やがて恋するヴィヴィ・レイン1

 貧乏だけれど最愛の人がそばにいて、ずっといっしょに暮らしていけたらそれで人生は幸せなのだろうかと考える。最愛の人を失って、それでも地位や名誉が得られるのだったら人はそちらに飛びつくのだろうかとも考える。たぶん、どちらも違っている。

 最愛の人がそばにいても、貧乏だったらその人を守ってあげられない。だからといってその人を捨てて、地位や名誉を得ても意味がない。いっしょに上を目指す。少しでも良い暮らしを目指してがんばる。そんな思いを抱いていることが、人生を豊かで幸せにものにする。けれども。

 ルカ・バルカは最愛の人を失ってしまった。だからといって諦めもしなかったし、ひとりだけ栄達をめざしもしなかった。遺された思いをかなえること。そのためにひとり、厳し世界の中を生きて生きて生き抜こうとする。犬村小六の「やがて恋するヴィヴィ・レイン1」(ガガガ文庫、667円)は、そんな慟哭と断腸の思いに彩られた物語だ。

 天上にも匹敵する高さ3000メートルの壁の上に存在する世界・エデンに住まう者たちによって管理され、相争うように国同士が対峙している地・グレイスランドに生まれたルカ・バルカは、旅芸人の一座の中で虐げられ、苦渋に塗れてどうにかこうにか生きていた。

 そんなある日、エデンへと向かって飛んでいた飛行艦船が飛竜に襲われ破壊され、そして空からひとりの少女が降ってきた。ルカ・バルカはその少女を助け、いっしょに落ちてきた機械兵を操縦し、連れだって逃げ出しては、街へと向かってそこの最下層に住む権利を得て一緒に暮らし始める。

 生活は厳しく、日々のパンを手に入れるのがやっとの暮らしだったが、それでもルカ・バルカはシルフィという名になった少女を妹にして幸せに生きていた。それなのに、もとより病弱だったシルフィの具合が悪くなり、医者に診せたいと金策に走り回っていたルカ・バルカは、悪徳警官に阻まれ顔に殺人犯の証とされる刺青を刻まれ、その間にシルフィを喪ってしまう。

 復讐に走りたかっただろう。けれども、ルカ・バルカはシルフィが遺した「ヴィヴィ・レインを見つけて」という願い、ヴィヴィ・レインが見つかりさえすれば世界を変えられるというシルフィの思いを受け止めて、街を出て軍隊に加わり、そこで戦いを続けながら栄達し、ヴィヴィ・レインに近づこうと足掻き始める。

 シルフィと暮らしていた時にも行っていた、軍略や軍記に関する知識を溜め込んでもいったルカ・バルカ。そして数年が経って迎えたある戦いで、鹵獲した敵の機械兵をそのまま使わざるを得ない状況にあって、戦いの場に入り込んで戦勝をあげる。

 もっとも、その世界では敵味方をきっちりと色分けしなくてはならない奇妙なルールが存在し、色を塗り替えずに使ったルカ・バルカは重大な規律違反をとがめられる。反論し、さらにはルールの無用さを訴え連隊長の驚きを憤りを買って死刑になりそうだった時。所属していたガルメディア王国の第一王女、ファニア・ガルメディアが現れ、ルカ・バルカの言い分を認め軍略の知識も買って、自分の近衛へと引っ張り上げる。

 そしてルカ・バルカの出世物語が始まるかというと少し違う。ファニア王女が駆る一種の巨大なロボットの手を受け持ち臨んだ戦いで、エデンの気まぐれなのか、それまではイーブンだった戦力が崩れ、敵側に強大な戦力が渡った戦いで追い詰められながらも、ルカ・バルカは機知をめぐらせ、ファニア王女も守ってどうにか生き延び敵を退ける。その過程で、シルフィと面影を同じにする人工生命の少女アステル・エアハートと出会い、彼女もまた「ヴィヴィ・レイン」を探していることを知る。

 エデンという上位の存在によって操られ、仕組まれて動くグレイスランドという世界。それを壊すかもしれないヴィヴィ・レインという謎の存在。人なのか神なのかそれともまったく違うものなのか。分からないままルカ・バルカはファニア王女の機械兵の足を受け持っていたミズキ、そして限られた寿命を持ったままエデンを放逐されたアステルとともに旅に出る。ヴィヴィ・レインを見つける旅に。

 そこにファニア王女は加わっていない。あまつさえルカ・バルカとファニア王女が未来、世界をかけてぶつかり合う未来も暗示されている。これから先、ルカ・バルカがどんな軌跡を辿って力を得ていくのか、その正体にいろいろと秘密をかかえているミズキとルカ・バルカはどんな関係に向かうのか、アステルの運命は、等々。気になって来る。

 そんな登場人物たちのこれからと、そして分断された世界が生まれた理由、それがヴィヴィ・レインなりアナスタシアというなの魔女とどう関わりがあるのかが明かされることを期待し、ライトノベルのファンタジーにありながらも壮絶な描写が繰り広げられる、一種の巨大ロボットどうしによるバトルも楽しみにしながら、ルカ・バルカの旅の行方を追っていきたい。


積ん読パラダイスへ戻る