見
えてくるかも知れない来年には金利上昇の可能性を否定
できず、それを懸念して、株価の下落は11月選挙
半年位前の2004年央
あたりから再び、中・長期の調整局面を迎えるのではないかと見ています。
 
それが与える世界的な利食いの展開が年の後半には各国市場で予想されますので、この辺りが要注意。それ
までは「リスクを取っていっても良い環境
が継続しそう」と言うのが、年初の概観です。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第36回
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H15.09.07
             強気の東京株式市場、なお堅調の予想
         株式保ち合い解消のほか、企業収益構造の好転など



(1) 銀行の企業株式の保有、大幅解消、自然体に
 
東京株式市場の投資心理が4月時点までと比べて様変わりの様相を呈していますが、私が注目する
のはすでに各方面が指摘しているように、「株式の相互保ち合い」が長く続いた株価低迷期に相当程
度、解消されてきたこと、従って各企業の株主のその企業の株式の保有状況、外人買いを含む取り
組み方がその企業の実体に対して整合性をもつと言うか、発行済み株式数の保有のされ方が、企業
の実体を比較的素直に表わすようになってきたと思います。つまり、金融機関などの株式保有(株価
を実質上、嵩上げしてきた)が排除されてきたことにより、株価が底値を確認しやすくなったと見ます
が、これに加えて、企業業績が「リストラクチュア」(本来の意味の企業の構造改革)遂行をベースに
売上高が戻れば業績がすぐに向上するところまで来たこと、アメリカの個人消費が減税効果、中東
問題の緊急度の後退、企業業績の好転傾向などに支えられてきたこと、などを考えますと、個人、機
関投資家の投資マインドはなお強そう。
 
(2) NY株式市場の需給バランスも好展開
 
NY市場でも東京市場でも投信残高がかなりの増加振りで、これも株価を支えるでしょう。日産のゴー
ンCEOの経営革命(有利子負債の大幅削減、購買部門・人事部門の厳格さ強調、R&Dへの注力など)
で上場企業の財務体質が好転していることも含めて、日経平均株価は利食いをこなしながら、なお基
調強い展開(年内に11,000円〜11,500円)、さらに来春に向けてしっかりの値動きを予想します。
 
 気がかりの一つは9月末に向けての総裁選。小泉人気もさることながら、実体の好転を伴わない構
造改革の空疎さに国民は飽き始めています。政局は波乱含み、日本の政治体質の変化や実質的な
質への好転にはなお、時間がかかるでしょうから、この観点からの期待は薄く、実体経済の進捗(企
業業績の続伸幅の鈍化、金利上昇、円高、渋い動きの雇用情勢など)もハッキリしないことを映して、
来年の市場展開はN字型(春先までは高め、以後調整、その後買い意欲復活)と言うイメージを描い
ていますが。

3) 注目のアジア経済、新しい構想、続々
 
もう一つの要注意は、アジアの通貨動向でしょう。人民元がアメリカ始め多くの国々から固定制から一
定の範囲を持った変動相場制へと管理対応の切り替えを迫られている中で、円為替レートも米ドルに
対して人為的な円安維持だと指摘されてきています。秋から来年にかけてはアジアでの為替問題も市
場を方向ずけるポイントとなります。アジア経済の関しては、さらにアジア債券市場構築案(タクシン・タ
イ首相)、アジア新通貨創設案(マハティール・マレーシア首相、アロヨ・フィリピン大統領)、時期尚早で
すが、アジア諸国間の資金決済機能、証券市場合体案(“ユーロ・ネクスト”拡大株式市場展開に類似
した“アジア・ネクスト”株式市場案が)など、アジアで発展的な議論が多く出てこようとしています。
 
ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国とインド、あるいは中国経済との結びつきや2国間同士のFTA(自由
貿易協定)の締結急増の動きは、このようなアジアの新たな展開や新規の動きを、ますます促して行き
そうです。リー・クアン・ユーシンガポール上級相、マハティール・マレーシア首相、アロヨ・フィリピン大
統領に最近ではタイのタクシン首相が欧米の指導層の関心を集めています。

日本経済やそれを率いるリーダー達がFTA締結に伴う関税の引き下げなど、最近の経済環境自由化
の嵐についていっていない、他の首脳と同様、互いに理解しやすく、その知的対応が分かりやすい、
あるいは、同じ土俵の上で議論可能な論理的な思考力を持っている・・・、と言う認識が得られていない
、と言う問題もあります。
 
(4) 次のアジアへ中国と日本の指導力は・・・
 
こうした中で、経済拡大中、政策展開や外交対応が隣接諸国に対してマイルド(温厚)、との評価が定
まってきた中国経済は、その成長性の魅力と自由貿易、関税引き下げに向けた経済関係の深化で、
日本経済にとっても魅力と侮れない可能性を併有した国として改めて見直すべき対象です。アジアの
共通通貨による決済と資金の安定的確保もアジア圏の直近、最大級の課題です。人民元の変動相
場(フロート)制への移行、円通貨の変動相場市場の下での安定的推移、何よりアジア最大の経済大
国の成長力復活と経済の表舞台への復帰、ユーロ通貨の国際社会での信認や欧州における金融制
度の安定維持を睨んだ、アジアにおける指導力を日本に期待する向きは西欧の先進国の中に多いよ
うで、ここは日本人に知的能力と指導力発揮を期待したいところです。(了)
 
 






           マーケット・アウトルック

 
                第35回
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H15.06.29

               慎重ながらも株式中心に強気
           欧米機関投資家の運用資金、キャッシュ低め



世界中の機関投資家が主要為替、株式、債券、不動産の各市場をどう見ていて、どのように先を見なが
ら、どのくらいの資金量で“待ち伏せ”したり、逆を張ったり、静観したりしているものか。その投資資金の
需給の動きと主要国の金利動向から各市場を探れば、市場展開の予測が概略、見えると思っています。

強弱の根拠の明確なところを数字面で語れればよいのですが、それは世界中の資金が明確なことが言
えず、言わば“山勘”で語ることになります。後から「ね、やっぱり、そうだったでしょ」と言っても、「後から
なら何とでも言えます」でチョン。

4月上旬イラク戦の大勢が見え、その間、世界中の経済成長がブレーキがかかっていた時期、日本はも
とよりアメリカ、欧州、アジアその他で連動して金利が市場最低水準に下がり、5月後半に向けて経済成
長のエネルギーが内包されてきて、NYSEはじめ株式市場に資金が戻った。傍ら変則時の展開でもあっ
たユーロ高を含めて、NYSEの勢いが今は一服、と言う“間合い”にきた感がありますが、さて、ここからの
資金の流れは・・・?

世界のお金の動きは、日本人のお金の動かし方と若干違い、「キャピタル・ゲイン、時にインカム・ゲイン
を狙って相当迅速に動き、チャンスある空白の市場を察知して、そこへいち早く行き、遅くきた資金を迅速
に利喰い、時々市場を離れて静観、比較して高めの金利を享受し、その間、厳しく正確な分析を、国際比
較を欠かさずに精査」します。資金の性格は「臆病で迅速、かつ、確信があれば大胆にチャンスに向かい
、引くときも早い。」大方の日本人の資金のような凡庸(ぼんよう)な動き方はしません。

予想通りFRBはFF金利を下げ(6月25日のFOMCでは0.25%)、すでに折込済みのNYSEは乗っていた利
をわずかながら取り、TB市場は期待の0.50%利下げがなかったことに若干、失望(価格が下がり利回り
上昇)と言う展開で、現在の注目点は@アメリカのデフレ傾向、A利下げが早晩もたらすであろう企業業
績の好転、Bローン金利の下落が個人消費、設備投資にどこまで効果をもたらすか・・・です。

アメリカの投資家は今はそれほど慎重ではないと考えられ、NYSEの調整は浅く、基調なお強気の展開で
しょう。デフレが6月以降も一層続く様子でしたら、もう一段の利下げがありましょうが、夏の個人消費は減
税効果から堅調と見て、また次第にNY株価、米ドルともに強くなると考えます。他の市場も強気で見てよ
いのではないでしょうか。つまり、欧米の機関投資家は債券市場への投資については慎重になってきたが
、“キャッシュ・ポジション”を低めに抑える前向きの運用を続けると見ています。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第34回
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H15.06.15

       主要通貨、中東、アジア、原油、共に国際間協調の下支え
              市場心理、今しばらく安定の予想


この「アウトルック」4月中旬以降のコメントにも書きましたように、各市場の「投資心理は”順“のパターン
回復が見られよう」との見方が実証された形になって来たと思います。このところのNY株価の堅調な推
移、それが「内外の主要株式市場に堅調な推移」をもたらす展開で、東京株式市場もよい値動きです。
個別銘柄への投資には多様な展開がありましょうが、市場連動型「投資信託」など”買い“のタイミングで
、今からでも遅くないかも知れません。
 
4月当時の私のNY株価、ひいては東京株式市場等への“強気判断”の手がかりは、@イラク戦争の“英
米連合軍の勝利”評価、Aアメリカの消費回復期待と金利一層の低下傾向、B国際石油価格、安定化
の可能性・・・などで、ドル安傾向がもたらすアメリカ経済への好影響など視野に入っていました。この先
についても、なお、NY株価に強気でいます。国際石油は夏の需要期に入りますが、サウジ、クウエート
等の供給側の生産現状維持に、イラクも産出参加の方向で、価格の安定(バーレル・30ドル前後の高
値だが)傾向は維持されるでしょう。株価の戻りが米国の個人消費心理に好影響を与えること、SARS問
題の後退もありますから、それらも内外の投資家には支援材料と見えます。
 
ところで、私の一方の関心事は、6月上旬東京で開かれた「アジア主要国の首脳会談」「日韓首脳会談」
です。アロヨ・フィリピン大統領、リー・クアン・ユー・シンガポール上級相、マハティール・マレーシア首相
、そしてノ・ムヒョン韓国大統領らの東京訪問で見えてきたのは、各国首脳陣による1.アジア通貨安定の
ためユーロ通貨に相当するアジア新通貨、債券市場等の創造への言及、2.ASEAN諸国と中国、インド
など分断された印象だった地域統合、経済連携の動き、3.日韓朝のなお硬直した国際関係に新たな視
野(北側への融和対応、日韓関係の新段階入りの印象)などですが、ようやくアジアにEUに見られる、
総合政策的、有機的つながりへ、視野が開けてきた印象です。
 
中東ではパレスチナ問題に米、イスラエル、アラブ諸国の新たな「協調」の動きを見ますが、数千年来の
対立がここで納まるとは言えず、しかし、この問題に新たな融和と相互協力を期待して待ちたい。

“エビアン・サミット”では米・欧州間の不協和音に対し通貨問題で「ドル高」協調の動き(形だけの表明と
の印象)と、少なくとも対話が成り立ち、国際協調のチャネルは生きていると理解します。当面、通貨・株
式・直接の各投資活力は勢いを維持します。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第33回
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H15.05.25

              読者からの質問にお答えします。


前回のコメントに対して読者の方からご質問が寄せられましたので以下にお答えします。

【質問】

「1800年代末の不況を救ったのは鉄道の世界的普及」であるとありました。

以前、日経新聞のあるコラムで、18世紀以後の世界的なデフレは、世界的な移動手段の活性化が
原因。今のデフレには、通信革命も影響している。(やや記憶あいまい)とありました。

そういたしますと、交通革命は、デフレの引き金であるのと同時に、デフレが原因で起こる不況の解
決策だったのでしょうか。 また、今のデフレには、通信革命も影響している。ということは、これもま
た、原因であるのと同時に、処方箋となりうるのでしょうか?

【回答】

「G・シリングの言う”19世紀末の世界主要国の不況を救ったのは、鉄道の世界的普及”との洞察に
なぞらえて、彼はこの21世紀初頭の世界的デフレを救うものは、現在の技術革新、つまりITの活用
浸透、バイオ技術の利用、通信対応の国際的な徹底などであろう”との指摘について、

@交通革命はデフレの引き金で、かつ、不況の解決策であったのだろうか?
A現在のデフレには通信革命も影響している。とすれば、通信革命は不況の原因であると同時に、
 処方箋となり得るのだろうか?」

興味を持たれる質問です。私は、19世紀末の鉄道の世界的普及については、ロンドン鉄道駅のG・
ワットの時代の蒸気機関車の姿、19世紀末、福沢諭吉、勝海舟らがアメリカに出かけた際に、西海
岸からシカゴに向けて乗った大陸間横断鉄道の絵、「汽笛一斉新橋を」の当時の横浜間の鉄道敷
設の様子などを見聞きした際に、19世紀末に世界的に鉄道が敷設されるブームがあったこと感じて
いました。
 
G・シリングの指摘は、19世紀末の不況を救ったのは新技術であった鉄道敷設であった。
当時の主要国の鉄道普及と人々の往来の爆発的な増加、物資の広範な拡がりは、地域的な物資
の拡販にとどまっていた従来の狭い市場にダメージ(デフレ)を与え、おそらく一次産品である農作
物、繊維などの価格下落を促したでしょう。が、視野を全世界の広範囲に広げて見れば、まだまだ
市場はどこにもあり、一層の鉄道の広範囲な鉄道敷設が物資の拡販を促して、不況脱出の手がか
りになった、と見ているのだと思います。私もそう解釈します。

さて、現代の通信革命はITの浸透により、従来の販路が世界的に広範囲に拡大すると言う特長を
もちますが、それは鉄道の普及時にも似た物流がもたらす変化で、市場にデフレをもたらした原因
となったでしょう。労働集約的な分野(第一次産業および流れ作業が中心の製造業分野など)の世
界的な生産過剰も、これに火をつけたと見ます。

しかし、世界市場の物流頒布の状況を、より精度の高い情報収集と分析で捉えたら、なお、物が足
りない、デフレになっていない市場を発見することは可能でしょうし、安い原材料の発見、安い輸送
ルート、そして高い売り方が可能な地域の発掘は可能でしょう。IT革命の強みがまだ発揮されてい
ない部分はあると考えます。つまり、現在の不況の超克のために、情報化時代のIT技術の一層、
精度高い利用が、処方箋となり得る余地がなお、あるのではないかと考えます。バイオはここでは
置いておいて、”通信対応の国際的な徹底”も、この議論の範疇に入ると思います。」

以上






           マーケット・アウトルック

 
                第32回
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H15.05.18

                  “デフレ”世界的に・・・、
              何が需給のバランスをもたらす?



