ボーパルバニー

 制服を着た女子高生の殺し屋たちが、互いに牽制し合い時に真剣に殺し合おうとしながら、屈強な男たちを相手に殺戮を繰り広げるというバイオレンスに溢れた物語だったら、高橋慶太郎の「デストロ246」という漫画があって、そこで圧巻のバトルシーンを楽しめる。

 だからといって、美少女による血の饗宴が描かれている作品が他にもあるのなら、触れて美少女たちが笑いながら銃を撃ち、ナイフを走らせ、拳を振るって人を殺してく様を、味わい尽くしたいというのが、世の男子の偽らざる心境だろう。強い少女は恐ろしいけれど、それだけに興味をそそられる存在なのだから。

 そんな期待に存分に答えてくれるのが、江波光則による「ボーパルバニー」(ガガガ文庫、590円)という小説だ。表紙に描かれているのはバニーガール姿の美少女。浮かぶのは、その美少女が何か訳あって戦いの場に放り込まれ、必死になって逃げ惑いながら、誰かヒーローの登場によって救われるといった胸のすくような展開だけれど、そんな風にはまるでならない。萌えとかエロとかいった要素とも無縁に、ひたすらに汗が流れ血が飛ぶバイオレンスにあふれかえった物語が繰り広げられる。

 「ボーパルバニー」という言葉自体は、英国のコメディアン集団・モンティパイソンから派生しているようで、そこから引く形でゲームの「ウィザードリィ」に登場する首刈り殺人ウサギに「ボーパルバニー」という名が付けられているという。そして登場するバニーガールの美少女も、手にナイフを持って振り回し、眼前の相手の首を次々に刈っていく。

 地下銀行から大陸へと移送途中にあった現金3億円をせしめた若い6人組がいて、そのひとりがある夜、突然にバニーガール姿をした少女に襲われる。連絡を受けて駆けつけた仲間の目の前には、すでに刈られた首が転がっていた。そして傍らにいたバニーガール姿で白い髪と赤い眼を持った美少女が、今度は仲間に向かって突っ走っては、鋭いピンヒールで腹を刺し、強烈なキックで頭を蹴り飛ばして意識を刈り取る。

 3億円を奪った6人組は、ほかにリーダー格で公安警察幹部の息子とか、ハッキングの才能だけしかない天才とか、格闘技を極めた筋肉野郎とか、散弾銃を発射できる拳銃を持った美少女がいて、青春という明るさとはまるで正反対のダークな日々を送っている。子供の遊びという範疇を越え、人の命すら奪って平気な奴らが、退屈な日々からの脱却を願い、己の欲望を探求しながら危険を承知で街を危徘徊している。

 どこかイカれて、そして壊れた奴ら。そんな6人が3億円の横取りで犯したある出来事が、結果として首刈りバニーガールを呼び寄せその命を狙わせた。もっともそれに慌てふためき、逃げ惑うような神経すらとうに壊れている奴ら。強すぎる相手に向かって突っ込み戦い散っていく。そんな姿が、血まみれなのに妙に清々しい印象となっていたりするから始末に負えない。

 悪人でも一分の理、というものとは少し違った、破滅を信じて破滅に向かって突き進む悪の確信ところだろうか。どこか満足感に溢れたその死に際に、非道な奴らが始末されたという快哉はなく、むしろそこまで戦い、のたれ死んでみせたといった喝采が浮かんでしまう。退廃的で刹那的な精神の頂点と、そして肉体的な快楽の絶頂を味わえる物語。それが「ボーパルバニー」だ。

 戦って勝っても嬉しくない、そんな相手に引っ張り出される形となり、人生を滅茶苦茶にされ、命すらかけさせられるバニーガールもたまったものではないけれど、それが運命だから仕方が無い。課せられた戦いに臨み、全身を武器にして突き進むその戦いぶりにはただかだ圧巻という言葉を贈りたい。

 なぜバニーガールでなくてはならないのか、という部分にもしっかり理由を持たせているところがユニークで、皮肉が効いていて、グロテスク。トレードマークとも言える耳飾りを取って現れる非道な細工に、6人組に対するものに並ぶ憤りも浮かぶ。

 そうやって生まれた不死身のバニーガールに漂う悲劇と悲哀は、アサウラによる「デスニードラウンド」に登場した不死身のマスコット、ロナウダに通じるところもありそう。その圧倒的な戦闘力も。2人が向き合って戦ったらいったい、勝つのはどちらだろうか。機会があれば較べてみたいものだが、その日は訪れるだろうか。


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