キリ・サイドトラックス “Kiri Sidetracks : The Jazz
Album” A Sleepin' Bee (From "House of Flowers")
- 3:52 Honeysuckle Rose (From "Load of Coal")
- 5:04 Cute
- 3:00 It Could Happen to You (From "And the Angels Sing") -
2:42 Like Someone in Love (From "Belle of the Yukon") - 4:39
Autumn Leaves
- 3:57 It Never Was You (From "Knickerbocker Holiday") - 3:27
The Shadow of Your Smile (From "The Sandpiper") - 5:11 Too
Marvellous for Words (From "Ready, Willing and Able") -3:45
Angel Eyes
- 4:20 Why Don't You Do Right
- 3:49 The Second Time Around (From "High Time") - 4:56
Teach Me Tonight - 3:09 Polkadots and Moonbeams
- 4:59 It's Easy to Remember (From "Mississippi")
- 5:32
アンドレ・プレヴィン(Pf)
マンデル・ロウ(Guitar)
レイ・ブラウン(Drams) 1991年5月
このアルバム作成にあたって、キリ・テ・カナワは「自分のキャリアで間違った選択ではないかと恐れていたけれど・・・オペラを終わりにしたらあちこちのクラブに行って歌っているかもしれないわ。」と言っています。彼女のこのアルバム先立ってガーシュウィンのアルバムを1986年にジョン・マグリンの指揮で録音していますが、オペラ歌手が歌った美しいガーシュウィンの域を出ないばかりか単調な歌いに終始している結果に終わっているように思われます(1曲だけ素晴らしい演奏がありまして、13曲目の『バイ・シュトラウス
By Strauss
』が突然目覚めたかのように活き活きと歌っています。)。プレヴィンとこうしたジャンルに挑むまでの5年間は彼女なりに迷っていたのかもしれません。
冒頭の A Sleepin' Bee
、繰り返し聴くことで慣れたせいか最初聴いた時の違和感は少し減ったのですが、出来はイマイチでしょうか。ピアノがいるのにギターが動きすぎていてお互いが消し合っているのと、ギターの音色が曲を覆いつくしている感じがあります。トリオの3人が揃って頑張りすぎているのかもしれません。キリ・テ・カナワの声もやや収まりが悪く不安定さが気になります。エンディングの声は見事です。
ところが、5曲目の
Like Someone in Love
から突然キリ・テ・カナワは別人のように輝きだします。肩の力が抜けたのか、シンプルに徹したピアノを立てながらギターのリズムに溶け込むように歌います。声も言葉のアクセント以上の押し出しをしなくなります。起伏の少ない曲ということもありますが、どこかツボを見出した感じです。美しい声の持ち主ですからストレートに声を出せば美しさは後からついてくるということでしょうか。
意外に良かったのが
Why
Don't You Do Right
。ペギー・リーやジュリー・ロンドン、ヘレン・メリルらと較べては分が悪いのは当然ですが、キリ・テ・カナワは偉大な先達が築いた歌い口をコピーすることを避けて、自らの声の美しさを活かしつつ新しいスタイルを打ち出そうとしているようです。「さっさと行ってお金を持ってきてちょうだい!」をけだるそうに思い入れたっぷりに歌い、或いは男勝りの太い声で歌うことがすべてではないと言わんばかりの自信に溢れた歌を聴かせてくれます。途中のトリオによる演奏ではロウのギターがいい雰囲気をつくり、プレヴィンのピアノが冴えまくります。 “Why Don't You Do Right”
Why Don't You Do Right