アメリカ経済について長年の性癖で「物価は基調、上がる方向。しかし、このところ前年比1〜2%プラ
ス以内と言う巡航スピードで、ずっーと落ち着いている。マ、これはマクロ経済では“いいサイン”だし・
・・。」などと見ている間に、4月のWPI(卸売り物価指数)が前月比1.9%下落(過去最大の下げ。93年
8月の1.2%マイナス以来10年ぶりの下落)、続いて発表のCPI(消費者物価指数)も4月は同0.3%
マイナス、いよいよデフレ本格化(?)と聞いては、頭を切り変えなければいけません。

これは、@国際石油価格の下落、Aアジアからの安価な製品の輸入拡大・・・が主因とのこと。しかし、
雇用情勢の悪化(4月の失業率は5.4%と史上最高)、個人・法人の破産件数が3月末までの1年間
に1.61万件と史上最高、4月の鉱工業生産が2ヶ月連続のマイナス・・・です。そこに日本では第1四
半期のGDP成長率が輸出の減少、消費低迷などを映して実質、前期比0.0%とゼロ成長、ドイツ経
済が2四半期連続マイナス成長、SARS問題でアジア経済は部分的に壊滅状態、全世界では500万
人を超す旅行業務関連社員の解雇・・・などのニュースを重ねれば、現況経済が日本だけでなく、世
界中で“異常事態”にあることは疑いありません。

ECB(欧州中央銀行)は利下げ過程の最中ですが、独仏ではユーロ通貨が強くて欧州製品の輸出が
困難になってきていることを含めて、金融緩和をECBに要求していく考え、アメリカの中央銀行FRB(5
月21日にグ議長の経済問題下院証言、6月24、25日に次回のFOMC)ではここまで2回連続金利に
手をつけなかった後の金融政策は利下げになる予測、日銀は長期間の緩和策の効果が半減してい
る問題に直面し、一層の緩和策に苦悩している最中、と世界中が金融緩和に向かい、“デフレ対応”と
なってきたことを改めて、痛感します。

えらい時代と状況です。供給の適度な抑制、需要回復への刺激策(アメリカは2013年までの11年間
に総額3,500億ドルの減税実現へ。欧州、日本では物価の巡航スピード回復への策は不明)に鋭意
、努めなければ、企業倒産、雇用の一層の悪化、貧困、疫病・・・、と悪い連鎖反応が終わらない懸念
を持つ向きも増えましょう。G・シリング(アメリカの有力エコノミスト)は「1800年代末の不況を救った
のは鉄道の世界的普及、1920年代の不況が切り抜けられたのは自動車の大量生産。つまり、“技術
革新”が“時代超克”の手がかりだった。現状はITの活用浸透、バイオ技術の利用、通信対応の国際
的な徹底などを通じて乗り越えられるはず。調整期間を経て2年位で回復」と述べています。新時代
への突破口が見えてくるものか、関心がもたれます。(AY)








           マーケット・アウトルック

 
                第31回
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H15.05.11

               共に“リスク・テイク”に前向き
             クエ−トの友人はユーロ配分を強調



イラク戦争が終わってから1ヶ月の間に、予想外の事態が世界の資金の流れを変えてきました。

ドル通貨の弱体化とSARS問題(5月9日現在すでに500人を超す死者を出す事態)に伴うアジア中
心の経済成長悪化がそれです。ユーロ通貨が対円で135.13円までの高値、一方、米ドルは117
.21円(円の対ドルレートは直近116.30までのドル安へ)へと売られています。

クエートの友人J・ジャマールが何を考えているかを推定してみますと、「イラクが変わる。国連主導
のイラク国家再構築の建設ブームが来るだろう。すでにクエート株式市場は戦後第一段階目の急
騰を見た。われわれは米ドル・ポジションを引続き、高めにしているが、気がかりはイラク国内の行
政整備、公務員の給与支払い等に機能する通貨がディナールではなく、米ドルとなっていることだ。
しばらくは米ドルの信用でイラク国内およびアラブ域内経済も稼動するが、それが当面、国際間で
米ドルの信用失墜を連想させよう。クエート国内で建設ラッシュ、消費需要拡大などが期待され、ま
た、NY株価もしっかりしてきているので、通貨とリスク商品のポートフォリオ配分を株式、およびユ
ーロ通貨か日本円の再度重視で、比重を米ドル以外に切り替える時期がきた。ユーロへの資金配
分は資産全体の10%程度にまで、上げるか。現状の5%弱を15%まで増やすのは、まだ先の話
だ。円のポジション増強の時期はSARS問題に目途がつくまで、まだ不明。しかし、米ドルへの配
分見直しは避けられない。そろそろ各国株式市場での材料株選別の詳しい情報を確認しなおそう。」
と言ったところで、強気です。
 
アメリカの友人は個別銘柄の再発掘へ、手がかりは“リストラ”

他方、アメリカ・オハイオ州の投資顧問会社運用担当の知人トムは「ポジティブな展開を実感させる
最近のNY株に関して、その配分を見直す。コスト抑制、ダウン・サイジング、リストラクチャー(経営
基盤のイノベーション継続)の進捗度を手がかりに、再度、優良企業発掘に取り組む。金利水準が
低い環境はインフレ終息(とも言えないけれど)を背景に、当面続こう。これが企業活動、消費を促
すはず。配分を積極的に高める。来年の米大統領選挙に向け、景気情勢はむしろ安定的で、政策
展開も市場に有利な環境だろう。FRBグリーンスパン議長続投のニュースもそれを示唆している。

大体、アメリカの株式市場が3年以上不透明な状況を続けることはなかった。一方、分散投資のタ
ーゲット、東アジアに関してはSARS問題に驚いている。香港、韓国、日本、中国全体について、
GDP1%もの押し下げ要因。”wait and see”だ。」  (AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第30回
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H15.04.27

            経済成長“順のパターン”回復への道筋


イラクでの戦火が終息、国際間の関心事がイラクおよび中東諸国の“戦後体制”、国連やアメリカのイ
ラクおよび中東プレゼンスのあり方などに移行すると共に、いくつかのニュースの中に平和時の活力回
復を伝えるものが散見できるようになってきました。世界のパソコン需要が回復基調(出荷が3四半期
連続で前年同期比プラス成長)、国内の半導体製造装置の需要回復傾向、韓国サムスン電子の業績
好調、
東芝とソニーの半導体工場MPU(演算処理装置)量産体制へ積極投資、アメリカの消費に反発の動き
・・などのニュースがイラク戦争から来る世界の成長圧迫の動きを次第に払拭する印象を与えて、期待
される今後の好ましい経済環境の一端を示唆しています。
 
折から、NYSE、NASDAQ、東京などの各国株式市場が平静を取り戻してきて、国際政治の中の信認
向上でユーロ通貨が堅調、国際石油価格が安定化(バレル当たり30ドル水準への低下、クエート、ロ
シアの株価急騰へ)するなど、好業績や市場の需給を素直に映す投資活動が見られるようになってき
ました。SARS(新型肺炎)が大問題ですが、“順のパターン”の市場展開は見えてきています。今こそ
再び仕込み時と判断する投資家が多いのではないでしょうか。
 
また、私は以前からそう思っていましたが、北朝鮮の核問題、軍事支出の財政圧迫、その他“瀬戸際
政策”に対する国際間からの懸念は、帰するところ、この国を国際社会に引っ張り出す複数国からの
外交攻勢に向かうとの認識が立証された形で、北朝鮮はアメリカ、中国、韓国、いずれは日本とも協
調するはずです。金正日総書記とその周辺は、フセイン生死不明の問題からくる緊張以上に、今の
貧困、飢餓、国際間の孤立を得策と考えなくなる・・・のは時間の問題でしょう。

東北アジアの国際間の緊張は原油、天然ガス等のエネルギー供給(ロシア、中国、北朝鮮からアメリ
カ、日本へ)のルート拡充や交易拡大などを目指す動きになっていくと考えますが、そこに資金の安定
的な流れ(国際基金、シンジケート・ローン、民間からの直接投資、直接金融の流れ)が見えてくれば
情勢は変わります。ルーマニアのチャウシェスク大統領の死の様子なども思い起されて、金総書記周
辺は肝を冷やし、緊張を避ける形で東北アジアの環境は正常に向かっていく方向と思います。中国の
高度成長も含め、日本を巡る国際環境は次第に好転、総じて正常な投資行動が戻る方向の経済環境
に注目したいと思います。コスト抑制等による企業業績の好転の中、“日本買い”の上げ相場に期待し
たいと考えています。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第29回
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H15.04.13

       NYSE,成長率回復、投資心理好転まで2〜3ヶ月必要?


「自由と民主主義をめぐるイラク戦」(ブッシュ大統領)がひとまず終わり、戦後対応が次第に形を見せる
間、新たな世界の構築がどう形成されるのかに関心がもたれますが、4月12日の日経紙社説のまとめ
方(「イラク戦争は歴史にどう刻まれるか」)が私には示唆に富むように感じられました。そのポイントは、

(1) 圧倒的な軍事力、経済力と精密化とで“ベトナム症候群”を超えたアメリカの強さが、21世紀の国
   際政治・軍事構造の一端を物語る、
(2) 日米欧アジアの地政学上の違いが、明確な脅威を持つ国と持たない国との間ではっきりした、
(3) 国連が持つ機能の有効性と限界を今回の戦争が明らかにした、
(4) 戦後処理の如何では、アラブ諸国が新たに反米勢力としてこれまで以上に台頭しうる環境にある、
   などで、今後の国際間の構造変化と、ことに新たな枠組みから生ずるであろう世界の資金の流れ
   に注意したいと思います。
 
この間、ユーロ通貨がしっかり、円は弱含みで米ドルは必ずしも強くなく、NYの株価にも今後を占う兆候
は見えてこなかった(10日のダウ平均の引けが8,220ドル前後と最近の水準から“変わらず”)と思い
ます。平常時の為替市場が持つ米ドルの機軸通貨としての役割や機能が特に見えてこない、つまり、
アメリカへ資金の流れが戻る様子がなく、一方、米国内では個人消費に一層の陰り(小売売上高は引
き続き伸び悩み)が伝えられ、製造業の稼動率は70%強で、設備投資なお低迷と言う状況です。“イラ
ク終戦”がもたらすであろう消費市場心理の回復、製造業の生産意欲回復が見えてくるには、なお時間
が必要の様子です。
 
「が、その辺りを読むのが課題」と考え、あえて“スペキュレ−ト”(賭ける)するなら、私は@NY株式投
資への投資心理が意欲をとりもどすには少し時間がかかり機関投資家が積極的に“買い”に入るタイ
ミングは年央以降、なぜなら、A企業業績の回復を伝える数字が見えてくるのは第2四半期以降、B
国際石油価格が安定(OPEC諸国が安定的と考える1バレル30〜35ドル水準)価格に収斂する時
期が4〜5月(冬の需要期の終了、OPEC穏健派の増産など)、CアメリカのGDPが潜在成長率3.3
%水準に戻るのに3〜4ヶ月は必要などからで、NY株価が持続的に反騰をみせ、平常時に戻るのは
年後半と読むのですが、さて・・・。  (AY)








           マーケット・アウトルック

 
                第28回
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H15.03.09

           確証、自信、知的努力に彼我の過不足、感ずる
          最近の2度のアメリカ出張で日本を振り返りながら


2月前半、3月上旬と2回のアメリカ出張があり、新聞を読まず、このところじっくり継続して内外金融情
報を消化していないのですが、英語の世界(メディア、日常の対話等)の中で感じていたのは、「アメリ
カ外交の硬軟(軍事、経済援助等の)両面作戦」「日本という国の確証の危うさ」「日本人の思考と知力
の脆弱さ」「適切な内外統計数字の恒常的把握の不足」などと言うことでした。
 
 “イラク問題”は、アメリカの強硬姿勢、国連安保理の機能への期待の大きさ、弱さと国際政治の背後
にある信頼獲得の基盤の脆弱性、フランス、ドイツ、ロシアなどに見られる外交展開の軸足の明確さ、
イギリスの対米協調路線とそれに対するイギリス内外の反応の分裂、そして日本外交の座標軸の怪し
さ・・・などを現していますが、滞米中見ていたCNNのニュース中に流れた「日本政府のNGO、PKO負担
の大きさ、その対外努力の跡」を伝える日本政府コマーシャル(初めて見ました)が印象的でした。
 
もともと、日本政府、我々日本人がともに、的確な「自己PRの不足」を問われてきたことはよく知られた
事実ですが、CNNにおける「日本のPR」コマーシャルは、アジア、アフリカ各国で日本政府が行ってき
た経済援助・人的協力、自衛隊のアジアなどにおけるPKOの様子をフラッシュで映し出し、いかに国際
社会の底辺で日本人が貢献しているかを訴えていて、効果的と思いました。外国からの日本国再認識
にも注目したいものです。
 
