ゼロの使い魔

 「顔は……。可愛い。桃色がかったブロンドの髪と透き通るような白い肌を舞台に、くりくりと鳶色の目が踊っている。ガイジンみたいだ」(12ページ)。それでもって「すらりと伸びた脚、細い足首。背はそんなに高くなく、百五十五センチといったところだろうか。目は子猫みたいによく動く。小生意気そうな眉が、目の上の微妙なラインを走っている」(39ページ)。

 聞くほどにキュートでスレンダー。ついでに胸までスレンダーな美少女から下僕と扱われ、同じ部屋の床で寝かされ朝な夕なに着替えを手伝われてなおかつ下着を洗濯させられるとゆー暮らしを君は望むか? 望むんだったらとりあえず、何を置いてもヤマグチノボルの「ゼロの使い魔」(MF文庫J、580円)を読んで、トリステイン魔法学院へと召還されてはルイズの使い魔になる暮らしを知ろう。羨ましさに地団駄踏むぞ、絶対に。

 気が付くと平賀才人の周りはマントを羽織った魔法使いみたいな(本当に魔法使いだったのだが)少年たち少女たちでいっぱい。そして目の前には「桃色がかったブロンドの髪」の少女ルイズが立っていて、才人に向かって自分を使い魔にすると言ってきたから一体何が何なのやら。そうこうしているうちにルイズが才人に契約のキスまでしてしまう。

 これは夢だ、絶対に夢だと信じてルイズに殴られ気絶して、また目覚めて才人はようやくやく、それが現実でありここは自分の元いた世界とは違う場所だと気付く。そして使い魔として、すなわち半ばルイズの下僕として彼女の着替えを覗くどころか着替えを手伝い、パンツを洗濯をしては床に寝床を与えられ、粗末なスープにパンの食事を与えられる日々を送り始める。

 その世界、トリステインは貴族で魔法使いの”メイジ”なる存在が実権を持った、時代で言うなら西洋の中世のよーな世界でルイズも魔法の力を磨くため、トリステイン魔法学院で学んでいた。そして魔法学院の決まりに従って、2年生に進級する際の仮題として使い魔を呼び出すことになったけれどそこはオチコボレ気味のルイズ。またの名を「ゼロのルイズ」と呼ばれるように、どんな魔法をかけてもそれが成功する確率はゼロに近く、使い魔を呼び出した時もおそらくは狙ったものではないもの、すなわち才人がやって来てしまった。

 本当だったら送り返したい所だし、才人だって帰りたいのはやまやまだけれど、いったん呼び出した使い魔は、それが死ぬまで取り消すことが出来ない決まりになっていて、死にたくない才人は否応なく、ルイズの使い魔として行きやがてトリステインを舞台に起こるさまざまな事件へと巻き込まれていく。

 物語の鍵になるのは才人が使い魔になった時に手の甲へと浮かび上がったルーンの紋。ただの印だとルイズも才人も思っていたそれが、才人をルイズの下僕的な身分へと留めずに、世界の名だたる魔法使いたち、権力者たちが注目する存在へと押し上げることになって行く。ついでにルイズと違って熱情的な性格で、ボディも発達しまくった魔法使いの少女に好かれ迫られたりする羽目になって、ルイズを内心やきもきさせる。

 そんな身近なレベルのラブコメと、世界をめぐる壮大なバトルが絡み繰り広げられて行きそうな物語の今後にかける期待は極めて大。もっともルイズはと言えば才人がいくらただならぬ存在でも、態度をガラリとは代えないのが良いところであり初心な所。表向きはやっぱり才人を下僕と扱い薄いスープを飲ませ着替えを手伝わせてはパンツを洗わせる。好きな相手をついつい虐めてしまう少女の純真さ。素敵です。

 スーパーヒーローにして世界が注目する存在にして美少女の下僕。ある意味究極的な立場にどうだろう、やっぱりなってみたいだろうか。なってみたい、と思うのだったら重ねて言おう。ヤマグチノボル「ゼロの使い魔」を読みなさいと。読んでルイズの使い魔になった気分を存分に味わいなさいと。


積ん読パラダイスへ戻る