この間のイラク内外を巡る各国の外交、軍事情勢は「アメリカ外交が持つ強硬姿勢の威圧の意味と効
果(国際秩序不安定を抑止する効果やイラク国内での国際的査察の進展)」「トルコ議会のおそらくは
苦渋の反米政策(クエート外交を思い起こさせるアラブ諸国の微妙な心理)」「フランス・シラク外交の
洗練された表現(“戦火は外交の失敗”発言)」など興味をもたれる展開でした。同時に、戦後の日本外
交が常に「私、どうしたらいいの?」と内外の“人目”を気にしながら、自身で選ぶのではなく対アメリカ“
合わせの論理”に終始してきた展開を今回の一連の動きにも感じます。CNBCで語っていた、ある「心
理学者」の「Trust is a must.」(自己への信頼こそ最大の価値)、オッペンハイマー社(投資会社)の
「Our advise creates your assets.」(私どもの助言があなたの資産増加に・・・。)と言うキャッチ・コピー
など、感ずることも多いアメリカでの時間でした。
 
さてこの間、国際石油が1バレル当たり40ドルへと上昇、末端のガソリン価格がガロン2.20ドル(外国
石油依存度高いハワイ。昨年末にはガロン1ドル台後半)へと値上がりして、アメリカでも主婦達が悲鳴
をあげていました。1970年代のオイル・ショックを語るおじさんもいました。景気を語る代表的指標の
「個人消費」が、なお「パッ」とせず、アメリカ経済は勢いが失われた状態を続けています。失業率が5.
8%(2月)へと上昇して、知人の奥さんはそのニュースに首を振り、「難しい時代ね」と言っていました。
 
その辺りを映して株価はキツイ続落を続け(ダウ平均株価が何と7,600ドルまで下落)個人消費の先
行き低迷、その継続を示唆しています。為替市場でも米ドルが1ドル116円台(3月7日)へと売られる始
末、しかし、円が強くなる要素少ないと思われ、@米ドル安はアメリカ経済の弱体化を示すが、米国製品
の輸出条件に有利、A円高は日本経済の威信維持(円債市場の安定維持)に貢献、B強含みユーロ通
貨は欧州経済のインタレスト(関心事)・・・等々から、主要中央銀行が協調して市場介入している様子が
うかがえます。これまたアメリカの友人(投資顧問会社を経営)が「明らかに人工的な市場展開」「いずれ
実体経済を素直に映すだろう」と最近の為替市場の動きを「不自然」と断じていました。米ドルが強く円は
売られる状態になるはず、というわけです。
 
ことにNY、東京、ドイツなどの株式市場の低迷がひどく、FRBのグリーンスパン議長は来年(2004年)
春には退任しますが、職責最後の段階でアメリカ経済のみならず、世界経済のコントロール効かなくな
った事態をどう認識しているでしょうか?1996年の段階で「故なきユーフォリア(熱狂)」と株価の上昇
を懸念していた議長、かつて東インド会社への株式投資に手を染め、失敗したことがある物理学者のI・
ニュートンが「星の運行は計算できても、人の心理は読めない。」と嘆いたのを議長も想起している様子
ですが、「株価も経済も心配していたようになった。」と思っているかどうか、最近「中古住宅市場価格が
行き過ぎ。増税による不動産市場沈静化の必要も・・・。」と語っているようですが、資産を巡る人間の心
理の膨らむ怪しさに、頭を抱えているかも知れません。私は、このような環境は、春以降の石油非需要
期入り、イラク問題の終息(国際査察の終息、大量破壊兵器開発の疑惑排除など)などで変わると見て
いますが・・・。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第27回
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H15.02.23

                FRBの若手エコノミストを訪問
             米経済“限りなき前進”の印象、今回も


2月9日〜14日の間、ワシントンの連邦準備制度(FRB)に知人のエコノミスト(クリストファー・ガスト氏、
35歳、ノースウエスタン大学卒)を訪ねてきました。途中、雪で寒かったことと、出発時点の東京が暖か
かったこと、前日まで昨年来の期末試験およびレポート等の徹夜の採点、入試の関連作業に追われて
いたことなどから、ひどい風邪を引き、疲れが出て、必ずしも万全ではありませんが、新しい内に印象を
書いておきます。
 
クリスはアメリカ経済のIT導入の革命的効果(生産性の伸び、物価の安定など)を欧州、日本の経済と
比較検討して研究、レポートに纏めてFRBのHPに発表しています
(International Comparison of Productivity Growth/May24 2002 =Full Paper 754 KB PDF)。

この報告について関心があり、また日本の財政悪化と、ことにサービス産業の生産性の伸びの悪さを
説明するために出張したのですが、彼は主に、@企業の資本の老朽化、労働者の老朽化(vintage of
capital & vintage of labor)が経済発展の障害になること、A雇用情勢の創造的破壊(労働市場の流
動性維持、新規職業の創出)の必要性、を熱く語っていました。シュンペーターにも言及、また、日本経
済立ち遅れの議論に熱心に耳を傾けていましたが、日本産業の生産性の向上スピード鈍化(実際は日
本の生産性の方が元来、ベースが高く、向上の成長率が鈍い)についての説明は分かってもらいにくく
、早期に訪日するように言いました。また、彼は「FOMC」の際にグリーンスパン議長(当日は議会証言
の当日・その印象はいずれ報告します。)が座る椅子に私を案内して、「私達エコノミストはこっちに座っ
て説明する」と30人以上座れるオーバル・テーブル(楕円形の大テーブル)とは別の椅子を指差してい
ました。
 
ワシントンから帰国途中、クリーブランド市(オハイオ州)で投資顧問会社を経営している友人を訪問、
久しぶりに旧交を暖めたのですが、彼は「こんな時勢だから資金運用を任せる金持ちは多い」と最近の
新規契約について語り、「50万ドル位(約6,000万円相当)の額だった」と個人投資家の開拓状況の
一例を語っていました。日本の運用利回りの低さを語ると「アメリカではアカウントにもよるが年率5%
〜10%台。公認会計士とも相談し、個人投資家と連携して最大限、運用パフォーマンスを上げている
が、一時とは環境が違い苦戦中だ。」と言っていました。しかし、オフィスを縮小、ベテランでなく新卒を
多く雇っていましたが、曲折あれどもへこたれていませんでした。(AY)








           マーケット・アウトルック

 
                第26回
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H15.02.09

                商品市況にには一服感が・・・
          利回り指向の各市場から、円ドル、株式へ戻る?


世界の金融市場(証券=株式・債券市場、為替市場、各種商品市場、非鉄・紙・パ、木材、国際石油・・)
の資金の需給関係を総体として捉える・・・、というのは統計的に至難の技でしょうし、何よりその流れを
的確に捉えることなど無理な話でしょうが、お金が本来持つ属性=“安定性、流動性、投機性”=を判断
の手がかりにすれば何か見えてくるかも知れず、無謀を承知で世界の資金の行き所を探っていく、“人
々のお金への執着”と“正確に先を読もうとする知力(ユダヤ人が持っているような)”と言う基本的な欲
を、動かせない心理的な要素と捉えて少しでも先を読もう、過去の分析をしたり顔で語る“似非(えせ)イ
ンテリ”の轍を踏まないためにも何とか“先見性”を持とう、というのが、ここでの私の苦渋の認識や判断
です。

で、年初来この数回、書いてきましたように資金の流れは“もの”にきていますが、その傾向はなお続い
ているようです。金、国際石油、非鉄金属、そして“もの”ではなく通貨ですが、なお“ユーロ”しっかりで
す。共通してこの底辺に流れている考えや心理は、“出遅れ感のある金融商品と、実体経済の傾向に
価格面で遅れずに着いてくる商品”に連動していると見ます。投機的な心理が行き過ぎをみせる株式・
為替市場より、@放置されていて実体経済の動きからの乖離少なかった資産“金”への再評価、A冬
の需要期にイラク問題、中東情勢の険悪化で基調、強含みの国際石油価格、B円・ドル・レートを裏付
ける日米各経済の弱体傾向に反比例して、EUがまとまり始めたことで評価が舞い戻った“ユーロ”通貨
・・・皆、後から見れば見えてくる傾向ですが、「なるほど」と思われるこの1〜2ヶ月の資金の流れでした。
 
この“換物”の動き(通貨はそうではないが)は、当面、継続しそうで、金、国際石油、非鉄金属・・・への関
心がなお、残りますが、若干、相場展開に勢いの減退や“売りプレッシャー”も感じます。すでに一服感は
相場展開にも出てきていて世界の資金がまた、円ドル、株式などに戻ることも想像できます。

世界中、金利が低く、“キャピタル・ゲイン”を考えるより、利回り指向の方が強い相場展開ですから、短
期の回転で年利を競争力あるレベルへと運用していくのが、今の日米欧各市場の基本的な性格でしょう。
こうして、そうこうするうちに経済は冬から春へと移ります。日米欧で個人消費がどの位、回復するか、ア
メリカの減税効果が個人消費にいかなる効果をもたらすかなどを見て、実体経済の方に次第に投資家の
関心が戻る時期と見ています。(AY)








           マーケット・アウトルック

 
                第25回
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H15.02.02

              日本人が抱える問題点浮き彫りに、
           順応し、リスク取らないのが問題(ダボス会議)


世界の資金が行き所を失って、金とユーロに行っている・・・、アメリカへの国際的信奉はあの「テロ」以
来崩れ、そこに会計不信、イラク問題、国内消費の低迷では、NY株価もNASDAQ指数も“顔色なし”。

最近の下げは、結構きつい下げですが、こういうときに何か、具体的な政策が出て事態が安定するの
が過去のアメリカの例で、90年代には長らく、FRBがタイミングよい利下げをしたり、減税を行ったりし
てきました。

最近でも12月の利下げ(FF金利0.50%下げ)、ブッシュ大統領の減税第2弾などありましたが、実体
経済の方は、@企業業績の低迷、悪化、A雇用の調整、B個人消費の長期の鈍化傾向・・・、と不冴え
です。ブッシュ大統領の「一般教書」の基調が、自由への凱歌とイラク、テロ等への対決姿勢に裏打ち
されていて、国際間の空気が緊張感をなお一層、深めたことも影響して、NYSEはじめ、資産運用の場
はどこも軒並み、厳しい調整の渦中にあります。
 
お粗末なのは東京市場で、日経平均株価もバブル時以前の水準になってきたのですが、投資家が何
やら疲労感をもっている、かなり低い配当利回りを手がかりの運用で、ファンダメンタルズ(雇用、企業
業績、デフレ、実体から乖離したここまでの円高傾向と企業利益圧迫の推移など)もなお不冴え。で、
31日の小泉首相の「所信表明演説」(構造改革推進、“失敗恐れるなかれ”発言他)の声もむなしく響
くばかり、市場では支援材料にならないでしょう。
 
スイスのダボスで開かれた「日本問題」国際会議(1月24日)に出席して議論した出井ソニー会長、日
産のゴーン社長らは、「なお残っている官僚意識、人々の立ち遅れた行動様式、なお変わらぬ老人大
国・・・が日本の大問題。日本が企業ならとっくに倒産している。日本経済は冷蔵庫と同じ。冷え込んで
いて、永続的で気楽な共同体意識の中でゆったりして、本来の競争らしい競争をしているのは日産や
ソニーなどだけ。」(出井氏)

「日本人には“ビジョン”と、それを達成する“ビジネス・プラン”の双方が嫌いか、ないかだ。アイデアの
大方は論じられるが、半数以上が実行されない。妥協と先送り、放置が普通だ。」(ゴーン社長)

「日本では繁栄の時代に順応と自己保全本能が横溢し、ディベートは欠如、リスク回避の国になった。
多様性ある文化が育たない。」(出井氏)

「だが膨大な数の教育水準高い労働層、レベル高いインフラがある。方向が与えられたら、すごい発展
ありうる。」(ゴーン社長)といっています。(AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第24回
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H15.01.26

            信頼度高い資産へ、なお資金シフトの動き
         イラク問題、日米経済の不調、世界のデフレが背景に



世界の株式市場、為替市場、現先、短期・長期の債券市場などのあらゆる金融市場に、どのくらいの
資金があるものか、計算は可能でしょうが、ともかく膨大な金額でしょう。

日米欧など先進国の企業年金、公務員の年金、資産家の預金、投資顧問等の預かり資産、大手企
業の余資・・・、考えただけでも気の遠くなるような金額だと思いますが、それらの膨大な資金は、日々
、個人・法人投資家の必要、ファンド・マネジャーらの判断を通じて、株式・債券・為替、投信、商品・
不動産等に向かっています。それは“常に”、より賢明で有利な所に行こうとしているでしょう。

ところが、その資産運用の成果はこの2年あまりの間、NY株式市場のピークアウトを背景に劣化してき
たはずで、信頼性に根拠ある資産や市場で、かつ現金化しやすい投資先に資金はシフトしてきたと考
えます。
 
かつて、これらの資金にもっとも関心をもたれたハイテク東京市場は長期間、影が失せた印象強く(実
際はなお失せていない)、アメリカの企業と流動性の市場魅力も今は不信感に見舞われていて、しか
も世界の資金は、なお“アイドリング”(無為な資金の運用状態)は好まれず、資金は“消去法”でどこ
かに配分される状況です。

ファンド運用者は資金の放置を許されず、また、低金利の銀行への資金配分では「お金の役割は本
来、投資」と考える意識になじまないのが海外の資金です。ここは歴史的に最も信頼度高かった資産
である“金”、最近、存在理由が根拠を認められてきた“ユーロ”通貨などの行くのが必然なのでしょう。

日本人の硬直した資金運用感覚は世界の資金の常識ではありません。冬場で需要期、しかも中東に
はキナ臭いニオイも立っていますから、国際石油の価格は上昇する環境です。1バーレルが33ドルへ
、金は1オンス365ドルへ、1ユーロが127円台、1.07ドルへと歴史的な高値へ上昇、かたわら、世
界の資金の中には中国、インドなどの新たなアジアの資金も入ってきています。国際石油、金などは、
アジアのお金にとっては“投資ターゲット”です。先進国の個人消費に伸び悩み傾向が続き、中国、ア
ジア諸国が大量生産して世界経済にデフレ傾向が進み、イラク問題が終わらず、寒さも続く。3月一杯
くらいまでは、金、石油、ユーロは基調、高い値動きが予想されます。資源産出を評価されているオー
ストラリア、カナダなどの株式市場も資源株中心に良い投資対象ということになるでしょう。 (AY)







           マーケット・アウトルック

 
                第23回
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H15.01.05

             年初、ドル売り、湾岸戦争の陰が・・・
           他方、NY株価は反発、IT調整脱出の期待



新年、明けましておめでとうございます。しかし、1年が経つのが速くて・・・。それに1年単位で経済や歴史
を考えるのが本当に正しい態度なのか・・・、ということも感じています。

このコラムでは、内外の金融情勢を手がかりに観測して、その動向から世界の経済や資金の流れを理解
し予測しよう・・・、という無謀な試みをしています。それは時代の流れを理解することが、自分の位置の理
解と安心の手がかりの一つになると考えるからですが、同時に、時代の中の収益機会をしっかり捉えられ
ないものか、とも思うからです。

年末から年始にかけての内外情報の欠如の中で確かなことが言えませんが、ひとつはっきりして見えて
いたのは円ドルの為替レートが年末に一瞬、118円台へと円高に振れていたことです。イラク査察問題が
なお残り、「正確な軍事配備報告に非ず」とのアメリカ側の判断に対するイラク側の反論などが投資心理
に影響を与えていますが、こういうときには「有事のドル高」というのがよく見られる動き。それがそうならな
いのはクエートにかなりの米軍兵力が結集していて、中東の緊張があの1991年の湾岸戦争当事の様相
を見せている。その危うさに対する危惧の念が強く、その現れなのだと思います。

しかし、1月2日に120円台半ばにまでドルが買われた様子を見ると為替市場は118〜120円の間のレンジ
でディーリングされる投機市場になっている印象で、これは通常の取引に早晩、戻るのだろうと想像され
ますが、当面120円を挟んだ展開かと思います。

この間、NY株式市場がしっかりで、早いところIT調整の最終段階から新たな反発時期に入ってほしい期
待も疼きますが、アメリカ経済の方はなお、個人消費、設備投資ともに“今ひとつ”の状況です。

しかし、これはNY株価にはともあれ反応する東京株式市場の株価には支援材料かもしれません。

日本経済は混迷の度を深めていて、そう簡単にこの“複合不況”を乗り越えられない状況にありますが、
年初にひとつ言いたいことは「相当強い意志をもって慣例化した日常の行動様式、思考形態を切り換え
ないと、日本は萎えていくばかりだろうと」と言うことです。人間の強さは「意志と反省をもって切り替わる
力がある」ことです。

新たな挑戦のテーマが見えたら、再度“エネルギー”が満ちてくるはずです。 (AY)










           マーケット・アウトルック

 
                第22回
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H15.01.01

                資金の流れ、当面“モノ”へ
                不冴えだった世界中の株価



2002年が暮れましたが、予想通りと言うのか、期待ハズレと言うのか、各マーケットはどれもみな、失望
の一年でした。NY株式市場は、2001年の継続する利下げを評価して、また、IT調整の終息を期待して、
底打ちから反転へ・・・、と期待もありましたが、個人消費の伸び悩み、加えて年後半の一連のイラク問
題(大量殺戮兵器開発問題、アメリカ側の軍事的なイラダチ、国連を舞台にした査察問題をめぐる緊張
など)、実体経済の鈍重な展開(企業業績、会計不信問題、雇用情勢、個人消費の鈍さ再確認)、国際
テロ問題等が、心理的に重石となって、韓国を除き、どこも不冴えな一年を終えました。

東京株式市場も、もともとのデフレ傾向強い実体経済への失望に加え、政争、無為の時間長い構造改
革論議、企業業績の継続する悪化傾向、“創造的破壊”起こらぬイラダチ、所得伸び悩み、雇用情勢の
一層の悪化・・・、と投資環境はよくならず、低迷を脱すること叶わぬ市場展開に再度、終始しました。

欧州の株価もドイツ経済の構造問題、失業問題、利下げできない事情(物価、通貨等への配慮など)を
映して今一つの展開で、結局、中東情勢不透明感増加やデフレ経済の先進国での浸透、新興国の消
費景気騰勢傾向などを反映して“金”価格や“WTI(国際石油価格”の上昇、為替市場は米ドル弱含み
(12月には1ドル125円から119円台への円高傾向)、、、と言う資金の流れで各市場は幕引きとなりまし
た。“換物買い”と言う年央からの捉え方が正しかったと見るべきでしょうか?

「過去の値動きはどうでもいい、先をどう読む?」と言う声が聞こえますので、先に行きますが、@昨年
末アメリカのクリスマス商戦が鈍い展開、A“モノ”への資金の流れが継続中、Bイラク情勢の悪化、
北朝鮮問題など国際緊張の不穏さ増長傾向・・・、などの条件を引きずって新年入り、わずかに長期低
迷中のNY株価の2003年末アメリカ経済好転期待(3,000億ドル規模の減税対応)とそれに伴う“株価
調整終了”期待(G・サックスのストラテジストA・コーエン女史)、中国、その他アジア経済への消費景
気期待、EU経済の拡大発展期待・・・、があります。

デフレ経済は世界的になお浸透するでしょうから、石油、非鉄、金などのモノへの資金の流れはなお変
らないと見ます。

J・ジャーマル(友人の中東のF・マネージャー)は「来年?米ドルへの信任揺らぐ中、デフレだから金、
良質の不動産、遅れに遅れた日本経済の自律回復期待が柱かな。中国の通貨も要注意。」と言ってい
ました。 (AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第21回
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H14.12.08

              財務長官、補佐官更迭のニュース
           株式市場、景気の実体の悪さを改めて実感へ


12月7日の突然の「オニール財務長官、リンゼー補佐官、両者とも辞意」公表のニュース、実際の内容は
「ブッシュ大統領による更迭」とのことですが、施策担当者に実効性を求めるアメリカらしい厳しい動きと捉
えるか、日本などと比べると景況がそれほどひどく悪いとも思えないのに・・・と捉えるか。ブッシュ大統領
はその焦点を「再選」に当てているでしょうし、2004年6月に任期切れになるグリーンスパンFRB議長(既
に76歳)の“神通力”が色あせてきていること、10月中旬以降、急転回復の気配を伝えているにしても息
切れの感ぬぐえず、NYダウ平均株価指数は今一つの値動き、NASDAQの株価指数もなお不冴えで、20
00年年初当時からのアメリカの「ITバブル」崩壊後の景気回復が思わしくないことも事実です。
 
最近の景気指標の発表でも、11月の失業率が6.0%へ歴史的な高水準に上昇(10月は5.7%)、電機
、自動車業界中心に製造業の雇用が減少しており、また、大手空運UALの経営破たん、個人の家計部門
が負債残高の増加で個人消費に活力が得られない状況なども伝えられています。ことに失業率の上昇は
人気にかなり厳しいインパクトを与えるだけに、この数字を発表前に聞かされた大統領が人気悪化を避け
るべく、今回の更迭を決めた、と読むのが正しいかもしれません。「ビジネスウイーク誌」11月25日号は最
近のアメリカ経済について「もう、誰も“ただ飯”は食わせてくれない」として、激変した時代への移り変わり
を語り、今、必要な景気対策は「個人消費の刺激」(所得税減税、企業の従業員へのフリンジ・ベネフィット
支払い=年金、雇用保険の半額負担など=軽減など)、「企業の投資税額控除の優遇策実施」、「年金、
医療保険の支払い優遇措置を通じた雇用創出」などの項目を挙げています。
 
寒い冬に向かい、どうやらアメリカに、改めて身の引き締まるような景気の悪化が感じられ、最近、“年末商
戦スタート好調”のニュースを聞いたばかりのクリスマスの甘い夢が壊れるような印象を覚えますが、「イラ
ク査察問題」がひどく悪化する気配無く、株価の足を引っ張る“重し”が一つ取れた思いもしています。 ま
た“ただ飯”を多くのビジネスマンが、NYやワシンントンの街の小奇麗なレストランで、賑やかに楽しむ時代
が来て欲しいものです。(AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第20回
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H.14.11.23

                経済の基礎に充実感横溢する韓国
 
11月16日から19日までの3泊4日、韓国(ソウル)に出かけてきました。日大国際関係学部と韓国の
「キョンヒ大学」(ソウル周辺に3キャンパスを保有。ハイテク分野の整備が他大学と比べ一番整った大
学とのこと。財界との関係が深く、資産規模が厚いとの評価も。)との姉妹校提携に関する契約作業と
「日韓国際シンポジウム」への参加協力が目的でした。
 
数日間の滞在で得た印象(私は14年前に一度、訪韓。)と、国際シンポジウムで得た理解とを以下に
整理してみます。
 
(1) インフラ整備進展・・・インチョン(仁川)新空港から約80キロのソウル市間を走る高速道路はオリ
 ンピック、サッカーのワールドカップなどで整備された道路、橋が広々と造られ、快適でした。韓国車
 (乗ったのは現代自動車製3,000ccクラス)も車体にブレが無く、エンジン回転もスムースで、ドイ
 ツ・アウトバーンでの長時間、高速走行にも充分、耐えられる程のものでした。
 
(2) 携帯電話使用の法規制で、運転者は携帯電話と身元のマイクの間に距離があっても通話可能な
 機器対応になっています。手で携帯電話を持つ姿は見られません。ちなみに、大学講堂内の黒板消
 しが、自動「イレイザー」(幅30センチ、高さ2メートルくらいの電子機器が黒板に設置されていて、異
 動させて拭くことができる機器)対応になっているなど、そこここで各種インフラ整備に印象付けられ
 ました。
 
(3) キョンヒ大学はクリスチャン系で大伽藍があるほか、雄壮な造りの大図書館(夜12時まで市民に
 も開放。シャトル・バスが随時、走行)も印象的でしたが、教授陣がほぼ全員、海外留学経験者で、
 開かれた人間性と自由なコミュニケーション能力を持っています。今後とも教員採用には英語会話能
 力を条件とする旨の話も聞きました。
 
(4) ソウル株式市場が先進国の株式市場低迷のなかでも、最もしっかりした展開を見せているのは、
 @財閥系企業の整理、統合(1999〜2000年時以降)、大手5銀行の破綻整理・公的資金の本格
 投入、IMF支援の返済(2001年8月)、AIT不況からの早期脱出努力(対米輸出努力、ハイテク向
 けR&D支出増加など)、B国民の保有金の供出(1997〜8年当時)、銀行員の自主的退職と他産
 業への主体的な移動、などなどによるものと見られますが、その結果か、足腰がしっかりした経済力
 を内包している印象です。韓国の「ウオン」通貨に関しては私は不案内ですが、一つ気掛かりなのは
 000のケタが多く、“デノミ”の話がクスぶっているそうで、韓国経済の急速な成長とインフレの期間
 が長くあった様子を印象付け、「ウオン」通貨の真の国際的な信頼定着には、曲折が予想されること
 を感じました。
 
(5) 「日韓国際シンポジウム(テーマは「これからの北東アジアの協調関係」)での韓国側の姿勢には
 、「北東アジアの国際安全保障問題では日米間協調の枠を日米韓3国によって大きく、拡大する」意
 見、「勃興する対中国経済対応には日米韓3国協力関係の強化」案など、日韓関係の一層の協調指
 向があります。日本が韓国に対して、韓国が日本に期待する以上に、幅広く協調していくべき空白が
 残る、との印象を持ちました。日本にはアメリカ一辺倒の傾向が意識的にも、政治的にも、あるようで
 すが、韓国側はアメリカと日本を応分に評価し、双方に協力を求めている姿勢で、これは韓国が北朝
 鮮、中国などの軍事的、経済的脅威をわれわれ日本人以上に、感じているからなのでしょう。日本側
 の対韓国への「すげなさ」と韓国側の対日関係への熱意とを感じました。
 
「ニューズウイーク」誌(10月22日号)は「あなどれない韓国経済」と題して「サムスン電子」の時価総額
(株価X発行済み株式総数=その企業の資本総額との理解)がNEC,富士通、日立を抜き、ソニーに肉
薄していること、韓国人の個人所得が急速に増加して、アジアでダントツの日本人のパーキャピタ(一人
当たり)GDPを急追していること、生活の質にも日韓間に格差がなくなってきたこと、車、ハイテク分野の
生産量、対外輸出量にも相当の進捗が見られることなどを指摘しています。
 
先回訪問時、14〜5年前、1986年当時の韓国には東西緊張の禍根がなお強く残り、学生運動も多く、
政府には内外での諸々の抗争に休まらない姿が横溢していました。経済もなお、”テイク・オフ“以前の
苦しい時点でした。今回は、新宿副都心以上の高層ビルが立ち並ぶソウル中心街を夜景で遠く見なが
ら、国の発展に勢いがある国と無い国の違いを感ずる旅でした。(AY)










           マーケット・アウトルック

 
                第19回
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H14.11.10

               “要注意”の商品市況、CRB指数
               世界の大型資金の行き所なく
 
ここへきてのNY株式市場、ドル・円動向、世界の資金の流れ、とても見えにくくなってきました。ともに
方向感がありません。NY株式市場は10月以降の反発が一服してしまい力なく、東京の株式市場も
少し回復の印象を与えましたが再び軟弱、また、強含みとなって私には「本来の順な展開かな」と思
わせられた強気の米ドルが、これまた円、ユーロ通貨に対し軟弱です。
 
他方、「CRB先物指数」が昨年10月以来、ずっと基調強く(1967年平均を100として、2001年10
月22日の183.52を直近の底値に、その後キッチリ上昇、1年後の最近では230へ)“物”への資
金移動を印象づけています。シカゴの商品市場の指数(CRBは調査機関コモディティー・リサーチ・
ビューロー)ですが、穀物、木材、非鉄金属等の価格上昇の動きを映しているのです。昨年秋以来の
国際的なテロ事件、続くその気配濃厚な緊張の世界情勢を反映しているのです。

「換物買い」と以前お話ししましたが、国際情勢の不安定なときには起こる現象が端的に現れていま
す。金価格も値上がりしてきていますが、世界的な季候の変調、エルニーニョ現象、加えて主要国
経済の低迷(アメリカの個人消費・設備投資鈍化傾向、欧州はことにドイツ経済の低迷、輸出伸び
悩みに直面するアジア経済、苦渋の日本経済漂流など)下では資金の行き所がこうなるのでしょう。
 
当面はクリスマス前の“葉境期”で、NY株価は力がない時期ですが、東京株式市場も9月中間期の
業績を映し終えて、翌年の3月期末までは織り込む材料が限られているという時期、為替市場は金
利、輸出入動向にクッキリした数字がない時には市場内部要因(大手資金の手持ちポジションの需
給関係など)に左右されるなど、方向感“今一”の時です。しかし「イラク情勢」(11月8日には国連・
安保理でイラクの大量破壊兵器査察を早期に必要とするとの決議採択)、「アメリカのイラク攻撃、
真近かか」の懸念対イラク攻撃でイギリスが協調の動き(?)と、相当キナ臭い匂いがしてきた中東
情勢に世界の資金の足が取られます。

ここ数週間はなお世界的に資金の動きは「物」への逃避、従って、商品市況への注目が必要と言うこ
とになると考えます。

(AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第18回
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H14.10.20
                為替市場でドル高傾向顕著
           ファンダメンタルズに“国際テロ事件”の影が


米ドルが強く、円相場の沈下がこのところ顕著な為替市場の展開ですので、今回は円・ドルを中心に、当
面の為替市場についてお話します。大学のゼミ生をアメリカに連れて行った頃(9月前半)、円の対米ドル
為替レートは1ドル=120円前後で、円レートの方が若干、強含みのような気配も感じさせていました。

私は日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱なことと、アメリカ経済が弱い(個人消費、株価
や国際間の投資家の対アメリカ経済観などがともに疑心暗鬼で捉えられていた)との認識だったとは言
え、その実体経済は決して弱くない(ことにアメリカの金融システムの安定性は、日本経済と欧州ことにド
イツ経済の弱体などを評価、比較すると、基礎的なところでよりしっかりしている印象)こと、などから「米
ドルはなお買われるハズ」とみていましたから、直近のドル高傾向には納得がいくのです。

そこに「イラク」を巡る国際間の認識が変化してきて、同国への孤立化政策(アメリカ、イギリス、ロシア、
国連などによる大量兵器開発状況の“ディスクロージャー”)、更にインドネシアはバリ島におけるテロ事
件、同質のテロ攻撃とも見られるフィリピンにおけるテロ事件・・・と言う現状です。国際間の資金の流れ
は従来の「有事のドル高」、保守的な資金の流れは変えようがないでしょう。1ドルは125円台まで、NY株
価も買われてきました。「ユーロ」通貨の方もむしろこの間、信頼度が増してきていて、対米ドルで変わら
ずしっかり、円に対しては若干ながら強めの展開の時もあります。

最近の主要国の「外貨の保有状況」を見ますと、先進国では保有外貨の70%強が米ドルです。後発の国
々の場合は62%くらいで、やはり米ドルへの信頼は高く、また米ドルが強含みで展開することが国際経
済安定の条件とも思われます。直近のアメリカ金融業界の有力資料「インターナショナル・バンク・クレジ
ット・アナリシス」(BCAリサーチ9月号)によると通貨については「米ドルはFF金利の下げを睨んで神経質
な捉え方。一方、日本円についてはその政策展開を懸念して慎重、ユーロ通貨についてはECBの利下げ
に期待して債券市場強気の可能性を評価し“オーバーウエイト”(強気)」の見方です。

“イスラム過激派”らしい何やら怪しげな国際緊張がなお続く気配も感じます。当面は米ドル強気、テロ事
件の舞台となってきたアジアの通貨である円には実体経済の弱さも含めて世界からの信頼が集まりにく
い、等々を総合すると、現在のドル高、円安、ユーロ通貨堅調のシナリオがなお続くのではないでしょうか。

(AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第17回
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H14.10.13
 
            世界経済“凪状態“続くと「エコノミスト誌」
         回復へ主要国ともに財政・金融総合策取れと提言


NY株式市場は10、11日に連続して反発していますが(ダウ平均株価は10日が247.97ドル、11日は316.
20ドル反発。先週末、11日の引け値は7,850.20ドル)、これで底打ちと言うことはないでしょう。

90年代10年間の長期間の堅調なダウ平均株価の推移、この間のNASDAQ株価指数の急騰と急落、そ
の後1年半以上続くキツイ調整、その下げの背景にある“行き過ぎ感”と「あるべき均衡点への収斂」の値
動きはなお、継続すると見られるからです。加えて、最近の投資家の株式離反、企業会計へ不信感、疑
念は払拭されるところまで行っていない状況です。そこにイラク問題“クローズ・アップ”も重なっています
から、まだ、今の歴史的な調整局面は終わっていないでしょう。

この辺りの観測を、どちらかと言うと「手厳しく、突き放して読む」姿勢のイギリスの「エコノミスト誌」がどう
見ているか、9月28日号がコンパクトに世界経済とアメリカ経済の最近の特長をまとめていますので要約
し、そこから判断できる「見通し」を考えてみます(邦訳権取得せず、取り扱い要注意)。

「世界の主要国経済は大海を航行する大航海時代の帆船にも似て、各国中央銀行という“ナビゲーター”
がいるとは言え、方向感覚なし、位置も分からず、どうするのが適切なのかも的確に認識されていない。

アメリカ経済は90年代から2000年にかけて“バブル経済”が生んだ、行き過ぎ調整の過程にあるが、個人
消費は家計の購買力鈍化におかれ、これが金利の低さで支えられている状態にあり、今後数年、成長率
は平均以下(長年の平均的な成長率3%程度より低いの意味)であろう。

日本経済は日銀の“苦し紛れ”の銀行の株式購入案を消化しきれず、なお力なく、欧州経済圏は最大の
牽引役、ドイツ経済が輸出鈍化などに見舞われて2番底に向かうところだ。ここにイラク問題が影を投げ
かけている。そのため、国際石油価格がなお上昇しそうで、これも懸念材料だ。2003年後半に向けての世
界経済は“デフレ”色濃い環境だろう。しかし米、欧州、日本ともに利下げか一層緩和の最近の対応が正
しいのだろうか。利下げを急いだ日本は失敗の好例だ。今はそれより財政出動の方が適切かも知れない。

日本はリフレ策(国債増発、政府支出の増加)、もしくは「円安」誘導、アメリカは利下げではなく、これま
での金融上の”行き過ぎ“排除、欧州各国は財政、金融両立ての対応で、世界が一緒にエンジンをフカ
さなければ、どのナビゲーターであれ上手く行かない世界経済の再稼動は叶わない。現在の”海洋凪状
態“はとても危険だ。」とすれば、経済・株価浮揚には相当時間が・・・と言うのが結論です。(AY)










           マーケット・アウトルック

 
                第16回
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H14.10.06

                  世界中で株価が低迷、
             個人消費、11月の「FOMC」に要注目

NYダウ平均株価指数が8,000ドルの大台を割る、NASDAQ指数が1,160の安値へと低迷、日経ダウ
平均株価指数は19年前、1983年時点にまで戻ってしまう、と言う“テイタラク”です。株価が下がると言う
ことは、@企業の資金調達が鈍化する、A個人資産の目減りで消費支出が伸び悩む、などをもたらす
のですが、案の条、4日の日経紙(朝刊3面)が「新興企業の公募調達額、急減」の記事を書き、世界的
な資産運用機能の一角をなすスイスの運用専門家が自分の投資会社保有の株式を大量に売る決意を
伝える(日経5日朝刊7面)など、株安の悪影響がいよいよ、どこの屋台骨にも火がついた状態を表し始
めています。

このような状況に陥った時、何が出てくるかと言うと、どの国でも金融緩和の利下げか、税制優遇策か、
などの展開が見られるのが歴史の示すところなのですが、どこも利下げは最早できない位の低水準、
税制優遇策は既に論じられていて新鮮味がない状態です。小泉首相が東証に出かけて「株価は今が最
低水準。買いのチャンスがきている。」と述べたのは、最終局面の悪あがきの一例ですが・・・。さて、この
世界的な株価低迷は、何をきっかけに反転し、かつてのような堅調な地合いを継続するところに行くので
しょうか?

世界的にデフレです。何によらず在庫の調整が課題でしょう。半導体の価格動向、小売業界の販売の伸
び方、アメリカの企業業績などの動きが注目されます。アメリカでは自動車の販売台数が年率1,700万台
(2002年推定)に復活中、失業率が5.6%に改善のニュースも流れています。

アメリカの個人消費は常に活力を内在させていますし、アジア各国の個人消費にも相当のエネルギーが
あります。ヨーロッパの実体経済は通貨「ユーロ」の安定的推移に見られるように各国間に均質化進み、
かなり安定、強化されてきた印象です。で、世界経済に強い展開が見られる“クリスマス商戦”の頃までの
時間が必要のように思われます。FRBの次回の「FOMC」は11月で、利下げが噂されていますが、金利に
下げ余地が少ないために利下げが可能かどうか。各国市場関係者は米ドルがなお強含みなら、利下げ
余地が出てくると見るでしょう。商品市況がWTI,CRB指数ともに高めの展開で、利下げはその上昇を促進
しかねませんが、少々の物価上昇は許される環境ですから、世界の投資家の注目点は次の「FOMC」の
利下げでしょう。10月は開催されず、次回は11月6日です。(AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第15回
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H14.9.29

               投資意欲そぐ“イラク情勢”悪化
             世界中の投資家、軒並み現物に移動


ワシントンDC、NY、ボストンを駆け足で回ってきましたが、この間の内外の株式市場、為替市場、商品市
場には、軍事情勢が各市場に影響する典型的な流れが見られました。

イラク情勢の悪化、と言うよりイラクを巡る国際間のアプローチに態度硬化があって、アメリカは対イラク
強硬姿勢を一層強化(「軍事査察」への強硬姿勢)させ、国連も国際世論に訴える形でイラクを圧迫、イギ
リスがイラク軍事機密を暴露(イラクの孤立化促進策)する等が相次いだため、実際には軍事緊張が起こ
ったと言うよりイラク情報の各国への一層の認識浸透が、世界中の投資心理、市場心理を動揺させたこ
とが影響したものです。

時あたかも「国際テロ」1周年目で、この結果、NY株式市場はこれまでの弱い地合いをさらに引き継いで
軟弱、ダウ平均株価は4年来の安値、7,680ドル近辺(9・24)まで下落し、為替市場ではこの3週間に米
ドルは3円余り売られて、1ドル123円台(9・23)に入る地合いの弱さです。その他、主要株式市場は、
FT(英)、DAX(独)、CAC(仏)の各指数ともに大幅下落を続けており、加権(台湾)、ST(シンガポール)、韓
国総合、豪州総合指数も弱い展開、東京株式市場は時に反発あるも(国の公的資金注入、日銀の銀行
株式資産買い入れなどのニュース)、いかにも軟弱な地合いです。

それでは世界の資金はどこに? どういうところに逃避しているかと言うと、原油、金、穀物等の現物の方
に移行、WTI(原油市況)が1バレル30ドルを超える、金が1オンス326ドルにまで上昇、主要商品市況の
代表的指標であるCRB指数が230近く、今年の最高値にまで上昇する、と言う状況です。私はここまでは
読めませんでしたが、この「アウトルック」を辿っていただければお分かりのように、世界の投資家の「換物
買い」の動きを示唆し、NY株式市場の下落についても夏以降の売りへの「タイム・ラグ」が投資家に残って
いることを示唆してきました。

それではここからはどうか?イラクを巡る緊張への懸念はなお高まる公算大、アメリカのイラク部分攻撃
は戦略の視野に入っていますし、欧州の共同歩調もありうる。株価は世界中、デフレ下の企業業績の鈍
化傾向、為替市場は「有事のドル高」より、むしろアメリカの財政不均衡懸念、貿易収支悪化傾向(輸入増
、輸出鈍化)、金利の低下傾向(FRBの政策展開は11月のFOMCに向けて“利下げ”の方向)、雇用情勢
伸び悩みなどもあり、アメリカ売りが継続する、したがって、投資家の心理は物への逃避になお向かう、と
見ます。(AY)









           マーケット・アウトルック

 
                第14回
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H14.9.01

           9月の休日など反映して“方向感”なく・・・
           来週「効率的市場仮説」など、感じてきます


8月最終週のNY株価、NY為替市場はともに小動き・・・、でこの間の各市場の方向感に関する感触をあ
えて定義すれば、“アメリカ経済への期待感、縮まる”ということでした。ここでこれまで書いてきたコメント
と実際の展開とは違っている・・・、と言うご意見もあるでしょう。

9月2日スタートの来週、NYは月曜日が“レーバー・デイ”(労働者の日)で休場であること、9月11日の
「同時多発テロ」1周年記念日が近づいてきて慎重な投資心理になってきていること、アメリカの対イラク
強行策が取り沙汰されること、さらに、第2四半期(4〜6月)のGDP統計数字を消化中(アメリカでは1.
1%成長の確報値。第1四半期は年率5.0%アップで個人消費、住宅着工等が伸び、金利低下の効果
が確認された後、第2四半期は企業の設備投資鈍化や輸出伸び悩みに加え、輸入が22%以上の急拡
大を見せた等から、成長スピードの調整。一方、日本の第2QのGDP成長率は輸出の大幅な伸びを背
景に1.9%増、設備投資や個人消費が振るわない実態は表していたものの、予想値を上回っていたこ
とが評価される、と言った程度の感触でした。)展開で終わったという印象です。

NYダウは8,660ドル近辺、9,000ドルレベルにまで挑戦したのに力ありません。企業業績などにイン
パクトあるよいニュースが欠けています。もっとも9月後半になれば、第3四半期の企業業績が市場で取
り沙汰されます。

為替市場は、先週の段階で、米ドルが119円台まで買われていたかと思うと117円台へと売られる、と
言うように、円が一時、基調強含みの通貨になったかと思わせられるような動きだったものの、どちらか
と言うとユーロ通貨への信頼の緊張感が少々、薄らいできた(1ユーロが1米ドル前後にまで買われた7
月の展開がユーロ売りで緩んできた)ことに連動して売られました。とは言え、米ドルにも買いのエネル
ギーが欠如している・・といった「三極通貨、膠(こう)着状態」で、やはりこれも9月入りする、上記のNYの
投資環境を表しているのでしょう。
 
アメリカの市場関係者には「効率的市場仮説」と言う議論があります。「景気動向、企業業績、その他諸々
の実態は結局、正確に株価や市場の展開に反映、収斂するハズ」と言うポートフォリオ運用担当者らが
期待する信念なのですが、果たしてそうなのか、そうでないのか。実は私もそう信じていて・・・。9月8日
から9日間、NY、ワシントンDCに行ってきます。それが分かるとも思いませんが2週間ほど、お休みをい
ただきます。(AY)










           マーケット・アウトルック

 
                第13回
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H14.8.25

             かなり回復してきた米ドル投資心理
          醸成されてきた円からの投資チャンス・・・(?)



8月後半以降、NY株式市場への投資、為替市場における米ドル投資の展開はともに、7月から8月に入
った時点の投資心理(アメリカの第2四半期のGDP成長率が1.1%成長へと鈍化、会計不信、貿易赤
字拡大etc.を反映)に比べて大きく好転してきています。ダウ平均株価指数は9,000ドルの大台を一時
(8月22日の引け値9,053ドル)回復、1米ドルが東京市場で120.19円(同日)まで上昇、言われて
いた“アメリカ売り”は後退し、サウジアラビアの機関投資家が「米ドルを売り続ける考えはない」とのコメ
ントも伝えられました。

「投資心理は早晩、戻る」「米ドルが戻ればNY株価も戻る」「流動性高い米ドルに資金は回帰する」と言
う、この“マーケット・コメント”の7月14〜21日当時の判断が正しかったことになります。当時の新聞紙
上の悲観色濃い見通しを想い起こしてください。クエートのFマネジャー、友人のJ・ジャマール(7月14
日付けコメント)の判断が正しい。

さて、大分、正常化してきた投資心理ですが、それではここからをどう見るかです。9月はアメリカは休み
が多く、また9月11日の「テロ1周年」の国家的行事(喪に服す。当日市場は11時開始。普段は9:30
時開始。)もあります。市場エネルギーがそがれる時間も多いでしょうが、強気の展開が考えられます。

理由はただ一つ、「悪材料の企業業績の鈍化、個人消費の落ち込みなど、大方折り込み済み」で、NAS
DAQ、東京株価、ハイテクセクターへの株価反転期待と米ドル強気も醸成されてきたから・・・、です。

もし貴殿が、ここからの米ドル見通しに強気で、NY株式市場への見方も強気なら、日本円からのNY株
への投資には絶好の機会が訪れていると言うべきでしょう。2〜3ヶ月のタームですが、米ドルにシフト、
株価年率10%超の利回りが確保されたら利食う対応が良いかと考えます。若干、断定的な表現になり
ますが、新聞等を賑わしている“似非インテリ”や“サラリーマン・ストラテジスト”らのあちらも立て、こち
らも立てるような判断では何も生まれません。もし、上手く展開しなかったら、「失敗には成功以上の宝が
眠っている」(N・ヒル)ところからも何か汲み取って欲しいと思います。(AY)










           マーケット・アウトルック

 
                第12回
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H14.8.18

             景気に配慮、株価不安定などに言及
               慎重な表現印象ずけるFOMC



“アメリカ売り”がなお続いています。最近では1ドルは116.87円まで売られました。(15日。前日引け
値1ドル118.38円からの円高。振れ方大きい。)

一方、NYダウ平均株価は8,800ドル前後の水準で、値動きとしては幾分落ち着いてきた印象です。
今回は、最近、微妙に表現が変化してきたFOMCについて、8月13日公表の“プレス・リリース”(メディア
向け公式発表)の内容を見てみます。

昨2001年にFF金利の目標値を6.00%から11回、現行の1.75%の低水準にまで下げてきたFRBで
したが、今年に入って個人消費が前年比3.1%増(第1四半期)、1.9%増(第2四半期)へと鈍化GDP
の成長率も5.0%(第1四半期)から1.1%(第2四半期)成長へと急減速、この間、貿易赤字が輸入増
加を背景に急増中で、NY株価の不安定、ドル売り圧力の経緯から見ても、中央銀行としては金融政策の
舵取りに苦慮する環境です。

今回のプレス・リリースでは「FF金利の1.75%据え置き」を確認すると共に、金融市場の弱気の展開、
企業経営のガバナンス不信等がなお継続中で、こうした実態経済の展開に対して配慮しなければならな
いこと、生産性向上の継続的な進展と、物価安定など底固いファンダメンタルズの推移は疑いなく、当面
起こりうるリスクを否定しないが・・・、と慎重な表現になっています。

ウオール街には昨年来の利下げに次ぐ、一層の「利下げ観測」もありましたが、カギとなる個人消費の伸
び鈍化がなお顕著となる公算ありなので、それは「時期尚早だろう」という判断です。実際、株価の下落が
顕著となった第2四半期以降、個人資産の目減りは明白で、これが年後半の個人消費にどう悪影響を残
すものか、が気になります。

一時期、NY市場にはかなり不安定な投資心理がありましたが、以前、こうした売りの心理が落ち着くには
“タイムラグ”があり、いずれ買い意欲が戻ること、ドル資産が大きいアメリカ以外の大手投資家はドルに
戻らざるを得ないことを指摘しました。

とは言え、秋の相場展開の注目点は、アメリカ国内の個人消費動向です。株価続落の中、人々は消費に
相当慎重なのでしょうか、それとも低金利、物価安定、住宅・不動産価格の堅調な推移等を背景に可処分
所得は維持され、消費にはそれ程、悪影響がないのでしょうか。

私は個人的にアメリカ人の消費環境は“今イチ”状態が続き、それを背景に、次回のFOMC(9月24日予
定)では利下げもありうると見ています。(AY)








                  
           マーケット・アウトルック

 
                第11回
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H14.8.4

                今はキャッシュが最強?
             “再投資が条件”とBW誌最近号



NY株式市場のダウ平均株価が8,500ドルへと、9,000ドル台をも大きく割り、続落する中、アメリカ
の第2四半期(4−6月)のGDPが1.1%成長へと急減速(第1四半期は5.0%成長)したこと、地区
連銀の経済報告(ベージュ・ブック)が「地方経済の勢いは全体として緩慢」と慎重に米経済を分析、株
式市場見通し、USドルの見方もともに、抑制的なトーンがますます強くなってきました。

この続落の過程で、時々見られた急伸、反発の動きを見ると、内外投資家に底値を買っていこうとす
る動きがあること、それは「同時多発テロ事件」以降のかなりの反発を思い起こさせること、アメリカ経
済の潜在的な底固さ(生産性の向上、物価の安定、ここにきてのドル安傾向がもたらすであろう企業
業績や貿易収支の好転の可能性など)を評価して、経済、株価とも先行き見通しを楽観視する向きも
あります。(例えばS・バーディー・ミドルベリー大教授)

一方、日米経済の相違をよく分析しているA・スミザーズ氏(同名の金融情勢調査会社の会長)は、株
価下落がもたらす個人消費の鈍化は財政赤字を伴う大幅な減税や何らかの刺激を得た投資ブーム
などが必要だとし、2001年前半の景気後退が再現する可能性を示唆している。実際のところ、現状
から判断して、NY株価、米ドルともに慎重ないし弱気の見方の方が多いでしょう。

アメリカ経済の変調が与える国際的な影響も無視しえず、実際、株価の凋落、個人消費見通しの鈍化
はアメリカの輸入減退、世界貿易の縮小、世界経済の伸び鈍化を類推させますが、さて、今回のこの
ダメージ、取り戻すのにどのくらいの時間を必要とし、鈍化の規模はどのくらいだろうか。対米輸出に
大きく依存する日本およびアジア経済は今回の株価下落と個人消費の伸び悩みで、景気後退を余儀
なくされます。2002年後半から2〜3四半期の経済成長率がせっかくの回復(この2年来の在庫調整
、IT調整からの回復の行程)に水を差され、恐らくGDP1%〜1.5%前後のマイナス効果となると想像
します。

ビジネス・ウイーク誌8月5〜11号では、最近の金融市場の変調を捉えて「今はキャッシュが一番強
い」「世界中で現金化の動きと不動産市場への移行が顕著に」と述べ、いずれにせよ世界経済の悪化
につながるとし、投資戦略をキャッシュ・ポジション増に切り替えるよう示唆しています。ただし、「その
資金はアメリカ経済、欧州、否、世界経済の活力にとって必要不可欠の資金だ。」と結んでいることに
注意したい。

貯金しておく、などという消極的な考え方は欧米の論調には露ほどもありません。(AY)








                  
           マーケット・アウトルック

 
                第10回
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H14.7.28

       NY株式市場、投資チャンス探る内外投資家の存在見える
            24日の市場急伸が伝える潜在的可能性



◎投資不信感、次第に回復の気配

このところのNY株式市場、為替市場とともに企業会計報告への不信感が増長させた歴史的な不安定な
動きで、その水準のあるべき“居所”を探して脆弱かつ方向感を失っている状態です。7月中旬の円・ドル
市場レートは115円台への予想外の円高から、今度は一転して118円台後半への急激なドル買いに移
行、乱高下がきつく、市場介入の日米中央銀行からの動きも当局側の意図がどこにあるのか、分からな
い状態でした。

アメリカの輸入が増加して貿易赤字が増加中で、一方、日本の貿易黒字は増加中、これは円高、ユーロ
高要因ですが、一時現出した円安ドル高がもたらしたアメリカ産業の交易条件の不利はアメリカ側の市
場介入を促したかも知れない。しかし、ドルが弱くなればアメリカの国益が全体として損なわれるし、NY株
式市場は脆弱さを増します。週末に東京で公表された「小泉首相、国債増発、1兆円減税案」は円買いを
促し、東京株式市場がこれを好感することが予想されます。が、一方、米議会で「企業改革法」が通過、
企業経営の不正に“轍”が下されることも材料視されます。
 
先週のNY株式市場は投資家(個人、機関投資家とも)の企業会計不信感や経営破たんなどに揺れ、続
々現れる(エンロン、ワールド・コム以降、B・メイヤーズ、タイコ・インダストリーズなどの情報開示)経理へ
の疑いに、投資意欲を阻喪させられていましたが、24日に急騰(ダウ平均株価が一気に390ドル上昇
(一日で5.11%アップで史上2番目の上昇幅)し、国内投資家はもとより、外人投資家(欧州、中東など
の)がドル・ベースの資金の回収を虎視眈々と狙っている、との印象を与えました。国の内外に安値で買
いのチャンスを探っている投資家がいる感触は、昨年9月11日の「同時多発テロ」直後の市場展開が強
気だったことからも推測できます。(世界の投資家の資金の大半は米ドル・ベースです。換金性も考えれ
ば、米ドルの市場性優位は変わりません。)従って、NY株価は、会計報告への不信感が投資家の心理
の中でなお収まっていないため、弱気の展開もありうるでしょうが、第2四半期の企業業績(ハイテク・セ
クターの業績一部低迷、設備投資関連企業の伸び悩み)等が織り込まれてくるに従って、次第に好転し
てくるという判断ができます。もし米ドルが買われ堅調であれば、NY株価にも買いが戻る、その予測の方
の可能性が高い、との判断です。(AY)







       

                  
           マーケット・アウトルック

 
                第9回
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H14.7.21

         再び“タイム・ラグ”待ち、市場内“免疫抗体”期待論
              NY市場きつい下げ、なお継続の予兆



(1)「ガラ」がきてしまった
 
90年代の長く継続した堅調なNY株式市場展開で、緩められた甘い感覚があとを引いているのでしょう
か。
2000年以降のNASDAQ指数急落と、その後のNY株式市場の頭打ち傾向、ここへきての株価下落は、
“ITバブル”期の言わば“太平の眠り”への警鐘で、これにエンロン、ワールド・コムなどの大手企業の
会計報告の怪しさが重なった状態。加えて、企業業績も相当の鈍化(ワールド・コム破産、ゲートウエ
イ=大手PCハード・メーカー=大幅赤字等)で、NY株式市場にとうとう「ガラ」がきてしまいました。
 
昨19日のダウ平均株価は8,019.20ドル、前日比390ドル強、5.11%もの急落で、2,000年1月14
日の史上最高値11,722.98ドルからはすでに32%もの下落です。メディア風に言えば「9.11同時
多発テロ事件以来の安値更新」と言う下落水準で、1ヶ月前、6月末段階(ダウ平均株価9,300ドル当
時)の私のダウ平均株価の予測値は正直、9,000ドルを割ったところで一服する、と言う見方でしたか
ら、見事なハズレ。当時慎重な見方だった知人の8,000ドル以下説の方が信憑性が高くなってきまし
た。
 
大手企業の会計疑惑や経営者の「モラル・ハザード(倫理の欠如)」議論と「コーポレート・ガバナンス(企
業統治)」への期待などがもろくも崩れていく中で、投信、年金などの機関投資家が売りに回り、個人投
資家も遅れて売ってきているのです。これは更に世界中に伝播します。巡り巡ってNY市場で弱気が相
乗的に強まる、それでまた世界の市場がネガティブに反応する、と言う“負の連鎖”が進行するでしょう。
市場にも“タイム・ラグがあります。弱気の心理は時間をおいて、世界中で、もっと、効いてきます。
 
(2)想い起こす“ブラック・マンデー”
 
そして、いよいよ“パニック売り”に至ったら、その辺りから底値が見えてくるでしょうが、それまでまだ数
月を必要とし、ネガティブな材料(アメリカの会計報告不信、企業業績悪化、日本の構造改革の遅れ、
欧州の利上げほか)を大方織り込んだ後に、投資心理に“免疫”が生まれて“抗体”が育ち、ようやく強
気の投資心理が舞い戻る・・・という図式を描く・・・、と見ています。“ブラック・マンデー”(1987年8月
〜10月)時を想い起こします。あの時も投資家の行動の“タイム・ラグ”があって、それから下値を探る
意欲が現れてくるのに主要国で数ヶ月時間がかかりました。
 
ただ、あの頃は日本経済が今よりしっかりしていたので、東京株式市場には下値抵抗力がありましたが
、今回は円高の地合い(何と1ドル115円台まで買われた)の中で、タイミング悪く(?)日本の貿易黒字
拡大傾向、輸入増加中のアメリカの貿易赤字急増(5月は1ヶ月では史上最大の376億ドル強)、従っ
て今の円買いのプレッシャーにはドライブがかかる、頼みの外人投資家は東京市場から海外に移動す
る、株安に伴い企業の財務体質悪化が助長される中、期待の企業業績は円高で悪化を強いられる、と
言う図式になってきました。
 
今しばらくは株式投資は困難を強いられそうです。“タイム・ラグ”と“免疫”を経ないと、投資心理は元に
戻らないでしょうし、いずれ戻るにしても回復過程に戻るには、時間的にソコソコの時間(当面、3〜4ヶ
月?)を必要とするでしょう。私は個人的には今、株式投資をせず、実害は無いにしても、経済全体の不
振からは逃れられず、これは巡り巡って健全な生活環境ではありませんから、速いところ、NY株式市場
の投資心理が元に復すことを期待しています。(AY)








                  
           マーケット・アウトルック

 
                第8回
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H14.7.14

            世界の資金はユーロ、円、アジア市場へ
                予想を超える“アメリカ売り”



人の予知能力について考えこむことがあります。

日常生活の上でヘンに勘が働くことがあり、大概悪い方の予感が正しく、良いことには勘が働かない思い
をしたことなど、どなたもおありでしょう。本題は、経済や各種の市場動向に関する予測能力のことです。

現在、展開中の「ドル安」「円高」「ユーロ高」「NY株安」「世界的(欧州、日本など先進国の)株安」「換物
買い(金、プラチナ、銀などの価格上昇傾向)」など、5月の連休当時には考えにくかった状況です。

1990年代のアメリカ経済、株価好調が変調を来たしたのは2000年当初のNASDAQ株価急落、NY株価
の頭打ち傾向で、当時見えてきた経緯がありましたが、ここまでNY株式市場が売られ、米ドルへの信頼
が揺らぐ状況を予測できたでしょうか?2000年9月始めの段階の「ビジネスウイーク誌」を見ると、「アメリ
カの“ニューエコノミー・ブーム”は破裂(BUST)するか?」と書いていて、今から見ると“いい勘してたな”
と思いますが・・・。

私も「エコノミストの愚」(現況を将来に投影する愚)をやはり犯したらしく、NY株価および米ドル堅調、ア
メリカ経済の構造改革(10年来の生産性向上、法律家の国の厳格な倫理が生きる国柄、金融システム
の信頼度の高さなど)への信頼等で、最近の企業会計不信など思いもよらず・・・。で、従来からの基調
をそのまま延長して予測をかなり外していました。

ダウ平均株価は8,800ドル台まで下落、NASADQ指数も1,370近辺、一方、円の対米ドル・レートは
何と116円台へ急騰、ユーロも1ユーロ118円台から116円台へとしっかり、原因はエンロン、ワールド・コム
、B・マイヤーズなどの会計疑惑、投資家の会計不信と株式投資不信に帰結します。クエートの運用担
当ジャベル・ジャマール(Fマネジャー)はどう言っているでしょうか?

「今回のアメリカ不信、予想外だったネ。我々もアメリカ経済を信頼していた。アジア経済が活力あるから、
しばらくアジア投資だろう。韓国市場投資などが上手くいっている。日本への投資は円高で辛うじて報わ
れているが、株価不振は目も当てられない。もう10年間、報われなかった。イヤ、アメリカ、日本経済に資
金は戻ると思うよ。何しろ流動性(市場規模大きく、現金化が容易)、技術力、国際的な信頼度では、やは
り米、日が上さ。それから欧州経済に対する信任がかなり強まってきたね。ユーロを買う。欧州経済の将
来への期待が大きくなってきた。アメリカがなくても我々は大丈夫。それより日本企業の競争力ある技術
浮上に期待したいね。」だそうです。(AY)





                  
           マーケット・アウトルック

 
                第7回
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H14.7.01

              NYSE,米ドル売りの軟弱な地合い
             投資心理、早晩、本来の平静さに戻る



◎「会計不信」次第に消化

エネルギー関連公共事業の米急成長会社「エンロン」の多角化・金融取引失敗、会計事務所A・アンダ
ーセン破綻、通信大手「ワールド・コム社」のB/S疑惑、それに次ぐ広範囲な投資家の離反で、NY、
NASDAQ市場ともに大幅下落でした。市場は反発していますが、これで会計に関しての不信感が払
拭したとも思われません。

なお市場心理は不安定で、下値もなお、あることでしょうが、ここをNY市場の絶好の買い場と見ている
投資家もアメリカの内外に多くいるでしょう。全面的な反転とは言えないまでも、市場心理は6月前半の
続落に次ぐ続落から、6月27、28日のダウ平均200ポイントを超す続伸で一服しています。

市場心理が同じままにいつまでも推移することはなく、強気の投資心理は食指を動かします。「同時多
発テロ」直後のNY市場の反転を思い起こします。今回のNY市場反転が、このまま継続するとは思わ
れませんが、「会計不信」という売りのテーマに世界の投資家は、いつまでとらわれてはいないでしょう。

この間、FRBの公開市場委員会開催(6月25、26日)で、最低水準にきている金利(FF金利が1.76
%)の据え置きが決まり、これは国際石油価格上昇傾向に米国内物価上昇の懸念、欧州の物価若干
の上昇傾向、ECB利上げ観測等の環境下、利上げすら論じられる時期の措置としては緩めの金融政
策と捉えられていることに加え、カナダはカナナスキスにおける“サミット”(6月26、27日)のガバナン
ス効果、ロシアの石油産出量の増加(サウジの日量717万バーレルを上回る日量744万バーレル)や
“サミット”へのロシア参加定着などの環境を評価しているといった状況があります。

気掛かりはドル安。予想を超える円高(5月の1ドル133円台から6月27日には118円台へ)、ユーロ
高もあって、なお世界の資金の動きは変調ですが、11月の中間選挙への配慮(ドル安に伴う輸出環境
の好転、利上げの排除)も働いているでしょうから、「強いドル」指向も一服の時期と見ています。

いずれにせよ、今回の「会計不信」がもたらしたNY株価下振れとドル安は、早晩、市場に織り込まれ、
次第に過去のものになります。これらの悪材料もどの時代と同様、すぐに過去のこととなり、市場には
本来の投資心理が舞い戻る、つまりは、企業業績の展開に収斂する・・・、と見ています。 (AY)




                  
           マーケット・アウトルック

 
                第6回
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H14.6.23

                米株・米ドルへの投資に躊躇
              〜もたつくNYSE、NASDAQ〜


(1)ニュートンの慨嘆、再び

あの物理学者、万有引力の発見者のI・ニュートン(1642〜1727)の話です。当時、海洋国イギリスは
アジア開発(アジアの果物、陶器、銀、木材、香辛料などをヨーロッパに輸入)で「東インド会社」を設立、
設立に際して資金を提供した投資家も投資収益を得たことから、アジアに起業の勢いが増して多くの会
社が誕生、投資ブームが起こったことはよく知られた事実です。この時の投機熱は後に「南海バブル」と
言われ、オランダ17世紀の「チューリップ投機」やイギリス19世紀の「鉄道バブル」などの歴史的な投
機と並んで、よく知られるところですが、この「南海バブル」に手を出したニュートン氏は一度美味しい思
いを経験、もう一度手を出して多額の損失を出し、「天体の運行は計算できるが、人間の心理は読めな
い。」と慨嘆したと言います。

時代は変わっても、人間のやることは相変わらずらしく、21世紀の今日でも、大げさに言えば、「人間の
やることは・・・」と思わされます。エンロン・スキャンダルに端を発した会計事務所ア−サー・アンダーセ
ンの業務大幅自粛、元はと言えば「証拠隠滅」と言う古くて新しい会計処理の虚偽の問題でもあります。
「NY上場企業の会計、ホント、大丈夫かね」と言うのが、NY株式市場の投資家の不信でしょうから、エ
ンロンの財務破綻事件が起こってもう半年以上経つのに、彼らは三々五々、売りを浴びせてきていて、
NYダウは何と9,400ドルのところまで下げ、NASDAQ指数も1,470を下回る状態。

私は1990年代の10年間のNY株式市場絶好調への反動と、株式市場が需給に支えられていること、
今回は個人、法人、機関投資家が軒並みゾロゾロ、売りに回っていることなどを感じます。やはりNY株
式市場のあの黄金の90年代は、NASDAQ市場も含めて“バブル”だったのでしょうか。

(2)結局、米ドル・ベースの資産に戻る・・・

もっとも、この後遺症、なお続く様子ですが、そろそろ買いの機会を狙い始めている投資家が個人、機関
、事法にいるはずですから、「麦わら帽子は冬に買え」の諺を思い出してください。

つまりは“アメリカ不信”が市場心理に強まっていて、だから、株式市場以下、為替市場でドルも弱く(1ド
ルが121円台へと下落、円高。1ユーロも119円台まで買われる。)、資金の流れは不安定な様相を呈
しています。私の友人、中東のお金持ちは、今ごろどうしているでしょうか?クエートの知人ジャベル・ジ
ャマールはこう、ぼやいているでしょう。「結局、一時的にアメリカを回避しても、また、戻るところはドル・
ベースの運用さ。通貨への信頼性、企業の活力、創意工夫、生産性の向上など、裏づけがあるからね。
ニッポン?安くなったから興味は無くしてないけど、昔のような魅力はないね。欧州?ECBが“利上げ”
だって言うし・・。今はへたに動かないよ。」

米ドル・ベースの資金を持っている投資家にはあせる気持もつのるでしょうが、結局、安心して資金を置
いておくところがアメリカ以外にないのも事実。世界の大きな資金の行き所はやはりドルでしょう。

NY株式市場、早晩、戻り基調に入りますよ。 (AY)





                  
           マーケット・アウトルック

 
                第5回
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H14.6.16
 
                 この時代の資金の方向感覚(その2)
 
(2)「FLIGHT TO QUALITY」
 
投資市場の底辺に「信用」が成り立っている際には、資産運用にあってリスクへの挑戦は結果が得やす
いかも知れないが、市場動向が不安定の度合いを高めている場合は投資に無理なリスク挑戦は極力、
避けた方が賢明だ。

と言うのも、投資先に下値不安が大きいからだが、どのような投資環境下においても投資先の質の検討
は不可避で、その見直しを継続する「FLIGHT TO QUALITY」(質への回帰)は運用担当者の恒常的な
課題ということになる。

エンロン事件(85年設立のアメリカの電力、天然ガス供給会社。イギリス、インド、日本などでも業務を
展開し、収益規模の拡大に伴って貴金属取引、資産のデリバティブ運用、90年代後半以降、拡大して
簿外取引、投資評価損の拡大、巨額損失の会計事務所ぐるみの隠蔽、発覚、最大規模の破綻へと続
いた企業会計への不信拡大の問題)は、NY株式市場の上場企業に対する情報の、ことに企業会計の
怪しさを伝えていて、古今東西変わらぬ、恣意に翻弄(ほんろう)される“人間性の危険”を再確認させ
る形となった。このNY株価の弱さはなお、予断を許さない。

90年代に米経済の安定的成長と体質強化、東西冷戦から融和、ハイテク機能の急速な発展と各方面
への多様な浸透がもたらしたアメリカ経済中心の“信用”への信頼は、在庫循環、技術の革新、耐久消
費財の寿命などのサイクルを基礎においた、恐らくは「コンドラチェフ」の“景気循環論”に近い形の歴史
的な循環を終えて、今、衰退期を迎えている。不安定だからこそ、欧米、アジア、中東などの資金の流
れは「FLIGHTL TO QUALITY」の再編に向かう。

よい不動産、物価上昇に対してヘッジが効く物(貴金属)、優れた技術、洗練されたモノ全て、競争力あ
る製品・人・芸術・・・、等に資金と評価は収斂(しゅうれん)する。質が高いものへの回帰がひたすらな
時代だろう。人々は本能的に良質のものに移行する。歴史を越えて耐える企業に、質に、機能に、人に
、そしてモノに、資金はスティック(固着)する・・・。

ドル、金(きん)、評価高い不動産、競争力ある企業、その株式、優れた表現(思想、戦略、詩歌、音楽、
映画、技術、人間)が、歴史の揺れを越えて強いだろう。恐らくW・バフェット、P・リンチ、テンプルトン、中
東の資金運用担当者、アジアの有力な資金・・・が求めているものは、こうしたこと、モノへの回帰という
ことではないだろうか?(AY)





                  
           マーケット・アウトルック

 
                第4回
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H14.6.9

            この時代の資金の方向感覚!?(その1)

(1) 中東の資金、現在をどう考える?

世界の資金の流れには、その時々に“方向感”がある。私は世界の資金の流れを考える時、中東の運用
専門家や石油資本が余資運用の際に何を考えて動くかを念頭に置きながら、その流れを考えてみる。

彼らは長年、積み上げてきた膨大な資産を最も賢く運用することに腐心しているからだが、かつてクエー
トのある資産家が私に語った「私達には工業力も、技術競争力も、強い産業も、まして知的な競争力もな
い。あるのは長年、積み上げてきた資産と石油産出からあがる売上高のみだ。これを後世に、私達の末
裔に、うまく残していかねばならぬ。運用はユメユメゆるがせにできないのだ。」と言う言葉を忘れない。

1985年当時、日本経済が上げ潮の中で、東京株式市場も堅調だった頃、多くの資金が日本に動いてき
ていた際に、遠く訪ねたクエートで、彼は円・ドル、東京株式市場、NY株価、アジア各国の経済成長動向
、香港、シドニー、東京、NY,サンフランシスコ、ロンドン、チューリッヒなどの不動産市場を真剣にウオッ
チしていた。

優れた良質の資産による“ポートフォリオ”配分を恒常的に組み続けねばならない要請の中で、後世に責
任を果たす重さが、彼らの言葉からヒシヒシと伝わってきた。だから、彼らが今、運用をどう考えているか
を机上で“シミュレート(想定)”することは、この時代の「国際分散投資」の配分にヒントを与えてくれる。

恐らく彼らは今、悩んでいるはずだ。「昨年来、強かったドルが、マクロの背景(米経済堅調、米金融情勢
安定、円のファンデメンタルズ軟弱、ユーロ経済低成長下の利上げ説・・・)が変わらないにもかかわらず
“弱含み”となり、ユーロ通貨、円はともに強いのか弱いのか、揺れて方向感覚がない。

NYSE(NY株式市場)はエンロン問題に端を発した企業会計処理の怪しさを反映して長らく軟弱、東京株
式市場は若干の持ち直しを見せているものの、本調子とは言えまい。石油価格がしっかりだが、これはロ
シアの石油産出増加を刺激してOPEC諸国にとって、何処までよいニュースなのか不明だ。

そう、金価格が上がっているね。今は“換物買い”の時期なのかね?

一方、アメリカの不動産価格が上昇中、ことに程度の良い中古住宅が高騰している。少し買うかナ?サテ
、どうしたものか?」などと。

実際、世界的にデフレないしデフレ気味のこの運用難の時代に、なお輪をかけて各主要投資市場が明確
な方向性を見せない。今、どう捉えるのがよいのか?




                  
           マーケット・アウトルック

 
                第3回
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H14・5・26

        “パックス・ルッソー・アメリカーナ”第2ステージ

アカデミー賞授賞作映画「13日」や「ビューティフル・マインド」の時代背景が1940〜70年代の
“冷戦構造”下の世界の緊張であったことを、知る人は知るだろう。「13日」ではケネディ政権
下、ホワイト・ハウスの有能な補佐官らの知的レベル高い挑戦とソビエト(当時)の対自由経済
諸国圏との“イデオロギー対立”の緊張振りを想い起こさせる秀逸なドギュメント風映画だった。


「ビューティフル・・・」の方はノーベル賞受賞の数学者プリンストン大学のJ・ナッシュ博士
に近づく米ソ官憲のスパイ合戦、大国の機密入手の戦いと言うテーマが博士とアリシアとの愛の
姿と重なっていて、美しいストーリーになっていた。


この時代、1940〜70年代は東西冷戦構造が世界を覆っていた。世界大戦の恐怖が常に世界の人々
の心に覆いかぶさっていて、重い緊張感が日々、残っていた。“マッカーシズム”の脅威、62年
10〜11月当時の“キューバ危機”とその記憶は、我々にとって現実のものだった。

結果的にそれは核大国アメリカとソビエトの“恐怖”を軸に置いた世界秩序の維持だった。両大
国の危機感の演出は世界に秩序をもたらし、人々は身を低くして見えない恐怖を避けていた。
ベトナム戦争も我々に東西対立の厳しさを伝える威圧的な存在だったし、中国も異質なイデオロ
ギー大国としてソビエト・ブロックに組し、日本の政治、経済行動に制約を与えていた・・・。
つまりは、あれは、あの時代は米ソ大国中心の世界平和維持=“パックス・ルッソー・アメリカ
ーナ”だったのだ。

しかし、その後、自由経済による競争原理が世界の一致した利害、“インタレスト”になって、
団体指向の国、社会主義経済システムの国は崩壊するか、競争力に立ち遅れが目立ってきた。ソ
ビエトが崩壊してロシアとなり、中国が自由主義経済の国として世界経済に復権を果たし、“社
会主義国・日本”が方向感を失い、漂流する事態に至り・・・。したがって、世界の秩序は21
世紀に至って新しい秩序を模索する段階にきた。あのテロはこの間隙を縫ってきた。ここが思案
のしどころだ。当面の戦略の狙いや方向は・・・?

(さて、ここは「ホワイト・ハウス」の“オーバル・ルーム”である)

中東諸国の石油を武器にした外交の展開が自由経済圏の脅威、となるのを阻止する戦略が求めら
れる。OPEC諸国の行動力に足枷を加える必要がある。これが石油価格値上がりに弱い体質の
経済、自由経済圏とアメリカの命題だ。アメリカに協力的な思想の持ち主プーチンの政権もサポ
ートしたい。ロシアにはカスピ海、中央アジア北部に膨大な油層が眠る。ロシア経済の収益構造
の強化が求められ、それはアメリカの石油資本とも利害が一致する。米ソ首脳ブッシュとプーチ
ンは国際テロの抑止においても一致している。グルジアで反テロの米ソ協調も得られた。
モスクワではようやくとは言え、両国間の長年の「核兵器削減条約」の集大成が得られる・・。
中国はWTIに組み込まれ、世界秩序の維持に従う・・。

折りしもロシアの株価指数は年初来、40%もの値上がりを見せた。ロシアの経済再建は石油油
層開発を核に見えてきた。アメリカは国際石油価格の展開をOPEC諸国の好きにはさせたくな
い・・・。

このところの米ソ間の経済・軍事における国際協調は、かつての“恐怖”を軸とした70年代まで
の“パックス・ルッソー・アメリカーナ”から経済的な成長と相互間の協力強化を内容とする新
しい“パックス・ルッソー・アメリカーナ”第2段、米ソによる世界の秩序確保を意味する。
主役の位置から日本がはずれたが、構造改革と経済成長に注力してくれれば、金融システムの世
界的な動揺を招かない限り、実害は無い・・・。国際テロ抑止への協力はアジアで自衛隊がして
くれているし・・・。

ドル通貨の強調傾向に「ユーロ」通貨安定が今、重なる。円が弱すぎれば日本製品の輸出増加とい
う頭痛をもたらす。が、最近円がに日銀介入もあって、強くなってきたし、ドル・ベースの輸出
製品の売れ方は条件的には悪くない。鉄鋼や自動車の交易条件にも進捗が見られるし・・。ホワ
イト・ハウスの“オーバル・ルーム”で、ちょっとだけ睡魔に襲われたブッシュ大統領は、今こ
んな思いで世界秩序を描いている・・・(?)。(AY)




                  
          マーケット・アウトルック

 
               第2回
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H14・5・19

 「この環境で“円高”の不思議」

世界の経済地図、資金の流れが大きく変化してIRU.ここを適切に捉えておかないと為替
市場動向、株式市場動向、国際分散投資などで判断を間違えることになろう。最近の国際経
済・金融情勢を再確認すると、およそ以下のようになる。


基調ドル高、円・ユーロが弱含みという時期が2001年来、しばらく続いてきた。アメリカ経
済低迷から復調、低空飛行日本経済の一層の低迷、欧州経済統合の脆弱さなどが金利間格差
、貿易収支の推移などと共に総合的に判断されて、ドル優位、NY株式のテロ後の反転を評
価する展開だった。


2002年に入り、中東情勢緊迫化で原油・金価格等の上昇、アメリカ経済のIT構造改革(生
産性向上を核とする体質の強化)、中国経済の本格台頭、日本経済の劣化・東京株式市場の
長期低迷・その中で景気と株価に底打ち感、アジア諸国経済全般がIT調整から脱出中かつ外
資還流が97年の通貨危機以前に戻り株価、不動産の価格上昇傾向再燃、ロシア経済にも株価
急騰などの回復傾向・・・等が見えてきて、世界の資金の流れは変質した。


「円」が2001年夏の1ドル120円維持から2002年4月の1ドル133円台まで売られたのは、アメ
リカ経済への再信任、それが5月後半に126円台へと買われたのは、@中国、日本の「黄金週
間」をねらった欧米ドル持ち投資家サイドからのドル利食い売り、A長年の「ユーロ安」が
もたらした輸出競争力からくる最近の「ユーロ通貨反転」、「ユーロ信任回復傾向」、B
「ユーロ」紙幣、硬貨の導入実施、C石油価格上昇に伴う欧州圏の物価上昇とこれに対する
ECBの7〜8月金利引き上げ論、D「ユーロ」と「円」の対ドル・レート連動傾向・・・などがあ
ったからと見る。


また、日本経済に「底打ち」気配が見られること(@2月以降の株価反転、A在庫調整と工作
機械などの一部資本財の生産回復傾向、B個人消費の予想外の堅調、C税制改革=証券税制、
相続・贈与税緩和案=への期待、Dリストラ最終局面+企業業績最悪期脱出説などで説明)、
東京株式市場への外人買いの回復、“日経ダウ”株価の反転、日本国債格付けの下落折込み
説なども生まれてきた。「円」を買う内外機関投資家の動きがしばらく続こう。しかし経済
体質の変質・強化の観点から見ると、アメリカの物価安定、在庫調整の進展、生産性の向上
持続、企業業績再浮上の公算、FRBの柔軟対応継続、待機する潤沢な株式投資資金(MMF
残高の高水準、投信の“キャッシュ・ポジション”の高さ)などから、ドル為替レートの基
調の強さ、日本経済が抱える脆弱さ(輸入増加傾向、構造改革の遅れ、雇用情勢の不振など)
をぬぐいきれない。金融当局の“円安容認論”は残っており、夏までに1ドル135〜140円へ円
下落を見ることがあろう。(AY)





                  
          マーケット・アウトルック

 
               第1回
H1454

(はじめに)

20008月以降、足掛け3年になった「コラム・FEDウオッチ」を通じて、アメリカ経済の動向
FEDの金融政策の対応、グリーンスパン議長らの考え方の一端が理解されましたが、この間NY
株式市場、債券市場、為替市場、東京株式市場などの展開をきちんと分析するのがおろそかに
なりました。市場の“場味じ”を忘れるのは淋しいことですし、コメントに臨場感が欠けます。
お読みいただいた読者の方々にはお礼申し上げますが、一呼吸させていただいていました。


ところで、大学での「証券市場論」「国際ビジネス事情」「企業情報事例研究」などのクラス
の仕事の方は、ただただひたすら授業が続いています。もし大学生達が高校時代までの間、自
由経済の象徴的な場で市場経済の姿を語ってくれる為替動向や、株式市場、あるいは“ベンチ
ャー・マインド”のようなものについて肌で感覚的に何か、気配(けはい)と言うべき理解で
も持ってきているのであれば、授業ももう少しやりやすく、疲れないのでしょうが、何しろ、
日本社会の特質である「確定利付き指向」「リスクテイクは“悪”」「安全思考ドップリ」の
思考がそのまま、反映していますから、授業は空をつくばかり。

一方、私は「ここに来て目立つマーケット(為替市場、NY・東京株式市場、マクロ経済動向な
ど)の動きをどう理解し、いかに捉えるのが良いか」「それは何と何とが脈絡を持って繋(つ
な)がっているのか(β値・論)」、「ここまではともあれ、さて当面は?・・・」などを週
一回、週末にコンパクトにまとめる事なら実現可能だろうと考えていて、それなら社会人の皆
さんに役に立つかも知れないし、私としても継続性と時間的に可能と思われるのです。新しい
タイトルを「
FEDウオッチ」から「マーケット・アウトルック」とする所以(ゆえん)です。
「アウトルック」とは“当面の見通し”の意味です。


実際、このところ(4月以降)、アメリカ経済の再度の堅調な展開、相変わらずの日米間の金利
差、日本経済の漂流状態・・・、から考えても円が強くなる理由が見当たらないにもかかわらず
、従って
1ドル133円台まで買われていたドルが、何と126円台(53日・126.83円)へ
と売られていて(円だけでなく“ユーロ強含み”も要注意)、何故だかよく分からないのです。
が、
NY株価の低調な展開、日本、中国が「黄金週間」に入ってしまいアジアの為替投資家の動
きは悪い、ドル安の方がアメリカ企業(現在、業績今一つ)にとって好都合・・・といった事
情もありそうで、
NY株価動向(東京株式市場のみならず世界の株価に影響)を分析するかたわ
ら、為替等も見ておかなければならないと思います。で、来週から予定の「マーケット・アウ
トルック」お楽しみに。(
AY